多和田新也のニューアイテム診断室

ION搭載のMini-ITXマザーボードZOTAC「MB959」
~Atom 330を搭載するACアダプタ仕様モデル



 代理店のアスクから発表された、ZOTACのNVIDIA IONマザー。すでにシングルコアのAtom 230を搭載したATX電源対応モデルが5月中旬から販売されている。上記リンク先にもある通り、このシリーズは4製品がラインナップされており、最上位モデルとなるのはデュアルコアのAtom 330を搭載するACアダプタ対応仕様の「MB959」だ。ここでは、そのMB959のパフォーマンスなどをチェックしてみたい。

●Atomプラットフォームの新しい選択肢
【写真1】ZOTACのAtom 330+ION搭載マザーボード「MB959」。Mini-ITXフォームファクタに準拠する

 2008年12月に発表されたNVIDIA IONは、ときにはAtomを用いたプラットフォームとして紹介されたり、NVIDIAのWebサイトではグラフィックスプロセッサとして紹介されていたりと、さまざまな表現がなされてるが、ハードウェアとしての実体は「IntelのAtomプロセッサに対応するグラフィック統合型チップセット」である。その仕様などについては、笠原氏の記事に詳しいので、ぜひ一読されたい。

 ION製品としては、AcerがAspireRevoを発表したほか、6月のCOMPUTEXでもいくつかの製品が登場すると見られている。マザーボードも以前から製品化が期待されていたが、それをいち早く市場に投入したのがZOTACである。本稿では最上位モデルの「MB959」(写真1)をテストに用いる。まずは、IONの仕様と本製品での実際の動作状況をチェックし、IONで得られるメリットをまとめておきたい。

 ZOTACのION搭載マザーボードは冒頭でも触れた通り4製品がラインナップされる。シングルコアのAtom 230、デュアルコアのAtom 330それぞれに、ATX電源仕様モデルとACアダプタ仕様モデルがラインナップされる格好だ。本製品は、そのうちAtom 330&ACアダプタ仕様という製品になる。Atom 330自体は過去に登場しており、特に目新しいところはない。「Intel D945GCLF2」などと同じC0ステッピングが搭載されている(画面1)。

 チップセットについては、CPU-ZのVersion1.51で「ION」と表記されており、こうした場での表現も「IONチップセット」と呼んで差し支えないだろう(画面2)。ただ、CPU-Zの1つ前のバージョンを実行すると、チップセット欄には「nForce 740i SLI」と表示されており、機能面はこちらをベースにしていることがうかがえる(画面3)。併せて、IONの仕様と、nForce 740i SLIの仕様を見比べてみると、サウスブリッジ機能を中心に類似性が高いことも分かる。

 ただし、nForce 740i SLIの対応メモリがDDR3-1333/DDR2-800であるのに対し、IONはDDR3-1066/DDR2-800への対応となる。とはいえ、デュアルチャネルメモリには対応しており、ZOTACのMB959もDDR2-800対応スロットを2本備えている(画面4~6)。

【画面1】デュアルコアCPUとなるAtom 330。1.6GHz動作、533MHz FSBなど、従来から採用例があるCPUのままである【画面2】CPU-Z 1.51で確認したチップセットの情報はノース、サウスともに「ION」と表示される【画面3】CPU-Z 1.50を使うとnForce 740i SLIと表示される。IONチップセットの基となっているのは、このチップセットと見ていいだろう
【画面4】デュアルチャネルメモリに対応するのがIONの大きなメリットの1つ【画面5】FSBとメモリクロックを非同期にできるのもNVIDIA製チップセットの特徴。本製品でも、そうした設定が可能だ【画面6】メモリタイミングもわりと細かく指定できるようになっている

 そもそも、Intelが提供するAtomプラットフォームの大きなウィークポイントになっているのはチップセットだ。デスクトップ向けにはIntel 945GC+ICH7が採用されているが、これは数世代前のチップセットである。内蔵のグラフィック機能もDirectX 9には対応しているというものの、ShaderModel 3.0には対応していない。サウス側にしても、SATAコントローラはAHCIをサポートしておらず、いかにも古さを感じさせる部分は多い。

 IONはDDR2/DDR3の両方に対応するほか、内蔵グラフィックはDirectX 10対応のGeForce 9400M Gを統合。サウス側機能としても、最大6ポートのSATAはAHCI、RAIDに対応(画面7)し、USBは最大12基までサポート、と現在のチップセットのトレンドに即したスペックになっている。CPUを付け替えてスペックアップしていくような製品ではないだけに、ベースとなるチップセットが高いスペックを持つことの意味は大きい。

 グラフィック機能に関してもう少し紹介すると、Streaming Processor(SP) 16基、コアクロック450MHz、シェーダクロック1,100MHzといった仕様になる(画面8)。ビデオメモリはメインメモリと共有で、BIOS画面から容量を指定することができる(画面9)。

【画面7】IONチップセットではAHCIやRAIDをサポートしている。チップセットの機能としては最大6ポートとなるが、ZOTACのMB959はSATA×3とeSATA×1を備える【画面8】統合されているグラフィック機能も「ION」の名称が当てられている。SPは16基。コアクロック450MHz、シェーダクロック1,100MHzで動作する【画面9】フレームバッファはメモリと共有。容量をBIOSから指定可能だ

 デスクトップ関連でGeForce 9400シリーズに属する製品としては、ビデオカード製品となるGeForce 9400 GTが存在する。こちらはSP数こそ16基で同一だが、コアクロックが550MHz、シェーダクロックが1,400MHzとなる。または、グラフィック統合型チップセットとして投入されているGeForce 9400 mGPUは、コア580MHz、シェーダ1,400MHzとさらに高いクロックで動作するものとなっている。IONのグラフィック機能は、スモールフォームファクタ向け製品ゆえ、発熱や消費電力を抑制するために、ややクロックを抑えた仕様になっているのだろう。

【画面10】「Disable iGPU if External VGA Card Exist」を選択すれば、外部ビデオカード装着時に、内蔵グラフィックが無効になる

 細かいことではあるのだが、IONの場合は外部ビデオカードを装着したときに内蔵グラフィックを停止させることができるというメリットも持つ。ZOTACのMB959も、外部ビデオカード装着時に内蔵グラフィックを有効にするか、無効にするかのオプションがBIOSに用意されている(画面10)。例えば、Intel 945GCとAtom 330を搭載するIntel D945GCLF2でもそうなのだが、外部ビデオカードを装着した場合でも内蔵グラフィックは有効になったままとなる。これは言い換えると、内蔵GPUがビデオメモリ用としてメインメモリ上に確保するフレームバッファが解放されない、ということである。IONでは外部ビデオカード装着した際に内蔵グラフィックを無効にしてしまえば、メインメモリを有効に利用できるようになるわけだ。

【写真2】MB959のI/Oリアパネル。D-Sub15ピン/DVI/HDMIという3種類の映像出力、USB×6、eSATA、ACアダプタ、無線LANアンテナといったあたりが特徴

 さて、ここからはZOTAC M959の特徴的な部分をチェックしておきたい。まずIOリアパネル(写真2)であるが、映像出力端子としてはミニD-Sub15ピン、DVI-I、HDMIの3種類を備える。ただし、同時に利用できるのは最大2系統のみになっている。HDMIは7.1chのオーディオ出力も可能なほか、同軸・光のS/PDIF出力端子も備えている。

 USBポートの多さも特徴といえる。I/Oリアパネルだけで6ポートを備えるほか、マザーボード上には4ポート分のヘッダピンを備えるので、合計で10ポートを実際に利用可能だ。拡張手段が事実上USBに限られるタイプの製品だけに、このポート数の多さは魅力だ。

 I/Oリアパネルの右端にあるのは、ACアダプタと無線LANのアンテナである。ACアダプタはDELTA製が付属しており、容量は90W(写真3~4)。注意したいのは、付属のACケーブルのプラグがいわゆるBFタイプだった点だ(写真5)。ZOTACではパワープラグに応じて4種類のSKUをラインナップしており、今回のテスト機材は香港のZOTAC本社から直接送られたものであるため、こうした仕様になっているのかも知れない。国内販売モデルは日本仕様のACケーブルが付属している可能性が高いと思われるが、発売時にチェックしておくべきだろう。もちろん今回のテストでは変換アダプタを用いて対処している。

【写真3】付属のACアダプタ。大ぶりではあるが据え置きで使用する製品だけに、妥協できるレベルだろう【写真4】ACアダプタはDELTA製の90W品【写真5】付属のACケーブルはBFタイプのプラグ。国内販売モデルがどうなるか注視したい

 ちなみにHDDや光学ドライブへの電源供給は、マザーボード上に電源供給端子が用意されており、SATA電源コネクタへの変換ケーブルが付属している(写真6)。本製品はIDEやFDDコネクタを有しておらず、このSATA×3本の電源端子で十分だろう。ちなみに、ACアダプタ仕様である本製品では、ATX電源端子が空きパターンとなっており、ATX電源を使うことはできない(写真7)。

【写真6】ドライブ類への電源供給を、オンボード上のコネクタから行なうためのケーブルが付属する【写真7】ATX電源端子は空きパターンとなっているので、ACアダプタ専用製品となる

 一方の無線LANであるが、マザーボード上に実装されたPCI Express Mini CardスロットにIEEE 802.11b/g/n対応のコントローラが搭載されている(写真8)。ここから背面へアンテナケーブルが延びており、I/Oリアパネルのアンテナ端子につながる格好となる。このアンテナ端子に接続するアンテナも付属している(写真9)。

 このほか、CPUとチップセット用ヒートシンクに取り付けるためのファンが付属する(写真10)。付属ファンは3ピンの電源コネクタを備えたものとなっているが、マザーボード側はPWM制御に対応した4ピンのコネクタが用意されているので、好みのファンをアレンジしてみるのもいいだろう(写真11)。

【写真8】PCI Express Mini Cardを1スロット備えており、本モデルでは無線LANコントローラが搭載されている【写真9】I/Oリアパネル部に無線LAN用のアンテナ端子を搭載。アンテナも付属している
【写真10】CPUとチップセットを冷却するヒートシンク用にファンが付属。写真はネジ留めをしていないが、ちゃんと固定ネジも付属している【写真11】このファンのための電源端子はPWM制御対応の4ピンタイプになっている

●Intelチップセット搭載製品と比較

 それではベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表の通りで、Atom 330+Intel 945GCを搭載する「Intel D945GCLF2」(写真12)を比較対象とする。なお、DDR2-667までに対応するIntel D945GCLF2であるが、手持ちのDDR2-800モジュールではDDR2-667動作を設定できなかったため、ここではDDR2-533でのテストとしている。また、グラフィック関連のテストにおいては、このIntel D945GCLF2に、GeForce 9400 GT搭載ビデオカード「GF9400GT-LP1GH/HS」(写真3)をPCI接続したケースもテストに加えている。

【表】テスト環境
マザーボードZOTAC MB959Intel D945GCLF2
チップセットNVIDIA IONIntel 945GC+ICH7
グラフィックION
(GeForce/ION Driver 185.85)
Intel GMA950
(Version.15.8.5.1587)
CPUIntel Atom 330
メモリDDR2-800(1GB×2/5-5-5-18)DDR2-533(2GB×1/4-4-4-12)
電源ユニット付属ACアダプタ(90W)Seasonic SS-700HM(700W)
ストレージSeagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS)
OSWindows Vista Ultimate Service Pack 2

【写真12】Atom 330+Intel 945GC+ICH7を搭載する「Intel D945GCLF2【写真13】PCI接続のGeForce 9400 GT搭載ビデオカードである、玄人志向の「GF9400GT-LP1GH/HS

 まずは、CPU性能のテスト結果から見ていく。テストはSandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)の2つである。ここは、同じCPUを搭載しているだけに、ほぼ同一のスコアになるのが妥当なものとなるが、その通りの結果となっている。ただ、ほんのわずかではあるがION環境のほうが良い結果を出す傾向も見える。

【グラフ1】Sandra 2009 SP3a (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-シングルタスク)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-マルチタスク)

 次にメモリ性能のテスト結果だ。テストは、Sandra 2009 SP3aのCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)である。ここはちょっと意外な結果も出ている。それがキャッシュメモリのアクセス速度だ。

 ION環境の方は割と滑らかに性能曲線を描くのに対し、Intel D945GCLF2は波のある結果となった。これは以前の結果でも同じような動きを見せていたのだが、さらに気に留めたいのは、根本的にキャッシュのアクセス速度がION環境のほうが速いということである。これが先のCPUテストの結果に影響を及ぼした可能性はある。いずれにしても、ZOTACのMB959は、製品初期の段階とはいえ、かなり速度を引き出せているといえる。

 一方のメモリアクセスであるが、こちらはメモリアクセス速度が高速(DDR2-800とDDR2-533)である上に、デュアルチャネルインターフェイスも持つことから、ION環境の方が明らかに高速な結果となった。倍まではいかないものの、かなりの速度差を見せており、Atom環境のパフォーマンス引き上げに貢献しそうである。

【グラフ4】Sandra 2009 SP3a(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ5】PCMark05 Build 1.2.0(Memory Latancy Test)

 続いてHDDテストの結果を紹介しておきたい。テストはSandra 2009 SP3aのFile System Benchmark(グラフ6)、PCMark05のHDD Test(グラフ7)、PCMark VantageのHDD Test(グラフ8)である。

 目立つところでは、SandraのBuffered ReadはIONが速く、Buffered Writeの方は逆にIntel 945GCのほうが速い。一方、PCMark05のFile WriteはIONが速いと、異なる傾向が見られる。これは、テストによって、ドライバが管理するバッファの効き具合が違うためだろう。

 ただし、全体で見るとAHCIをサポートすることもあってか、IONが安定した速さを見せるといっても過言ではない。新しい世代のチップセットを利用することのメリットが、明確に出た結果といえる。

 ここからは、実際のアプリケーションを用いたベンチマークや3D関連のベンチマークを取り上げていきたい。

【グラフ6】Sandra 2009 SP3a(File Sytem Benchmark)
【グラフ7】PCMark05 Build 1.2.0(HDD Test)
【グラフ8】PCMark Vantage Build 1.0.0.0(HDD Test)

 Windows Vistaのエクスペリエンスインデックス(グラフ9)は、チップセットが変わったことでシステム全体のバランスが大きく変わったことを如実に示すものとなった。Intel 945GCを用いた環境ではグラフィック周りが性能のボトルネックになっている結果であるの対し、IONではグラフィックの性能が上がりAtom 330の力不足を感じるようになる。これは実感に非常に近い印象を受ける結果だ。

【グラフ9】Windows Vista エクスペリエンスインデックス

 PCMark Vantage(グラフ10)は、全テストでIONがIntel 945GCを上回る結果となった。とくにMemoriesとGamingで大きな差がついており、静止画処理や3Dグラフィック処理で高性能が期待できる結果といえる。

 一方でProductivityは差がほとんどない。データ処理系のテストであるProductivityだけにメモリ性能の差が表れてもおかしくないのだが、ここまでスコア差がないところを見ると、同一性能であるCPUがボトルネックになってしまったのだろう。

【グラフ10】PCMark Vantage Build 1.0.0.0

 その傾向はCineBench R10(グラフ11)でも見られる。このテストも、IONとIntel 945GCでほとんど差がない結果となった。シングルCPUレンダリングでは若干IONが良い結果が見られるあたり、こちらは多少CPUに余力が出てメモリ高速化の効果が表れ、マルチCPUレンダリングでは完全にCPUがボトルネックになってしまった、と見るのが妥当だろう。

【グラフ11】CineBench R10

 次の動画エンコードテスト(グラフ12)も、IONが多少良い結果を出しているが、差は非常に小さい。メモリやHDDの高速化の恩恵をあまり受けられていないことになる。

 ここでは720×480ドットのDV-AVIを、DVD-Video準拠のMPEG-2ファイル(8,000kbps)へ変換した際の処理性能を示している。SD解像度のMPEG-2エンコードは現在ではそれほど負荷の大きい処理とはいえないが、それでもAtomクラスのCPUにとってはまだまだ負荷の大きい処理といえる。とはいえ、1秒当たり25フレーム以上の処理性能を見せており、MPEG-2なら何とかエンコード処理も可能かな、という印象を受ける。

【グラフ12】動画エンコード

 続いては、動画ファイルを再生した際のCPU使用率を測定した結果だ(グラフ13)。チェックした動画は、1,300kbpsのWMV9ファイルをWindows Media Player 11で、1,440×1,080ドット(アスペクト比16:9)のMPEG-2ファイルをPowerDVD9で、1,920×1,080ドット/MPEG-4 AVCソースのBlu-ray Discを同じくPowerDVD9で、それぞれ再生。その際のCPU使用率を1秒ごとにトレースし、3分間の平均を出したものである。ここでは、Intel D945GCLF2にGeForce 9400 GT搭載ビデオカードを搭載したケースもチェックしている。

 まず、Intel D945GCLF2ではエラーが発生してBDが再生できなかった。この1点だけでもPureVideo HDをサポートしているIONの良さを感じるわけだが、BD再生時のCPU使用率も21%程度と非常に低い。作業内容によっては十分に“ながら作業”にも耐え得るほどだ。ほかの動画でもIntel 945GCに対してCPU使用率がかなり抑制されている。

 GeForce 9400 GTは、MPEG-2再生時にGPUのアクセラレーションがうまく効いていないと思われる現象が出ているが、ほかの動画ではION以上にCPU使用率が抑制されている。PCI接続とはいえ、動画再生に関してはIntel 945GC環境に外部ビデオカードを装着する意味が大きいといえる。

【グラフ13】動画再生時のCPU使用率

 続いて、DirectX 9以前の3D関連テストとして3DMark06(グラフ14~15)、3DMark05(グラフ16)、FINAL FANTASY XI Benchmark 3(グラフ17)の結果を見てみたい。3DMark06のHDR/SM3.0テストはIntel 945GCでは動作しないので空欄となっている。

 IONとIntel 945GCそれぞれの内蔵グラフィックの性能差が非常に大きいことが分かる結果である。グラフィック処理に特化した3DMarkシリーズでは10倍に近い差で、FFBenchも2倍に近い差が生まれている。

 なお、今回の結果だけでは推測の域は出ないのだが、IONのようなグラフィック統合型チップセットの場合、メインメモリがデュアルチャネル化することの効果は、CPUだけでなくグラフィック性能にも活きてくる。これまでのテストではAtom 330がボトルネックになってデュアルチャネルメモリが生かしきれていないケースが頻繁に見られるが、グラフィック周りの好結果にも多少は貢献している可能性があるだろう。

【グラフ14】3DMark06 Build 1.1.0(CPU Test)
【グラフ15】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0 Test,HDR/SM3.0 Test)
【グラフ16】3DMark05 Build 1.3.0
【グラフ17】FINAL FANTASY XI for Windows - Vana'diel Bench 3

 他方、Intel D945GCLF2にGeForce 9400 GTを接続した際の結果は、IONを下回るものとなった。もう少し新しいゲームを使ったベンチマークとして、The Last Remnant Benchmark(グラフ18)、Far Cry 2(グラフ19)でも比較してみたが、全体の傾向としてはIONの方が使える、という印象である。動作クロックはIONよりも高速なビデオカードであるが、PCI接続であることが響いて性能が伸び悩んだのだろう。PCI接続のビデオカード自体が貴重な昨今。ビデオカードを増設してグラフィック性能を上げようと思っても中途半端な結果に終わってしまうようだ。

【グラフ18】The Last Remnant Benchmark
【グラフ19】Far Cry 2(Patch v1.02)

 次に、CUDAアプリケーションを2つ試してみたので紹介する。1つは動画高画質化アプリケーションの「vReveal」である(グラフ20)。720×480ドットのDV-AVIファイルに、ノイズ除去、シャープ化、自動コントラスト補正、ぶれ修正を施したうえで、解像度はそのままに無圧縮AVIで保存。その際の処理性能を示したものである。ここでは、GPU処理の有効/無効で2.78倍の性能差が出ている。とはいえ、1秒あたり2~3フレームの処理性能であり、GPU処理とはいえ、さすがにSP 16基のIONでは厳しさを感じる結果だ。

【グラフ20】vReveal(動画フィルタ処理)

 さらに、CyberLinkのPowerProducer 7で、同じDV-AVIの動画をフィルタなどを一切適用せずに、MPEG-4 AVC/5,000~6,200kbps VBR/720×480ドットの設定でトランスコードした際の性能も測定(グラフ21)。こちらも1.88倍とGPU処理の有効性が見て取れる。絶対値としても、GPU処理を有効にした場合は、MPEG-4/AVCへのトランスコードが、先述の動画エンコードテストで示したAtom 330を使用してMPEG-2へエンコードした際の処理速度と同程度の結果になった。

 この2つの結果は、Atom 330で力不足を感じる作業を、GPU処理によって補えているといえるものだ。とくに動画周りでは、メジャーなアプリケーションがCUDA対応を次々に打ち出しており、例えばYouTubeなどにアップするためのちょっとした動画を、ION環境で作ることは非現実的なものといえないだろう。

【グラフ21】CyberLink Power Producer 7(動画エンコード)

 さて、最後に消費電力の結果である(グラフ22)。IONとIntel 945GC環境で大きな差がついているが、ここはACアダプタとATX電源という違いもあるので、相対的な比較は参考程度になる。

 ただ、付属のACアダプタを用いたION環境(MB959)は、その絶対値が参考になる。アイドル時は30W、ピーク時でも35Wとかなり低い消費電力に収まっている。消費電力もAtomの魅力であり、それは健在といえる。

【グラフ22】消費電力

●Atomプラットフォームに新しいユーセージモデルを生むか

 以上の通りIONマザーのベンチマークを行なってみると、パフォーマンスに関しては文句のつけようのない結果が出ている。グラフィック周りだけでなく、HDDアクセスやメモリアクセスの高速化というメリットもあり、全体の性能向上につながっている印象を受ける。

 ただし、CPUがAtomであるという点は変わりないので、テスト結果の一部にも見られたように、CPUに対して高い負荷がかかるようなシーンではCPUがボトルネックになるケースも発生する。Atomプラットフォームの性格を考えると、そこまでCPUに大きな負荷がかかる作業をしようと思う人も少ないだろうし、メモリアクセスやHDDアクセスの高速化は、これまでにもAtomで現実的とされていた作業の高速化やレスポンス向上が期待できる、という判断が妥当だと思う。

 むしろ、PureVideo HDの存在や、CUDAに対応している点は、IONの登場がAtomプラットフォームに新しい使い方を生み出す可能性が高いのではないだろうか。前者はBlu-ray DiscなどのHD動画をスムーズに再生できるし、後者はMPEG-4 AVCエンコードなどの時間を短縮できる。

 このようにIONに触れてみると、IntelがAtomにIntel 945ベースのチップセットを組み合わせた理由も垣間見えるだろう。中途半端に良いチップセットを組み合わせてメモリやHDDを高速化しても、Atomの可能性はそれほど広がらない。かといって、BD再生のハードウェアアクセラレーションが可能なGMA 4500HDクラスのグラフィックを積むと、コスト面でも消費電力の面でも、今のようなAtomの魅力は薄れてしまう。

 GPUコンピューティングという方向性を持っているNVIDIAだからこそ、Atomに新しいユーセージを生むことができる、ともいえるが、惜しむらくは少々価格が高いことにある。今回取り上げたZOTACのMB959は国内価格で3万円強のオーダーになる可能性がある。ACアダプタや無線LANコントローラ込みの価格なので極端に高価な値段とは思わないが、Atom製品の値段としては印象の点で不利が否めない。

 それでも、従来はチップセットの選択肢がなかったAtomプラットフォームに新しい選択肢が生まれたことは歓迎できるし、これまでAtomでは非現実的だった作業を現実的にする可能性も生んだ。夢のある、興味深い製品が登場したといえる。