山田祥平のRe:config.sys
この暮れのPCはスゴい!
(2014/11/14 06:00)
WDLC(Windows Digital Life Consortium)による「新しいOffice搭載パソコンはスゴい!」キャンペーンが始まった。業界の枠を超えた112社が参加する同コンソーシアムによる販売促進のための施策で、来年(2015年)の正月明けまでの期間が割り当てられ、旅行やクーポンなどのさまざまな特典が用意されている。暮れのボーナスの額が気になる季節になったが、新しいデバイスとして新しいPCを買うことを考えているなら、いいチャンスかもしれない。
PC買うなら今でしょ、はいつまで続く
「誰もいらないものは買わない」。
キャンペーンのメインキャラクターで、今回、「新しいOffice搭載パソコン推進大使」に任命された東進ハイスクールの林修先生はいう。日本中を飛び回り、年間300日はホテル泊だという林先生だが、Windows PCのヘビーユーザーであり、PC業界の顔として、昨年(2014年)に引き続いての起用だ。
林先生にとって、Windows PCは必需品だ。ただ、ガラケーの時代からその気配はあったのだが、かつてはPCでしかできなかったことの多くができるようになったスマートフォンの浸透で、PCがPCと呼ばれる所以である「パーソナル」な部分が希薄になりつつある。また、TVが大画面化したことで、ある程度の画面サイズを持ったリビングPCの存在が中途半端になってきてもいる。どこの家庭にでもあったような15型液晶のスタンダードノートPCが担っていた役割も、スマートフォンが奪ってしまったように思う。
それでも、冷蔵庫的な位置付けのPCは、どこの家庭にも必要なのではないかと思う。そして今、それが欠落しているのではないか。
冷蔵庫は、どこの家庭にもある家電の代表的存在だ。家族であれば、誰でも遠慮無くドアを開くことができて、そこに収納された飲食物を自由に飲み食いしてかまわない。でも、来客は他人の家の冷蔵庫を開いたりしない。カギがかかっていなくても、それは暗黙の了解だ。
もし、自分専用の飲み物を冷やしておくなら、「×子専用飲むな!!」などと書いて入れておけば、とりあえず大丈夫だ。と言っても飲まれない保証はなく気休め程度にしかならないかもしれないが、例え家族誰かが無断で自分の飲み物が飲んでしまっても、そこで訴訟云々に発展するわけでもない。
今、リビングルームにありそうでないのは、こうしたセミパーソナル&セミパブリックな冷蔵庫的なPCだ。
共用PCでナイショの作業もできる
家族なら誰が使ってもいいし、超内緒ではないにしても、触られたり見られたりしたくないデータは、冷蔵庫の中の飲み物よろしく「×子専用開くな」とでも名前をつけたフォルダの中に放り込んでおけばいい。MicrosoftのクラウドストレージサービスであるOneDriveは、Office Premiumプリインストールとのセットで、いよいよ容量無制限の領域に突入しているので、もう容量の心配をする必要はない。
リビングルームに置かれた冷蔵庫的PCでInPrivateモードのブラウザを開き、OneDrive上のファイルを扱うようにすればプライバシーも守られる。
InPrivateモードは、WindowsのInternetExplorerの機能の1つで、このモードでサイトを開けば、そのセッションに関するデータが保存されず、Cookie、テンポラリファイル、履歴なども一切残らない。最近のブラウザであれば、たいていこうしたモードが用意されていて、例えば、Chromeでは同様の機能が「シークレットモード」という名前で提供されている。ちょっとスキルのあるユーザーであれば、こうした機能をうまく利用して、セミパーソナル&セミパブリックなPCを、自分のプライバシーを守りながら使うことができる。こうした機能の存在は、もうちょっと大きな声でアピールしてもいいんじゃないかと思う。
スマートフォンはもちろん、例えガラケーであっても携帯電話は超パーソナルな存在で、親兄弟であっても触らせたくないというのが普通だろう。誰もがほとんど肌身離さず持ち歩いている。例え自宅の中を部屋から部屋に移動する時もだ。PCもそういう存在にするというのは、ごくごく一般的な家庭では、まだ難しい。家族のそれぞれが自分専用の冷蔵庫を持つというのは、スペース的にもコスト的にも考えにくいようなイメージだ。
もちろん、外に持ち出すことが前提のPCについてはその限りではない。こちらは、クルマのイメージだ。明日クルマ使うから、と宣言しておけば、自分のPCとしてその1日間占有できる。ただ、そんな持ち出し用PCがどこの家庭でも求められているかというと、なかなかそういう風にはなっていない。
一家に1台の段階を超えて、十分に普及しているように見えるPCだが、その存在はまだまだ特別だ。会社では当たり前のようにPCを使っている社会人であっても、いったん自宅に戻れば、PCとは無縁に近く、例え自分のPCを所有していたとしても、電源を入れるのは週に一度というパターンも珍しくない。10万円を超えるような高額商品を目の前にして、買うか買うまいかを迷うときに、週に一度しか使わないだろうな、という思いが頭をよぎった瞬間、物欲がしぼんでしまう。
OfficeプリインストールがもたらすPCの付加価値
MicrosoftのOfficeのライセンス形態が変わり、日本独自の施策のもと、従来のプリインストール形態を踏襲しつつ、しかも、バージョンアップに際する費用がかからず、そのPCを使い続ける限り、ずっと最新のOfficeが使えることが保証されるようになった。この秋冬モデルから搭載されるOffice Premiumは、そういうライセンス形態だ。
気を付けて欲しいのは、この秋冬の新製品PCであっても、Office Premiumを搭載しているとは限らない点だ。ベンダーによってはタイミング的に間に合わなかったとするところもあるのだが、実際には、PCの価格を低く抑えるために、従来型のプリインストール形態として、Office Home and Business 2013やOffice Personal 2013を添付しているケースが多いようだ。この先、仮にOffice 2015などが登場したタイミングでどうなるかはわからないが、少なくとも、この秋冬モデルでは混在しているので、購入を検討しているのであれば留意しておいて欲しい。
新しいOfficeは、そのプリインストール機に対して、これまでにない付加価値を提供する。これは紛れもない事実だ。先に書いたような冷蔵庫的存在のPCであっても、稼働し続けている限り、そこでは最新のOfficeが使えるというのは大きな魅力だ。
もっとも、一緒に付いてきて1年ごとに更新が必要なクラウドサービスを、家族の誰が享受するかは結構難しいテーマだ。場合によっては、それこそ冷蔵庫的に、家族が誰でも使えるMicorosoftアカウントを作り、それをファミリーアカウントとして使うことで無限大のストレージを確保し、自分のMicrosofアカウントに特定のフォルダを共有させるような使い方もありかもしれない。ただ、それでは完全なプライバシーを確保できないので、家族であっても本当に見られたくないデータについては個人アカウントのストレージに置き、どうでもいいファイルはファミリーアカウントの容量無制限ストレージに置くというのもありだろう。そういう意味で、この秋冬の新しいOffice搭載PCは、年間5,800円、つまり月500円以下で使える容量無限大の冷蔵庫だと考えてもいい。これがあるとないでは大違いだ。だからこそ、購入の際には、その搭載OfficeがPremiumかどうかをきちんとチェックするようにしたい。
こうして、リビングルームのPCが、パーソナルな情報へのゲートウェイ的な存在になり、スマートフォンなどの超パーソナルなデバイスとクラウドを介してシームレスに繋がることで、万能ナイフで全てを済ませる的な使い方をしなくなるのがいい。次に向かうべきは、そうした方向性の提案ではないか。確かにスマートフォンは便利だし、常に身につけているから、必然的に使う時間も長くなる。でも、全てをそれで済ませるのは、ある意味で退化だとも思う。
新しいデバイスが登場してそれが浸透するまでには、むしろ不便を楽しむような時期があるものだ。でも、スマートフォンはその時期をすでに終えているのではないか。今、必要なのはPCとの競合ではなく協調だ。さらに足し算ではなく掛け算で暮らしを豊かにしていく。そのために、PCがどう貢献できるのかを考えよう。