笠原一輝のユビキタス情報局
マウスコンピューターに聞く「MADOSMA Q601」の企画意図
~気になる対応バンドの背景、そしてお値段は?
(2016/2/24 13:19)
株式会社マウスコンピューターは、MWCに併せて6型フルHDディスプレイを搭載したWindowsスマートフォンの開発意向表明を行なった。製品の発表時期や価格などは未定だが、その詳細なスペックなどが公開された(別記事参照)。
「MADOSMA Q601」という名のこの製品は、OSとしてWindows 10 Mobileを搭載しており、3,900mAhというスマートフォンとしては大容量のバッテリを備える。SoCはSnapdragon 617(MSM8952)、メモリ3GB、内蔵ストレージ32GBとなっており、Continuumの機能にも対応することが特徴となっている。
また、日本国内のバンドに加え、海外でしか使われていないバンドにも対応しており、海外でもプリペイドSIMを購入して利用可能。MADOSMA Q601の特徴などを、株式会社マウスコンピューター 製品企画部部長の平井健裕氏にお話を伺ってきた。
法人ユーザーに受け入れられた初代MADOSMA、鍵はWindowsとの高い親和性やセキュリティ対応
昨年(2015年)、マウスコンピューターはこのMWCで、当時は“試作機”とだけ呼ばれていた「MADOSMA Q501」を公開した(別記事参照)。その後、Windows Phone 8.1を搭載したMADOSMA Q501が販売開始され、昨年の終わりにWindows 10 Mobileにアップグレードしたバージョンが販売され、現在に至っている。MADOSMA Q501が出た当時は唯一のWindowsスマートフォンの選択肢となっていたが、Windows 10 Mobileの正式リリース後には、複数のメーカーから製品が出ており、現在ではユーザーが好みのデバイスを選べるように市場環境も変化している。
今回マウスコンピューターが公開したMADOSMA Q601と同じSoC(Snapdragon 617)を搭載している製品だけでも、既に販売が開始されているトリニティの「NuAns NEO」、2月の半ばに発表され4月から販売が開始される予定の「VAIO Phone Biz」などが発表されており、MADOSMA Q601と合わせると3製品目となる。また、今回のMWCでは、Windows 10 Mobileを搭載し、Qualcommの最上位SoCとなるSnapdragon 820を搭載している製品として、米HPが「Elite X3」を発表しており、日本でもKDDIから法人販売チャネルを利用して販売予定であることも併せて明らかにされているなど、市場が徐々に盛り上がりつつある。これはコンシューマからのニーズというよりは、主に法人からのニーズだ。
平井氏によれば、日本でのWindows Phone再起動の製品と言えるMADOSMA Q501を購入したユーザーの多くは熱心なファンと法人顧客に二分されていたという。「法人のお客様はセキュリティの確保という観点から、Windows 10 MobileのWaaSという考え方を評価して買われている方が多い。また、特に外資系企業ではグローバルでWindowsスマートフォンを社内端末にしているところがあり、そうした企業ではMADOSMA以前は日本では合法に使える端末がないという悩みを抱えているところがあった。そういった企業などに数百台単位で導入されていることが多い」と平井氏は説明する。
セキュリティ面での安心感があるというのは、Windowsスマートフォンの強みだとされることが多い。これはどういうことかと言うと、Androidでは多くがOEMメーカーの選択に任されていることもあり、例えばメーカーがOSのバージョンアップをしないと、ユーザーは古いバージョンのままで使うことを強いられる例が少なくない。古いバージョンにも遡るようなセキュリティホールが発見された時に、メーカーがバージョンアップしないと決めている場合にはその状況が放置される可能性がある。企業のシステム担当者として、そこが怖いという声はよく聞く話だ(なお、Android 6.0以降にはメーカーのOSバージョンに関係なくセキュリティパッチだけを配布する仕組みが用意されている)。
これに対して、Windows 10 Mobileでは、PCにおけるWindows Updateと同じような仕組みが用意されており、セキュリティパッチやOSの機能アップデートがMicrosoftからOTAで直接配信される。このため、エンドユーザーは常に最新の状態で使い続けられるので、将来何らかのセキュリティホールが見つかったとしても、危険な状況が回避できる。
また、Windows 10 Mobileは、基本的にPC版のWindows 10の機能をモバイルにフォーカスしたOSになるので、機能はPC版のWindows 10と共通の部分が多い。例えばActive Directoryへの対応、IntuneなどのMDMソフトウェアなどにも標準で対応しており、今でもオンプレミスのWindows Serverが多いような日本のIT環境ではニーズが強くなるのは自然な話だろう。
ロードマップにあった2つのモデルのうち、大型の製品を優先し、小型モデルも引き続き計画中
そうした法人からのWindowsスマートフォンに対する強いニーズの中、成功を収めることができたMADOSMAだが、その次の一手が今回公開されたMADOSMA Q601になる。
型番 | MADOSMA Q601 |
---|---|
OS | Windows 10 Mobile |
Officeソフト | Office Mobile |
CPU | Snapdragon 617(MSM8952) |
メモリ | 3GB |
ストレージ | 32GB |
カードスロット | microSDカード (最大 128GB) ※1 |
バッテリ容量 | 3,900mAh |
連続待ち受け時間 | (計測中) |
連続通話時間 | (計測中) |
充電時間 | (計測中) ※2 |
ディスプレイ | 約6 型 (JDI 製) |
解像度 | 1,080×1,920 (フルHD) |
方式 | LTPS方式 5点タッチパネル対応 (静電容量) |
ガラス | 2.5Dガラス |
本体寸法(高さ×幅×厚さ) | 160 x 82.3 x 7.9 mm (計測中) |
本体重量(付属品を含まず) | 176g (計測中) |
対応バンド(日本) | 4G/LTE FDD-LTE : 1/3/8/19/28(B) TDD-LTE : 41 3G WCDMA : BAND 1/6/8/19 |
対応バンド(海外) | 4G/LTE FDD-LTE : 1/2/3/4/7/8/28(B) TDD-LTE : 38/40/41 2G Quad Band |
SIM スロット | Micro SIM(Nano SIMアダプター付属) |
Nano SIM ※3 | |
Bluetooth | Bluetooth 4.0 |
無線LAN | IEEE 802.11 ac/a/b/g/n (5/2.4GHz) |
カメラ | 背面1,300万画素 (F/2.0)、前面500万画素(F/2.4) |
GPS | GPS/A-GPS/Glonass |
NFC | 対応 |
センサー | 加速度センサー/近接センサー/光センサー/電子コンパス |
インターフェイス | USB 2.0 Type-C、マイク/ヘッドフォン端子(CTIA互換) |
※1 SIM2スロットと排他
※2 Quick Charge 2.0 対応
※3 microSDカードスロットと排他
※4 開発中の製品ため、仕様が変更される場合あります
この新しいMADOSMA Q601のコンセプトについて平井氏は「昨年初号機としてのMADOSMAを出す時には、まず世に送り出すことを優先して設計した。ではその後継と考えた時には性能を出せるものと考えた。そこで、6型という大型のディスプレイ、さらにはSnapdragon 617というコストパフォーマンスが高くハイエンドのSoCに性能が近いものを選択した。あくまでPCメーカーが販売するスマートフォンであって、PCユーザーの皆様に使って欲しいと考えているからだ」と説明する。つまり、PCユーザーがポケットに入れて使う小さなコンピュータ、そういうコンセプトで設計したため、比較的大きな6型と、Snapdragon 617という比較的高性能なSoCを採用したと考えることができるだろう。
実は、マウスコンピューターは、昨年のMADOSMA Q501の発表時に、Windowsスマートフォンのロードマップを公開しており、その時により大型(5~7型)のディスプレイと小型(4~5型)のディスプレイを計画していることを明らかにしている。今回公開されたMADOSMA Q601は大型のディスプレイの製品となるので、4~5型に関しては別途進んでいる。この点について平井氏は「小型ディスプレイの製品に関しては、小型で高性能化、小型で軽量手軽なものという2つの要望を頂いているが、どちらかを実現しようと計画を進めている」とした。平井氏の発言を簡単に取るのであれば、現在でもコンセプト段階で、すぐに出てくるというより、今回の製品の反響を見てということもあるのではないだろうか。
では、そのロードマップで5~7型となっていたディスプレイがなぜ6型になったのだろうか? 平井氏によれば「6型を採用したのは、ビューアとしてのニーズを重視したから。ビューアである限りは大きな方がいいが、6.5型や7型だと成人男性でも片手で持つことができないと考えて、6型を選択した」と説明する。なお、この6型のディスプレイはフルHD(1,920×1,080ドット)になっており、CorningのGorilla Glass 3のガラスで保護されている。MADOSMA Q501の時は出荷時に液晶保護シートを貼った状態で出荷されたが、Q601でも液晶保護シートを貼って出荷することを計画しているということだった。
海外展開を睨んで海外バンドにも対応、ただし日本では使えないようになっている
平井氏によれば、そうしたユーセージモデルとしてのサイズ決定だけでなく、ワールドワイドで展開することを睨んでもいるという。日本だと比較的小さなディスプレイのスマートフォンが売れているが、米国や中国ではいわゆるファブレットと言われるような大型の製品が受け入れられており、将来的にそうした展開を考えての側面もあるそうだ。
だが、それはマウスコンピューターが、自社のブランドを利用して海外に展開していくという意味ではない。自社ブランドで海外展開する時には、サプライチェーンを構築したり、サポート体制を整えたりという点に膨大なコストがかかってしまい、なかなか現実的ではない。そこで、この製品では実際に製造を担当するODMメーカーが、海外市場で顧客を得ることを前提にして設計を進めていったのだという。「残念ながら日本市場だけだと数が出るかと言えばそうではない。しかし、弊社がワールワイドで展開するのも難しい。そこで、協力工場をハブにして、海外のほかのブランドとシェアする形でビジネスを展開していけないかと考えた」と平井氏は説明する。
要するに、デザインはマウスコンピューター側が持ち込むが、その後はODMメーカーが日本以外のOEMメーカーを探してきてほかのメーカーのブランドを付けて売っていくという形を想定している。ユーザーにしてみれば日本向けのスペックやデザインを入手でき、ODMメーカーはその厳しい日本市場にも耐え得るデザインをほかの市場へ展開できるという仕組みということだ。
このため、MADOSMA Q601は日本と海外の2種類のバンドが掲載されている。これは、ユーザーが日本で使う時には日本のバンドのみが利用でき、海外で使う時には海外のバンドも使えるという意味になる。元々海外のバンドは、前述のODMメーカーがほかの地域に販売する時を睨んだ設定で、日本国内で利用できる場合には利用できないようになっているが、海外では現地のSIMを入れた時には利用できるようになっている。
また、SIMカードスロットは、デュアルSIMとなっており、Nano SIMとMicro SIMを1枚ずつ利用できる(2つのSIMを同時に利用する時にはLTE/3G回線とGSM回線の組み合わせで利用できる、LTE/3G時に2枚のSIMを切り替えて利用することは可能)。このため、スロットのうち1つに日本で使っているSIMをGSMで利用して通話待ち受けで使い、もう1つは海外現地のプリペイドSIMを入れてデータ通信をするという使い方も可能だ。
セルラー回線に関しては「設計段階から日本の3キャリア全てに対応しようと考えて設計した。このため、バンド1/3/8/19/28に対応し、さらにTDD-LTEのバンド41にも対応している」と平井氏は説明した。これにより、NTTドコモ、ソフトバンク、さらにY! mobileのTDD-LTEに関してもカバーできる。
ただし、KDDIの回線に関しては「CDMA2000には対応できていないし、VoLTEには未対応なので、今回は未対応にさせていただいた。もちろんデータだけで良ければ利用することはできるが」(平井氏)とのことで基本的にはサポートされない。
なお、本体の充電端子は、USB Type-Cとなる。平井氏によれば「USB Type-Cにするか、Micro USBにするかは最後まで悩んだ。しかし、十分な電源容量が確保できるという点、方向に悩む必要がない点、さらにはこの時期に投入する製品だということを考慮してUSB Type-Cにした」とその理由を述べた。QuickCharge 2.0に対応しており、ユーザーが別途Quick Charge 2.0対応充電器を用意すれば、急速充電が可能だという(なお、標準添付のACアダプターはQuick Charge 2.0には未対応となる予定)。
価格に関してはコストパフォーマンスを重視するユーザーの期待を裏切らない設定を目指す
最後に、MADOSMA Q601の価格や出荷時期について平井氏に聞いてみたが「現時点では未定。ただ、同レベルの性能を持つ他製品に対抗できる価格でいきたい。弊社はコストパフォーマンスを重視する会社であることはユーザーにもご理解いただけると思うので、そうした期待を裏切らないようにしたい」と具体的な値段に関しては言及しなかったが、そのヒントはくれた。
同じSoCで、同じフルHDの液晶(ただし大きさは5.5型)を搭載するVAIO Phone Bizが5万円台、同じSoCで解像度は720pのNuAns NEOが税別39,800円であることを考えれば、VAIO Phone Bizを下回り、どこまでNuAns NEOに近付けるかが焦点となるだろう。あくまで筆者の個人的な予想(願望)を言わせてもらえば、NuAns NEOに近い価格なら、かなりお買い得度が高い製品となるのではないだろうか。
ちなみに、マウスコンピューターは昨年の終わりに、Windows Phone 8.1で出荷したMADOSMA Q501の、Windows 10 MobileへのOTAによるアップグレードの予定があることを明らかにしている。だが、その予定は何度か延期されており、現在に至っても開始されていない。この点に関して平井氏は「この件に関してはお客様にお詫びしたい。当初弊社がMicrosoftから聞かされていた予定では年内にOTAで配信される予定だったのだが、その後WDRT(Windows Device Recovery Tool)への対応が必須になったりと条件が追加されたりしたため、ひたすら待つしかないという状況になってしまった。現在ではWDRTへの対応も済み、メーカーのテスト環境ではOTAによりアップグレードすることが確認できるまでになっており、早期に一般のお客様の端末に対しても配信されるようにMicrosoftに働きかけをしている」とのこと、後少しという段階に来ているようだ。
ただ、既にマウスコンピューターのWebサイトからOSイメージをダウンロードしてアップグレードする方法も公開されており、どうしてもOTAより前にアップグレードしたいユーザーはそちらを試すことができる。Windows 10 Mobileにしたいユーザーは既にその方法でアップグレードを行なっているだろう。このため、OTAが遅れた影響は限定だと思うが、それでもOTAを待っているユーザーには悪くないニュースだ。