山田祥平のRe:config.sys

小さなPCはなくなってしまうのか




 Ultrabookが出てきはじめて、いわゆる10型程度のスクリーンを持つモバイルノートPCが見当たらなくなってしまった。まるでここはピュアタブレット、しかも非PCの領域だと言わんばかりだ。小さいPCは、今、その役割を終えようとしているのだろうか。

●小さなPCはカジュアルに持ち運べる

 近年になって常用したPCのうち、もっとも小さなスクリーンだったのはソニーのVAIO type Pだった。8型ウルトラワイド(1,600×768ドット)という特殊なアスペクト比だったが、キーボードの幅がある程度確保されるため意外に使いやすかった。

 その次に小さいのは、Let'snoteのRシリーズで、こちらはオーソドックスなXGAの10.4型だ。また、Let'snoteはJシリーズでワイド化され10.1型(1,366×768)となり、これも長く愛用した。

 Let'snoteのJシリーズは現役だが、Let'snote RやVAIO type Pが、最新のプラットフォームで蘇るようなことがあれば、どちらもけっこう魅力的なものになるんじゃないかとも思っている。

 小さなPCがいいと思うのは、やはり、そのハンドリングの気軽さだ。カバンへの収まりもいい。それに、電車の中で座席が確保できて膝の上で開くような場合も、あまり大仰にならない。フットプリント、特に横幅が、ある程度大きくなると、膝の幅をはみ出してしまったり、キーボードを叩くときに肘が両側にはみ出るなど、両隣の乗客に迷惑をかけてしまうことにもなりかねない。

 取材で一眼レフカメラを持ち出すようなときには、どうしても荷物が多くなってしまうので、そんなときにも小さなPCはありがたい。

 昨今は、出張にでかけても、大抵のホテルにHDMI入力を装備したTVが置いてあるので、持ち運ぶPCが小さなスクリーンしか持たなくてもあまり困ることがない。どこかに腰を据えて丸1日カンファレンスのセッションを聴くといった場合は、大きなPCの方が使いやすいのだが、頻繁な移動を伴う場合は、少し小さめのスクリーンのPCを持ち運んでいた方が何かと重宝する。

●Windows 8 PCはハイブリッドPC

 最近は、PCでなければできない作業が随分少なくなってきている。極端にいえば皆無といってもいいかもしれない。

 ぼくは、都心に仕事ででかけるときには、必ずPCを携行するのだが、1度も使わないで帰宅することも珍しくなくなった。とはいえ、10型前後のAndroidタブレットやiPadがあれば、それで十分かといえば、決してそんなことはないわけで、どうしても作業に関するストレスを感じてしまう。これらは没頭しての情報の消費には最適だと思うのだが、そのハードルをちょっとでも超えようとすると、とたんに非効率的なものになってしまう。やってできなくもないが、できればカンベンしてほしいといったところだろうか。

 それでは話題のWindows RTなどはどうだろうか。もし、まともなアプリさえ出てくるのであれば可能性としては大きいとは思うが、WindowsであってWindowsでない点が足をひっぱるかもしれない。没頭型アプリにスタートスクリーンという点ではAndroidやiPadと変わらないからだ。

 そういう意味では、これらの新世代アプリが充実してくれば、それら「も」使えるWindows 8 PCの方に可能性を感じる。ある意味で、Windows 8 PCは、ハイブリッドPCでもあるからだ。

●大は小を兼ねるものなのか

 現代のモバイルは1+αだ。1はもちろんスマートフォンであり、一般的にはそれに加えてモバイルPCかタブレットを併用する。力業が必要ならモバイルPC、ライトな情報消費ならタブレットなのだが、双方の用途を1台のデバイスに集約したいという気持ちもわかるし、それを望むユーザーは多い。中途半端になってしまいそうだが、2台持つよりは、1台の方が軽くて手軽だからだ。

 ここまでに書いてきたことと矛盾してしまうようだが、ある程度パワフルなスマートフォン、そして、それなりのスクリーンサイズを持つスマートフォンを持つのなら、携行するモバイルPCは、それに負けないくらいパワフルであってほしいし、スクリーンも常識の範囲で大きい方がいい。

 NECのLaVie Zは、モバイルを謳いながら、13.3型という比較的大きなサイズのスクリーンを持っている。これはこれで、現在のトレンドを考えると1つの見識であるともいえそうだ。カバンの中にノートPCが入っていることをあまり意識することなく持ち運べて、たどりついた先では快適に作業ができるというわけだ。ここでは線のモバイルをスマートフォンにゆだね、点のモバイルをノートPCにゆだねるという連携の世界が、うまく構築されているように感じる。

 こうなると、A4フルサイズというプラットフォームも、そろそろ出てきていいんじゃないかと思う。A4のサイズは297×210mmで、その対角線の長さを計算すると約14.3型スクリーンになる。縦横比は1:1.14だ。14.1型ではちょっと小さく、15型ではちょっと大きいが、そのあたりが目安だ。これをRetinaディスプレイ的に300dpi程度で実現できれば、本当に紙がいらなくなるかもしれない。2kgや3kgなんて重量になってしまっては困るが、今の技術なら、それなりに現実的なものができるように思う。今のLaVie Zの外形寸法は、ほぼA4サイズで313×209mmだ。A4の長辺より16mm長く、短辺より1mm短い。ほんの少し短辺を長くして収めることができたらすごい。

 結局のところ、やっぱりPCは汎用なのだという、きわめて基本的な結論に落ち着いてしまう。PCであるからこそ、ハイブリッド的にも使えるのであって、それが汎用ということだ。乱暴な言い方をすれば大は小を兼ねるのだ。

 個人的には残念だとは思うが、小さなPCは、きっとフェードアウトしてしまうだろう。もし残るとすれば今のようなクラムシェルではなく、タブレットをスクリーンに使う可搬型のコンパクトPCのようなものなら可能性がある。

 時代が変わるというのは、こういうことなのだろう。