山田祥平のRe:config.sys

リインカーネーション - PCは終わらない

 情報生産と消費の両立。Intelが次の世代のUltrabookに課した役割だ。どんなにモバイルデバイスの勢いが増したとしても、最終的にはここが問われる。iPadをキーボード付きで使っているユーザーのなんと多いことか。PCは追い抜かれたのではない。周回遅れのモバイルデバイスに追いつきそうなだけなのだ。

いよいよHaswellが秒読み

 中国・北京で開催中のIntel Developer Forum 2013 Beijingにやってきた。9月にサンフランシスコで開催されるIDFのアジア版といってもいい位置付けだ。特に今年は新プロセッサHaswellが目前ということもあるので、何か新しい話題でもあればと、覗いてみることにした次第だ。

 2日間の日程を終えた今、残念ながら基調講演等では新しい情報は得られなかった。ただ、Intelは、すでに、Haswellこと第4世代Coreプロセッサの出荷を顧客向けに開始しているとのことで、第2四半期後半に市場に提供予定でいるという。2013年の後半、つまり、7月くらいからのタイミングから、このプロセッサを搭載したPCが市場に出てくることになるということだ。たぶん、6月のCOMPUTEX TAIPEIに照準をあわせて発表等が行なわれるのではないだろうか。

 さらに、Intelは、コンバーチブル型、クラムシェル型、デスクトップ型、オールインワン型向けに、さまざまなモデルの22nmプロセス技術に基づくSoC(Bay Trail)を今年後半に出荷する計画も発表している。

 IDF Beijingの基調講演で壇上に立ったカーク・スカウゲン氏(Intel Senior Vice President, General Manager, PC Client Group)は、Ultrabookが持つ「2 for 1」の特性を強くアピールしていた。つまり、1つ買えばもう1つ付いてくるのが2 for 1だ。コンパーチブル型やデタッチャブル型など、これまでのクラムシェル型ノートPCにはなかったフォームファクタが、この贅沢をかなえるのだという。そして、もちろん、ピュアタブレットやオールインワンなどのフォームファクタにも新たなビジネスチャンスが創生される。

 思い起こせばはるか昔、日本IBMの5550ワークステーションが1台3役をアピールしていた時代があった。こちらは、3 in 1だ。for ではなく in であるところに注目してほしい。今から30年前、つまり、1983年に発売されたこの製品は、PS/55シリーズが後継として発売されるまで「IBMマルチステーション5550」として、ビジネスPC、日本語ワープロ、日本語オンライン端末という3役をこなせる多機能ワークステーションとして使えるというのがセールスポイントだったのだ。

 今から考えると全部ビジネスPCでいいのにと思うかもしれないが、当時はそういうムードではなかったのだ。汎用機としてのPCが、まだきちんと認識されていない時代でもあった。今、いろんなところで情報の生産と消費の役割を、それぞれ、どのプラットフォームが担うかということが議論になっているが、ずっとあとになって振り返ってみれば、それもまた似たようなものなのとなるのかもしれない。

インテリジェントスタンドとしてのキーボードが生産を支援

 Ultrabookでは、今後、タッチ機能が必須となる。これは、Intelはもちろん、多くのユーザーが、情報の消費にはタッチ機能が必須であると考えるであろうからで、自然な成り行きではある。PCを操作している時間のうち、多くは情報を消費している時間なのだから、当たり前の話として受け取ることができる。

 さらに、声高には言っていないが、Intelは、情報の生産にはキーボードが必須であると考えているに違いない。だからこそ、2 for 1をアピールし、しっかりとしたキーボードを持つコンバーチブルやデタッチャブルのフォームファクタを強調する。

 Intelが、カンファレンスの幕間やイントロダクションなどに上映するプロモーションビデオでは、コンバーチブル型のPCをクラムシェル型として使っているユーザーが、机の上に置いて使えばラクなのに、本体をタブレット形状に切り替え、わざわざ手で抱えるシーンが頻出する。デタッチャブル型でも同様だ。わざわざ取り外して手に抱えるのだ。重いだろうにとつっこみたくもなる。

 クラムシェル型のPCは、キーボード部分が生産性を支えるインテリジェントスタンドとして機能しているのに、手で支えては重いことを承知でわざわざそれを取り外すのだ。もちろんプロモーションビデオなので、こんなこともできるのだということをアピールしているだけなのだろうけれど、ちょっとした違和感があるのも確かだ。

 というのも、タッチ対応タブレットだとしても、キーボードを付加して使った方が、圧倒的に使いやすく効率がいいからだ。そして、何を考えることもなく、シームレスに生産と消費を切り替えることができる。そして、消費の最中にも文字入力が求められる場面はとても多いのだということに改めて気付かされる。

さらなるイノベーションを追いかけて

 起きて半畳、寝て一畳ということわざがある。どんなに成功して城のような御殿を構えるようになっても、人間1人が占有できるのはそのくらいでしかないということをいう。

 PCを使う姿勢も同じだ。姿勢ということで考えれば、ピュアタブレットは立ったまま、寝転がってという新しい領域を姿勢のバリエーションにもたらした。この2つの姿勢では、本体から手を離せないので、クラムシェル型よりもスレート状の方が扱いやすい。

 これまでは、キーボードを操作しにくいという理由で、これらの姿勢でクラムシェル型のノートPCを使うことがためらわれてきたが、タッチができて、本体形状が変わる新たな世代のPCは、PCを使うシーンを拡げていくことになるだろう。それによって、Haswell以降は、モバイルシーンでもPCへの回帰が始まるように思っている。

 今、ちょっととんがったユーザーは、スマートフォン、タブレット、PCの3台を携行する苦行を強いられている。でも、これからはスマートフォンとPCの2台で済むようにしようと、それができるような薄型化、軽量化をIntelはベンダーに求めている。

 基本的に11型を超えるサイズのPCが想定されているようだが、個人的にはもう一回り、二回りくらい小さなフォームファクタのUltrabookがあってもいいんじゃないかとも思っている。もちろんニッチな領域であることはわかっているし、それを必要とするユーザーはボリュームゾーンではないだろう。でも、そのあたりは、日本のベンダーに頑張ってほしい。

 カーク・スカウゲン氏は、基調講演の壇上で、タッチ機能があるわけでもなく、発売されたばかりでもない、そしてワールドワイドで入手できるわけでもないNECパーソナルコンピュータの「LaVie X」を、本当に自慢げに、まるで自分が作ったかのように披露していた。彼が心底、このPCに敬意を表していることが伝わってくる。

 NECには「LaVie Z」もある。もうすぐ開発表明発表後1年が経過するが、未だに13.3型ワイド液晶搭載PCとして世界最軽量を維持している。だからこそ、これからの進化も楽しみだ。当然、後継製品はUltrabookであることの宿命として、タッチ機能が搭載されることになるだろう。でも、1年間のアドバンテージによって数十g程度の重量増で済むかもしれない。そして、また、ただし書きが長くなるのだ。13.3型タッチ対応ワイド液晶PCとして、と。こちらは、2 for 1ではなく、2 in 1の究極でもある。

 Intelは、OEMベンダーに対して、こうしたイノベーションを要求する。そして、それができるようにプロセッサを進化させる。そして人々は再びPCに回帰していくのだ。今回のIDFは、その姿勢を改めて確認するものであったように思った。

(山田 祥平)