大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
これはWindows版のiCloudになるのか?
NEC PCとAOSが共同でオンライン自動バックアップサービスを提供
(2013/4/19 00:00)
NECパーソナルコンピュータは、個人向けPCユーザーを対象にした新サービスとして、「オンライン自動バックアップ Powered By AOSBOX」の提供を開始した。
NECパーソナルコンピュータでは、「安心、簡単、快適」を、PC事業の基本戦略に据え、初心者から上級者まで幅広いユーザー層に対して、PC製品およびサービスを取り揃えていることを強調する。
2013年度もこの戦略を維持する中で、「安心」を強化するためのサービスに力を注ぐ姿勢をみせている。
今回、同社が開始する「オンライン自動バックアップPowered by AOSBOX」は、個人ユーザーへのサービス強化の一環と言えるものだ。
NECパーソナルコンピュータカスタマーサービス本部サービスマーケティング部・品川賢治部長は、「電子メールやデジタルカメラ、音楽ダウンロードなど、我々の生活空間には、さまざまなデジタルデータがある。個人の生活に欠かせない情報がPCの中に格納されている。だが、その一方で、データに関するトラブルも増加している。当社のサポート窓口である121コンタクトセンターへの相談内容を分析すると、約15%がデータに関するものになっている」とする。
一方、AOSテクノロジーズの100%子会社であるAOSリーガルテックが運営する日本データ復旧センターの調べによると、PCユーザーの73%が、なんらかの理由でデータを喪失してしまった経験があると回答。そのうち、半分のユーザーがデータの復旧を諦めてしまっているという結果がでている。
NECパーソナルコンピュータの品川部長は、「データに関する不安を払拭するサービスが、PCユーザーの大きな安心につながる。すでに『お手軽バックアップ』というサービスを提供しているが、これはHDDへのバックアップサービスである。オンライン自動バックアップPowered by AOSBOXは、クラウド型サービスであることから、天災による被害を受けにくいといったメリットがある」とする。
50GBの保管領域をクラウド上に用意
オンライン自動バックアップPowered by AOSBOXは、北米市場で高い人気を誇っている米Genie9.comの「Zools」をもとに、AOSテクノロジーズが日本市場向けに開発。さらにNECパーソナルコンピュータが、年賀状ソフトや会計ソフトといった日本のユーザー固有のフォーマットデータにも対応するなどの面で共同開発を行なった。
Zoolsは、米評価機関であるTopTen REVIEWSの2013 Business Cloud Storage Services部門で第1位となっているバックアップサービスだ。
また、AOSテクノロジーズは、1995年に設立したデータ復旧などで実績を持つソフトウェアメーカーで、2000年にはデータ復元ソフト「ファイナルデータ」を発売。PCの買い換えの際などにPC間のデータを移動させる「ファイナル パソコン引越し」や、Android向けセキュリティソフト「ファイナル スマホ セキュリティ」、PC高速・快適化ソフト「ファイナル いつでも高速化」を発売。BCNのPCシステムメンテナンス部門では4年連続1位の実績を持つ。また、子会社のAOSリーガルテックでは、企業や官公庁などを対象にデータ復旧サービスや、法廷提出用のデータ復旧であるフォレンジックサービスを提供している。
オンライン自動バックアップPowered by AOSBOXは、オンラインクラウド上に用意された50GBのデータ保管領域に、自動的にデータのバックアップを行なうサービス。
専用ツールをダウンロード後、画面の指示に従い、保存したいデータのタイプを選択するという簡単な設定だけで、インターネットに接続したPCを起動したり、1日1回や1時間ごとなど設定した時間を経過するたびに、メール、写真、住所録などのデータを自動的にバックアップする。
画像ファイル、音楽ファイル、メール、デスクトップ、Officeファイルなど10種類のカテゴリーを最初から用意し、拡張子をもとに、自動的にデータを振り分けることができる。
バックアップの対象は、フォルダ単位で選べるほか、ファイル形式で選ぶことができ、写真データなどに多いJPEG形式を選択すれば、PC内のどのフォルダに保管されていても、ツールが拡張子を判別してバックアップの対象に加える。HDDへの転送は、前回のバックアップ時との差分のみとし、転送時間を最小限としている。
バックアップ時の通信には、128bitのSSL暗号化、ローカルPCでは米国商務省標準技術局によって制定されたAES 256bitの暗号化、バックアップ先のサーバーは、アマゾン・データ・サービスのAWSを使用。バックアップデータを暗号化するとともに、HIPAAなどの規制基準にも対応し、データ保護の安全性を確保しているという。
また、バックアップには、データを世代管理する方式を採用。最大10世代分のデータをバックアップでき、直近のデータだけでなく、誤って上書きしたり、消去してしまった場合も、過去のデータにさかのぼって復旧させることができる。
さらに、バックアップしたデータの中から、任意のコンテンツを、他人と共有するといった機能や、SNSへの直接投稿の機能も搭載しており、バックアップ用途以外の活用も可能だ。公開するファイルはパスワードで管理できる。
iCloudライクな自動バックアップが可能なWindows版サービス!?
AOSテクノロジーズ AOSソフトカンパニー システムエンジニア・福田悟士氏は、「アップルのiCloudとTime Machineの機能をあわせ、Windows環境で利用できるようにしたような製品」と表現する。
iCloudでは、クラウド上に自動的にデータを保管。それと同等の機能を持ちながら、同期型ではない完全バックアップ方式を取っているのが特徴である。
クラウドバックアップサービスでは、ローカル環境でデータを消去してしまうと、クラウド環境にバックアップしたデータも消えてしまうものが多いが、オンライン自動バックアップ Powered By AOSBOXでは、ローカルでデータを消去しても、クラウド上のデータは残り、ローカルのPCへと再びデータを戻すことができる。
この点でも、同サービスがバックアップという用途に適したものであることがわかる。
「うっかり操作ミスや、万が一の故障の際でも、大切なデータをクラウドから取り戻すことができる」(NECパーソナルコンピュータ・品川部長)というわけだ。
ちなみに、データのバックアップをアップロードできるのは、指定した固有のPCからとなるが、ダウンロードに関しては、IDとパスワードを入力すれば、別のPCやスマートフォンからも行なうことができ、モバイル環境で持ち運んでいる2台目以降のPCで必要なコンテンツをダウンロードしたり、PCを買い増し、買い換えた際などにも便利だといえよう。
バックアップソフトの課題を克服するサービス
AOSリーガルテック eLaw事業部長の春山洋取締役は、「従来のバックアップソフトは、稼働率が低くなりやすい傾向がある」と指摘する。
その理由としてあげられるのが、操作が煩雑である点、さらには能動的にバックアップの作業をとらなくてはならない点。そして、バックアップ用のHDDを別途購入する必要があるといった点だ。また、バックアップしたデータは、基本的には固定化されたHDDに置かれることが多く、モバイル環境に対応していないという課題もあった。
「最初はバックアップを頻繁に行なっていたが、ついつい作業が繁雑に感じてバックアップの作業をやめてしまい、その隙を突かれたようにデータのトラブルが発生するという事例もありました」と、春山取締役は語る。
また、自らの経験から、次のようにも語る。
「当社では、データ復旧サービスを提供しており、東日本大震災の発生後、現地を訪れて被災した企業のデータ復旧をお手伝いした。通常であれば約95%の割合でデータ復旧が可能であり、機械的や電気的に故障する物理障害が発生しても75~85%の復旧率となっているのに対し、被災したHDDは、泥や海水がかかったということもあり、復旧率はわずか35~45%に留まりました。被災地の多くのPCユーザーが、財務データをはじめとする経営に必要なデータを消失したり、家族と撮影した大切な写真を消失することになりました。この光景を目の当たりにしてから、クラウドを活用し、簡単な操作で、データを保護することができないかと考え、それに適したソフトウェアを探していました」
そこで出会ったのが、Zoolsだった。
それと並行して、NECパーソナルコンピュータとも話し合いを始めた。
AOSテクノロジーズは、2006年12月から、同社と提携関係にあり、データ復旧サービスを共同で提案。121コンタクトセンターにかかってきたデータ復旧の相談に対して、AOSテクノロジーズが提供するデータ復旧サービスを紹介するという仕組みが出来上がっていた。また、NECパーソナルコンピュータの群馬事業場でのPC修理において、データ復旧の要望があれば、AOSテクノロジーズがこれを担当するという提携関係もあった。
「安心」という観点で、サービス強化に取り組んでいるNECパーソナルコンピュータにとっても、AOSテクノロジーとの共同での新たなクラウドバックアップサービスの開発は、まさに的を射た提案だったというわけだ。
NECパーソナルコンピュータとの共同開発によって、筆王、筆まめ、筆ぐるめ、楽々はがき、はがきスタジオといった年賀状ソフトや、弥生会計、弥生給与、弥生販売、勘定奉行、会計王、JDLといった会計ソフトにも対応。「日本固有ともいえるソフトウェアのデータも、自動的に振り分けられるようにしたことで、より利便性を高めた」(福田氏)という。
ちなみに、年賀状ソフトと会計ソフトの自動データバックアップ機能は、2013年5月から提供するという。
オンライン自動バックアップ Powered By AOSBOXは、1ユーザーあたり50GB分を月額525円で提供。NECの121wareから申し込むことができる。
AOSが独自に他社製Windows PC向けにサービスを展開
AOSテクノロジーズでは、NECパーソナルコンピュータを通じたサービス以外にも、AOSBOXを同社独自に展開している。
AOSテクノロジーズが独自に提供するAOSBOXでは、NEC製PCユーザー以外も利用できる。対象となるのは、Windows XP、Windows Vista、Windows 7、Windows 8を搭載したPCだ。
AOS独自のサービスは、年間6,300円の年間契約の設定となっており、「現時点では、月額525円で始められる121wareの料金体系の方が、手軽に利用できるようになっている」(NECパーソナルコンピュータ・品川部長)とする。
なお、AOSテクノロジーズでは、2013年6月から月額でのサービスも開始する予定だ。
さらに、NECパーソナルコンピュータでは、同サービス単体での提供だけでなく、2種類のセット製品を用意。ユーザーの利用環境にあわせてセット商品を選択することもできる。
オンライン自動バックアップAセットでは、データ復旧サービス、遠隔データ消去サービスと、PCの不明な点を、電話やリモートサポートによって、何度でも相談できるPCサポートパックをセットにしたもの。PCサポートパックは、PCメーカーのサポート対象外のExcelやWordなどの使用方法で困った場合なども何度も問い合わせることができるのが特徴だ。オンライン自動バックアップを含めた月額は1,050円。
また、AセットからPCサポートパックを除いた同Bパックは、月額735円となっている。
なお、NECパーソナルコンピュータでは、現在50GBに限定している容量を、拡張した形でサービスを提供することについても検討していくという。
金庫の意味を込めたAOSBOXの名称
AOSテクノロジーズは、同サービスの名称に、「BOX」という言葉を使い「AOSBOX」とした。
BOXには、「金庫」という意味があるという。それは、簡単に預けられること、それでいてセキュリティは万全であるという意味を込めた。
NECパーソナルコンピュータが目指す「安心、簡単、快適」の実現に向けても、この「金庫」は重要な役割を果たすことになる。
「NECパーソナルコンピュータでは、今後、個人ユーザー向けのサービスを拡充し、この分野をビジネスに育てたい」と、NECパーソナルコンピュータの品川部長は語る。
PC本体だけでなく、サービスまで含めた提案がこれから加速することになりそうだ。