レビュー
NVIDIAのクラウドゲーミング「GRIDゲーム」が1080/60pに対応
~「SHIELDタブレット」で使用感をテスト
(2015/5/30 06:00)
NVIDIAが提供するクラウドゲームサービス「GRIDゲームストリーミングサービス」が、β版として1080/60p(1,920×1,080ドット60fps)でのサービスに対応した。
GRIDゲームストリーミングサービスは、「SHIELD Hub」アプリがインストールされた「SHIELD」端末で利用できるクラウドゲームサービス。ゲームのあらゆる処理をNVIDIAのサーバー側で行ない、その映像と音声をストリーミングでユーザーに提供する。端末で処理するのは、コントローラなどの入力と、ストリーミングされた動画の表示だけ。これにより手元に高価なPCがなくとも、高品質なPCゲームが楽しめるという仕組みだ。このサービスは6月末まで無料で提供されている。
これまではストリーミング品質が720/60p(1,280×720ドット60fps)だったが、先日より1080/60pにβ対応したことで、より高画質でゲームプレイが可能になった。しかも6月末までは無料提供という点も変わらない。今回は5月末時点で、筆者の環境において実際のプレイがどうだったか、ということでテストした内容をお届けしたい。現状ではあくまでβ版なので、本格開放までチューニングが加えられるであろう点も考慮に入れてご覧いただきたい。
1080/60pでプレイするための下準備
今回のテストには、SHIELDタブレットを使用した。1,920×1,200ドットの型液晶を搭載したAndroidタブレットで、ゲーム操作には無線接続の「SHIELDコントローラー」を使用する。
ハードが必要なことに加え、「GRIDゲームストリーミングサービス」を1080/60pで利用するには、いくつかの準備が必要だ。まずはGoogle+のSHIELD Hub Beta communityに参加する必要がある。その後、Google Playでテスター登録を行ない、SHIELD Hubアプリを最新β版にアップデートする。
続いて「SHIELD Hub」アプリを起動し、メニューから「設定」、「GRID」、「ストリーミング品質」を選択。ストリーミングされるフレームレートと解像度を選択できる。標準だといずれも自動になっているので、最大解像度を1,080p、フレームレートを60fpsにしておけば1080/60pになる。
SHIELDタブレットは、Mini HDMIで外部出力が可能だが、フルHDのTVに直接出力すると1,920×1,200ドットの映像が縮小して表示される。この状態でもプレイに支障はないが、ドットバイドットで表示させるには、HDMIを接続後、「SHIELDコンソールモード」アプリで映像出力設定を「コンソールモード」に変更する必要がある。変更すると自動的に端末の再起動がかかり、以降、ケーブルを抜くまで、TV画面上でドットバイドット表示となる。
準備としてもう1つ、初回使用時に接続品質のテストが行なわれる。求められる接続品質は、20Mbps以上の帯域幅、1%未満のフレームロス、50ms未満のジッター、60ms未満のPingとなっている。この数値を下回ると警告表示がなされ、実際、ゲームプレイに支障が出てくる。状況を改善するなどして改めてテストしたい場合は、メニューから「設定」、「GRID」、「サービスの場所」、「接続をテスト」でいつでも確認できる。
1080pの美しさを引き出しつつ、操作の不快感もなし
では早速、実際のゲームを見ていこう。SHIELD Hubアプリのメニューから「GRIDゲーム」を選ぶと、プレイできるゲームがリストアップされる。現在は約50タイトルが用意されており、このうち公式サイトのリストで「RESOLUTION UP TO 1080P」と書かれたタイトルが、1080/60pでのストリーミングに対応している。
まずは対戦格闘ゲーム「ウルトラストリートファイターIV」。筆者は格闘ゲームは離れて長いものの、昔取った杵柄で行けるか……と思ったら、定番コンボのアッパー昇龍拳すらまともに出せないほど弱っていた(笑)。元々大した腕ではないが、練習して勘を取り戻す内に、各種必殺技の入力や、比較的簡単なコンボなどでは、遅延やコマンド操作の抜けといった違和感もなく操作できた。
次はアクションゲームの「LA-MULANA」。このゲームはステージ端で隣のステージへスクロールするタイプのゲームなので、プレイ中の背景の動きが少なく、ストリーミングに優しいゲームと言える。映像の乱れは皆無で操作の抜けも感じられない。ローカルPCでも何度も遊んだゲームだが、違いはないに等しい。元々SD画質のゲームなので、1080pにする恩恵も特にないのだが、入力遅延のなさを確かめるのには適したゲームだ。
続いてはシューティングゲームの「REVOLVER360 RE:ACTOR」。こちらは多数の弾が飛ぶゲームであることに加え、背景が繊細に描かれている上、ステージを回転させるギミックもあるため、ストリーミングの動画圧縮には非常に厳しい。プレイしてみると、背景と重なる部分にある文字の周りなどに圧縮ノイズらしきものは見受けられるが、映像としては破綻することなく、十分に元の映像の美しさを保ったままストリーミングされていた。
試しにストリーミング解像度を720pに変更してみたところ、全体の輪郭がぼやけたように感じられた。やはり1080pの方が映像は断然精細で、本作ではその違いが明確に感じられる。操作についても遅延は感じられず、シューティングゲームとしても大変快適にプレイできた。
ここまでは回線が万全である前提の話だが、そうでない時のこともお話ししたい。筆者宅はVDSL配線の光回線で、下りは100Mbps近く、上りは40Mbps程度になる。しかし夜間は急激に回線の質が悪くなり、今回のテスト時もPingが100ms超、フレームロスが20%超になる瞬間があった。
この時はどのゲームでも、映像が一瞬止まる状況が多発した。ストリーミング映像の受信に失敗したのだと思われるが、数フレーム分がごっそり抜け落ちて、その間はゲームが停止したように見える。しかしクラウド側ではゲームが進行しているため、格闘ゲームでは敵のCPUにカウンターをもらっていたり、シューティングゲームでは敵の弾を食らっていたりということが起こる。またREVOLVER360 RE:ACTORのように映像の変化が大きなゲームでは、ストリーミング映像の品質が低下し、猛烈なブロックノイズが発生した。
こういった問題を起こさないためには、回線の速度も重要だが、それ以上に低遅延・低フレームロスの安定した回線品質が重要だ。速度が足りないだけなら時折ブロックノイズが出た映像が挟まるだけだが、フレームロスが起きると、その映像が丸々抜け落ちるためゲームが一時停止したように見え、プレイ感を著しく損なう。筆者と同様に回線品質の変化を感じる人は、「Radish Network Speed Testing」など、回線速度だけではなく品質も表示してくれるテストで確認してみるといいだろう。
回線品質と言うと、「Wi-Fi接続に問題があるのでは」という懸念を抱く人も多いと思う。実際に接続テストで数値を見てみると、Wi-Fiでも困るような数字は出ていない。試しにUSB-LAN変換アダプタを使って有線接続してみたが、むしろ僅かにデータが悪化していたほどで、テスト数値とプレイ感の双方に有意な違いは見られなかった。無線ルータから距離があったり、他の電波が混線するような場所ではWi-Fiの問題も当然発生しうるが、「Wi-Fiだからダメ」というわけではない、と断言しておきたい。
1080/60pのクラウドゲームは完成の域、ただしユーザー回線次第
1080/60pでのGRIDゲームは、720pと比べて映像が美しくなった分、ストリーミングのための回線負荷も上がっている。しかし100Mbps超すら当たり前になった昨今の国内ブロードバンド環境であれば、回線速度の点ではまず問題はない。
ただ、回線品質となると話は別だ。いくらダウンロード速度が速くても、常に一定した速度で、取りこぼしなく通信する品質が求められる。問題になるのは速度より品質であり、1080pだろうが720pだろうが大差はない。もっともGRIDゲームはストリーミングの解像度も自動で調整してくれるようなので、通常はプレイヤーが解像度を上げ下げする必要もない。
特に今回GRIDゲームを触ってみて驚いたのは、フレームロスによるストリーミング映像の瞬断はあっても、操作が遅れて伝わるような瞬間は一度も体感できなかったことだ。筆者は現役ゲームライターでもあり、操作には人一倍厳しいはずなのだが、違和感が一切なかった。自分の感覚が老化したのかと疑いたくなるが(笑)、これならリズムゲームでも違和感なく遊べそうな気がする。
NVIDIAは「GRIDゲーム」の発表時から、とにかく低遅延であることをアピールしてきたが、実際に見るとなるほどその通り、と言うほかない。映像もREVOLVER360 RE:ACTORのようなストリーミング映像的にはワーストケースに近いものでも十分な美しさを実現できている。PCゲーム機としての性能が十分であることは言うに及ばず。ゲームごとに自分のセーブデータも持てるので、PCゲームのプレイ環境として文句なしだ。
もちろん、ユーザー側の通信回線が万全ならば、という条件付きだが……既に多くのユーザーはGRIDゲームを十分に活用できる通信環境を持っているはずなので、SHIELDユーザーは1080/60pのGRIDゲームストリーミングサービスに大いに期待していただきたい。