山田祥平のRe:config.sys

なんちゃってウェアブルで災害グッズを携行する

 謹賀新年。2005年にスタートしたこの連載も、この5月には20周年を迎える(Windows 95から9年 ~そして何が変わったか)。ただ、年初から壮絶な災害/事故が相次いでいて心が痛い。被害に遭われた方々には心からお見舞い申し上げたい。そんなわけで2024年最初のコラムは災害グッズの四方山話だ。

惨事で始まった2024年

 年越し蕎麦を食べながら紅白歌合戦を見て年の終わりを実感し、のんびりと元日を過ごしていたら夕方に能登半島大地震。実家のある福井県小浜市も目と鼻の先が原子力発電所密集地なだけに心配だったのだが、不幸中の幸いで惨事には至っていないそうだ。

 そして翌日2日の夕方には羽田空港事故。一連の情報を入手するために、久しぶりに生放送テレビを長時間視聴した三が日だった。

 これらのニュースで惨事を目の当たりにして、身の回りの災害グッズ類も、改めて見なおしておこうと思い立った。

 手元には、災害時専用のリュックサックを用意していて、有事には避難時にそれを持ち出せば、当面の暮らしは何とかなるようにしてあるつもりだった。リュックの中には、各種充電ケーブル類や比較的大容量のバッテリ、充電用のACアダプタなどが入っている。また、風呂敷、水筒、懐中電灯、エコバッグ、スリッパ、不織布タオル類といった定番の災害グッズが入っている。

 スマートデバイスは、地デジTVが受信できるFCNT(当時)製Androidタブレット、ドコモのarrows Tab F-02Kが入っている。この製品は、SIMを装着すればLTE通信もできる441gの10.1型タブレットだ。2018年の発売で、Androidのバージョンは7.1でスタートして9までアップデートされてそこで止まっているが、とりあえずはまだ使える。

 定期点検時には、通常アプリのアップデートをすませておく。今回はイレギュラーなタイミングだが、フルセグTVの受信も正常にできるようでほっと一安心だ。非常時グッズの中には、このタブレットに接続するマイク付きのイヤフォンも入れてある。

 すでに5年選手になってしまっている(もっと古いと思っていたが意外に新しい)が、これほど充実した機能を持った使いやすいタブレットはあとにも先にもない。代替がない以上、大事に使おう。IPX5、IPX8/IP5Xの防水防塵も安心だし、もちろんGPSも装備している。

 今回も能登半島地震のニュースを聴いて、改めて、常備リュックからこのタブレットを取り出して電源を入れてみたが無事に稼働した。念のために85%で充電を停止するように設定を見なおした。普段は使わずに待機させているデバイスなので、こうしておいたほうがよいという判断だ。

リュックとベストで万全の体制

 災害時持ち出し用リュックの中身を点検していて思ったのは、万が一の災害発生時、これだけの中身がつまったリュックそのものを持ち出せるかどうかということだ。

 両手があくからということでリュックサックを使うことにしたわけだが、厳選したとは言え、全部を格納するとそれなりの重量になる。もしかしたら、これとは別にサブセットを作っておいたほうがよいかもしれないと思い始めた。

 そこで考えたのが、かつて愛用したカメラマンベストの利用だ。今なら、アウトドア/フィッシング用などとしても見つけることができるベストで、やたらとたくさんのポケットが付いている。このポケットに非常時グッズを収納しておき、万が一のときには、このベストを羽織って避難し、余裕があればリュックを背負うというようにしておこうというわけだ。

 手元を探したら、いつ購入したのか覚えがないが、ティンバーランドのベストがほぼ新品の状態で見つかった。確か、メッシュ素材でできたドンケのベストも所有していたと思うのだが、どこにいったのか見つからない。夏場のことを考えるとメッシュ素材のものも捨てがたい。

 毎年、東日本大震災があった3月と防災の日がある9月に災害グッズの点検をするようにしているが、3月に夏用、9月に冬用に入れ替える運用でもよさそうだ。

 カメラマンベストは、屋外での撮影を伴う取材などで重宝した。ポケットが多いので、頻繁に使う撮影機材をすべて身にまとうことができるからだ。この特性を利用し、あまり重くなりすぎないようにしながら、ベストのポケットにミニマムでの非常用グッズをすべて格納しておくことにした。

 日常的に携行するカバンの中には常備しているものばかりだが、そのカバンを持ち出せるとは限らない。装備が二重、三重になってもったいないかもしれないが、背に腹は替えられない。定期的な点検と装備の見直しを繰り返しながら有事に備えたい。

ウェアラブル貴重品

 羽田空港事故については、避難時の制限について深く考えてしまった。379人もの乗客/乗員全員が18分間で機体の外に避難することができたのは、ひとえに、全員がルールを守り、自分勝手な行動をしなかったからだろうと思う。

 避難時には、荷物を持たず、女性はハイヒールを脱いで非常口に向かわなければならない。そうしなければ、荷物が避難時の邪魔になったり、ハイヒールが脱出シューターを傷つける可能性があるからだ。

 航空業界には非常時に全ての乗客が90秒以内に脱出できるように備えなければならないというルールがあるそうだが、それを実現するには個々の乗客がきちんとルールを守る必要がある。

 その1つが、手荷物は捨てるというもので、荷物は置いて身一つで脱出する。高価な貴重品であろうが、思い出の品であろうが、かけがえのないものであろうが関係ない。

 個人的には航空機での長距離移動の際、離陸から時間がたち水平飛行になってベルト着用サインが消えたら、やおらソックスを脱ぎ、持参したスリッパに履き替える。エコノミー症候群にならないためのささやかな防御だ。

 そして、目的地に近づき着陸態勢に入る旨のアナウンスをきっかけに、スニーカーに履きかえる。これをずっと徹底していた。万が一のときに、スリッパではどうにもならないし危険だと思うからだ。

 今回の羽田空港事故の話を聞いて、万が一に備えて貴重品を身にまとうことも想定することを考えた。緊急着陸時に生還できたとして、サイフもない、パスポートもない、名刺もない、マイナンバーカードも運転免許証もない、クレジットカードや銀行カードもなく、スマホもいつのまにかポケットから滑り落ちていたというのでは目も当てられない。

 さらに、常時携行しているPCも機内に置き去りであるとすれば、いろんな連絡先も分からない。こうした貴重品、ID等をなんちゃってウェアラブルにしてしまうことができれば心強い。機会を見てカードやID類はスキャンしてクラウドに置いておくことにしよう。

クラウドあってのものだね

 今は、クラウドがあるので、途中で手荷物を手放さなければならなくなったとしても、自宅を出てからPCでの作業結果を失うことはほぼないと考えていい。でも、20万円前後のPCを1台失うだけでも経済的な痛手は大きい。保険ですべてをカバーするのも難しそうだ。

 仮に自分のPCを失ったとしても、自由に使えるPCが避難先に用意され、セキュリティの問題を気にせずに、自分のアカウントを使ってサインインすることができれば、OSやブラウザが、以前の操作に応じていろいろなことを把握しているので、大いに助かるにちがいない。銀行カードがなくても、オンラインバンキングで現金を動かすこともできそうだ。

 だが、能登半島地震の孤立被災地のような状況に置かれたときはどうなのか。身一つで避難しなければならなくて、後戻りができないのに、大事な情報の入ったストレージを内蔵したPCを置き去りにせざるを得ない状況などだ。

 こればかりは、日常的な情報の置き場を、自宅以外の場所に置く。つまり、今ならクラウドに置くのが一番よさそうだ。それなら手ぶらで避難しても失うものはない。物理的なモノや情緒的なコト以外は取り返せる。人々が目にし、手にする多くの写真がデジタルに移行していてよかったなとも思う。

 あとは断水や停電が続いていたり、道路などが寸断されて孤立状態になってしまったときに、どうするかだ。さらに、今回は、一部の地域で携帯電話や通信ができない状態が続いている。緊急通報もできない状況というのは厳しい。今後、さらに停電が続くと、非常用電源で運用されている通信設備も停波してしまう可能性があり、その復旧が待たれている。

 こうして、いろいろな可能性を書いているが、こうしておくときっと役にたつと思っても、しょせんは机上の空論だ。なにしろ書いている本人は、こうした被害に直面したこともなければ避難所の経験もないのだ。

 それでも創造力を働かせながら、将来における万が一の事態に備え、回避できる困難を不可避にしないように努力したいし、今、まさに混乱の中にある方々は、何があればよいのかを記録や記憶に留め、のちに共有してほしい。集合知として活かせれば最強だ。

 ということで、今年もご愛読いただけますよう。