山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
新たにスタイラスに対応、電子ノートとしても使える8型のE Ink読書端末「楽天 Kobo Sage」
2021年10月30日 06:45
楽天の「Kobo Sage」は、8型E Ink電子ペーパーを搭載した端末だ。本体横にページめくりボタンを搭載し、タップやスワイプ以外にボタンによるページめくりも行なえるほか、別売のスタイラスに対応し、電子ノートとしても使えるという、電子書籍端末の枠に収まらない1台だ。
今年夏に発売された10.3型モデル「Kobo Elipsa」は、電子書籍端末でありながらスタイラスに対応し、電子ノートとしても使える機能を初めて搭載した。本製品はその小型版にあたる製品で、電子書籍にフリーハンドでメモなどを書き込めるのはもちろんのこと、ノート機能を使って自由にノートをとることもできるなど、幅広い用途に使えることが特徴だ。
今回は筆者が購入した実機を用い、電子書籍ユースおよびこれらスタイラスを用いた機能の使い勝手をチェックする。
Kobo Formaの後継。スタイラスに対応し、電子ノートとしても利用可能に
本製品の画面サイズは8型ということで、2018年に発売された「Kobo Forma」の後継モデルに当たる。まずはこの両製品を比較してみよう。
Kobo Sage | Kobo Forma | |
---|---|---|
発売月 | 2021年10月 | 2018年10月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 181.4×160.5×7.6 mm | 177.7×160.0×4.2~8.5mm |
重量 | 240.8 g | 197g |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,920×1,440ドット (300ppi) | 8型/1,920×1,440ドット (300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta 1200) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) |
内蔵ストレージ | 約32GB | 約32GB |
フロントライト | 内蔵(自動調整) | 内蔵(自動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ、ボタン |
端子 | USB Type-C | microB |
防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | あり(IPX8規格準拠) |
バッテリ持続時間の目安 | 数週間 | 数週間 |
価格(税込) | 3万800円 | 3万4,980円 |
8型という画面サイズ、および解像度はまったく同じ。また32GBという内蔵ストレージや、IPX8準拠の防塵防水機能、さらには暖色と寒色の両方に対応したフロントライト「ComfortLight PRO」を搭載するのも同様だ。
さらに本製品はページめくりボタンを搭載しており、物理ボタンによるページめくりが行なえるが、これも従来のKobo Formaと同様だ。これだけ見ると、ほぼそっくりの製品ということになる。
両製品の大きな違いは、本製品がスタイラス(別売)に対応し、電子ノートとしても利用できることだ。電子書籍端末のライバルにあたるAmazonの「Kindle」シリーズにはない特徴で、それゆえ大きな強みとなる。
その一方で、Kobo Formaは197gだった重量が、本製品では240.8gと、40g以上重くなっているのはかなりのマイナスだ。本製品は別売のオプションとして、駆動時間を延長できるバッテリ内蔵カバーが用意されているが、それならば本体のバッテリは今以上に減らして、重量を従来に近づける手もあったのではないかと思う。
ちなみにバッテリの駆動時間は、従来と同じ「数週間」という幅を持たせた表現で、どの程度の差があるかは定かではない。Kindleは今月登場の第11世代「Kindle Paperwhite」から「10週間」という具体的な表記を採用するようになっており、Koboもそれに習ってほしいところだ。
画面の大きさは利点だが約2割増えた重量がネック
では実機を見ていこう。同梱品は、ケーブルとクイックスタートガイド類など一式のみで、充電器は付属しない。なお本体ポートの変更に伴い、ケーブルは今回からUSB Type-C仕様に改められている(A-C仕様)。
セットアップ手順は従来モデルと特に変わりはないが、なぜかソフトウェアの更新後にWi-Fiパスワードの入力を再度求められる現象が起こった。どうやらファームウェアの書き替えでデータが失われたようで、先行きが不安になる挙動だ。ちなみに同時発売の「Kobo Libra 2」でもこの症状が起こるので、ファームウェア自体の不具合と考えられる。
しばらく使って実感するのは、やはり画面サイズの大きさだ。AmazonのKindleシリーズは、もっとも大きい「Kindle Oasis」でも7型なので、それより一回り大きい8型という画面サイズは目を引く。10.3型の「Kobo Elipsa」は例外として、片手で長時間保持でき、コミックや単行本などを原寸大表示できるデバイスとしては、最高峰だろう。
その一方で気になるのは、手に持っただけで伝わってくる重さだ。単に200gを超えたというだけでなく、200g台半ば、公称240.8gという重量ともなると、Appleの第6世代iPad miniと50g強しか変わらない。E Inkの特徴の1つである軽さが目立たないのは残念だ。
また、本製品は防水防塵機能を搭載しており、浴室などでも利用できる。本製品と同時発売の7型の「Kobo Libra 2」は画面とベゼルの間に段差があり、水滴を拭っても段差に残ってしまいがちだが、本製品はフラットな画面を採用しているため、しっかりと水滴を拭うことができ、結果的に誤動作も起こりにくくなっている。
ただしそのせいで、Kobo端末の売りである、画面左端を上下にスワイプしてフロントライトの明るさを調整する機能は、やや使いにくくなっている。段差のある「Kobo Libra 2」のほうが段差に指を沿わせてなぞれるために操作しやすく、実際の反応もよい。このあたりは一長一短でなかなか難しいところだ。
ページめくりボタンは、従来のKobo Formaでは上下が連結しており、中央部分も押せるかのように誤認しやすいデザインだったが、今回は2つの独立したボタンとして配置されている。部品としては内部でつながっているのかもしれないが、見た目には分かりやすくなり、キータッチのチープさも解消された。またグリップ全体のベタつきがなくなっているのもプラスだ。
8型で見開き表示にも対応。レスポンスは従来モデル比でやや悪化?
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を用いている。
解像度は300ppiと十分。8型という画面サイズゆえ、見開き表示にも対応できるサイズだ。見開きでの利用を前提に考えている人は、本製品と同時発売になった7型の「Kobo Libra 2」よりも本製品を選んだほうが、納得感は高いだろう。
本製品は片方の画面横のベゼル幅が広くなっており、そこに2つのページめくりボタンを内蔵している。ボディの向きを180度回転させてボタンを画面の左側に持ってくることもでき、その場合はボタンの役割が上下で入れ替わる。こうした点は従来モデルのギミックを踏襲している。
見開き表示にするとこのページめくりボタンは画面下に来るため、決して持ちやすくはないのだが、向かって右のボタンを押すとページが右に、左を押すと左にめくられるなど、ボタンの配置と進行方向が一致しているので、操作の戸惑いはない。Kindle Oasisはこのページめくりボタンの役割が左右逆になり使いにくいので、本製品はその点でプラスだ。
ほかの端末と比較するとどうだろうか。まず従来モデルのKobo Formaだが、こちらは画面サイズが同じということで見え方はほぼ同じ。10.3型のKobo Elipsaは、見開き表示にすると、ようやく本製品の単ページ表示と近いサイズになるほど、大きさに差がある。Kindle Oasisは7型ということで、本製品よりは一回りコンパクトに表示される。
ちなみに本製品は「Carta 1200」を採用しているせいか、従来のKobo FormaやKindle Oasisなどと比べ、黒が引き締まって見える。以下の写真でもそれとなく分かるので見比べてみてほしい。なお同じくCarta 1200の「Kobo Elipsa」との差は感じられない。
実際に使っていて気になるのは、ページめくりなどのレスポンスが、従来よりも遅くなっていることだ。単体としてはそう遅いわけではないのだが、従来のKobo Formaと並べて同じ操作をすると、ボタンにせよ、タッチにせよ、反応がワンテンポ遅れる(動画参照)。本製品に搭載された「Carta 1200」は、従来のE Inkよりも動作が高速化されているはずなので、やや解せない。
詳しい理由は不明だが、スタイラスに対応するためデジタイザー層を内蔵していることが、原因である可能性がある。なぜかというと、スタイラス非対応で同じCarta 1200を採用した7型の「Kobo Libra 2」は、従来モデルの「Kobo Libra H2O」よりもレスポンスが高速だからだ。いずれにせよ、ユーザーとしてはあまりよい話ではない。
さらに本製品は、コミックを1ページめくるたびに画面がリフレッシュされるという挙動も、依然として解消されていない。Carta 1200は、毎ページごとにリフレッシュをしなくてもそれほど残像が残らないことがメリットとされているので、この仕様は実に不可解だ。
本製品は従来モデルに比べてボタンの押し心地は大幅に改善されており、タクトスイッチ独特の「カコッ」という耳障りな音もなくなっているのだが、こうしたソフトウェア側の問題が足を引っ張っているのは残念だ。レスポンスが桁違いに速いKindle Oasisに負けるだけならまだしも、従来モデルにも負けるのは少々いただけない。
スタイラスに対応も、電子ノートは致命的な欠点あり
さて本製品は、スタイラスペンに対応しており、電子書籍のページ上に目印やメモを書き込めるほか、独立した電子ノート機能も搭載している。今年夏に発売された「Kobo Elipsa」で搭載済みの機能が、そのまま移植された格好だ。この機能についてもチェックしておこう。
まず電子書籍への書き込み機能については、本文をなぞってハイライトを付ける機能、さらにフリーハンドでメモを書き込んだり段落を囲む機能の大きく2つに分けられる。前者は指先でなぞるのに比べて細い位置まで指定できる利点がある。そのためにわざわざスタイラスを買うかどうかは疑問だが、機能的には問題はなく、使い勝手も悪くない。
さて前回の「Kobo Elipsa」では、段落全体を囲んだ枠線が、フォントサイズの変更に追従せずに同じ位置に残るという致命的な問題があったが、試した限りでは解消されている。該当位置にアイコンが表示され、それをタップすると書き込み時のフォントサイズを使って再現される仕組みだ。これなら可変レイアウトのコンテンツでも問題なく利用できる。
一方の電子ノート機能は、手書きデータを画像で保存するだけの「無地ノート」、手書き文字をテキストに変換できる「多機能ノート」の2種類がある。機能的にはひととおり揃っているのだが、テンプレートがわずか4種類しかなく追加も不可能だったり、また先にファイル名を決めなければ新規作成すらできない致命的な使い勝手の悪さはそのままだ。
特に後者の問題は「思い立ったらすぐに書き留める」という、電子ノートのもっとも基本的な使い方が不可能なため、筆者は前回の「Kobo Elipsa」でこの電子ノート機能の利用をすぐにやめてしまったほどだ。電子ノート機能を目的に本製品の購入を考えている人は、少なくともこの問題を改善されるのを待ってから購入することをお勧めする。
ちなみにこの電子ノート機能、「Kobo Elipsa」ではホーム画面の下段からすぐに呼び出せたのだが、本製品はなぜかホーム画面にメニューがなく、「その他」メニューから呼び出さなくてはいけない。アイコンを横に並べるスペースが不足しているようにも見えず、なんとも不可解だ。
Kobo Formaの後継としては何かと厳しい1台
以上のように、従来のKobo Formaと比べてボタンの改善など進化の跡は見られるのだが、その一方で重量が約2割も増えているほか、ページめくりなどのレスポンスは低下しており、さらに目玉である電子ノート機能は実用性がいまいちだったりと、買い替えるには躊躇する要素も多い。
そもそもの話になるが、製品のコンセプト自体、少々ちぐはぐだ。電子書籍のページめくりボタンは手で持って使うのが前提なのに対し、ノート機能は安定した場所に置かないと筆記しづらいなど、相反する特徴が同居しているからだ。しかもスタイラス利用時はボタンが邪魔になるので、ボタンのある側を左に持っていかなくてはいけない問題もある。
10.3型の「Kobo Elipsa」を除けば最上位のフラッグシップモデルであるため、あらゆる機能を詰め込みたいのだろうが、純粋なKobo Formaの後継を欲していた人にとっては期待外れだろう。実売価格は3万800円と、スリープカバーやスタイラスが付属しながら4万6,990円に収めていた「Kobo Elipsa」と比べて割高に感じられるのもマイナスだ。もう千円安くできれば、実際の価格差以上にお得感は出たのではないだろうか。
なお本製品をひとまわり小さくし、電子ノート機能を省いた7型モデル「Kobo Libra 2」も同時発売になっており、電子書籍ユースでのみ使うユーザーには、こちらが候補としてメインになると考えられる。次回はこの製品について、本製品および従来モデルに相当する「Kobo Libra H2O」との比較を中心に紹介する。