AliExpressの迷い方
レアもの中国市場向けUSB Type-C外付けSSDを試す。激レア蟹との遭遇
2021年3月20日 06:45
みなさん、KODAKという会社の名前を最近聞いた覚えがあるだろうか? デジカメネイティブ世代の若手の読者の方は存在すら知らないかもしれない。
KODAKはフィルムカメラ時代の巨人企業であったが、イノベーションのジレンマでデジタル化の波に対応しきれず、いちど倒産してしまった。
そのブランドが切り売りされて中国でひっそりと生きていたのだ。「なんだこれ、黄色いパッケージがかっこよくてイカす、さらに胡散臭そうだ、逝け」と煽られたので、早速AliExpressでポチってみた。
ぷーたん まだ無職
我が輩はぷーたん。2月でぴーたんに名前を戻すはずだったのだが、採用最終試験をクリアした会社が突然の会社都合で4月まで採用フリーズすると言い出したのでまだ無職である。契約書サイン前なので反故にされると思っている。ほかの会社も最終段階で全滅(1カ月ぶり2度目)だった。
最近は弱気になってきて、ライスワークとして不本意な仕事も受け入れなければいけないかと思いはじめている。そのため、不安を紛らわすという名目でリモート面接用に単体Webカム(Logicool StreamCam C980)とコンデンサーマイク(Blue Yeticaster)を導入した。
あとは背景にホワイトボードを置く場所があればデータ分析エンジニアのリモート仕事環境としては完璧である。
リモート基本で働いているIT系企業の人でも、カメラやマイクをケチっている人は意外と多く、ライティングまで含めて快適な環境を作っている人は数多く面接したかぎりではまれである。
AliExpressでは、ネタ探しのためいろいろ買い物をしている。デスク左右リングライト用のフレキシブルアームなどのほか、日本では高いチタン製の食器や、Facebookで広告が出ていた携帯スタンドを買ったりネタ探しに余念がない。
Facebookなどでガジェットの広告を見つけたら、AliExpressで探すと数分の一の価格で大抵みつかる。もちろんオモチャで即座にゴミ箱行きだった。広告見て欲しくなったらAliExpressで探す、という習慣を持つことで浪費の金額を大きく削減できる。
じつを言うと、もう1つカッとなってAliExpressで購入したものが文頭で紹介したKODAKブランドの外付けSSDドライブだ。その黄色いパッケージに、なつかしの恋人に出会った気がしたのだ。
まずは分解だ、と思ったら分解できなかったので測定からスタート
箱をあけると、案の定チープな外観の本体が出てきた。樹脂の質感がロウソクみたいで、あきらかにコストが安い。
買ったらまず分解したうえで、電波法がらみで利用可能か確認するのがわれわれAliExpressチャレンジャーのデフォルトなので分解にチャレンジしてみたが、背面にネジとそれを隠すパーツもなく、完全はめ殺し構造になっていてまったく歯が立たない。
のこぎりで破壊しながら分解しようとしたのだが、実況を見ていたデスクの劉氏から待ったがかかった。
この外付けSSDドライブは金属ケースで覆われていて、機能的にもおそらく電波法は問題ないだろうと、不本意ながら分解せずに電源投入して、ケーブルをBelkinのThunderbolt3 40Gbps対応のものを用いて速度計測してみた。
高速を謳っているものではないのだが、USB 3.0のSSDにしては微妙に遅い気がする。中身がSATA 6Gbpsならせめて500MB/sくらい出て欲しい。SATA 3Gbpsなら280MB/sぐらいが天井だと思うので、謎のもっさり感がある。
きっとコントローラーが悪いに違いない。
もう一度分解にチャレンジしてみる。そこで見た物は、深セン湾で有名なアレだった。
もはや外観に未練はないので、硬い殻をぐりぐりすること30分。樹脂部品がぼろぼろになりながらも、ようやく内部の爪が外れるタイミングがやってきた。そして筆者が見た物は、激レアの蟹だった。
黄色い蟹か、深センの蟹は蟹でもこの蟹は食えないやつだよなと落ち込んでいたら、 「こいつは相当レアものが釣れた!」と、デスク劉氏が大盛り上がりしてくれた。
しかしこの蟹に泣かされたことは両手の指で数え切れない。まずアキバのショップ店員時代も蟹のNICカードはトラブル数ぶっちぎりだった。
IP電話機の開発チームと同居して仕事していたときのある日、いつも徹夜明けの先輩がこんなぼやきを吐いてきた。
「ぴーたんくん、ちょっとこの画面見て。この蟹のEthernetコントローラチップなんだけどさ、仕様書に書いてあるように信号入れてもどうやってもうごかなくて、出力にスペクトラムアナライザつないだんだけど、やっぱり信号出てないんだよ」。
PCヲタクの世界に悪名をとどろかせていたので、最近みかけないと思ったらどっこい案外生きていたのだ。筆者が知らないだけだったかもしれないが、株価も絶好調だ。
話は変わるがこのSSDドライブが生産されたと思われる深センはつい50年前まではのどかな漁村で、香港との間の海ではいまでも黄油蟹といわれる抱卵した青蟹が有名である。筆者が深センに送り込まれていた20年前は、じつに治安の悪い場所で、今とはまったく違う街だが、その頃も今も変わらず海鮮が旨い。
深センの蟹は遠浅の海で育ち、熱帯の暑さのために卵が蟹の体中に回ってしまい中が真っ黄色になるという。これは高級品なので庶民の口には入らないが、少し品質が落ちるものであれば庶民でも食べられる。
ほかにもチップと基板を見てみよう。VLI(VIA Labs, Inc.)の「VLI716」で、SATA 6GbpsスペックのUSB Type-Cブリッジコントローラである。製造は2017年9月だった。裏面には25MHzの水晶発振モジュールがついている。
メモリユニットは振動対策でボンド留めしてあり、ユニット上に実装されたMicronのNW946 NANDフラッシュチップを、RealtekのRTS5733で制御している。RTS573xのチップ自体は500MB/s以上出る製品にも組み込まれているようなので、ここがボトルネックになっているとは考えにくい。USBブリッジコントローラも、メモリのコントローラも500MB/sくらい出るはずのものなのに、微妙にもっさりした結果は気に入らないが、ストレージ用としては十分という判断なのだろう。
RTS5733のデータを探すと、ロシア語の資料ばかりひっかかるので、その先の探索は諦めた。中国語の資料をあたっても、中国でもレアものという位置づけらしく、PC廃人が収集対象にしているくらいしかわからなかった。どこかのピンをプルアップかプルダウンすると全速力が出るとか期待したのだが、魔改造は次回のお楽しみだ。もしかしたらチップサイズが小さい代わりに、性能を抑えたバージョンなのかもしれない。
意外なことにこのコントローラチップは、デスク劉氏による近似モデル「RTS5731」の紹介記事が2016年にあった。 RealtekのRTS5731も5733もADATAのSSDで採用された情報は見つかったが、レアものに位置づけられるように、あまり普及しなかったようだ。
KODAKという憧れの美女に再会したら、いまの彼女の現実を見てしまった気がした。そのKODAKブランドのSSDがどういう位置づけなのか、少し追いかけてみた。
イノベーションのジレンマに、人生の酸っぱさ塩っぱさを感じる
KODAKのSSDを検索すると、おもに中国で売られていて、そのほか東南アジアやブラジルなど新興国のマーケットに存在している。
化粧箱を見ると、「Dexxon Groupe」というフランスの会社が書かれていた。住所をたどると、パリの北側の倉庫地帯の卸売り業者的な場所だった。
製造していると思われる中国のオフィスは深センの龍崗区というところの工業区だった。FuturePath(置富科技)という会社でSSDをおもに生産しているようだ。
そのものずばりな製品があった。速度もだいたい実測値であった。
ZF-Type-C SSD X250
Performance: Type-c USB3.1 Gen1
Read: up to 330 MB/s
Write: up to 290 MB
どうやらKODAKのロゴをつけると、ある程度売れるマーケットがあると認識されているようだ。しかしそれはフランスなど先進国ではなく、あくまで中国向け。売り場で目をひく付加価値をつけるためのものだと推測している。
アメリカ消費財ブランドの代表の1つだったKODAKは倒産後にブランドだけ切り売りされたようで、多産多死の中国でまさかの運命の再会をすることになるとは思わなかった。
製品的には中国でもレアなチップをつかっているというだけで極端なチャレンジにならない購入だったが、予想外の品物が転がっているのがAliExpressの楽しみの1つだ。あまり過激なオチもなかったが、ご利用は計画的に。