特集
発売日が決まったマウスの「MADOSMA」。Windows 10搭載に向けた取り組みを聞く
~現時点で唯一の国内向けWindows Phone端末
(2015/6/2 06:00)
既報の通り、株式会社マウスコンピューターは2日、同社初のWindows Phone端末「MADOSMA」を同日より予約開始し、18日より発売すると発表した。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は3万円前後となる。
かつて国内では、富士通東芝製の「Windows Phone IS12T」が発売されたが、すでに終息しており、現時点で国内での発売が決まっているWindows Phone端末はこのMADOSMAのみとなる。
同製品は、かねてより製品化が公表されており、その後製品名が公表され、今回の発売発表に至った。Windows Phone開発の経緯などについては、過去にマウスコンピューターでMADOSMAの開発を担当する製品企画部部長の平井健裕氏にインタビューを行なっているが、今回、再び同氏に話を伺うことができたので、発売を間近に控えた現在の販売戦略や今後の予定などについて聞いてきた。
なお、本稿公開時点では発売日および、法人向けのブラックモデルの発売が決定しているが、このインタビューはその情報を得る前に行なわれている。
最初はお金を払ってもWindows Phoneを作ってくれなかった
--まずは、「MADOSMA」というブランド名の由来について教えてください。
【平井氏】前回もお話したとおり、弊社初のスマートフォンを投入するに当たって、Androidの搭載は考えていなかったので、ブランド名はWindows Phoneを表わすものにしようと思いました。つまり、マウスコンピューターのスマートフォン=Windows Phoneということです。日本向けの製品ですので、カタカナでも表わしやすく、4文字程度で通りの良いものということも考え、MADOSMA(マドスマ)としました。Windows=窓ですし、我々はずっとPCメーカーとしてやってきて、久々の新カテゴリの製品となりますので、その窓を開けると言う意味の窓も含まれています。
ロゴの色が緑なのは、会社のロゴが黄色で、法人向け「Mouse Pro」のロゴが青なんですが、この製品はどちらかというと法人利用が多いと思われるものの、販売については法人・個人を問わず行なうので、その中間の色としたのです。
実はこの製品やパッケージを見ていただくと、マウスコンピューターのロゴはどこにも入っておらず、入っているのは、MADOSMAとWindowsのロゴのみになっています。その辺りも、この製品にかける意気込みを表わしています。
--製品のカラーバリエーションは考えていないのでしょうか。
【平井氏】背面カバーは一般向けはパールホワイトですが、法人向けにブラックも用意しました。これ以外のカラーバリエーションについては、実はサンプルも作っており、Windows 10 Mobileを標準搭載したモデルでは、個人向けに展開したいと思っていますが、まずはWindows 10 Mobileに向けたスケジュールなどを確定するところにリソースを割きたいと考えています。
--現時点で発売までどれくらい近い状態なのでしょうか。
【平井氏】6月2日より予約を開始し、18日から出荷を行ないます。すでに量産は完了し、製品は国内に入ってきています。ただし、量産後にもソフトウェアのアップデートを行なっていますので、購入して使うと、即座にOTAアップデートが降ってくるはずです。
--販路はどのようになりますか。
【平井氏】オンライン直販、ダイレクトショップ、量販店で一般向け販売を行ない、弊社の法人窓口で法人モデルを扱います。販売形態としては従来のPCに近いです。将来的には、直販でSIMバンドルモデルも検討しています。
--ハードウェアの開発はすでに完了したとのことですが、開発にあたっては、どのようなところに苦労しましたか。
【平井氏】設計や製造を行なうパートナー企業さんに、Windows Phoneの長所を納得してもらって、協力を得るまでがまず大変でした。最初は「なぜWindowsなのか? Androidでいいじゃないか」と言われ、こちらがお金を払うから作って欲しいと言ってるのに、なかなか取り合ってもらえなかったのです。そこで毎回、文字通りの片道切符を買って、パートナーのもとに足繁く通い、説得を続けました。その後、Windows Phoneのライセンス条件が緩和されたことや、Microsoftさんの協力もあり、なんとか説得できました。
それだけではありません。LTEサポートは開発の途中で決まったのですが、発売時点で唯一の国内向けWindows Phone端末になるかもしれないのに、NTTドコモさん向けのLTEバンド19に対応させないわけにはいきません。バンド1のみなどはあり得ないのです。しかし、ワールドワイドではこれはマイナーな存在であり、パートナーからは「バンド19とは一体何のことだ?」となるのです。
また、プロトタイプの時点では、ホームなどのナビゲーションボタンは、ただの点で表現されていました。Windows Phoneのライセンス条件緩和で、このボタンは液晶での表示も可能になったのですが、我々は独立したタッチボタンを選びました。その際、ただの点では、使い勝手を損なってしまいます。そのため、きちんとしたアイコンのものに作り直しました。そして、そこから日本語化に入りました。細かなところでは、海外版では写真撮影時のシャッター音をユーザーがオン/オフできますが、我々の製品ではこの項目を削除して、強制的にオンにしたりしています。
パートナーが作った同じハードウェアのものは、他社からも発売される可能性があります。しかし、我々の製品は日本向けありきで作ったもので、製品化の経緯が異なるものなのです。
--日本での技術適合証明(技適)は、すんなりと取得できたのでしょうか。
【平井氏】この部分は、旧iiyamaの技術チームが過去の製品でノウハウを蓄えており、彼らを通じて認証ラボとのコミュニケーションなどを行なうことができました。途中、モデムメーカーのQualcommにも確認が入るなど、かなり大変でしたが、取得できたのは、彼らがいたおかげです。
--検証を行なっているのはどのメーカーのSIMになりますか。
【平井氏】弊社では独自の基準で各社の評価を行なっており、それについてはホームページで情報を順次公開していきますが、MVNO様にも検証を依頼しており、そちらも検証が終わり次第、各社様のサイトにも情報が掲載される見込みです。
--想定予想価格はいくらくらいなのでしょうか。
【平井氏】3万円前後を想定しています。
--かなりリーズナブルですね。販売規模はどれくらいを想定しているのでしょう。
【平井氏】具体的な数字は申し上げられませんが、かなり開発費がかかっているので、たくさん売れてくれないと元が取れません……(笑)。
--スティック型PC「m-Stick」発売の時は、しばらく品切れが続きましたが、今回はどうなのでしょう。
【平井氏】m-Stickの時よりは準備しています。
日本マイクロソフトとは密接に協業
--日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)主催の開発者会議「de:code 2015」では、MADOSMAにWindows 10 Mobileのプレビュー版を搭載したものがマイクロソフト自身によって展示されました。MADOSMAの開発にあたって、マイクロソフトとはどのように協業しているのでしょうか。
【平井氏】マイクロソフトさんにはかなりの協力をしていただいてます。OSのロケールを日本にした時、OS標準アプリでも表示内容などがおかしなものがあるんです。それも問題ですが、実際の問題は、そのおかしな挙動を「バグ」とするか「仕様」とするかなんです。1つ1つバグと思しきものを拾い出し、その認定と改修をMicrosoft本社に依頼するわけですが、これはマイクロソフトさんの協力なしにはなし得ませんでした。修正パッチレベルではなく、OS自体にもある程度の修正を行なう協力をしてもらっています。これについては、マイクロソフトさんとのPC事業での長い関係も功を奏しました。
ちなみに、de:codeでのWindows 10 Mobileのデモはマイクロソフトさんから打診いただいて、弊社が実機提供の協力をさせていただいた形になります。
--Windows 10 Mobileへの対応の確度はどれくらいなのでしょうか。
【平井氏】現時点では、対応を検討中以上のことは申し上げられません。と言うのも、PC向けのWindows 10は製品版での最終形がある程度見えていますが、Mobile版はそれがまだ用意されていないのです。完成形が見えていない状況で、絶対動くとは言えません。ただし、センサーなど各モジュールレベルでは、量産前からWindows 10 Mobileに対応可能なことをチェック済みです。また、Windows 10 Mobileへのアップデートの際に必要となる可能性があることを考慮して、microSDカードスロットを搭載しました。
--Windows 10 Mobileの大きな特徴の1つとして、Continuum機能により、外部液晶ディスプレイに繋いだ時は、ストアアプリのUIをデスクトップ版と同じものにして、PCのように利用できるというものがありますが、Microsoftによると、この機能を利用するには、端末が2画面独立表示に対応している必要があります。これには、MADOSMAは対応できるのでしょうか。
【平井氏】我々が得ている情報では、Windows 10 MobileのContinuumには、Miracastベースの実装方法などもあるようなのですが、実は現時点ではまだこのContinuumを試せるビルドがどこにも存在していないので、現時点では不明と言うことになります。これができると、液晶に挿しっぱなしにするスティック型PC、基本は持ち歩いて必要に応じて液晶に接続するスマートフォン、そしてノートPCと、きれいに製品ラインナップが埋まるので、是非とも対応したいとは考えています。
--そのほか、Windows 10 Mobile対応で苦労している点などはありますか。
【平井氏】まだまだビルドが不安定で、問題が発生しても、原因がハードなのかファームウェアなのか掴みあぐねる点です。純正である「Lumia」でも同じ状況です。ただ、Lumiaについては、英語ビルドのロケールを日本に変えただけですが、我々は日本環境向けにコンパイルし直しています。実際、de:codeに参考展示した端末は、Lumiaより安定しているという声を頂いたほどです。とは言え、まだ細かい評価はできていない状態です。
--MADOSMAを購入したユーザーが、今後、自分でWindows 10 Mobileのプレビューをインストールすることはできるのでしょうか。
【平井氏】現在、Windows 10 Mobileのプレビューが提供されているのは、LumiaとHTCのものだけです。そこにMADOSMAが加わるかどうかは、Microsoftさんとの調整次第ですが、このプロジェクトの最初からWindows 10 Mobileを見据えた話はMicrosoftさんとしてきています。
今後の製品ラインナップについて
--まだちょっと気が早い話ですが、今後についてもお聞かせください。今回のMADOSMAはかなりベーシックな構成ですが、今後もっと尖った仕様の製品を投入する予定などはあるのでしょうか。
【平井氏】今回は、Windows Phoneを1日でも早く日本に持ってくることを最優先としました。そして、この製品は唯一の存在になるかも知れない。そこで、例え安くても、あまりにローエンドなものは良くないだろうと判断し、意図的に真ん中くらいの仕様を選びました。
ちなみに、Windows Phone参入表明以降、多かったのは、メモリ1GB、ストレージ8GBという容量に対する不安の声でした。スマートフォンでストレージ8GBというのは、国内でもZenFone 5でそういうモデルが出たこともあり、懸念はストレージよりもメモリの方が大きいです。しかし、8型タブレットでメモリ1GB製品があることからも分かる通り、最近のWindowsはメモリの使い方がうまく、この容量でも問題なく動作します。むしろ、メモリをいたずらに増やすと、消費電力が増えることもあり、ミドルレンジ向けとして1GBという容量は正解だと思っています。
この次をどうするかについては、今回の製品がどれだけ売れるかにもよりますが、基本的には上にも下にも広げたいと考えています。例えば、法人向けには今回のSnapdragon 400シリーズはややオーバースペックなので、200シリーズにするというのもありますし、コンシューマ向けでは400より上の製品を使うのもありだと思います。また、今回の5型と、タブレットの8型の間にもう1つ違うサイズの製品があってもいいのではとも考えています。この点は市場の動向を見ながら判断しますが、企画はすでに始まっています。
--今後、どれくらいの頻度で新製品を出すのでしょうか。
【平井氏】その点について1つ明確にしておきたいのは、我々は今後、Windows Phoneで少なくとも数年間はビジネスを行なっていく決意があるということです。新製品投入頻度は未定ですが、例え今回の製品の売れ行きが芳しくなくても事業は継続します。
--ありがとうございました。