編集部・ライターの今年“これ買った”!

50万円したカワイの電子ピアノ「CA901」。楽器の奥深さと面白さを再発見

このコラムは、編集部員やライターがこの1年を振り返り、実際に買って「良かった!」と思う製品を簡単に紹介するコーナーです。
CA901

 筆者は、小・中学校時代に歌った合唱が好きである。それらを聴いていると、いつでも青春時代の風景を思い浮かべて、戻る気分にさせてくれるからだ。小中学校時代、引っ越しが多くあっちこっちを転々としていたのだが、偶然にも合唱が上手なクラスや学年に当たって、合唱コンクールに出たり、学校として初のCD収録をしたりもした。筆者はピアノを習っていたので、女子に混じって伴奏を担ったこともある。だから一層思い出深い。

 そんな合唱の伴奏を忘れまいと、一人暮らしの時代にカシオのエントリー向けの電子ピアノ「AP-33」なるものを購入しては、暇な時に弾いてはいた。しかし子どももピアノを習いはじめ、15年ぐらい使い続けたので、そろそろ買い替えてもいいかな? ということで、2022年初夏頃からピアノの買い替えを検討し始めた。

 だがこの時、深刻な半導体不足の影響が、まさかの電子ピアノにも響いていた。島村楽器やイシバシ楽器、ヨドバシカメラを片っ端からあたったものの、「今からご購入なされてもいつ届くか分かりません……早くても3カ月後、もしくは半年程度なのですが、それでも本当にお届けをお約束できるかどうか……」という状況だった。

 昔、親が買ってくれたヤマハの電子ピアノが気に入っていたこともあり、筆者は当初同じヤマハによる「CLP-785」というモデルを狙っていた。しかし発売が2020年8月だったということもあり、「それってまさか2022年年末まで納期が伸びて、届いた直後にモデルチェンジされたりしませんよね」という懸念があった。加えてそのCLP-785も試弾してみたが、「思っていたほどでは……」という印象が強く、2022年は購入を見送った。

 2023年に入ってから半導体不足による影響が少し和らぎ、どのメーカーもほぼ即納できるレベルになった。そこで再度店頭に赴き、いろいろ試弾をはじめたところ、「ほかとは明らかに何かが違う」と感じるほど心に響く音色を奏でてくれたのが、2022年11月に発売された河合楽器製作所の「CA901」だった。

 CA901で試弾した曲は合唱曲の「Let's search for Tomorrow」だったのだが、この曲はイントロ部分で左手が「C2+C3」(つまり結構な低音)から開始して下がっていき、右手は上がっていくという壮大な広がりのスケールで始まる。ここでCA901は筐体全体を震わせ、指先からつま先に至るまで音を届けてきた。まるでアコースティックピアノを弾いているかのような錯覚に陥ったのだ。

Let's search for Tomorrowのイントロ

 電子ピアノは基本的にアコースティックピアノの生の音を収録するのだが、収録した音の強弱バリエーションや長さによって表現力はかなり変わってくる。基本的にここが電子ピアノの価格の違いだ(容量が増えるため)。その点、CA901のデフォルトの音色は、河合楽器が誇るフラグシップ「SK-EX」をサンプリングしたもので、88鍵すべての響きや共鳴音を再現するモデリング技術により、高い表現力を備えている……のだが、そのスペック以上に何か決定的に違うものを感じた。

 店員に「なぜ?」と尋ねたところ、これはCA901が後部のパネル全体を加振器によって振動させて発音させる「響板スピーカー」と呼ばれる仕組みを用いているためと即答してくれた。普通このパネルは単なる木の板であり、CA901ではそれ全体を振動させてるわけだから、違いを感じるのも当然だろう、と思った。

 で、その後もいくつか曲を試弾して、ほかの同価格帯のものと比べてみたが、やはりCA901がずば抜けてよかったので、その場で即決した。しかもピアノブラックの「CA901EP」というちょっとお高いモデル。フフフ。

 その後紆余曲折はあったものの4月上旬に無事CA901が届き、今に至る。やっぱり音が良いピアノが家にあると練習のモチベーションも上がる。中途半端に練習を放置しててラストまで弾けなかったLet's search for Tomorrowを最後まで弾けるようになったし、小学校時代楽譜がなく練習できなかった「エリーゼのために」も弾けるようになった。今はメンデルスゾーンの「結婚行進曲」を練習している。

 とまあ、そんな調子でつい先日までは単純に電源を入れて弾くだけだったのだが、「そう言えば50万円するCA901にはどんな“機能”があるんだろう」と思い、メニューをいろいろいじってたら、「VPA(Virtual Piano Artisan)」なるものを発見した。

 これは何かといえば「ピアノの調律を電子的にシミュレートする」ものだというのだが、たとえば「特定の弦だけちょっと音色を変える(柔らかくしたり明瞭にしたり)」とか、「筐体の共鳴度合い」とか、「(弦を叩く)ハンマーノイズの大小」とか、「(グランドピアノの)大屋根の開閉度合い」とかを調節できるのである。

いやーそんな調律師しかお世話にならない機能があるとは

 「部屋やホールといった環境の違いによるピアノの響き具合のシミュレーション」程度なら、わりっかしメジャーな機能として付いていることが多いのだが、ここまで来るとかなりマニアックで、PCのオーバークロックで言えばメモリのタイミングのパラメータをいじっている感覚だろうか? 確かに高感度なイヤフォンで聴けばその微妙な違いは分かるが、スピーカーで聴いている分にはほとんど分からないレベルだ。

 逆に、分からないからこそいろいろいじってその面白さに気づいてほしいパラメータである。VPAは、ピアノという楽器の奥深さと、楽器の音は想像以上に複雑な音が混じり合ってできているという面白さに、改めて気付かせてくれる機能なのだ。そういう意味でCA901は、ピアノという楽器としてのアナログ的な一面も取り入れた機種だ。

 ただ、ここまで丁寧に機能を作り込んでいるのなら、それを一番良く堪能できるイヤフォンに対して、もう少し出力部分にこだわって、妙な付帯音を減らしてほしかった、というのはちょっと思った。とは言え、筆者も含めて、ほとんどの人はイヤフォンを着けずに響板スピーカーの迫力を堪能したほうが幸せになれるであろう。電子ピアノとして結構値が張るが、それだけの価値は十分あると感じられる買い物であった。