山田祥平のRe:config.sys
これさえあればもっと欲張れるはず
(2016/2/5 06:00)
Surface Bookが発売された。Surfaceシリーズの新フォームファクタだ。その存在感はノートでもない、タブレットでもない。まさにBook。今回は、そのファーストインプレッションをお届けしよう。
ヘビー級のSurface登場
13.5型ディスプレイで1,579gというボリューム。ちなみに個人的に今なお手元で使っているもっともヘビー級のノートPCがパナソニックのレッツノートB10(2011年春モデル)だ。15.6型ディスプレイでSサイズバッテリを装着したものが1,776gで3時間しかバッテリが持たない。Surface Bookのディスプレイはそれより一回り小さいとは言え、かなりズシリとくる重量だ。
13.5型クラスのディスプレイを持つ製品で、タッチに対応しているものと言うと、LAVIE Hybrid ZEROを思い浮かべる。その重量は926gだ。実にSurface Bookの58%の重さしかない。その違いがどこにあるかというと、やはりNVIDIA GeForceを搭載し、それを駆動できるだけのバッテリを装備しているかどうかに尽きる。
Surface Bookには、今のところGPUの有無、メモリ、SSDの多寡によって5種類のモデルがラインナップされているが、GPU非搭載のモデルを選ぶ理由はない。となれば、Core i5で、8GBメモリ、256GB SSDという構成が最低ラインとなり、価格にして249,800円だ。結構勇気のいる金額だが、どのベンダーの製品でも、BTOで欲張れば似たような金額になるだろう。
PCに性能を求めるユーザーなら価格には目をつぶれるだろう……といった悠長なことは言わない。コストはやはり深刻な問題だ。だが、PCにもっとほかの付加価値を求める層であればどうか。Surface Bookは、そういう層の気持ちをくすぐる製品だと言える。
分離のメカニズム
クラムシェルノートPCとしてSurface Bookを見た時に、3,000×2,000という解像度の13.5型ディスプレイは実に美しく、そして日常的な作業がやりやすい。
どうしてこれほどと思ってディスプレイの実寸を測ってみた。287×189mmあった。身の回りのもので言えば、A4サイズが297×210mmなので、それよりもほんの少し小さいディスプレイだということが分かる。縦横比は似たようなものだ。ベゼル部分を含めると、ほぼA4サイズというのがSurface Bookのディスプレイだ。これが15.6型だったらA4用紙がスッポリとおさまっていたかもしれないとも思うが、それではさすがにモバイルを名乗れないということなのだろう。それに重量もさらに増すはずだ。
ディスプレイとキーボード部分は分離することができる。ディスプレイ側がCPUを実装した本体で、キーボード部分にGPUが実装されている。バッテリは両側に分散配置され、仕様では併せて約12時間の駆動時間が確保されている。
キーボード上にはイジェクトボタンが装備され、それを5秒間長押しすることでロックが外れ、取り外しが可能な状態になる。また、通知バーにもイジェクトアイコンが表示され、それをタップしても同様の結果が得られる。Microsoftでは、このロックの仕組みをマッスルワイヤーと称しているが、そのおかげで不用意にはずれることはありえない。だから、膝の上など、不安定な場所で使っている場合も、脱落の心配はいっさいない。使い勝手としてはクラムシェルそのものだ。
どうしてこうなっているかというと、アプリケーションがGPUを使っている時に、いきなり取り外されてしまうと予期せぬ結果を招いてしまうからだ。Microsoftによれば、正しくGPUを使うアプリについてはホワイトリストに登録し、それらが起動される際に参照することで自動的にGPUを使っての起動となるそうだ。代表的なものとしては、AdobeのCreative Cloudの一連のアプリなどがある。それ以外のアプリについてはデフォルトでGPUを使わず、ディスプレイ側に実装されているIntel内蔵グラフィックスを使う。仮にアプリがGPUを使っている時にイジェクトしようとしても取り外しができない旨の警告が出るだけだ。GPUを使っている起動中アプリが皆無になった時点でイジェクトが許可される仕組みだ。
例えばOffice 365もデフォルトでハードウェアグラフィックアクセラレータを使うようになっているが、ホワイトリストには含まれない。だからIntelの内蔵グラフィックスを使うため、WordやExcel、Outlookなどを起動した状態でもイジェクトは可能だ。
さらに、ホワイトリストに含まれないアプリについても、そのショートカットやプログラムの実体である.exeファイルの右クリックによるショートカットメニューから起動時の振る舞いを指定することができ、GPUを使うかどうかをユーザーが決めることができるようになっている。
合体の絆
愛機としてSurface Bookを積極的に選ぶ層は、取り外せる着脱式のメカニズムに魅力を感じて購入を決めるだろう。確かに3:2の縦横比は縦でも横でも使いやすい。タブレットとして使う時のことを、Microsoftでは「クリップボードモード」と称している。タブレットのみで726gというのは、12.9型ディスプレイで713gのiPad Proとほぼ同等だ。
ただ、世の中の多くのノートPCが一度も外に連れ出してもらえないでそのライフサイクルを終えるように、Surface Bookはディスプレイとキーボードを分離しないで使われることが多いのではないかと思う。
PCの処理能力が高ければ高いほど、キーボードは必須になるだろうし、まして、合体した状態の方が高性能になる仕組みとしてGPUが装備されている以上、その状態で生産的な作業をしたいと思うのが当たり前だからだ。
これは、発表されたばかりの11.6型LAVIE Hybrid ZEROにも感じた印象だが、このギミックな取り外し機構が要求する追加重量と、それがなかった時の重量と、どちらを人は求めているのだろうか。もちろん、人それぞれ価値観は異なるし、これらの製品は、まったく新しい市場を開拓する可能性も秘めている。最初からそう決めつけるのはよくないことかもしれない。
追加のデバイスではなく、選択肢の1つと言うけれど
発売前夜、Surfaceのアンバサダーを対象とした特別体験会が開催された。出荷記念のパーティ的なものだと思って気楽な気持ちで覗いてみたのだが、実際には、もう思いっきりまじめなセミナーで、約20名の参加者が、Surfaceとしては新しい提案となるフォームファクタの追加の説明に、熱心に耳を傾けていた。そこで展開されていたのは、AdobeのLightroomやPremiereの使い方に過ぎなかったのだが、それをSurfaceでできることそのものが新鮮だということか。
セッティングを終え、こうしてこの原稿を書くために、数時間使っただけでも、しっかりしたキーボードと広いディスプレイがいかに作業効率に影響するかを実感することができる。バッテリ駆動時間も話半分ということもなくスペック通りの印象だ。
ここのところのMicrosoftは、マルチデバイス利用の普及に熱心に取り組んでいると思っていたが、特別体験会でのエバンジェリスト氏によれば、Surface Bookは選択肢の1つであって、追加のデバイスではないという。横にSurface Pro 4を並べてマルチディスプレイにすれば便利だから、ぜひ、WindowsにMiracastの受信機能を標準アプリとして実装して欲しいとお願いしたところ、そんなニーズはゼロだと言われた。「これさえあれば、何もいらない」はSurfaceのシリーズ全般のキャッチフレーズだが、本当にそうなのか。Surface Proをあえて選ばなかった人のためのSurface Bookだとしたら、ちょっと悲しい。