【MemCon Tokyo 2010レポート】【NANDフラッシュ編】
NANDフラッシュメモリの使いにくさを解消する

講演会場のスクリーン

6月25日 開催
会場:東京コンファレンスセンター・品川



2010年第1四半期(2010年1月~3月)におけるNANDフラッシュメモリのベンダー(ブランド)別売上高ランキング

 半導体メモリの技術と市場を展望する専門講演会「MemCon Tokyo 2010」から、第3回目のレポートである今回はNANDフラッシュメモリに関する講演の概要をお届けする。講演社はマイクロンジャパンと日本サムスンである(講演順)。

 講演内容をご紹介する前に、NANDフラッシュメモリ市場の状況に簡単に触れておこう。市場調査会社のDRAMeXchangeが2010年5月に発表した資料によると、2010年第1四半期(2010年1月~3月)のNANDフラッシュメモリ市場でトップベンダーとなったのは韓国Samsung Electronicsである。市場占有率(シェア)は39.2%。2位は東芝でシェアは34.4%である。すなわちSamsungと東芝の2社で市場の7割強を押さえている。ここ最近は、Samsungと東芝の2強が市場の大半を支配しているというのがNANDフラッシュメモリ市場の構図である。

 マイクロンジャパンの親会社であるMicron TechnologyはNANDフラッシュメモリ市場で3位につける。しかしシェアは2010年第1四半期で9.1%と、2強には遠く及ばない。ただし製造合弁会社IMFTを設立したパートナーであるIntelと、このほど買収したNumonyxのシェアを加えると様子は少し違ってくる。Intelのシェアは6.4%、Numonyxのシェアは3.0%なので、3社を合計すると18.5%になる。

●マイクロン:製造技術の微細化を徹底的に追求

 それでは講演内容の紹介に移ろう。NANDフラッシュメモリの講演セッションではまず、マイクロンジャパンでモバイルマーケティングのシニアマネージャーをつとめる服部昇氏が、「NANDフラッシュの展望」と題して講演した。

 服部氏は始めに、NANDフラッシュメモリの応用分野を簡単に説明した。応用分野をフラッシュメモリカードおよびUSBドライブ、コンシューマ、モバイル、そのほか(コンピュータ、ネットワーク、自動車など)の4つの分野に分け、応用分野による要求仕様の違いを述べた。大まかに分けると、フラッシュメモリカードおよびUSBドライブの分野はひたすらコストの低減を要求しており、コンシューマほかの分野ではNANDフラッシュメモリに使いやすさを要求しているという。

 2010年の現在、NANDフラッシュメモリ市場で主流の記憶容量は128Gbit品である。記憶容量32Gbitのシリコンダイを4枚積層して1個のパッケージに収納することで128Gbit品を実現している。すなわちシリコンダイでは32Gbit品が主流である。これが2012年にはシリコンダイの主流が64Gbit品、2014年にはシリコンダイの主流が128Gbit品へと移り変わっていくとの見通しを示していた。

マイクロンジャパンでモバイルマーケティングのシニアマネージャーをつとめる服部昇氏NANDフラッシュメモリの応用分野と要求仕様NANDフラッシュメモリ(シリコンダイ)の記憶容量別出荷数量比率

 ここで服部氏はMicronのNANDフラッシュメモリ事業戦略に話題を切り換えた。MicronがNANDフラッシュメモリに参入したのは2005年で、90nmのCMOSプロセスで製造を始めた。プロセス技術で見ると、最先端プロセスでNANDフラッシュメモリを製造している企業に比べて1年半ほど遅れていたという。

 製造プロセスでトップ企業に追い付くため、MicronはNANDフラッシュ製造プロセスの世代を2世代ずつ微細化することにした。90nm世代の次は80nm世代を飛ばして70nm世代(72nmプロセス)へと移行した。これで微細化でトップを走る企業からの遅れは1年ほどに縮まった。次に60nm世代を飛ばして50nm世代(54nmプロセス)へと移行した。これでトップ企業との差はさらに縮まり、6カ月になった。そして今度は40nm世代を省略して30nm世代(34nmプロセス)へと微細化した。これで微細化でトップを走るようになり、30nm世代では他社に9カ月ほど先行できた。

 そして20nm世代でも他社に先行した。2010年2月に25nmプロセスのNANDフラッシュメモリを開発し、この第2四半期(2010年4~6月)に量産を始めた。MLC(2bit/セル)タイプの64Gbitチップである。シリコンダイの面積は167平方mm。

 このように製造プロセスの微細化を積極的に進めていることから、3bit/セルといった1個のメモリセルにさらに多くのデータを記憶させる技術の採用については消極的な姿勢を見せていた。30nm世代で3bit/セル(TLC)技術を採用した32Gbit品のシリコンダイ面積は110~120平方mmであるのに対し、25nmプロセスを使えばMLCでシリコンダイ面積が約90平方mmの32Gbit品を製造できるとする。TLCに比べるとMLCはアクセス時間の短さや書き換え可能回数の多さ、コントローラ回路の簡素さなどで優れており、現時点ではTLCを採用する理由に乏しい。TLC技術にメリットを見出せるのは、微細化が止まった後の時点になると結論付けていた。

NANDフラッシュメモリ製造技術の微細化推移。青丸がMicronとIntelの製造合弁会社IMFT25nmプロセスで製造した64Gbit MLC NANDフラッシュメモリのシリコンダイ。Intelの発表資料から抜粋した

●マイクロン:誤り訂正機能が複雑化

 それからNANDフラッシュメモリの高速化に論点を移した。既存のNANDフラッシュメモリは、メモリセルアレイを読み書きする速度と入出力インターフェイスの速度が整合していない。例えばメモリセルアレイからデータを読み出す速度は非常に高く、8KBのページバッファを備える場合で330MB/secに達する。ところが入出力インターフェイスの動作周波数は40MHzしかない。×8bit構成のNANDフラッシュメモリだと、データを外部に出力する速度は1桁低い、40MB/secにとどまってしまう。

 逆に、メモリセルアレイにデータを書き込む速度は高くない。8KBのページバッファを備える場合で33MB/secに過ぎない。このため、入出力インターフェイスの40MB/secとほぼ釣り合いがとれている。

 といっても入出力インターフェイスを改良すれば、NANDフラッシュメモリを大きく高速化できる余地はある。そこで考案されたのが、クロック同期のシンクロナス入出力インターフェイスだ。入出力インターフェイスの共通規格「ONFI(Open NAND Flash Inteface)」ではバージョン2でクロック同期の高速インターフェイス仕様を策定しており、最大で200MB/secの入出力速度を達成できるようになっている。ONFIの次期バージョンであるONFIバージョン3.0では、最大データ転送速度を400MB/secに高める予定である。

NANDフラッシュメモリの読み出しデータ転送NANDフラッシュメモリの書き込みデータ転送ONFIバージョン2.1に準拠したMicronのMLC NANDフラッシュのデータ転送速度

 またNANDフラッシュメモリの大容量化に伴う使いにくさを克服する技術を服部氏は紹介した。NANDフラッシュメモリは大容量化するにつれてビット不良が顕在化しており、より複雑な誤り検出訂正機能(ECC)を必要とするようになってきた。例えば34nm世代では4bitのECCを必要としていたのが、25nm世代ではSLC品で8bit、MLC品に至っては24bitのECCを付加するようになっている。次世代品では48bit以上をECCに割り当てることが確実視されている。

 するとどうなるか。NANDフラッシュメモリのコントローラ回路が異様に複雑になってしまうのだ。USBドライブやUSBメモリ、MP3プレーヤなどのデータストレージ用途ではコントローラ回路が重要な差異化要因なので、まだ許容できるかもしれない。しかしコンシューマ、モバイル、ネットワーク、自動車などの用途では、非常に扱いづらいメモリとなってしまう。

 そこでECC機能を内蔵したNANDフラッシュメモリ、いわゆる「ECC-free」タイプが開発されるようになってきた。さらには不良ブロックの管理や書き換え回数の平準化といった機能まで持たせた「Fully Managed」タイプのNANDフラッシュメモリが製品化されている。従来のNANDフラッシュメモリ(「Raw」タイプと呼称)に換わり、今後は徐々に「ECC-free」タイプと「Fully Managed」タイプが増えていく。

NANDフラッシュメモリの誤り検出訂正機能の推移。1bitのハミング符号に換わり、4bit以上のBCH(Bose-Chaudhuri-Hocquenghem)符号を使うようになってきたNANDフラッシュメモリの種別とコントローラ(Host)の役割分担NANDフラッシュメモリの種別と出荷bit数による割合の推移

●日本サムスン:メイン基板搭載用フラッシュが進化

 最後は、Samsungグループの日本法人である日本サムスンでMemory技術品質担当の次長をつとめる尹松虎(Yoon Songho)氏が「High-Density, High Speed Mobile Flash Solution」と題して講演した。

 尹氏は始めにNANDフラッシュメモリの世界市場にふれ、2010年は前年に比べて35%と大幅に拡大して166億ドルに達するとの見通しを示した。なお2008年は前年比19%減の118億ドル、2009年は前年比4%増の123億ドルだった。

 続いて応用分野の比率を展望した。2010年から2012年にかけて比率が拡大するのはタブレットPC向けとハンドセット向けである。タブレットPC向け市場の比率は2010年はわずか2%に過ぎないものの、2012年には7%に増えると予測した。ハンドセット向けは2010年に20%だったのが、2012年には25%を占めるようになる。最大分野であるメモリカードおよびUSBフラッシュドライブ向けは2010年は44%を占めていたのが、2012年には31%と下がる。ただしNANDフラッシュメモリの市場規模そのものは拡大が続くので、金額でみるとメモリカードおよびUSBフラッシュドライブ向けでも2012年は2010年に比べて増加するという。

日本サムスンでMemory技術品質担当の次長をつとめる尹松虎(Yoon Songho)氏NANDフラッシュメモリ世界市場の推移NANDフラッシュメモリの応用分野別市場比率の推移

 コンシューマ/モバイル向けでは数種類のNANDフラッシュメモリを要求仕様に応じて使い分ける。SLCタイプ、MLC(2bit/セル)タイプ、TLC(3bit/セル)タイプ、埋め込みタイプを適宜、採用していく。信頼性を要求する場合はSLCタイプ、高密度を要求する場合はTLCタイプ、さらに高い密度を要求し、機器内部の基板に直接実装したい場合は埋め込みタイプといった使い分けになる。

 講演では特に、埋め込みタイプを詳しく説明した。埋め込みタイプは「eMMC」と呼ばれており、MMCコントローラチップとMLCタイプNANDフラッシュメモリ(複数チップ)を1個のファインピッチBGAパッケージに収納したもの。パッケージの外形寸法や端子配置などの共通仕様が策定済みであり、複数のベンダーから購入できるようになっている。

 eMMCはNANDフラッシュ技術の進化に合わせて仕様を改訂してきた。最新版のバージョン4.4では、メモリ領域をSLCタイプとMLCタイプに区分けする(パーティションを設ける)機能を追加した。

 こうするとeMMCバージョン4.3のシステムではプログラム・コードをSLCタイプのNANDフラッシュ、データをMLCタイプのNANDフラッシュ(eMMCバージョン4.3)と別のチップに分けていたのが、eMMCバージョン4.4ではSLCタイプのNANDフラッシュを別に用意せずともシステムを構築できるようになる。なおeMMCバージョン4.4に準拠したフラッシュメモリは、2010年末の商戦に登場するコンシューマ/モバイル製品に搭載されるもようだ。

コンシューマ/モバイル向け分野におけるNANDフラッシュメモリのタイプと使い分けタブレットPCやスマートブックなどに搭載されるNANDフラッシュメモリeMMCの概要。コントローラとフラッシュメモリを1個のパッケージに封止してある
eMMCの技術仕様の変化。最新版はeMMCバージョン4.4eMMCバージョン4.3を使ったシステムとeMMCバージョン4.4を使ったシステムの違い

 NANDフラッシュの大容量化は、まだとまらない。しかし記憶容量を増やすための仕組みが、NANDフラッシュを徐々に使いにくいものにしている。最先端のNANDフラッシュをそのままで扱えるユーザーは、一部に過ぎない。今後は、コントローラ機能を取り込んで扱いやすくしたNANDフラッシュが、主流になっていくのだろう。

(2010年 7月 6日)

[Reported by 福田 昭]