山田祥平のRe:config.sys

Type-Cポリスの憂鬱

 “100均”でも入手できるようになったUSB Type-Cケーブル。だが、その混沌とした状況にもなんとなく夜明けが見えてきたようにも感じる。少なくともスマートフォン普及期にMicro USBケーブルで起こっていた混乱よりははるかに整理されている。

 賢い消費者として、安心安全にこの新しい規格のメリットを享受するためにも、知っておきたいいくつかの要素をまとめておきたい。

重要なコントローラの役割

 USBのコントローラでは絶大なシェアを誇るサイプレスセミコンダクタが、新コントローラ「CCG3PA」のリリースにともなって日本でも説明会を開催、USB Type-Cを取り巻く状況についても紹介した。同社は初めてUSB Power Delivery(USB PD)対応コントローラをリリースしたベンダーでもあり、とくに、USB Type-Cの市場では35%ものシェアを持っている。

 USBのコントローラがエンドユーザーに意識されることはほぼないに等しいが、誰もがいつもお世話になっているチップでもある。とくに、USB Type-Cを何らかのかたちで利用しているユーザーなら、サイプレスの製品を知らないで使っている可能性は高い。

 この連載では、機会を見てはType-C周辺の話題を取り上げてきたが、なかでも100均で入手できるケーブルを積極的に取り上げてきた。貧乏くさいといわれようが、もし、まともに機能するのであれば安いにこしたことはない。

 ただ、電気製品は安かろう悪かろうにつながりやすいし、万が一の事故も心配だ。最悪の場合火災につながることもある。それでも出先の100均で気軽に手に入るというのはとても心強い。

 今のところ、片側Type-Aオス、もう片側がType-Cオスのケーブルについては、56KΩの抵抗も実装されているようで、その場合、正しいUSB Type-Cのコントローラは、5V/1.5Aを超えて充電することはない。多くのケーブルのパッケージには5V/3Aに耐えると記載されていることから、これは信じていいだろう。いくつかのベンダーには問い合わせもしてみた。

 一方、まだ、100均ショップのセリアの店頭でしか発見していないのだが、丸七株式会社の両端Type-Cケーブルの存在が気になる。パッケージは5V/3Aまで耐えると記載され、PDには非対応と明記されている。

 このPD非対応がくせものだ。100均にかぎらず、Amazonで物色してみても、1,000円近い価格が設定された製品でさえPD非対応とされているものが目につく。

そもそもPD非対応とはどういうことなのか

 PDはPower Deliveryの頭文字で、USBの新しい電力供給の規格だ。最大20V/5A(100W)の電力を供給できるため、今後の電力源として注目されている。

 PDを正しく使うには、充電側、ケーブル、デバイスの3者が正しくPDに対応している必要がある。とくにケーブルは、両端がUSB Type-Cプラグの場合、「eMarker」と呼ばれるICチップを内蔵し、自分自身の電気的特性などをそこに記録しておく必要がある。もちろんそれにはコストがかかるため、たぶん100均ケーブルにそれを求めるのは無理だ。

 ただし、ここには抜け道がある。「USB Type-C Cable and Connector SpecificationのRev 1.2」における3.1.2では、3Aを超えないUSB Type-C スタンダードケーブルのUSB 2.0ケーブルを3Aで使う場合、E-markerはオプションで、それでもUSB PDはサポートすると記載されているからだ。

 つまり、eMarkerを実装しない100均のType-CケーブルでもPD対応を名乗っていい。

 念のために正しいPD充電器と、スマートフォンやPCのようなPDデバイスを、このeMarkerを持たないType-Cケーブルで接続したときに起こることを順に挙げてみよう。

  • 1. 充電器を電源コンセントに装着する。
  • 2. ケーブルの片側を充電器に、もう片側をデバイスに接続する。
  • 3. 充電器は通電されると自分自身に接続されたケーブルの素性を調べる。具体的にはeMarkerの内容を調べる。
  • 4. ケーブルはeMarkerが実装されていないので返事をしない。ということは3Aを超えてはならないと充電器は判断する。
  • 5. PDの手順にしたがって充電器は自分自身の能力をデバイスにレポートする。このとき3Aを超えるパワープロファイル(充電器側の実装。DFPが持っているSource Capability)をレポートしてはならない。
  • 6. デバイスは充電器からレポートをもらい、そのなかから必要なものを選んで要求する。
  • 7. PDのパワールールにしたがって充電が進行する。

 充電器が60Wで、デバイスが要求したときには、最大20V/3Aで充電が行なわれるケースがある。だから本当は両端Type-Cのケーブルは20V/3Aをサポートする必要がある。

 ただ、50cm程度のケーブルで5V/3Aに耐えられるものなら、抵抗値はかぎりなくゼロに近く、20V/3Aが流れても大きな問題につながることはなさそうだ。こうしたことを考えると、PD非対応=eMarker未実装の意味で使われていると考えるのが妥当だ。

 ただ、パワープロファイルを伝えるのは充電器の仕事なので、eMarkerの実装されていないケーブルが接続されていることを検知した充電器が、USB Type-C Current、つまりデフォルトバスパワーの5V/3Aをレポートするものもある。複雑な実装を回避するためと、安全側にふった仕様を採用しているケースだ。これはどちらの実装も間違ってはいないとサイプレスでは判断しているという。

憂鬱と期待

 サイプレスセミコンダクタの山田祥之氏(マイクロコントローラー コネクティビティ ディビジョンUSB製品担当シニア プロダクト マーケティング プリンシパル)は、現在の状況について次のように語っている。

『100均ぶら下がりの5V/3Aの表示があるケーブルは、我々消費者が「安さ」を追求するかぎり市場から淘汰されることはないでしょう。ですから、パワーのプロバイダー、コンシューマとなるシステムは、USB PD、Type-Cスペックよりもさらに安全を考慮した設計がマストです。

 しかし、これらはコスト、面積に少なからず影響を与えます。我々LSIを供給するデバイスベンダーとしてできることは、コンプライアンステストに100%パスするデバイスを開発することはもちろん、プラグフェスタに毎回参加してこうした安全をデバイスレベルでできるかぎり担保することだと考えます。またCCG3PAのように、VBUSショート保護回路のような機能をインテグレートすることで貢献したいと考えています。

 一方で、我々消費者もこれまでの発煙、発火、充電速度が遅いなどの悪い経験から、劣悪なケーブルを使わないように……と少しだけ利口になることも大事かなと思います。スペックではE-markerを不要とする場合もありますが、理想的にはすべてのType-CケーブルにはE-markerを実装すべきです。それによって、より安全/確実に充電、通信が可能になり、USB Type-C、USB PDの市場を安定して拡大することにつながると考えます』。

 まさに今のUSB Type-Cの混沌とした状況を物語るコメントだ。