編集部・ライターの今年“これ買った”!

粗削りだが夜でもスマホ感覚で撮れるキヤノン初のVlogカメラ「PowerShot V10」

このコラムは、編集部員やライターがこの1年を振り返り、実際に買って「良かった!」と思う製品を簡単に紹介するコーナーです。
PowerShot V10(サードパーティのレンズキャップ装着済み)

 2023年は公私にわたり外出の機会が昨年よりも格段に増えた。散歩とカメラが趣味であるため、毎週のように都内のあちこちを行ったり来たりする日々は非常に楽しいものであった。筆者は写真だけでなく動画撮影も好きで、普段は状況に応じて複数のアクションカメラを使い分けて撮影を楽しんでいる。そんな筆者が今年、電車の車内広告などで何度も見かけ、気になりすぎて手に入れたのがキヤノンの「PowerShot V10」だ。

 本製品は、1型のCMOSセンサーや広角19mm相当(35mm判換算)の単焦点レンズを搭載するほか、大口径で全方位集音のマイクも内蔵し、最大4K/30pでの動画撮影が可能な同社初のVlog向けカメラだ。本体サイズが約63.4×34.3×90mm、重量211gと小型軽量で、スマホでの撮影のような縦持ちのスタイルで撮影できるため、自撮りや街中での撮影に好適とする。スタンドも内蔵し、カメラ単体で自由な角度で設置しての撮影も可能となっている。

PowerShot V10、往年のiVIS miniシリーズを想起させる製品だ

 このPowerShot V10、結果的に筆者が今年最も頻繁に使用した動画撮影用カメラとなったのだが、はじめてのVlog用カメラとしてはオススメしないというのが率直な感想だ。特に、これまでスマホ撮影の経験しかない人にとっては「スマホで十分では?」と思われる可能性が高いと考える。

 その主な理由は、本製品の手振れ補正機能が近年の動画撮影用カメラと比較してそれほど強くないことにある。公式サイトで示されているような片手でサッと撮るスタイルでは、手振れ補正を強にしてもブレることが多く、特に歩きながらの撮影では、自撮りならまだしも、相当慣れてないと綺麗な動画を撮るのは難しいだろう。基本的にはどこかに設置するか、立ち止まってカメラがブレないよう意識しながら撮るといった固定撮影が主な使用方法となる。

 このカメラはアクションカメラではないので、それらに匹敵する手振れ補正機能を求めるのは酷かもしれない。ただ、Vlog用で使用するのであれば、撮影された動画は何かしらの形で発信するわけで、一般的には気軽に使ってもブレない動画を撮影できるカメラを選択するべきだ。カメラ初心者であれば、同価格帯のアクションカメラを購入したほうが満足度が高いだろう。

 また、タイムラプスや長時間の4K撮影ができなかったり、美肌モードや自動水平機能モードが手振れ補正と同時に使用できなかったり、ズーム機能もサッと撮るような撮影スタイルでは実質ないに等しかったりするので、これまでカメラを持っていなかった人にとっては、スマホから本製品に切り替えることによるメリットを感じにくいと思われる。以上がこのカメラを初心者にオススメしない理由だ。

PowerShot V10

 しかしながら、PowerShot V10はこれらの短所を凌駕する魅力を持っている。たとえば、起動速度の速さは素晴らしい。撮りたいと思った瞬間にサッと取り出して即座に撮影できる高機動力を重視する筆者としては、本製品を動画版のGR IIIと位置づけるくらいには起動速度を高く評価している。

 ただ、4K撮影で起動するたびにメッセージが出たり、録画ボタンだけで撮影開始できなかったりする点は、せっかくの機動力を損なっているのでファームウェア更新か後継機で是非改善してほしいのだが、現状でもかなりスムーズな撮影を実現している。

 また、スマホのように撮影できるのも魅力的だ。たとえばDJI Osmo Pocketシリーズなど、縦持ちで動画撮影するカメラはほかにもあるが、このカメラは筐体デザインがスマホに似ており、持ち方や操作も含めてスマホを使っているような感覚で撮影できる。

 公式サイトでも「スマホのような撮影スタイルで、街中でも目立ちません。」と謳っているように、街中でカメラを取り出して撮影する際の目立ち具合が少なく、精神的にも気軽に撮影できるのはかなりの利点だ。

 夜間撮影に好適な面もこのカメラを語るうえで外せない魅力だ。あくまで筆者の印象ではあるが、一般的には一眼レフカメラは夜景が綺麗に撮れるものの、持ち運びや操作の面で気軽さに欠けることが多く、アクションカメラは気軽だが夜間撮影には不向きなモデルが多い。PowerShot V10は、5万円ほどの価格帯でありながら1型センサーやNDフィルターを備えており、固定撮影であれば夜の街を美しく捉えることができる。

 本製品に関しては、すでにほかのカメラを持っている人が、夜間撮影を気軽にしたいという目的でサブカメラとして購入するのに向いていると言えるだろう。綺麗な夜間撮影を気軽かつ高コスパで実現しているこの点は、スマホとの比較としても最も大きな利点だと筆者は思っている。

 このようにPowerShot V10は、固定撮影であれば綺麗な動画を夜間でも気軽に撮ることができ、スマホ感覚で操作できるため、カメラ好きのスマホ世代ユーザーにはとても刺さる製品だろう。それゆえに、動きながらの撮影で手振れ補正がもう少し効いた動画が撮れれば、万人に推奨できるカメラとなっただろうに、と残念でならない。センサーサイズや価格帯を考慮するとここが妥協点だったのだろうか、後継機にはこの点の性能向上を強く期待している。

 ちなみにPowerShot V10を手に入れた場合のアドバイスだが、JJC製の専用レンズキャップの使用を強くオススメする。このレンズキャップを使うことで、むき出しのレンズを保護することができるほか、撮影時の指の映り込みも防ぐことができる。撮影時の機動力もそこまで損なわないのでぜひ検討していただきたい。

JJC PowerShot V10専用レンズキャップ

 また余談だが、起動速度やスマホのような撮影体験を重視しない場合は、DJI Osmo PocketシリーズやFIMI PALMシリーズなどのジンバル内蔵型のカメラのほうがはじめてのVlogカメラとして適しているかもしれない。特に最新の「Osmo Pocket 3」は1型CMOSセンサーを搭載しており、夜間にも好適としている。

 撮影するときだけポケットから取り出して撮り、終わったら電源消してポケットにしまうという使い方がジンバルカメラだと不向きなので筆者はPowerShot V10派だが、常にカメラを手に持って散歩する人ならこれらのカメラもよい選択肢となるだろう。