山田祥平のRe:config.sys
ホーダイ神話の崩壊
(2015/11/6 06:00)
「ホーダイ」は魅力的だ。食べ放題、飲み放題と、世の中にはホーダイを名乗るサービスがたくさんある。日常的に使っているスマートフォンのパケット料金も同様だった。だが、それは今、実質、従量制に移行してしまった。そして今度はクラウドストレージサービスだ。OneDriveの容量無制限サービス撤廃が世の中を騒がせている。移行は、今後1年間をかけて順次行なわれることになっているが、当面の間はOneDrive難民があふれるかもしれない。
無制限撤廃とともに大きく変わったOneDriveのサービス内容
今週、MicrosoftのOneDrive公式ブログで発表されたOneDriveのサービス改定では、これまで無制限とされていたOffice 365のコンシューマ向けサブスクリプションに付属するOneDriveの容量を上限1TBに制限することが表明された。日本のOfficeブログでも、日本市場の情報を追加した上でその翻訳が公開されている。
新しいサービスでは、新規ユーザーのデフォルト容量は5GBとなり、それ以上の容量が欲しい場合は次のような選択肢しかなくなる。
・Office 365サービスを購読して追加の1TBを確保する。
・2016年早々に提供される新プランで50GB/月額1.99ドルで増量する。
・廃止される予定の100GB/月額1.99ドル、200GB/月額3.99ドルを今のうちに申し込む。
このどれかを選ばない限り5GBになってしまうのだ。必要な容量は人それぞれだと思うが、コスト的にはかなり高額なものになってしまう。もっとも、日本では、まだ無制限への移行が予告されていただけで実施はされていなかったので、未遂に終わっている。
OneDriveは素晴らしいサービスだから、できることならずっと使い続けたい。過去に個人的に体験したトラブルはあったが失ったものは何もないし、何よりも、Windowsに統合されているので、新しいPCを使い始める時にも本当に自然に従来の環境を引き継げるのは大きい。
数TBの確保のためにどうすればいいか
OneDriveを使うようになって、ローカルにしかないファイルは皆無になった。ぼくの場合、3TBあれば、あと数年はなんとかやりくりできるだろうと思っている。仮に、前述の選択肢を使ってこの3TBを確保しようと思うと、Office 365 PremiumプリインストールPCのサービス部分の維持で1TB/年間6,264円を使うわけだが、これでは1TBしか確保できないので、別途、異なるアカウント2つを追加する。それで6,264×3=18,792円で3TBを確保できる。たぶん、これがもっとも安上がりだ。とは言え、そのためにはプリインストールPCが3台必要になってしまう。
ほかに手があるとすれば、今はまだ仕様的に同等ではないOneDrive for Businessに期待するという希望も残されている。こちらは法人向けだが、個人でも購読でき、1TB上限だが、540円/月だ。
TB級の容量を必要とするユーザーにとって、月額プランの積算はあまりにも高くつきすぎる。OneDriveは異なるアカウントのストレージを共有フォルダとして同じローカルストレージに同期できるようになったので、アカウントが分散していても使い勝手に支障はなさそうだ。ちなみに、ライバルと見なしていいGoogle Driveでは1TBが月額9.99ドルなので、3TBでは359.64ドル/年。日本円にすると4~5万円となってしまう。仕事に使うのなら仕方がない出費で、貸倉庫などのストレージに比べればわずかな金額かもしれないが、プライベートでは払うのを躊躇してしまう金額だ。
なお、Google Driveの追加容量は、100GB/月額1.99ドルと、新設されるOneDriveの50GB/月額1.99ドルの半額だ。100GB程度あれば十分だと判断できるのであれば、こちらを選んでもいいだろう。ただし、OSとの統合という点では、OneDriveの使い勝手に及ばない。
モバイルファーストのデバイスはクラウドファーストあってこそ
Microsoftでは、今回のサービス内容改定の理由として「一部のお客様は多数のPCをバックアップしたり、手持ちの全ての映画やDVRの録画を保存したりするためにクラウドストレージを使用しており、その容量はユーザーあたり75TBを超える場合もあります」とし、それが極端なバックアップシナリオであるとしている。75TBは一般的なユーザーの14,000倍に相当するというから、計算してみると、5GBを少し超えるくらいなので、無償で提供される5GBという容量は一般的なユーザーにとっては妥当だということなのだろう。まして、Office 365のサービス部分として提供される1TBがあれば必要十分だというのが同社の主張だ。
ローカルに十分な量のストレージがあるのなら、クラウドにファイルを置く必要はない。かつて、OneDriveはSkyDriveという名前で、さらにその昔はmeshと呼ばれるサービスだった。meshはクラウドサービスというよりは、ピア・ツー・ピアで同じアカウントのローカルストレージ間で同期を取るというもので、消費するのはあくまでも自分のストレージのみだ。当然のことながら、こちらはまさに無制限だった。
ただ、タブレットやモバイルノートPCのように128GB程度のストレージしか持たないデバイスが増えてきている中で、大量のファイルをどのデバイスからも扱いたいというニーズを満たすには、クラウドに全てを置くという方法が王道だ。Microsoftだってそれを推奨してきたはずだ。NASやサーバーを置くというのは、コンシューマ向けのソリューションとしてはなかなか難しい。MicrosoftもHome Serverという製品を持っていたが、今では廃版になってしまっている。
OneDrive難民はどうすればいいのか
今回の決定は、寝耳に水に近いものだった。というのも、約1カ月前の9月29日に、日本マイクロソフトは東京都内でMicrosoft Office Press Conferenceを開催したのだが、会場ホワイエでデモをしていた担当者に、日本のサービスが無制限になるという企画がキャンセルになったという話を聞いてツイートしたのだが、その日のうちに広報担当者から連絡があり、計画には変更がないということが分かった。実際、その時点ではそうだったと今回のアナウンスの後に再び連絡をもらっている。
決定事項はなかったが、検討は続けられていたかもしれないという推論はできるが、少なくとも、あの時点ではこの予定はなかったらしい。
なんだか同じようなことが前にもあったなと思ったが、それはスマートフォンのパケット料金だった。3Gの時代、パケホーダイはまさにホーダイのサービスだったのに、フルブラウザの登場や、LTEの浸透などによって、段階的に速度制限制を経て実質従量制のような体系になってきてしまっている。ただ、現時点の主流である1GB/1,000円という価格は、公平感ということを考えれば、安くはないにしても、法外に高いものではないと思っている。OneDriveも、今回のような発表の前に、もう少し価格的にリーズナブルなサービスを検討してみてもよかったのではないか。
Microsoftを擁護するつもりはないが、1TBというのは、1台のPCを普通に使っているユーザーにとっては、ほぼ問題のない容量だ。ぼくにしたって音楽と写真のデータを除けば1TBにはほど遠い。だから、OfficeプリインストールPCが1台あれば、ほとんどのユーザーは困ることはないだろう。
また、数TB級の容量を必要とするユーザーも、自力で他のソリューションを探せるだろう。だが、スマートフォンのOneDriveでの写真アップロードを設定することで与えられるカメラボーナス容量などで数十GBを無償で維持していたカジュアルなユーザーにとっては寝耳に水だ。実は彼らこそがOneDrive難民なのではないか。そういう意味では、このやり方はなかったんじゃないか。4K動画3分間で1GBに達するわけで、そういう動画をスマートフォンで簡単に撮影できる時代に、5GBというのはやはりお粗末だ。5GBの次が1TBで、それ以上は50GBずつ積算というのは乱暴だ。公平感を出すにしても、もう少し、他のやり方はなかったのだろうかと思う。