イベントレポート
Apple開発者会議「WWDC 2015」が8日に開幕
~3つのOSの更新が予想されるも、ロビーフロアにバナーはなし
(2015/6/8 13:02)
米Appleが開催するWWDC(Worldwide Developers Conference:世界開発者会議)が、2015年も目前に迫った。米サンフランシスコ市内中心部にあるMoscone Center Westを会場にして、6月8日から12日まで5日間に渡って開催される。WWDCの基調講演は、現地時間の8日午前10時(日本時間9日午前2時)から約2時間に渡って行なわれる。
昨年(2014年)に引き続いて、基調講演の模様はストリーミングでも配信される。既にApple TVにはバナーが配置された。ストリーミングは誰でも見れるが、対応する機器は前出のApple TV(第2、第3世代)をはじめとして、iOS 6.0以降を搭載するiOSデバイス、OS X 10.8.5 Mountain Lion以降を搭載するMac製品で、Apple TV以外はSafariを使って視聴する。
次期OSのプレビュー以外に想定できるトピックスは?
ストリーミング中継される基調講演は、世界中の開発者にこの先1年の同社の方向性を明らかにすることが目的だが、熱心なAppleのファンに向けてのマーケティングといった側面も捨てきれない。WWDCはその名称の通り、本来は開発者会議の場だが、ティム・クックCEOをはじめとする同社のエグゼクティブが次々と登壇して華々しく近未来の技術を披露するのだから、同社の新製品発表の場と誤解する向きが一向に減らないのも致し方ないだろう。
毎年繰り返して書いているが、WWDCは必ずしもエンドユーザーに向けた製品発表と直接結び付いているわけではないので、当日に手に入る新製品が発表されるとは限らない。例年に比べると、ただ騒ぎたいだけのブログメディアなども燃料が減らされていることから比較的おとなしいようだ。例えばMacの製品ラインナップを見ても、3月には新しいMacBookを発表し、MacBook Air、13型のMacBook Proを更新した。5月には5K iMacと15型のMacBook Proを更新したばかりである。
先週台北で開催されたCOMPUTEXでは基幹部品であるIntel製のプロセッサもハイパフォーマンス向けモバイルのBroadwell-H、デスクトップ向けのBroadwell-Kが発表され、第5世代Core製品がようやく出揃ったわけだが、そのラインを搭載する肝心のMacは直前の5月に更新されたばかりと、結果的にはややちぐはぐな状況になっている。
本誌の報道にもあるようにCOMPUTEXで行なわれた会見や展示会場では第6世代Core製品「Skylake」の搭載機やマザーボードがチラ見せされているなど、Skylakeの年内登場の可能性は高い。敢えてCOMPUTEXの直前に更新した15型MacBook Proや5K iMacは、Broadwell世代をスキップするというAppleからのメッセージと受け取ることもできる。
他に現行のラインナップでBroadwell化されていないのは、非RetinaのiMacとMac miniがある。ただ、やはりCOMPUTEXで行なわれたIntelの発表の中には次世代Thunderboltに関するものがあった。この「Thunderbolt 3」は同社の説明によると、2015年終盤から2016年にかけて対応製品が登場するとされており、WWDCのタイミングで何か動きがあるとは考えにくい状況だ。
iPhoneとiPadは、秋に新OSを搭載した新製品の発表が常態化しているし、Apple Watchも販路をイタリア、メキシコ、シンガポール、韓国、スペイン、スイスそして台湾へと拡大することを発表したばかりで、新モデルという可能性は極めて低いと言える。ハードウェア製品の更新という視点から、唯一残る可能性はApple TVぐらいだろう。
サービス面ではちょうど1年前に買収したBeats Audioの統合が期待される。買収の主目的はヘッドフォンなどの音響ハードウェアではなく、音楽のストリーミング配信サービス「Beats Music」であることが推測されており、現在欧米で主流の定額配信サービスにAppleのブランドで参入することが囁かれている。
ちなみに約2カ月先の2015年8月4日は、日本でiTunes Store(※当時はiTunes Music Store)がサービスを始めて10周年にあたる。欧米では定額制に押される形で配信サービスは低調となっていることもあり、楽曲の配信においても何らかのテコ入れを期待したいところだが、残念ながらハイレゾは日本ほどの注目を欧米では得られていないのが現状と言える。
昨年iOS 8とともに発表されたHome Kitは、先日から対応する初期製品の出荷が始まっている。この出荷に合わせてAppleの公式資料も公開されたが、HomeKitデバイスのハブとしてApple TVが利用されることも話題の1つとなっている。いわゆるSmartHomeへの取り組みは各社がさまざまな手段で目指している。例えばGoogleの場合は、傘下のNestによるサーモスタット「Nest」にハブとしての役割を与えようとしている。Apple TVは十分に普及しているとは決して言えない状況だが、一方のNestもサーモスタットという製品の性格上、家庭の空調がセントラルヒーティングではない日本市場では「何それ?」ということになりいずれのグローバル化も道はかなり険しい。
Apple WatchのAPI公開で進むネイティブアプリの開発
こうした背景から、基調講演の主役が昨年に続いて次期OSになることは間違いない。ここ数年の例から順当に行けば、OS Xは10.11へ、iOSは9へとそれぞれ更新されることになる。
昨年の会場では1階ロビーに分かりやすいバナーがあったのだが、2015年はロビーの配置を10年以上振りに一新した。大型のテーマバナーを正面に配置することは変わらないが、バッジピックアップのエリアを従来の対面となるエスカレーター側に配置した。
また、これまでは隠してあるにせよ見せているにせよ、何らかのバナーが天井から吊り下げられていたのだが、今回はそうした吊り下げるタイプのバナーは1階には全くなくなっている。言うなれば、ノーヒントの状態だ。
Apple Watchの場合は、現時点で開発ツールのWatch Kitが提供され、Watch Kitを経由したアプリケーションが提供されているに留まっているが、AppleはApple Watchの発表時点で2015年後半のネイティブな開発環境の提供をコメントしており、2015年のWWDCではApple Watchの各種APIなどの公開に踏み切り、ネイティブなアプリケーション開発への道を開くことが予想される。
いずれにせよ今回のWWDCで、これらOSのβバージョンが披露され、開発者を対象にしてプレビュー版の提供が始まるのは確実で、WWDCの開催を発表したニュースリリースの中でも、ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィリップ・シラー氏が「App Storeは、本当に素晴らしいアプリケーションのエコシステムを作り出しました。お客様の生活を永久に変えるとともに、世界中で何100万人もの仕事を生み出しています。WWDCでは、世界中で開発者と共有するための、iOSとOS X用の驚くべき新しい技術を用意しており、彼らが作る次世代のアプリケーションを見るのが待ちきれません」とコメントを寄せている。
例年のスケジュール通りであれば、9月~10月頃を目処に開発期間を終えて、エンドユーザーへの提供が行なわれると思われる。
会場の様子からは何が登場するか一切予測できないWWDC 2015
WWDCへの参加チケットの購入手段が抽選方式となって今年で2年目を迎えた。参加希望者が殺到するタイプのカンファレンスでは有効な方法らしく、Googleもこの方式を2014年から採用している。
WWDCの参加費用は1,599ドル。開発者会議の期間として5日間は長い方で、2015年を例に比較すると米Microsoftが主催するBuildが3日間、Googleが主催するGoogle I/Oが2日間となっている。ちなみにBuildの参加費用は2,095ドルで、Google I/Oは900ドル。1日当たりの単価を計算すると、Buildが最も高い700ドル弱で、Googleの450ドル、Appleの320ドルと続く。ただ、BuildやGoogle I/Oの場合は「教材」として、なんらかのデバイスが参加者に配られるケースも多く、単純比較は難しい。なお、AppleのWWDCでデバイスなどの配布物があることはほとんどない。AppleがWWDCの参加者に対して何かを配ったのは、筆者の記憶にある限りでは2003年の「iSightカメラ」が最後と思われる。
WWDCのセッションは、Appleと開発者契約を結んだ契約者に限定して映像公開される。公式アプリケーションは2013年からApp Storeを通じて一般にも配布されている。契約者のアカウントでログインしなければ参照できない映像や情報もあるが、雰囲気の一端は掴めるだろう。この一般向けの提供は3年目を迎えた。2014年と同様に各セッションの内容の多くは現時点で非公開で、ありとあらゆる表現で「まだ内緒」をアピールするものになっている。
2015年版に更新されたiOS用のWWDCアプリ。App StoreでWWDCを検索するとダウンロードできる。前日時点ではまだ公開されていないセッションが多い。一部は開発者登録が必要なコンテンツもある。会場マップもその1つだが、これはApp Storeのサンプル画像にも含まれている
開幕を控えて、会場となるMoscone Center Westでは着々と準備が進んでいる。入場パスの配布は日曜日から始まっており、参加チケットの購入時に事前登録を終えている参加者が、断続的にパスの受け取りに訪れていた。パスポートなどの身分証明書の提示で、入場パスとWWDC限定グッズのジャケットなどを受け取ることができる。現時点で入場可能な1階のフロアには、特に黒い幕で覆い隠されたバナーは見当たらない。例年2階以上のフロアにも何らかのバナーは用意されているのだが、日曜日時点ではまだ立ち入ることができない。
PC Watchでは基調講演のレポートを中心に、関連のニュースを随時お届けする予定である。