山田祥平のRe:config.sys

見えないボタンは押されない

 Windowsの将来のバージョンでは、チャームが廃止されるという噂があるようだ。発見しにくく使われないというのがその理由らしい。ちょっと乱暴な話でにわかには信じられないが、理解できない話ではない。今回は、タブレットデバイスのボタンとGUIのゆらぎについて考えてみる。

ハードウェアボタンとソフトウェアボタン

 WindowsタブレットならWindowsボタン、iOSデバイスならホームボタンが、画面の外側に物理ボタンとして装備されている。ほとんどの場合がそうだ。一方、Android端末の場合は、今のところSamsungだけが頑固にハードウェアボタンを装備しているが、多くの端末は物理ボタンを持たず、ナビゲーションバーにソフトウェアボタンを表示している。故障もなければコストも抑えることができるというメリットもあるからだ。

 Windowsタブレットの場合、最近は、Intelアーキテクチャの端末が、AndroidとWindowsでハードウェアを共用することを目論んで、Windowsボタンを持たない製品も登場している。もし、チャームが廃止され、物理的なWindowsボタンがなければ、どうやってスタート画面に到達するようにさせるのかが気になるところだ。

 単純に四角い平板としてのタブレットは、カバンなどから取り出して使い始める時に、どちらが上かを一瞬で判断するのは難しい。さらに、人によっては横に構えるかもしれないし、人によっては縦に構える。もし、ハードウェアボタンがあれば、どちらが上かは一目瞭然で迷うことがない。

 その一方で、ボタンがハードウェアとして実装されていることで困ることもある。端末には、側面にボリュームキーや電源ボタンが装備されているが、その位置関係が持つ方向によって変わってしまうからだ。また、充電のための端子の位置も変わってしまう。端末を縦に持ったり、横に持ったりした時に、ボタンの位置に指が迷ってしまうのだ。

 例えば、レノボの「ThinkPad 10」は、「Dシェイプ」と呼ばれる工業デザインのコンセプトによって、端末の向きが直感的に分かるように作られている。平板であるタブレットの四隅のうち、上にくる左右の角に丸みを持たせ、アルファベットのDのようなシェイプを作ることで、その辺が上部であるということが分かるようになっているのだ。ThinkPad 10にはWindowsボタンも装備されているが、こうした工夫によって、ドックなどに装着する際も迷うことがない。だが、Windowsボタンは長辺側にあるので、ThinkPadを縦に構えたときにはボタンが右側にきてしまう。逆に構えれば当然左にくる。右にきた時に、チャームを出そうとして誤操作し、スタート画面に戻ってしまうこともあるかもしれない。実際、「Surface Pro 3」を横に構えたときには、そういうことが起こったりする。

 Samsungは、「GALAXY Tab S」のシリーズとして、8.4型と10.5型の2種類の画面サイズの製品を発売した。Samsung端末なので、物理的なホームボタンが存在するが、10.5型は長辺側、8.4型は短辺側にボタンが配置されている。カタログ写真などを見ても分かるように、8.4型は縦で使い、10.5型は横で使うことを想定しているようだ。

 とは言うものの8.4型を横で使いたいこともあるし、10.5型を縦で使いたいこともある。ホームボタンの右にはバックボタン、左にはタスクボタンが装備されているが、8.4型を横に、10.5型を縦に構えた時に、支えている手が、どうしてもこれらのボタンに触れてしまい誤動作を誘ってしまう。ホームの両脇のボタンがタッチセンサーによるボタンなので、余計に敏感に反応してしまうのがやっかいだ。そして、当然、右にきた時と、左にきた時では、位置関係も逆になる。

 その点、iOS端末は物理ボタンとしてはホームボタンだけで、両脇のボタンは存在しない。しかも、しっかりと押し込む必要があるので、あまり誤操作を心配する必要はない。操作する時の位置関係だけに慣れれば済む。

 また、Samsung以外のAndroid端末はナビゲーションバーとしてバック、ホーム、タスクを表示する。そして、縦でも横でも常にナビゲーションバーは画面下部に横たわり、迷いようがない。少なくとも手元の「Tegra Note 7」ではそうなる。だが、スマートフォンの「Nexus 5」では、端末を横方向に構えた時のナビゲーションバーは右側に表示される。画面サイズが小さいことが想定されるスマートフォンで、視認性を確保できる文字サイズでの表示を考えた時に、横位置で画面下部にナビゲーションバーを表示すると、表示領域が圧迫されることを回避するための配慮だろう。

 でも、その配慮が操作の迷いを生んでいるとも言える。

アプリの名前は何ですか

 ボタンと言えばアプリケーションのショートカットも分かりにくい。数多くのアプリをインストールすると、それらすべてをホーム画面に配置していても見つけにくくなってしまうだけという可能性がある。

 几帳面なユーザーは、フォルダなどに分類して、ホーム画面を分かりやすく整理しているだろうが、なかなかそれができないユーザーもいる。

 だから、アプリケーションの一覧を表示させ、名前でアプリを探そうとするのだが、これもまたやっかいだ。というのも、昨今のアプリは、自分のアプリ名をしっかりと主張してくれないため、その名前がなかなか覚えられないのだ。めったに使わないけれど、たまに使うというような時に、アプリを探し出すのに苦労してしまうことがある。Windowsのデスクトップアプリであれば、ウィンドウの上部にタイトルバーがあって、そこにアプリ名が表示されるので、何かにつけてアプリ名を記憶するきっかけになってくれるが、モダンアプリや、iOS、Androidのアプリではアプリケーション名をなかなか覚えられない。

 そのおかげで、新しい端末を使い始めるにあたって、常用アプリをインストールするためにアプリストアでそれを探そうとするのだが、似たようなアプリ名が多いこともあって、なかなか欲しいアプリに行き着かないといった不便もある。

 アプリ名を覚えられないほど老いぼれたのかと言われそうだが、実際問題として、そういうことで困っているユーザーは、少なくないんじゃないだろうか。

GUIのゆらぎ

 冒頭の話に戻すと、もし、Windowsからチャームの機能がなくなってしまったら、どのくらいのユーザーが困るだろうか。そもそもチャームは使われていたのだろうか。アプリが起動している時に、右側からのスワイプでチャームを出せば、検索、共有、スタート、デバイス、設定のボタンが表示される。でも、これらの多くは上、または、下からのスワイプインで表示されるアプリバーにその役割を譲れるかもしれない。

 そして、スタートボタンでのスタート画面への復帰も、Windowsのモダンアプリであれば、アプリそのものを閉じる操作として、上から下へのスワイプがあり、それによってスタート画面に戻ることができる。だから、チャームがなくても困ることはないという判断があってもおかしくない。

 iOSの場合も、iPadなら5本指でクシャっとつかむようにするグラブジェスチャでアプリを閉じることができるので、ホームボタンがなくなってしまったとしてもあまり困らないだろう。

 だが、Android OSでは、今、開いているアプリをサスペンドしてシェルとしてのホーム画面に戻るには、ホームボタンを必ず押す必要がある。あるいは繰り返しバックボタンを押して終わらせてしまうとか、タスク一覧からスワイプで終了させてしまう手もある。いずれにしても、必ず、ナビゲーションバーをどこかに表示させなければならないわけだ。

 これらは、言ってみれば、GUIのゆらぎでもあると言える。3つのOSを行ったり来たりしていると、結構慣れているつもりでも、指が迷ってしまうことがある。やっぱり、見えないボタンは押されない、見えない機能は使われないということなのかもしれない。あるいは使わなくてもあると安心ということか。めったに使わないのにデスクトップにはスタートボタンが絶対必要であるという考え方も、そのあたりに理由がありそうだ。

 横長の画面にキーボードがついていることが保証されていたクラムシェル端末とは違い、人は、自由にデバイスを構えるようになった。そのときに、どう構えても自然な動きができるようにすること。見えない機能をどう発見させるかを、これからのOSのシェルはもうちょっと真剣に考える必要がありそうだ。

(山田 祥平)