山田祥平のRe:config.sys

それでもAndroidを使う理由

 「Core M」の詳細が発表された。14nmプロセスルールで製造されるCore Mこと、「Broadwell-Y」は、Intelによれば、9mm厚を切るファンレス2-in-1 PCを可能にし、Haswell-Yと比較してTDPもパッケージ実装面積も半分になり、30%薄くなり、そして60%低いアイドル時消費電力を実現すると言う。このCore Mは、いったいこれからぼくらに何をもたらすのだろう。

使いやすい10型タブレット

 レノボの「ThinkPad 10」を1週間ほど試すことができた。

 実は、最近は、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia Z2 Tablet」や、Samsungの「GALAXY Tab S 10.5」を使ってみて、タブレットなら10型ディスプレイに限ると思うようになった。そんな中で発売された10型Windowsタブレットの新製品ということで興味を持った。

 ThinkPad 10は、10.1型ディスプレイを持つ、厚さ8.95mmのWindowsタブレットだ。1.59GHz動作のAtom Z3795を搭載し、64bit版のWindows 8.1 Pro Updateが稼働する。

 Core Mは9mmを切るファンレス2-in-1 PCを可能にすると言っているが、ちょうどこの中にCore Mが入るようなイメージなのだろうか。ちなみにXpreia Z2 Tabletは6.7mm、GALAXY Tab S 10.5は6.6mmだ。これらに比べれば、ThinkPad 10は2mm以上厚い。それでも、Windowsがまともに使えるタブレットとしては、かなり頑張っている。

 不思議なもので、AndroidやiOSタブレットを使っているときに、物理的なキーボードが欲しいと思うことはあまりない。でも、OSがWindowsになると、途端にキーボードが欲しくなる。決してAndroidやiOSのソフトウェアキーボードが使いやすいと言っているのではない。当然、これらのOSも、物理的なキーボードをサポートしているし、外付けキーボードを接続すれば、ソフトウェアキーボードよりも、ずっと高速に文字を入力することができる。インタビューや取材時のメモなど、文字入力さえできればいいのなら、キーボードとスマートフォンの組み合わせでも用が足りると思っているくらいだ。

 だが、AndroidやiOSは、Windowsと違って、せっかくキーボードを外付けしても、その見返りが少なく感じるのだ。少なくとも、文字入力後の世界観に頭打ち感がある。だが、Windowsなら、その先は無限にも感じられるのだ。その差はいったいどこにあるのだろうか。

 Androidだってインテントを繰り返せば、アプリからアプリにデータを受け渡し、さまざまな作業ができる。iOSだって同様だ。でも、やる度に、Windowsならもっとできるのに、と思ってしまう。そして、個人的には、Windowsには、すでにタッチは欠かせないと感じつつも、やはり、キーボードとポインティングデバイスは必須だなという結論に達している。

秀逸なオプションのウルトラブック・キーボード

 ThinkPad 10の別売りオプションとして提供されている「ウルトラブック・キーボード」は実によくできている。これは、本当に使っている人が考えたものに違いないと感じる。

 本体にはマグネットで吸着する仕組みになっている。その上で、ポゴピンと呼ばれるコネクタで接続され、USB接続のデバイスとして機能する。使用時の仰角は125度に固定されるが、まさにクラムシェルノートを開いたような状態になり、膝の上で使う場合もまったく不安がない。マグネットはかなり強力なもので、ディスプレイ部分を持って多少振り回してもキーボードが脱落することはない。さらに、画面を閉じた状態、つまり、キーボードと本体を重ね合わせた状態でもマグネットによって吸着するようになっていて、この状態での脱落も回避している。

 重ねた状態では、キーボードと本体は電気的な接点を持たず、切り離されたハードウェアとなってしまうが、それでも、重ねるとInstantGo対応の本体は、磁気センサーを使って画面を閉じたこと(LIDクローズ)を検出し、表示を消す。InstantGo機は、画面表示を消した状態ではスリープ状態と定義されで、その間は、一部のサービスを除いて、デスクトップアプリやサービスを停止してしまうが、唯一の例外がLIDクローズだ。このときだけ、画面に何も表示されていないのに、Windowsは稼働しているという状態になる。

 こうした仕様は、パナソニックの「Let's Note MX3」のようなクラムシェル形状のハードウェアの特徴的な部分で、富士通の「Arrows Tab QH55/M」とオプションのスリムキーボードの組み合わせでも実現されていた。

 だが、キーボードと本体の接続が切り離されているにも関わらずLIDクローズを検出するというのは、実に面白いアイディアだ。

 Windowsには期待が大きく、人間が休んでいるときにも働いていて欲しいと思うことは少なくない。検索のためのインデックス作成や、大量のデータのクラウド同期などは下手をすると一晩近くかかることもある。また、外出から戻って充電を始めた時に、本体を操作することなく、すぐに作業を始めて欲しいとも思う。LIDクローズでも電源プラグを挿した途端に画面表示はオフのままで本体が目覚めてこれらの作業が始まるというのは実に便利なのだ。

タブレット本体に匹敵する重量のジレンマ

 タブレット用の外付けキーボードは、ほぼ例外なく重い。ThinkPad 10 ウルトラブック・キーボードも535gある。600gをわずかに切る本体よりは軽いとはいえ、感覚的には本体を2枚重ねたイメージだ。総重量は1.1kgを超えてしまう。

 この重量は、DVDドライブまで付いたLet'snote MX3に匹敵するし、NECパーソナルコンピュータの「LaVie Zタッチ対応モデル」の964gと比べてもずいぶん重い。しかも、これらのクラムシェルは、それぞれ12.5型、13.3型と、10.1型よりはるかに大きな画面を持っている。その画面の大きさが機動性を削いでいるという点もあるのだが、キーボードとの組み合わせで1kgを超えるタブレットというのは、これらのデバイスを知っているからこそ、持ち歩いていて複雑な気持ちになる。

 ドックの仕掛けと、しっかりしたキーボード剛性、そして、ポインティングデバイスまでを装備するとなると重量がかさんでしまうのは仕方がないのかもしれない。でも、本体重量に匹敵するというのはなんとかして欲しいものだ。

 Core Mの登場によって、これから本体部分の性能は上がり、さらに、薄く軽くなる可能性も出てきた。となると、キーボードとの重量バランスはもっとジレンマに満ちたものになっていくだろう。ThinkPadブランドの名誉にかけて、この部分をなんらかの方法で解決して欲しいと思う。できれば、キーボード部分に電源入力端子を装備しておいて欲しい。それならキーボードを自宅用の充電ドックとしても使えるからだ。

これから始まるモバイル革命

 そんなわけで、これから起こる革命にわくわくしながらも、タブレットを単体で持ち歩くなら、当面はAndroidやiOSを選ぶだろう。それに、これらのOSには、Windowsがキャッチアップできていない部分もあるからだ。

 1つはGPSの使い勝手だ。ThinkPad 10もGPSを実装しているが、WindowsのモダンUIで提供されている地図アプリは使いものにならない。そもそもWindowsの位置情報プラットフォームがGPSを有効に活かせていない。この点に限っては、AndroidやiOSは、アプリの豊富さ以前の問題として一日の長がある。

 そして通信だ。SIMスロットを装備し、通話もサポートした10型タブレットというと、今のところAndroidタブレットしか見当たらない。まさにXperia Z2 Tabletがそうだ。通話はめったにしないができないと困るというケースは多い。もし、通話をサポートする10型タブレットがあれば、バッテリの心配をする必要がないルーターにもなり、まともなクラムシェルノートPCと組み合わせて使うことで、出張や旅行中のほとんどの用事は事が足りるんじゃないかとさえ思っている。スマートフォンさえいらなくなるというわけだ。たぶん、Windowsタブレットが通話をサポートすることは当面はないんじゃないだろうか。

 Core Mの登場、そして、それにIntelのコミュニケーションSoCである「XMM7260 LTE-Advanced向け通信プラットフォーム」が加わることで、今年(2014年)の終わりから来年(2015年)にかけてのモバイルプラットフォームには劇的な変化が訪れるだろう。

 それを待ちながら、今しばらくはAndroidタブレットを使う。この秋は、きっと次世代Androidである「L」もデビューするだろうし、iOSの刷新によって関連ハードウェアとしての「iPhone」や「iPad」のリニューアルも期待できる。さらには、30周年となる電気通信事業法の改正も近付いているという。身の回りのモバイル環境を一気に変える要素が目白押しだ。その1つとしてのCore Mの登場は実にうれしい。すでにOEMベンダーには出荷されているそうだが、それによって、秋冬のモバイルPCに訪れる変化を心待ちにしたいと思う。

 冬が来れば、長かったモバイルPCの冬が終わる。さらに新しい当たり前が生まれるんだなと暑い夏に想うのだ。

(山田 祥平)