山田祥平のWindows 7カウントダウン

Windows 7はXPのセカンドエディション



 日本での発売日も10月22日に決定し、いよいよリリースに向けて最終のツメを迎えたWindows 7だが、まずは、7月末と発表された開発完了、すなわちRTMを心待ちにしたい。ほぼこのタイミングで、TechNetやMSDNなどのITプロ、デベロッパー向けのサイトで公開され、また、OEM各社もそれぞれがそれぞれの思惑のもとに、最終検証作業に入っていく。

●リセットピリオドにレガシーを見直せ

 7月から新年度に入ったマイクロソフトだが、日本法人代表執行役社長の樋口泰行氏は、現在の状況を100年に一度の不況と表現し、景気はいつも循環的で、好景気があれば、必ず、調整の局面がくるとのべ、現在は、かなり深刻な状況下にあることを吐露した。

リセットピリオドはレガシー見直しのチャンスと樋口社長

 同社では、この時期をリセットピリオドと呼ぶそうだ。この時期にはレガシーを見直す必要があり、それはITに関しても同じであるという。レガシーなITは今こそ見直されなければならない。そして、今、Windows 7のRTMを目前に控え、モードを切り替える準備は整った。いよいよリセット後の再起動というわけだ。

 樋口社長は、クラウドとローカルを空と大地にたとえる。そして、大地で開発したものは、スムーズに空に持って行けるとし、ソフトウェア+サービスによって、いいとこどりをするのだという。大地のために、Windows 7の開発にあたっては、徹底的にユーザーのフィードバックを集め、速さ、使いやすさ、互換性を追求した。1,100万人のVistaユーザーの声に耳を傾け、1,600のユーザーインタビューをこなし、90以上のシナリオを作成するなど、実際にコードを書き始めるまでに半年を費やしたと樋口氏。まさに、社運をかけたプロジェクトだ。

TRMは7月最終週とされているが、樋口社長によれば7/19の週だという。土日は考えにくいので、7/20~24のどれかということになる

 日本からの要望もかなり叶えたという。ベータは樋口社長を含めて社員全員が実際に日常的に使い、160件のバグを見つけた。樋口社長によれば、7月19日から始まる週にRTMを迎えるそうだ。数字的なことをいうと、現状での市場規模は、そのままWindows 7をのせられるアップグレードと新規PCの買い増しが、一般1,550万台、法人1,140万台、そして、未対応PCの買い換え需要が一般1,980万台、法人2,310万台と同社は試算する。つまり、7,000万台のPCが急速に7へと収束していく。

 樋口社長に聴いたところ、今、企業ユーザーの声で、もっとも耳にするのが、Windows 7をとにかく寿命の長いOSにしてほしいという要望なのだそうだ。つまり、企業ユーザーは、7にXPのセカンドエディションとなることを求めているということだ。もう、Vistaのことなど眼中にない。現状で、企業で使われているPCの多くは、かなり高性能で、Vistaを難なく動かせる実力を持っていながらXPで運用されている。企業ユーザーも、それではまずいと思っているのは確かだということなのだろう。

 こうした事情の中、多くの企業は、Vistaをとばして、一気に7へと移行する。その立ち上がりは急峻だと樋口社長はコメントする。

●アプリケーションの省略とWindows Liveの存在

 Windows 7には、メールソフトが添付されない。アプリケーション的なものとクラウドサービス関連はWindows Liveに委ねるというのが基本方針だからだ。Windows標準のメールクライアントがなくても企業ユーザーは、Exchange Serverなどを使うので、そのクライアントとしてのOutlookがあるから困らない。

 では、量販店等で販売されるPCは、メールクライアントなしで売られることになるのだろうか。この点について、代表取締役副社長コンシューマー&オンライン事業担当の堂山昌司氏に聞いてみたところ、OEMパートナーに、Windows Live メールなどのLiveサービス関連ソフトをプリインストールするように働きかけるつもりはないという。もちろん、ベンダーがそれを求めるなら、断る理由はないが、マイクロソフトとしては、それを推進するようなことはないらしい。

 たとえば、日本における個人のメール環境は、携帯電話のメールだけで十分というユーザーも多いし、加入しているプロバイダには、必ずといっていいほど、Webメールのサービスが用意されているため、ローカルで使うメールクライアントソフトがなくても、一般のユーザーにとっては、それほど深刻な事態にはならないのかもしれない。

 また、Gmailなどもすでに相当数のユーザーが使っている。それに、必要ならば、短時間でLiveメールのクライアントをダウンロードして、すぐに使い始めることができるはずだ。

 もしかしたら、こうしたことをきっかけに、Officeプリインストール機なら、必ず添付されているOutlookが再び注目を集めるようになるかもしれない。おりしも、ネットブックの普及などで、ノートPCが持ち出されることが多くなり、個人ユーザーでも、予定表管理などの機能をPCに求めるデマンドもふくらみ始めているからだ。

 それでも、今年のマイクロソフトが注力する分野として、Windows 7、Windows Mobile、bing、Xbox LIVEがピックアップされていながら、そこにWindows Liveが見あたらないというのは、ちょっと不思議な印象を受ける。

●コンピュータリテラシーの将来を考えよう

 AeroなしではWindows 7の魅力は半減すると思うが、ユーザーによっては何かが変わることを嫌う層もいる。より便利になるとしても、それまでに学習し、手になじんだ操作性が無駄になり、また、苦労をして何かを覚えなければならないのなら、新しいものなどいらないという層だ。

 たとえばクルマは、どんなに最新型のものであっても、アクセルとブレーキが逆になっていたりはしない。記憶に残るもっとも斬新な変更は、マニュアル車からオートマティック車への移行だが、それにしたって、クラッチがなくなっただけで、右足の使い方が変わったわけではない。シフトギアだって、オートマティックとマニュアルで、コペルニクス的転回があったとは思えない。

 そういう意味では、指先で操作しろといわんばかりのプリウスの小さなシフトレバーや、押しボタンのような、まさに電源スイッチ然としたエンジンスタートボタンを見ると、なぜ、以前の慣れ親しんだUXを踏襲しなかったのか、ちょっとした疑問を感じる。そうすることはできたはずなのに、そうしなかったからには、何らかの強い意図があるのだろう。

 その点、Windows 7は、ちょっとした設定変更によって、まるで、Windows 2000のようなUXを取り返すことができる。カーネル部分は最新でも、見かけはクラシックだ。余計な演出はいらないというユーザーは、それを使えばいい。

Windows 7にクラッシックテーマを適用、タスクバーをちょっとカスタマイズすれば、まるでWidnows 2000だテーマをWindows 7に戻し、タスクバーのカスタマイズもデフォルトに戻せば最新のUXが得られる

 大事なことは、今、XPが支持されている要因は、XPが優れたOSであるからではないということだ。ユーザーが求めているのは、自分の使いたいアプリケーションが支障なく動く環境であり、少なくとも、大きな不具合はすべてつぶされ、よい意味で枯れたOSとして、XPがそこにあり、Vistaの初期は、それを超える環境を提供できなかったからだ。企業にとってのXPを見ればわかるように、ある意味では必要悪ともいえる。

 だから、特に不便を感じていないXP環境を、無理に7に移行する必要などないというユーザーがいるのは仕方がないことだ。それでも、XP機を7機にすることで、ハードウェアの封じ込まれていた潜在的な実力が発揮され、より気分よくPCを使えるようになることは、これからの10年を考えると、とても大事なことなのではないだろうか。

 アプリケーションが動けば、その土台はどうでもいいというのは、仕事PCはともかく、暮らしの中で、遊びや実用に使われるPCでは、ちょっと寂しい発想だ。新鮮で上質な食材なんだから、紙皿でも味はいっしょだろうという発想に近い。実際には同じ味でも、旨いものこそ、食器とその盛りつけに工夫して味わいたい。舌と同時に眼でも楽しみたい。そういう発想で使われるOSがあってもいいんじゃないだろうか。

 だからこそ、マイクロソフトには、格安で家庭内の複数台のPCを7にアップグレードできるファミリーパック的な製品の提供も考えてほしい。たとえば、2万円以下で3台のPCをアップグレードできるパッケージがあれば、ついでに、手を入れるつもりがなかったネットブックも7にアップグレードしてみようと思うかもしれない。

 本当は、世の中のすべてのPCが同じOSで動いているのが望ましい。Macとそこで動くMac OSのように、明らかに異なる環境ならともかく、会社で使うPCと、学校で使うPC、自宅で使うPCが、同じWindowsなのに、似て非なるものという状況が、これ以上長く続くと、コンピュータリテラシーの点で、将来的に不都合なことがたくさん出てくるに違いないからだ。

 Windows 7の登場は、これらUXの統一のチャンスとして、決して逃すべきではない。XPを長く使わせすぎたマイクロソフトの失敗に、後ろ指指すだけでは、暮らしは豊かにならないのだ。マイクロソフトとしては、過去の教訓として、同じことを繰り返さないと思っているに違いないのだから。

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(2009年 7月 8日)

[Text by 山田 祥平]