山田祥平のRe:config.sys

丸型バレルプラグを消せる消しゴムマジックが欲しい

 世の中の各種電気デバイスへの電源供給インフラがUSB Type-Cの支配下になることを夢みてきた。だんだんそれに近い状況になりつつもある。そう思いたいところだが、まるで信用していないように感じることもある。この状況は、当面続きそうなのが歯がゆい。

USB PD充電器にも大電力化の波

 ベルキンの新製品群を見て、ちょっと複雑な気持ちになっている。もっとも個々の製品はすごくいい。ブランドの安心感もあり、何のためらいもなく使えるし、その上質な作りは使っていて気持ちがいい。

 今回手元で試した最新製品は、

の3点だ。

 まず、BoostCharge Pro 4ポートGaN 充電器 140W。USB Type-C×3とUSB-A×1の合計4ポートを装備したGaN充電器で、3つのUSB Type-Cポートうち1つはUSB PD+PPS 140Wに対応する。

 同社では、この製品が旅行に最適としているが、343gというのはさすがにズシリという重さを感じる。それに、この重さを折りたたみできるACプラグで支えるのは大変だ。現実的にはACの延長コードを併用するのがよさそうだ。

 プラグ部分は取り外せるようになっていて、別売りのトラベルプラグキットを使って各国のプラグ形状にあわせることができる。プラグ部分を取り外すと、メガネケーブルを装着できそうな端子が顔を出すが、サイズが微妙に違っていて接続できなかった。

 100W超対応のUSB PD充電器は各社から発売されている。たとえばAppleからも140W対応製品が提供されている。ベルキンのものと比べると本体サイズはほぼ同じだが278gと軽量だ。だが、充電用ポートの数は1つしかない。

 ポートごとの出力は、全ポートを同時に使ったときには、USB Type-Cポートが、65W、45W、20W、USB-Aポートが12Wとなる。これらの出力を持つ単体アダプタを個別に調達すれば343gというのは無理ということを考えれば妥当な重さといえるかもしれない。

 3つのUSB Type-Cポートのうち、1つだけが140Wに対応し、残りの2つは65Wまでの対応となる。140Wが必要な場合は、最上部のポートだけを使って最大出力を得る。出張先などでの充電環境は、ノートPCのために65Wのほか、数十Wのポートが2個あれば、複数台のスマホやモバイルバッテリなどを充電できるので、これだけのポートがあれば必要十分だ。そして、1秒でも速い急速を望むなら最初のポートを使って140Wを供給する。大電力に呼応できるデバイスなら重宝するだろう。

 ただ、最近のスマホは30W充電ができることが多いので3ポート同時使用のときには、45W×3でもよかったように思う。出張に持ち出すようなモバイルノートは45Wあれば、よほどのことがない限りバッテリが消費されることはなく、操作の隙をみて充電され、気がつけば満充電に達している。まして、就寝していて使っていないノートは45W充電でも朝には確実に満充電だ。外出先での充電は少しでも速い方がいいが、宿泊先での就寝中は、それほど急ぐこともない。

大電力アダプタには大電力対応ケーブルが必要

 同時に発売されたBoostCharge USB Type-C to USB Type-C Cable 240Wは、240Wまで対応できるUSB Type-Cケーブルだ。2mの長さの二重編組ナイロンケーブルで耐久性も高そうだ。1mのものもラインアップされている。また、プラグ部分は久性のあるアルマイト処理されたアルミニウム製だ。過熱保護機能を備えたEマーカーが両端に装備され、充電の安全性を確保しているという。

 大容量電力の需要に応えられるように、100WまでだったUSB PDの対応電力を、240Wまでに高めた規格としてUSB PD EPRがあるが、このケーブルはその規格に対応した製品で、プラグ部分にも「240W」と大きく刻字されている。規格上の最大電圧は48Vなので、電気的に50Vまで耐えられることがケーブルに求められる。これによって、大電力が必要なゲーミングPCなどへの対応もかなう。

 ただし、データ転送はUSB 2.0だ。せめて5Gbpsに対応していればよかったのにと思うが、140Wの電力伝送とデータ転送の両方が求められる環境は、ほぼないに等しいことを考えると、これでよいのかもしれない。

 手に取った感触も気持ちがいい。しなやかで取り回しも楽だ。細いとはいえないが、その太さは安心につながっているし、しなやかさが、その太さを相殺し、とても良質なケーブルだと感じられる。

汎用ポートだけのシンプルな構成のUSB ハブ的ドッキングステーション

 そしてConnect Thunderbolt 4 5-in-1 USB Type-C ドッキング ステーション。Thunderbolt 4に対応するドッキングステーションだが、多くの製品がHDMIやDPなどの映像出力ポートやイーサネットポート、オーディオ出力などを備えるが、この製品はシンプルで、USB Type-C×4、USB Type-A×1の汎用ポートだけで構成されている。

 また、これまた多くの製品が、PCとの接続のために、ケーブルが直付けされてるが、この製品は通常のポートが用意されていて、パッケージに同梱されたThunderbolt 4ケーブルを使ってPCと接続する。環境によってはこのケーブルを2m仕様のCONNECT Thunderbolt 4 ケーブル, 2M, ActiveなどでPCと接続することで、機器類のレイアウトの自由度が高まる。

 各USB Type-Cポートは15WのUSB PD充電ができる。また、接続されているPCには最大96Wの電源を供給できる。ただ、そのために、かなり巨大で重厚な専用の150WACアダプタから丸型のバレルコネクタで電源を供給する必要がある。

 こうした面を見るにつけ、各種のデバイスはまだUSB PDを信じていないんだなと感じる。冒頭で紹介したBoostCharge Pro 4ポートGaN 充電器 140Wのような製品があるのだから、それを使って電力を供給できれば、製品の汎用性は格段に高まるはずだ。エンドユーザー体験は、シンプルになるが、大容量のUSB PD充電器、大容量対応のケーブルの双方を揃える必要がある。それにACアダプタと比べればかなりのコスト高になるだろう。でも、いつかはそれがかなうといい。

USB PDを充電と給電の両方に使いたい

 今回の不満はベルキンの製品企画が甘いというのではなく、慢性的に業界が抱えている難題だ。そもそもUSB PDは、Power Deliveryという名前の通り、電力を配るための受給電規格で、決してバッテリへの充電だけを想定したものではない。デバイス同士が相談する賢いパワーサプライにも使える規格なのだが、マルチポートの充電器のような場合には、ダイナミックにポートごとの電力が変更されたりすることもあり、瞬断などが起こることを想定しなければならない。

 データは再送で誤り訂正できるかもしれないが、電力はそういうわけにもいかない。電力が途絶えたらシステムは落ちる。マルチポートの場合、1つのポートが満充電に達して、以降の受電がいらなくなったとしても、ポートをいつどのように開放するかは難しい。ケーブルが抜かれるなどの明確なきっかけがあれば、そこで再配分ができるが、ケーブルだけが装着されていたり、ケーブルの先に充電されるデバイスがあったりと、場合分けがややこしい。

 いろいろな理由から、バッテリを実装しないデバイスへの電源供給はUSB PDを頼れない、頼りたくない、信用できないという状況になっているのだろう。でも、それを何とか解決しない限り、専用ACアダプタから丸型バレルプラグで電源を供給するスタイルから逃れるのは難しい。かといって、あらゆるデバイスにバッテリというのもSDGs的にどうだろう。その解決が待たれる。