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SDカード、そのピンとキリ

 身近なストレージとしてのSDカード。1999年に誕生してから16年が経ち、付き合いも長くなったが、それを取り巻く様相も随分変わってきている。ちょっと混乱気味でもあるので、今回は、その状況を整理しておくことにしよう。

容量とサイズの変遷

 SDカードは1999年に松下電器産業(現パナソニック)、東芝、SanDiskによって共同開発された規格だ。現在も、この3社は業界のリーダ的な存在として君臨している。SanDiskは世界シェア、日本シェアともにナンバーワンだ。

 さらに、Micron傘下のLexarもお馴染みのブランドだし、NANDフラッシュで高いシェアを持つSamsungも同様だ。OEM供給などを考慮すれば、知らないところでこれら各社の製品を使っている可能性も高い。そのほか、TranscendやTeamといった台湾企業の存在もある。

 まず、SDカードを容量の面から見ていくと、2006年に最大32GBを規定したSDHCカードを経て、2009年に64GB超を規定したSDXCカードが発表された。ちなみにSDXCはexFATをファイルシステムとして採用するものの規格の上では2TBを上限とする。

 一方、カードの物理サイズの面から見ていくと、標準サイズで登場したあと、SanDiskが2003年に発表したminiSDカードが登場、さらにSDアソシエーションが2005年にmicroSDカードを発表しているが、これは、その前年2004年にSanDiskが先行して発表したTransFlashそのものだといっていい。

 サイズバリエーションの追加は、以来この10年ない。現時点では、中間サイズのMiniSDは既にディスコン同様で、標準サイズまたはmicroSDの2択だ。少なくとも、サイズの点ではこの2種類であり、使用するデバイスがどちらのサイズをサポートしているかで選ぶしかない。もっともアダプタを介するという手もあるので、小に大を兼ねさせてmicroSDに統一するという余地も残っている。

読み書きスピードの革新

 サイズが同じなので、性能も容量以外は同じように見えるSDカードだが、その読み書きのスピードは製品ごとに異なる。仕様としてのスピードを確認する際は、最低書き込み速度としてのスピードクラスと、対応バス速度を混同しないように注意が必要だ。

 最初に策定された規格は、SDHCカード登場時(2006年)の「スピードクラス」だ。これは転送速度の目安としての値でClass 2、4、6、10がある。数字はMB/secを示す。スピードクラスは書き込みの規格でClass 4なら4MB/secを意味する(10については2009年に追加、ハイスピードモードで25MB/sec対応)。

 次に登場したのがUHSだ。高速SDバスの規格で、まず、2010年にUHS-I(ワン)が発表され、最大転送速度104MB/secが策定された。翌年2011年にはUHS-II(ツー)が発表され、こちらは最大転送速度312MB/secとなっている。

 UHS-IIでは、メモリカードの端子数に手が入った。高速転送のためにピン数が増加しているのだ。従って、カードとカードスロットの双方が対応している必要がある。ただし、2段構えのピン配列によって下位互換性は確保され、UHS-I以前のハードウェアにも対応している。

 スピードクラスとは別に、UHSにおいてもまた「UHSスピードクラス」が規定され、現時点ではU1(10MB/sec)とU3(30MB/sec)がある。

 書き込み速度は、ビデオ録画などでの安定した記録ができるかどうかの目安となるものだ。例えば民生用のビデオカメラなどで、4Kビデオを撮影する際に、記録モードによっては100Mbpsを要求するものがある。換算すると約12.5MB/secだからスピードクラスU1の速度を超えてしまう。こうした用途に使うためにはスピードクラスU3を選ばなければならないということだ。

やっかいな性能指標

 各社の製品は、これらの策定された規格を満たしつつ、それらの規格準拠を示すロゴマークなどを明記するとともに、パッケージに別途、カードの性能を示す値が併記されている。つまり、各製品の性能を各社独自の物差しで表現しているのだ。

 これがまたややこしい。

 SanDiskでは読み込み速度と書き込み速度をそれぞれMB/secでパッケージに記載している。

 一方、Lexarは、転送速度とn倍速が併記されている。このn倍速というのは、CD-ROMドライブの転送速度150KB/secを基準とした値だ。今どき、CD-ROMって何ですかと言われそうだが、過去との比較互換性確保のためなのだろう。等速CD-ROMドライブは、0.15MB/secなので、2,000倍速は300MB/sとなり、併記されている転送速度と一致する。この値は読み込み速度であり、書き込みはそれより遅いとパッケージに明記されている。

 メモリカードの加速度的な性能向上に規格の策定が追いついていないことから、一般的な「スピードクラス」や、「UHSスピードクラス」の表示、UHS-I、II対応の表記だけでは、差別化された製品群をうまく表現できないし、ガイダンスとしては不十分という判断なのだろう。実際の買い物では、このパッケージ記載の値を基準に手持ちの予算に見合った製品を選ぶしかない。

揃わない対応デバイス

 一方、SDカードを使うデバイス側はどうだろう。SDカードはこの16年間、Mini、microの追加があっただけで、基本的には変わっていないし、下位互換性も保たれているので物理的に装着できれば10年前のSDカードを最新のデバイスに装着することができる。ただ、SDHC登場よりも前のデバイスに最新カードを装着する場合は、デバイスが想定しない容量である可能性があり、最悪の場合、カードに記録されたデータを破壊してしまう可能性があるので注意が必要だ。

 比較的最近の機器を使う限りは、もっとも高速な性能が得られるUHS-IIカードを購入しておけばよいということにもなる。速い分には問題ないからだ。

 ところが、UHS-IIはそれを取り巻く状況が今一つパッとしない。

 例えばデジタルカメラ。UHS-IIは発表後既に5年が経過しているのに、驚くほど対応デバイスが少ない。SanDiskはUHS-II製品の互換性リスト公開しているが、それによれば、対応しているのは富士フィルム、オリンパス、パナソニック製のデジタルスチルカメラ、計5機種のみだ。

 ちなみにぼくが手元で使っている常用のデジタル一眼レフカメラは、2012年発売のニコンのD800で、かなり古い製品だがUHS-I対応がきちんと仕様に明記されている。だが、UHS-IIには未対応だ。ニコンのカメラでは、3月に発売されるD500がようやくUHS-II対応を表明している。

 一方、PCはどうか。ノート、一体型オールインワンなどでは標準サイズのSDスロットを持つ製品が多いが、最近は、2in1製品などでmicroSDスロットを持つものもよく見かけるようになった。

 比較的最近のレッツノートやLAVIEなどは、UHS-I、UHS-IIに両対応していることが明記され、少なくともハードウェア規格の上では最新のカードの性能が活かせるようになっていることが分かる。

 ただ、そのほかのPCメーカーの代表的な製品をチェックしてみても、その製品のSDカードスロットがUHS-IやUHS-IIに対応しているのかどうかがよく分からない。また東芝やVAIO製品は、細かく仕様を見ていくとUHS-IIカードを読み書きできることは分かっても、それが本当にUHS-IIの高速転送を活かせるように追加ピンが実装されたスロットなのかどうかが分からない。UHS-IIの下方互換性はUHS-I以前のスロットでの読み書きを保証しているのだから、読み書きできるのは当たり前だが、UHS-IIにハードウェア的に対応して、高速に読み書きできるのかどうかはしっかりと明記して欲しいものだ。

 ただし、PC本体が対応していなくても、青い端子のUSB 3.0以上を装備しているなら、帯域幅的には外付けのカードリーダを利用すればUHS-IIカードの性能が活かせる。リーダ/ライタについても、まだ製品のバリエーションが少ないため、購入時にはUHS-II対応を確認した方がいいだろう。

時はカネなり、速度は正義

 ストレージメディアとしてのSDカードは、ちょっとした岐路にたたされてもいる。ご存じのようにスマートフォンではiPhoneを筆頭にmicroSDスロットを持たない製品が多くなってきている。また、前述のようにカメラやPCのUHS-II対応も遅々としてなかなか進まない。

 先日発表されたニコンのプロ用デジタル一眼レフカメラ「D5」は、記録媒体としてSDカードをサポートしないことが分かっている。書き込みスピードを最重要視する業務用カメラにはXQDが優位という判断なのだろう。

 ストレージとしてのメモリカードの使われ方にも変化が起こりつつある。例えば、先日サービスが開始されたAmazonのプライムフォトは、プライム会員なら無制限に写真データを保存できる。なんだか落とし穴がありそうで怖い気もするが、大容量のストレージをローカルには置かずクラウドに頼るという選択肢を叶える方法としてはこれもありだろう。毎日数枚の写真を継続的に蓄積、年間約1万枚というスマートフォン的な使い方なら悪くない選択肢だ。

 それでも、実際に所有し、常用しているデバイスがSDカードスロットを持ち、そこに記録した内容を別のデバイスにコピーすることを前提としたワークフローを持っているなら、読み込み速度についてはもっとも高速なUHS-II対応カードを使う方がいい。カメラなどの書き込みデバイス側は対応していなくても、読み込みデバイスはカードリーダなどの外付けデバイスでなんとかなるからだ。スペックは理論値なので、そのままのスピードが出るわけではないが、UHS-IとUHS-IIでは3倍以上の開きがある。

 ぼくは決してたくさんの写真を撮る方ではない。先日のCES取材でも、D800で撮影したのは約1週間で438枚だ。ただ、撮影時には900万画素のJPEGと保険のためにRAWを同時記録しているので、それだけで約20GBある。これをPCに転送するわけだが、UHS-IIなら理論値で60秒、UHS-Iでは180秒かかる。環境にも依存するので速度については話半分として考えても、所要時間2分間と6分間の違いは大きい。

 スポーツ写真などのプロはもちろん、分野にもよるが1日で何千枚も撮影するハイアマチュアも少なくないだろう。コピー時間の累積は馬鹿にならない。4年前のカメラを使っていてもこうなのだから、高画素化が進んだ最新のカメラを使っているなら、なおさらだ。当然、4Kビデオの撮影などでは扱う容量がもっと大きくなる。

 もっともスピードはコストと引き替えだ。もちろん、何度もコピーしなくていいように速度には妥協して大容量UHS-Iのカードを選ぶという選択肢もある。ほかのストレージにコピーして逃がしつつ、複数枚のカードをとっかえひっかえしながら撮影を続けるという手もあるが、特に、撮影現場でメモリカードを抜き差しし、コピーの作業をするというのはあまりやりたくないものだ。交換時にカードを紛失してしまうようなことがあったら大変だ。コピー後ならともかく、コピー前に突風が吹いて指先から吹き飛ばされて見つからなくなってしまうというようなことがあろうものならシャレにならない。

 コピー時の時間を最低限に抑えるためにも書き込み速度よりも読み込み速度のポテンシャルを重視すべきだし、できる限り交換しなくてよい余裕のある容量環境をめざすのがいい。

 ブランドについては悩ましいところだが、自分の判断で選ぶしかない。安いからといってノーブランドの製品を買ってトラブルがあったらくやしいだろうけれど、きっとノーブランドを選んだ自分を責めることになりそうだ。かといって、有名ブランドでも事故がないとは限らない。

 個人的な経験では、永久保証を謳った某メーカーの製品が読み書きできなくなってサポートに実物を送付したら、メモリには異常はないが、端子部分が抜き差しによって摩耗し破損した状態になっており、端子については保証外という返答であきらめたことがある。データを失うことはなかったので被害はなかったが、なんとも釈然としない想いをした。SDカードについてのトラブルは、後にも先にもそれっきりだ。

 この先、SDカードがどのような未来を目指しているのかはちょっと分からなくなってきている。直近の規格では、保護されたHD画質の録画番組を持ち出すことができるSeeQVault対応のmicroSDカードが東芝とソニーから発売されている。コンテンツ保護のために専用の復号鍵が格納されたSDで、パナソニック、Samsung、ソニー、東芝の4社が開発したテクノロジーだ。製造販売にはライセンスが必要だが、SDアソシエーションとの関連性がまだよくわからない。

 だが、少なくとも、これだけの規格を追加してきた中でも、SDHC策定前に、大容量SDが勝手製品として登場して市場が混乱した以外は、下方互換性をきちんと確保してきたことは高く評価したい。メディアとしては優等生といっていい。

 個人的にはこのサイズのカードの中に、場合によっては自分のデジタル人生が丸ごと収まることにロマンを感じる。ちなみにぼくの場合は今のところ2TBで人生が収まる。この値はSDXCの規格上限だ。

(山田 祥平)