大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「縦の組織ではもう動けない」。島根富士通・宮下新社長が断行する“フラット化”とスマートファクトリーの全貌
2025年9月5日 06:00
国内のPC生産拠点として最大規模を誇る島根富士通は、Windows 10のサポート終了(EOS)に伴うPC特需に対応するため、増産体制を敷いている。現在、ノートPCとデスクトップPCをあわせて、20本の組み立てラインを稼働。EOSのあとに迎える2025年度下期の需要停滞を踏まえても、2025年度は、前年度並の生産台数を維持することになりそうだ。
また、今後の生産性向上などを視野に自動化に積極的に取り組む方針を示しており、新たにAMRや自動倉庫の導入を開始している。2025年4月に社長に就任した島根富士通の宮下浩之社長に、4月以降の取り組みと、今後の方向性について聞いた。
長期ビジョン「SFJ Next 30」と変化に対応する5つの力
島根富士通(SFJ)は、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の子会社であり、国内最大規模のPC生産拠点となっている。2025年1月には、累計生産台数が5,000万台に到達。国内のPC生産拠点では初めてのことになる。
それにあわせて、同社では、長期ビジョン「SFJ Next 30」を進化。2030年度には基板実装ラインの100%自動化、組立工程における65%の自動化を計画。さらに、2030年度までに製造コストで2分の1、ラインリダクションで4分の1、物流リードタイムで6分の1などの目標を打ち出す一方で、2050年度には累計生産1億台を目標とする計画を新たに掲げている。
2025年4月に社長に就任した島根富士通の宮下浩之社長は、「基本方針はこれまでとは変わらない。島根富士通の強みである匠によるモノづくりと、現場での緻密な改善の積み重ねによって効率化を図る改善マインドを継承し、さらに、進化、発展させていくことになる」とする。
島根富士通では、匠の技と、現場のデジタル化によって、データに基づく改善や品質管理を実現し、技術伝承にもつなげる「現場力」、人とロボットがシームレスに協調し、お互いを補完するほか、AIを活用してロボットの進化を加速させる「技術力」、顧客一人ひとりの仕様にカスタマイズするマスカスタマイゼーションを実現。さらに、これまで培ったノウハウのすべてをサービス化し、新たな事業創出につなげる「創造力」という3つの力を育んでいる。
加えて、変種変量生産にも対応し、人や設備、場所を固定せずに、フレキシブルでコンパクトな生産ラインを構築しながら、AIを活用した需要の予測精度向上、在庫の最適化、ジャストインタイムを追求する「変動力」、レジリエンス向上を図り、自然災害といった想定外の出来事への対応力強化を進め、持続可能な強い企業へと変革する「逆境力」の2つの力を強化する方針を打ち出しており、変化に強い事業体質の構築に挑んでいる。
「PCには、閑散期と繁忙期があり、その変動幅が大きい。生産拠点では、これをうまくコントロールする必要がある。今後は、変動力と逆境力が重要になってくる」と、宮下社長は語る。
Windows 10のEOS特需に対応、増産体制を敷く
2025年10月に迎えるWindows 10のEOSにあわせた特需に向けては、現場力や変動力の強みを生かしながら、増産体制を敷いているところだ。
島根富士通には、ノートPC、デスクトップPCをあわせて24本の組み立てラインがあるが、そのうち、20本のラインを稼働。旺盛な需要に対応していくという。また、基板実装ラインは24時間体制で稼働している。PCの生産台数は、2025年度上期実績で、前年同期比10%強で推移しているという。
EOSにあわせた特需への対応に加えて、生保企業向け端末の大型商談を獲得しており、それに対応した組み立てラインも稼働させているところだ。
主力となるモバイルノートPCの「FMV Note U」シリーズでは、これまで独立した工程だったキーボードのたわみ防止のためのネジ締め作業を、すべての本体組み立て工程にインライン化。キーボードの作り置きがなくなるため、需要変動が起きても、在庫に関する負担がなくなり、変動対応力を高めている。また、インライン化によって、製造リードタイムを約20~30%短縮することにもつながっているという。
2025年1月から出荷を開始している「FMV Note C」についても、こだわりのデザインを実現するために、生産ラインには独自開発の治具を採用。生産性や効率性を落とさずに、モノづくりを進めている。若者の意見を取り入れて製品化したFMV Note Cは、FMV Note Uシリーズでは獲得できていない新たな顧客層を開拓しているという。
一方、国内PC市場では、GIGAスクール構想第二期の需要が本格化するが、富士通の法人部門では、このビジネスの商談に遅れが見られているのが実態だ。島根富士通では、現在、教育分野向けChromebookでは量産体制を敷いていないが、受注が獲得できれば、量産を開始できる準備を進めているという。案件の獲得状況によっては、現在停止中の4本の生産ラインを稼働させて、フル生産体制に移行することも可能だという。
先にも触れたように、2025年度上期は、前年同期比10%強の実績で生産台数が推移しているが、EOSの特需が終わる2025年度下期は、反動によって需要が停滞し、生産台数も減少すると見ている。それでも、2025年度通期では、前年度並の生産台数を維持できると見込んでいる。
その後、国内PC市場は需要低迷期に入ると想定されるが、島根富士通では、生産性向上や効率性向上などを目的に、自動化への取り組みを積極化させ、需要変動に対応していく方針だ。
スマートファクトリー化の推進その1: AMRの新規導入
宮下社長は、「スマートファクトリー化をさらに加速させていく。ロボティクスや自動化がカギになる」とする。
その取り組みの1つが、ガイドレスで搬送するAMR(自律走行搬送ロボット)の新規導入だ。
現在、工場内では、35台のAGV(自動搬送車)が稼働し、部品の搬送や完成品の運搬を行なっている。
2020年度から、AGVをA棟とB棟を巡回する環状線化を実現したのに続き、2021年度には、AGVがエレベータに自動で乗り降りして搬送が可能な多層階AGVを導入。A棟1階で生産した基板を自動搬送し、A棟2階やB棟2階のPC組み立てラインに供給することが可能になっている。
新たに導入するAMRは、AGVとは異なり、ガイドレスで移動ができることから、柔軟性が高く、データ収集においても、メリットを生むことができる。
「工場を巡回する環状線はAGVで構築した。ここから枝分かれする支線をAMRで構築する」という。
まずは、PC組み立て工程における部品ピッキングでAMRを活用し、生産ラインへの部品供給までを自動化する考えを示す。
「AMRの導入に向けて、部品棚を改良した。先入れ、先出しができ、効率が高く、省スペースで収納できるようにしている。すでに、AMRによる部品自動搬送のトライアルを開始している」とする。
部品ピッキングでは、1つ1つの部品をアームロボットでピッキングするか、部品をセットにして、ラインにAMRで供給するかを検討しているという。
スマートファクトリー化の推進その2: 自動倉庫の導入
もう1つは、自動倉庫の導入である。
現在、基板実装エリアにおいて、自動倉庫を1台導入。基板に搭載する部品をリール状態でトレイに載せて保管している。今後、徐々に自動倉庫の台数を増やしていく計画であり、基板実装ラインの100%自動化に向けた取り組みを加速することになる。
さらに、基板実装ラインでは、基板および部品の供給部分と、完成した基板の自動回収の自動化が課題であることから、ここに、AGVやAMRの活用も検討するという。
「2025年度内には、基板実装エリアのかなりの部分で自動化が可能になる」と自信をみせる。
また、自動化については、完成したPCをパレットに積載するためのパレタイズロボットを導入しており、ここにもAGVの導入を完了している。今後は、パレットに積載された完成品を、トラックヤードまで搬送する際の自動化や、入庫した部品を倉庫に搬送する部分での自動化も図るという。
「島根富士通では、基幹システムの移行を進めており、それと連動させながら、自動化を推進していくことになる」としている。
自動化の一方で「現場主義」を徹底、データ活用が今後の課題
自動化を推進する一方で、現場主義は徹底する。
宮下社長自身も、執行役員常務時代にも実践していた生産現場を見てまわる活動は継続し、いまでも1日1、2回は、必ず現場に出向くという。
「現場を見ていて、プロセスが悪いところ、流れが悪いところに気がつき、私からも改善を提案する。その役割は、これからも続けたいと思っている」。
その一方で、現場の知見に、データを加えていくことが、これからの課題だという。
「さまざまな製造設備をはじめ、現場から多くのデータを収集し、蓄積しているが、データをまだ100%生かせていない。データの効果的な活用を模索しているところだ」とする。
AIの活用も視野に入れながら、データを活用した現場力の強化を進めることになる。
「レノボ化」を推進、フラットでグローバルな組織へ
一方、宮下社長は、「島根富士通には、もっと変わらなくてはならない部分がある」とも指摘する。
その変化の方向性を、「レノボグループの1社として、グローバル化、レノボ化していくことである」と語る。
現在、進行している基幹システムの刷新も、レノボグループのシステムへの移行であり、グローバル経営体制へのシフトが加速することになりそうだ。
また、宮下社長のこれまでの経歴も、島根富士通のグローバル化の促進にプラスの影響を及ぼすことになりそうだ。
宮下社長は、富士通に入社して以降、長年に渡り、サプライチェーンを担当。「最初は、ワープロ専用機のOASYSを担当していたが、その後、PCを担当してきた。プロセス管理のノウハウを持ち、国内外のサプライヤーや海外のODMとの接点もある。物流会社との付き合いを含めて、サプライチェーン全体に幅広い人脈を持っている点は、島根富士通のグローバル化に貢献できる点であると考えている」とする。
宮下社長体制になってから、いくつかの新たな取り組みも始まっている。
これらも、「グローバル化」や「レノボ化」につながるものだ。
その1つが、社員に対する語学教育の開始だ。
「2025年4月以降、語学に関する学習プログラムを3コース開始した。レノボグループとの連携強化に向けた語学スキルの強化に留まらず、PCの部品の6~7割が輸入品であり、それらの多くが中国や台湾などのサプライヤーであることを考えると、対話力の強化は必須になる」とする。
さらに、島根富士通が変わる部分として、コミュニケーションの強化にも触れる。
「これまでは、富士通クライアントコンピューティング全体として、全社員を対象にしたオールハンズや、社長メッセージを配信していた。2025年度からは、島根富士通版のオールハンズや社長メッセージを開始し、近況を報告したり、目指す方向性を共有したりといったことを行なっている」という。
また、従来は、社長や部長といったように、肩書きで呼んでいたものを、「さん」づけで呼ぶことにし、経営部門やバックオフィス部門の服装も、スーツではなく、ビジネスカジュアルを採用することにした。
「私自身、富士通のPC事業が急成長した時期を経験している。不夜城といわれるなかで働いてきた。そうした経験は反面教師になる部分もある。社員の意見も聞き、合議制に変えていく部分も増やしていく。縦に長い組織では、スピーディーには動けない。自由闊達なフラットな組織を目指す」と語る。
社長の立場になったことで、全体を俯瞰できるようになったとも語る。
「役員の時は、管轄する部門の仕事に関してはよく見え、どうしても部分最適を目指してしまう。製造部門の都合だけを通してしまうと、品質が悪化したり、品質だけの都合を優先するとタクトタイムが落ちてしまい、パフォーマンスがあがらず、量が確保できないという課題が生まれる。そのジレンマをどうやって解決するのか。当事者だけだと、解決策が見つけられないことがある。社長の立場から、全体最適を捉えながら提案することができる」
PC一本足からの脱却へ、第2、第3の事業の柱を創出
そして、新たな挑戦も掲げる。それは、島根富士通を支える次の事業の柱の創出だ。
「これまでの島根富士通は、FMVブランドのPCを生産する一本足の事業体制であった。それに加えて、2本目、3本目の柱を立てられるようにしていきたい」とする。
現時点では、その内容については明かしていないが、EMSとしての事業拡大や、新たなプロダクトの生産などが含まれているようだ。
「これまでの生産品目は、PCに限られていたが、新たな品目の生産も開始したい。すでに、受託での基板製造や加工組み立ても進めている。また、レノボグループとしての立場や強みを生かした生産も開始したい。これによって、変動に耐えられる企業体にしていく」と語る。
宮下社長体制による島根富士通の新たな挑戦の詳細は、これから徐々に明らかになりそうだ。

























![[Amazon限定ブランド]CCL い・ろ・は・すラベルレス 2LPET ×8本 ミネラルウォーター 無味 製品画像:1位](https://m.media-amazon.com/images/I/41h0MHfvhkL._SL160_.jpg)








