山田祥平のRe:config.sys

WindowsもMacも、スマートフォンも、iPadも、TVも、もっと仲良くしようよ




 今週は、ドコモから話題のスマートフォンが発売になり、世の中を騒がせた。いよいよ日本もスマートフォンの時代だと言わんばかりだ。その一方で、ひっそりと、デジオンがiPhone対応のメディアコントローラソフト「DiXiM DMC」をリリースした。これは、まさにスマートフォンとPC、TVの間を取り持つ「グルー」のような製品だ。

●ScanSnapの売れ行きを倍にしたiPad

 今週は、PFUの関係者と話をする機会があった。その際に、以前から聞きたいと思っていたことを尋ねてみた。それは、iPad以前と、iPad以後で、同社のベストセラーイメージスキャナScanSnapの売れ行きに変化があったのかどうかということだ。

 ブームとまではいかないが、書籍の電子化自炊で、ある程度の需要が見込めるはずだから、少しは、売れ行きに貢献しているとは思ったが、その増え方が気になっていた。そして、ScanSnapの売れ方は、iPadのデビューを境に、一気に倍になったという。これにはちょっと驚いた。

 ScanSnapは、PCなしでは使えないし、PCがなければiPadは使えない(もちろん、Macだっていい)。まさに、周辺機器デバイスの王道をいく存在だ。ScanSnapがPCとiPadの間を取り持ち、さまざまな活用モデルを生み出しているともいえる。その1つが自炊であり、iPad以前と以後の世界を変えたことになる。

 冒頭にあげた「グルー」というのは「糊(のり)」のことだ。この言葉を最初に聞いたのは、ドナルド・クヌースによって開発されたコンピュータ組み版ソフト「TeX」を学んでいた頃のことで、もう四半世紀近く昔の話だ。TeXは、マークアップ言語の一種であり、テキストファイルを整形していくが、グルーと呼ばれる伸縮自在の箱を文字と文字の間に挟み、それを伸縮させながら全体の見栄えを整えていく。その仕組みに妙に納得したのを覚えている。

 世の中には、さまざまなデバイスがあって、それぞれが独自の機能を与えられているが、それらを、このグルー的なものでつなぐことができれば、もっと豊かな世界が広がるのにというのは、いつも、ここでいっていることだ。

 コンピュータ同士でも、クライアント/サーバーやピア・トゥ・ピアといった概念で、ネットワークを介して相互に結びつくことで、新たな世界が生み出されたが、1つのデバイスだけにこだわるのではなく、複数のデバイスを掛け合わせて、別の新しい何かを探すのは楽しい。

●異なるデバイスをつなぐグルー

 異なる性格をもった複数のデバイスをグルーでつなぐとどんなことができるのかを、魅力的な演出で見せてくれたのがデジオンの「DiXiM DMC」だ。このソフトは、iPhone、iPod touch、iPadに対応したメディアコントローラソフトで、このソフトを使うことで、同じLAN内にあるDLNAサーバーやレンダラをiPnoneやiPadなどから操作することができるようになる。

 たとえば、Windows PCがHDMIでTVにつながっているときに、手元のiPnoneを、まるでリモコンのように使ってPC内に格納されたコンテンツを再生することができる。また、レンダラと呼ばれるネットワークプレーヤーがあって、それがTVにつながっているのなら、手元のiPnoneでコンテンツを選び、別のところにあるWindows PCやネットワークサーバーからレンダラにデータをストリーミングさせて再生するといったこともできる。

 まさに、PCとスマートデバイス、TVが三位一体となったようなイメージで連携し、便利な環境を作り上げる。

 デジオンによれば、現時点での動作環境として、次のようなもので確認できているという。

▼対応端末
・iOS 3.1.2以降のiPhone/iPod touch
・iPad

▼メディアレンダラ
・DiXiM Digital TV Plus
・アイ・オー・データ機器 HVT-BCT300、AVeL Link Player AV-LS700
・ホームネットワークプレーヤー powered by DiXiM(NEC PCプリインストール)
・Windows Media Player 12
・XBMC

▼メディアサーバー
・DiXiM Media Server
・アイ・オー・データ機器 HVL4-G、HVL1-G、HVL-AV series
・ホームネットワークサーバー powered by DiXiM(NEC PCプリインストール)
・Network Player サーバー(富士通 PCプリインストール)
・TwonkyServer
・Windows Media Player 12
・TVersity

 手元では、複数のPCにおけるWindows Media Player 12と、TVに接続したアイ・オー・データ機器のAVeL Link Player AV-LS700、そして、iPad、iPod touchで試してみた。また、Windows PCをTVに接続し、レンダラとして機能させる方法も試した。

 実に快適だ。いわゆるレンダラハードウェアは、プロセッサ的に非力で、サーバーに多くのコンテンツが存在する場合、そこから望みのものを探すのがたいへんだ。その点、ある程度のパフォーマンスが期待できるiPadなどのスマートデバイスなら、かなりスムーズにコンテンツを選ぶことができる。

 対応しているフォーマットであれば、プレビューもできるし、iPad本体にダウンロードもできる。そして、DiXiM DMCが動いているiPnoneなどのスマートデバイスそのものも、サーバーになれるので、iPhone等で撮影した写真などのコンテンツをレンダラに送り、TVに映し出すことができる。昨今は、DLNA対応TVも増えてきているので、より柔軟な運用ができそうだ。

 TVはTVのリモコン、ビデオはビデオのリモコン、PCはPCのキーボード、スマートフォンはスマートフォンと、異なる操作で個別に使うのはわかりやすいかもしれない。でも、手元のiPhoneで、書斎のPC内にあるコンテンツを選んで再生させ、リビングのTVに映し出すというのは、実に新鮮な体験だ。個人的には、これでまた、iPadの使い道が1つ増えたと思っている。これからは、Androidタブレットや、Windows搭載のスレートPCなどが、どんどん出てくるはずだが、それらの使い方のモデルとしてもおもしろそうだ。デジオンには、ぜひ、このソフトをAndroidにも対応させてほしいと思う。

 ビデオの再生、写真の表示はもちろん、音楽の再生も可能だ。サーバーに格納した膨大な量の音楽から好きなものをiPhoneで選び、それをオーディオセットで再生させるようなこともできる。メディアコントローラソフトは、なにも、DiXiM DMCが唯一の存在でもなければ、最初のソフトでもないが、やはり、DLNA普及のキーとなった企業のソフトウェアという点が心強い。2010年11月末日までは無償公開ということなので、ぜひ、試してみてほしい。

●スマートの原点は甘え上手

 アップルがアップルであるのは、魅力的なポータブルデバイスを提供しながら、それらをMacやPCと連携させることで、その魅力をフルに楽しめるのだということを大げさにいうでもなく、かといって隠すこともしていない点だ。うまい具合に、MacやPCが欲しくなるように誘導しているようにも見える。

 もちろん、Androidだって、たとえば、ブラウザから携帯電話にURLを送るChrome to Phoneなどを試してみると、その便利さは驚くほどで、もう手放せなくなってしまう。

 とはいうものの、PCやMacなしで、iPhoneを使っているユーザーも、それなりの数いるという話も聞くし、もう何カ月もiPhoneをPCと同期していないというユーザーもたくさんいるという。

 過去において「PCがなくても○○ができる」を主張してきたデバイスはたくさんある。身近な例ではプリンタ複合機などがそうだし、フォトストレージなどもその仲間に入るだろう。PCの呪縛から逃れることは、これらのデバイスの悲願だったのかもしれない。でも、それが正しかったとは思えない。スマートなデバイスのスマートさは、それそのものの賢さだけではなく、他への依存、すなわち、甘え上手が大事なんじゃないだろうか。