携帯電話はいうまでもなくモバイルデバイスだ。誰もが持っており、いつでも、どこにでも持ち歩く。スマートフォンの登場による高機能化に伴い、それ単体でできることも増えてきた。若い世代では、Web閲覧、メール、買い物、動画視聴、SNSなどは言うに及ばず、大学の論文までスマートフォンで書くという人もいるほどだ。
だが、スマートフォンも万能ではない。むしろ、使いこなせば使いこなすほど、それだけでは物足りない点があることに気づくだろう。すさまじい勢いで広がりを見せるSNSおよびクラウドの時代にあっては、TPOにあわせたマルチデバイスの使い分けや組み合わせが、スマートなデジタルライフを過ごす上での鍵となる。後に詳しく説明するが、筆者はスマートフォンとUltrabookの組み合わせが1つの理想形だと考える。
なお、本稿の内容は、やや中級者よりとなっている。上級者にとっては、何を今更という点も多々あるが、普段スマートフォン中心、あるいはそれだけ使っているようなユーザーに読んで頂きたい。
●場所に応じた使い分けでより効率的にまず、最初に断わっておくが、本稿で言いたいのは、スマートフォンが中途半端なデバイスだということではない。スマートフォンは電話だが、中身は立派なコンピュータ。星の数ほどあるアプリを使えば、どんな作業もできるし、性能についてもちょっと前のPCに比肩するほどだ。
とはいえ、これも大事なことなのだが、スマートフォンで何でもできるからと言って、PCが不要になるわけではない。状況によって、PCと使い分ける、あるいは組み合わせることで、スマートフォンの活用の幅はぐっと広がるということをお伝えしたい。以下に、例を挙げて説明しよう。
クラウドが当たり前になってきたことで、同じことをするにあたっても、場所や状況に応じて最適なデバイスの使い分けができるようになった。というのも、データを保存するのが端末のローカルではなく、クラウドへと移行したからだ。Dropboxしかり、Evernoteしかり、SkyDriveしかり、Googleドライブしかりだ。ファイルだけでなく、カレンダーやメールなどのデータもクラウドに保管されている。
つまり、ユーザーはどちらを使ってもいいのだが、スマートフォンとPCとでは、画面を含んだサイズ、そしてインターフェイスの面で大きな違いがある。これは、どちらが優れているというのではなく、どちらにもそれぞれの長所が存在するということだ。
例えば、カレンダーやメールのチェックや入力をするのに、電車の中でノートPCを取り出すだろうか? おそらく多くの人は、座席に座っていてもためらってしまうだろうし、混雑時では事実上不可能だ。しかし、スマートフォンなら手軽に取り出せるし、立ったままでも作業できる。
一方、スマートフォンユーザーのアンケートなどによると、文字入力で苦労するという意見が目立つ。短い文章ならスマートフォンでも十分だが、長文メールならハードウェアキーボードの方が快適かつ早い。机と椅子がある場所なら、キーボードのあるPCを使った方が、効率的に作業できる。
そして、先に述べたとおり、スマートフォンとPC、いつどちらを使っても、常に最新の同じデータを参照できる。そういう時代になったのだ。
スマートフォンなら移動中でもメールのチェックだけでなく返信も楽々 | ただし、机がある場所ならノートPCの方が遙かに効率的に作業できる |
次に動画。動画というと多くの人がYouTubeやニコニコ動画などのサービスを思い浮かべるだろう。これらのサービスは、コンテンツもカジュアルなものが多く、暇つぶしにスマートフォンで見るにはうってつけだ。先の例同様、スマートフォンなら電車の中でも視聴できるし、ベッドで寝転びながら観るのにも好適だ。
そして、最近ではHuluに代表される、映画やドラマなどのオンデマンドサービスが広がりを見せつつある。さらに、TVやレコーダーで、ライブや録画済みの番組をストリーミング配信する機能も一般化してきている。これらも多くはスマートフォンに対応している。だが、こういったコンテンツは、できれば腰を据えてじっくり視聴したいものが多いし、家族や友人と一緒に観たいという場合も少なくない。
液晶TVにこそ適わないが、13型程度の液晶を持つPCであれば没入感もあり、かつ卓上に据え置いて、ゆったり視聴できる。対応メーカーが限られるが、今注目の「nasne」は、VAIOに動画を転送して、BDに保存するといった連携もできる。
電子書籍もスマートフォンとPCとを使い分けることで、より効果的に楽しめるサービスだ。マンガの場合、シリーズで何十冊にもなるものがあるので、書籍で買うと場所を取ってしまう。しかし、スマートフォンなら、単行本1冊より軽い上、1台の中に全てを保存できるし、オンラインでいつでも好きなときに続きを買うことができる。
そして、多くの電子書籍サービスは、買った本をスマートフォンでもPCでも読むことができる。しおり機能のあるサービスなら、移動中にスマートフォンで本を読んでいたものを、帰宅後に何の操作をすることもなく、PCでその続きを読むことができる。また、PCなら、その大画面/高解像度を生かし、より大きな文字で、かつ見開きで読むことができる。
nasne | VAIOユーザーなら、nasneで録画した番組などを大きな画面で観られる(著作権保護のため、以下の画面はぼかしてあります) |
電子書籍版のマンガは、何冊あってもスマートフォン1台に保存できる | PCがあれば、スマートフォンで読んだ続きを自動的に開いたり、大画面/高解像度を生かして見開きで読むこともできる |
●活用の幅が広がる組み合わせの妙
ここから組み合わせについて、説明しよう。例えば、写真をソーシャルサービスにアップロードする場合。スマートフォン1台あれば、撮影して、簡単な編集を加え、その場でリアルタイムにアップロードできる。TwitterやFacebookなどで、誰もがこういった使い方をしているだろう。スマートフォン1台で完結する。
だが、スマートフォンでなく、デジタルカメラで写真を撮りたい場合はどうか。近年のセンサーやレンズの改良により、スマートフォンでも高画質な写真が撮れるようになった。とはいえ、最近一気に低価格化が進んだ一眼レフには敵わないし、スマートフォンでは(ごく一部の機種を除き)望遠ズームはできないので、こだわりの記念の1枚を撮るならデジカメを使いたい。
最近は、Wi-Fi搭載のデジカメやSDカードもある。そのため、デジカメで撮った写真も、その場でスマートフォンに転送し、アップロードできる。筆者はWi-Fi対応の「サイバーショットDSC-HX30V」を使っている。このカメラは20倍ズームが可能で、表面の模様がはっきり見えるくらい大きく月を撮影できるので、ある満月の夜に写真を撮り、その場でスマートフォンに転送し、アップロードした。
だが、何十枚、何百枚と転送したい場合は、PCの出番となる。というのも、デジカメから多量の写真をスマートフォンに転送するのは結構な時間がかかるからだ。PCがあればフルのSDカードが読めるので、大量の高画質写真でも即座に転送できる。あるいはPCとデジカメをUSBでつないでもいい。また、PCがあれば、一眼レフで撮影したRAW写真も現像できる。
この例も一種の使い分けなのだが、PCだけだとネットワーク環境がない場所ではアップロードができない。というわけで、スマートフォンを組み合わせる。
現在、NTTドコモのXi対応機や、auのWiMAX対応機なら、追加の料金なしでテザリングを行なうことができる。ソフトバンクモバイルも、2013年からiPhone 5でLTEテザリングを開始することを発表した。いずれも高速な回線なので、多数の写真でも短時間にアップロードできる。
加えて、auスマートフォンユーザーなら、Ultrabookからau Wi-Fi SPOTが無料で利用できる。PCがスリープ中であっても、定期的にアクセスポイントに接続するので、PCを鞄に放り込んだままでも、au Wi-Fi SPOTにいれば、メールなどの状態を自動更新できるといったメリットもある。ワイヤレスWAN機能を持つスマートフォンでは当たり前の機能ではあるが、該当ユーザーなら利用しない手はない。
その逆もある。スマートフォンで何十枚と撮影した高画素写真をアップロードしたいが、スマートフォンの3Gでいまいち速度が出ない場所にいたり、通信容量制限が気になる場合などだ。WiMAX機能があるノートPCを使えば、スマートフォンからUSBでPCに写真をコピーし、最大40MbpsのWiMAXネットワークを利用して、さくっとアップロードという連携もできる。
音楽の場合はどうだろうか。ここ数年、iPhone出荷台数の伸びはめざましいものがあるが、iPodの出荷台数は減少傾向にある。この数字だけで結論づけるのはやや乱暴だが、専用デバイスよりもスマートフォンで音楽を楽しむスタイルは確実に広まっている。楽曲の管理の面でも、持ち運びの面でも、1台にまとめた方が楽だからだ。
だが、音楽CDを高音質でリッピングしたいのであれば、光学ドライブを内蔵、あるいは外付けできるのPCが必須となる。リッピングしたら、同期ソフトを使って、スマートフォンに転送しよう。ソフトによっては、ロスレスでリッピングした曲を、自動的にPC側で圧縮してWi-Fiで転送してくれるものもある。
もちろん、PC単体でも音楽は楽しめる。むしろ個人的には音楽鑑賞ならPCをお勧めしたい。というのも、ASUSTeKならBang & Olufsen、東芝ならharman/kardon、HPならBeats Audioなどオーディオメーカーとコラボレーションしたものも多数あり、高音質で聴くことができるからだ。
Chromeのクラウド同期も便利な機能だ。PCとAndroid端末にChromeを入れておくと、PCで開いていたタブをいつでもスマートフォンで見ることができる。自宅や会社でPCを使って、レストランや取引先の場所を検索し、後はスマートフォンのGoogleマップでそこへ赴く場面を想像しよう。従来なら、そのリンクをメールなりの手段でコピー&ペーストし、1度自分のスマートフォン宛に送る必要があった。しかし、Android版Chromeは、PCで開いているタブを一覧表示できるので、転送の手間も時間も省ける。もちろん、お気に入りも自動的に同期されるので、そちらを開くこともできる。
こんな状況もある。クラウドによって利便性は確かに向上する。だが、電波が届かない場所はまだまだあるし、回線がいかに高速化されたとはいえ、高精細な写真や、HD動画などはサイズが大きいので、できたらローカルにデータがあった方がいいのも事実。昔からの方法だが、ストレージ容量に余裕のあるPCに全てのデータを蓄えておき、持ち出したいデータだけスマートフォンに転送しておくと何かと便利だ。
また、逆に写真やアドレス帳などスマートフォンにしかないデータもあるだろう。多くのスマートフォンには、PCとUSBでつないで、バックアップするアプリがあるので、それを使って、大切なデータは定期的にバックアップしたい。
さらに、最近のノートPCはスリープ中でもUSBに給電できるので、スマートフォンの充電装置としても使えることは意外と知られていない。ノートPCのバッテリは、スマートフォン4台分くらいあるので、スマートフォンに給電しても、ノートPC側は自分のバッテリを十分残すことができる。スマートフォンの最大の懸念点であるバッテリ問題をPCがこんな風にも解決してくれる。
“クラウド推し”の時代とはいえ、まだまだPCとスマートフォンを線でつないで得られるメリットも少なくないのだ。
●ノートPCは重くて邪魔は過去の考えここまで読んで、お気づきの方もいるかもしれないが、使い分けはともかく、組み合わせをするのは、スマートフォンとPCとを“両方同時に”持ち歩くことが前提となっている。家や会社にPCを置きっ放しにするのではなく、PCも持って出歩くのだ。
でも、そういう考えの人はまだ少数派だろう。今、スマートフォンしか持ち歩いてないユーザーが、PCを持ち歩かないのには、いくつかの理由があると思うが、PCは大きくて重いという懸念がその1つではないだろうか。だが、それが理由であれば、その問題は解決済みと言っていい。というのも、従来のノートPCより、圧倒的に薄くて軽いUltrabookが各社から多数登場しているからだ。
Ultrabookの厚さは21mm以下となっており、中には10mm近い極薄機もある。重量については900gを切る製品も登場している。これなら、女性の鞄にも入るし、毎日は無理でも、出張や旅行などの際なら持ち出しても負担は大きくない。スマートフォンとタブレットの組み合わせを考えるユーザーもいると思うが、実はタブレットもモバイルキーボードまで入れると1kg近い重量になる。であれば、最初から一体化しているUltrabookの方が良い。
Ultrabookなら女性のバッグにも問題なく入る | ||
軽いのでいつも持ち歩いても苦にならない | 富士通のUltrabook「LIFEBOOK UH75/H」を横から見たところ。最厚部でも15.6mmしかない | 従来のモバイルノートで薄型軽量の最先端を走っていたソニーの「VAIO Z VPCZ1」(2010年発売)と比べても、厚さは半分になっているのが分かる |
軽いからといって性能がないがしろにされているわけではない。むしろ、Ultrabookは通常のノートPCよりも高性能だ。プロセッサはIvy Bridgeこと第3世代Coreプロセッサ・ファミリーを搭載し、日常のブラウジングやHD動画再生はもとより、オフィス文書の作成や、カジュアル3Dゲームも難なくこなせる。
また、応答速度が速いのもUltrabookの特徴。高速なSSDを積んだり、あるいはSSDをキャッシュとして利用することで、OSやアプリの起動は、HDDだけの従来のノートよりも数倍速い。実は、今時のスマートフォンよりも、Ultrabookの方が起動時間は短かったりする。
スリープからの復帰も瞬時なので、それこそスマートフォン感覚で使いたいときにすぐ利用できる。ちょっとした空き時間にカフェでメールを打ちたいけど、起動まで何分も待たされるなんてことはない。ベンチマークには現われにくいが、反応が悪いとどんどんフラストレーションがたまり、次第に使うのが億劫になってしまうので、この応答性の良さは実はかなり重要なのだ。
現行のUltrabookは第3世代Coreプロセッサを搭載 | 小容量SSDと大容量HDDを組み合わせ、価格を抑えながら大容量と高速性を両立したスマート・レスポンス・テクノロジーを採用するモデルも多い | ラピッド・スタート・テクノロジーにより、休止状態からも高速復帰でストレスなく使える |
また、バッテリについても、Ultrabookは長時間駆動を前提に開発されているので、充電なしに1日使い続けられる機種もある。前述の通り、スマートフォンのバッテリが切れかかったらUltrabookから充電させることもできる。
末尾に、特徴的なUltrabookをいくつか紹介するので、購入の参考にしていただければ幸いだ。
最後にもう一度まとめると、SNS/クラウド時代は、ユーザーが使うデバイス、プラットフォームを自由に選べる時代だ。スマートフォンでも、PCでも、Appleでも、Googleでも、Microsoftでも、自分にフィットするデバイスを選べば良い。
スマートフォンはPCに匹敵するような能力を備えており、そのコンパクトさゆえ、移動中や、だらっとした状態で、ネットにアクセスしたり、エンターテイメントを楽しむには最適なデバイスだ。
だが、腰を据えられる場所なら、PCを使った方がより効率的に作業ができるし、エンターテイメントの没入度も高い。特にOffice文書作成や、動画/写真編集といったいわゆる生産系のタスクを行なうとなると、PCの持つ画面の大きさ、キーボードなどのインターフェイスや、マルチタスク性といったPC OSの特徴も生きてくる。
そして、組み合わせによって、単体ではできないことができるようになる。スマートフォンとUltrabookが、お互いを補完し合い、かつ活用の幅を広げるパートナーであることを、覚えておいて損はないだろう。
富士通「LIFEBOOK UH75/H」。HDD搭載ノートPCとして世界最薄の9~15.6mmという薄さを実現 | ASUSTeK「UX21A」。11.6型でフルHD表示が可能という驚異的なスペック | 日本HP「ENVY SPECTRE XT 13-2000」。4基のBeats Audioスピーカー搭載で抜群の音質 |
NEC「LaVie Z」。13.3型で世界最軽量となる重量875gで注目を集めている | マウスコンピューター「LuvBook X」。カーボン素材が美しい重量985gのコンパクトマシン | ドスパラ「Note Altair F-11」。Core i5を搭載しながら、57,980円という低価格が魅力 |
(2012年 10月 22日)
[Reported by 但見 浩]