笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、MoorestownのPC版「Oak Trail」を計画
~次期VAIO P/X、LOOX Uの可能性が広がる



 IntelはAtom Zシリーズ(開発コードネームMenlow)の後継として、Moorestown(ムーアズタウン)を開発しており、今年の後半にスマートフォン向けなどとして出荷する予定となっており、International CESではMoorestownを搭載したスマートフォンの最初の例としてLG電子がGW990と呼ばれる製品を展示した。

 以前の記事でもお伝えした通り、PCにも利用できたMenlowプラットフォームに対して、MoorestownではWindows用のグラフィックスドライバが用意されないなど、PC用としてではなくスマートフォン向けとされてきたのだが、ここに来てIntelは方針を転換したようだ。

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはMoorestownのPC版として「Oak Trail」(オークトレイル)と呼ばれる製品を計画しており、Windows版のドライバも用意されているという。

 これにより、ソニーのVAIO P/X、富士通のLOOX Uなど、Menlowを搭載した超小型PCを製造するメーカーも、引き続き同種の製品を設計することが可能になりそうだ。

●スマートフォン用のプラットフォームに特化したMoorestownの計画

 Moorestownについてはすでに本連載でもなんども取り上げているので繰り返さないが、CPU+GPU+メモリコントローラのLincroftとサウスブリッジのLangwellの2チップから構成されており、スタンバイ時の消費電力や平均消費電力がMenlowに比べて下がっており、スマートフォンのような少ない消費電力で動かなければならないデバイス向けの製品になっている。

 実際、Intelのポール・オッテリーニ社長兼CEOは、1月に米国ラスベガスでのInternational CESにおける基調講演の中で、Moorestownを採用したLG電子のスマートフォンGW990を紹介した。

 Moorestownだが、正直なところすべてが順調に進んでいるというわけではない。というのも、スケジュールがどんどんと後ろ倒しになっているからだ。当初の計画ではMoorestownはすでにリリースされているはずだった。つまり、本来の計画では1月にラスベガスで開催されたInternational CESで製品と共に華々しくデビューするはずだったのだ。

 ところが、そのスケジュールは、2009年にサンフランシスコで開催されたIntel Developer Forumで2010年の半ばに延期されたことが静かに発表され、結局International CESの基調講演ではGW990の投入が今年の後半になると伝えられた。

Moorestownを構成するCPUのLincroft(リンクロフト、下)とサウスブリッジのLangwell(ラングウェル、上)International CESのLG電子ブースで展示されたMoorestown搭載スマートフォンGW990

●Pine Trailやその後継のCedar Trailでは実現できない超小型PC

 そうしたMoorestownの動向だが、多くのPCメーカーにとっては“どうでもいい”というのが正直なところだった。というのも、IntelはMoorestownをスマートフォン用と位置づけており、PC用として提供する気がなかったからだ。

 本連載でもずいぶん前から指摘してきたが、IntelはMoorestownにWindows用のグラフィックスドライバを提供する予定は持ってこなかった。そもそも、IntelがMoorestownで対応するOSは、Intelがオープンソースコミュニティと共に開発をしてきたMeeGo(以前はMoblinと呼ばれていたLinuxベースのOS)であり、各OEMメーカーもMeeGoをベースにしたOSを使ってスマートフォンの開発を進めてきた。

 これに困っていたのが、現在Menlowをベースにして超小型PCを開発してきたPCベンダーだ。日本で言えばソニーのVAIO PおよびVAIO X、富士通のLOOX Uなどがこれに該当しており、ネットブックよりも小型薄型軽量で、長時間バッテリ駆動が可能で、価格もネットブックよりはやや上に設定されている製品群になる。

 これらの製品は、熱設計消費電力および平均消費電力が低く、パッケージも小型になっているというMenlowの特徴を利用しており、Intelがネットブック向けに提供しているPine Trail-Mでは消費電力が大きすぎて実現できないプラットフォームとなっている。なお、IntelはPine Trailの後継として、32nmプロセスルールで製造されるCedar Trail(シーダートレイル、開発コードネーム)を計画しているが、この製品も基本的にはPine Trailの延長線上にあるものであり、Menlowの代替になるものではない。

 こうしたこともあり、Menlowベースの小型PCを製造する日本のOEMメーカーは、Menlowの後継となる製品を用意して欲しいとIntelに対して働きかけを続けてきたのだ。

●MoorestownのPC版となるOak TrailではWindowsのドライバを提供

 そこでIntelはOEMメーカーに対して2つの回答を用意した。1つは現行のMenlowプラットフォームを継続して提供することを約束し、かつMenlowプラットフォームベースの新しいSKUを投入することを約束したのだ。MenlowプラスとかMenlowリフレッシュとも呼べる、Menlowの拡張版には、2GHzを超える新しいプロセッサのSKUが追加されることになるという。このため、OEMメーカーはすでにMenlowプラットフォームで作成した製品に新しいモデルを追加することが可能になる。

 そして、もう1つの答えが、MoorestownのPC版となる、Oak Trailを投入するという新戦略だ。OEMメーカー筋の情報によれば、この件はIntelからOEMメーカーに対して2009年の暮れあたりから語られ始めたもので、今の所IntelがOEMメーカーに対して配布している“公式な”ロードマップには掲載されていないものだという。こうしたこともあり、どの情報筋も存在自体は伝えているものの、具体的な情報はほとんど受け取っていないともいう。断片的な情報をつなぎ合わせると、ハードウェアそのものはMoorestownのLincroft+Langwellをベースにしたもので、PC向けとするための動作クロックなどは若干引き上げられ、Windows 7のドライバも提供されることになるという。

●VAIO P、VAIO X、LOOX Uなどの後継製品が開発可能になることは大歓迎

 これにより、ソニーのVAIO P、VAIO X、富士通のLOOX UといったMenlowプラットフォームに基づいた製品を製造しているOEMメーカーは、Moorestown世代の後継製品を開発することが可能になる。重要なことは、MoorestownをベースにしたOak Trailになれば、Menlowに比べて平均消費電力やスタンバイ時の消費電力が下がることになり、より長時間バッテリ駆動が可能な、薄くて小さいPCを製造することも可能になるだろう。

 そうした意味で、Oak Trailの計画は、OEMメーカーにとって、新しいチャレンジになると同時に、よりユニークなPCを作れるチャンスになる。VAIO P、VAIO X、そして新しいLOOX Uは、新しいPCの使い方をユーザーに提案したという意味で、大きな意味がある製品だと筆者は評価している。そして、それらの製品がOak Trailでどのような進化を見せるのか、そのあたりについては今後も大いに注目していきたいと考えている。

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(2010年 2月 17日)

[Text by 笠原 一輝]