福田昭のセミコン業界最前線

消えるエルピーダ、巨大になるMicron

 国内唯一のDRAM専業メーカーであるエルピーダメモリが、会社更生法の適用を東京地方裁判所に申請したのは、昨年(2012年)の2月27日のことだった。

 エルピーダメモリの再建に向け、支援企業の候補が決まったのは同年5月10日である。会社更生法の申請から2カ月余り、3月に会社更生手続きが始まってからは1カ月半ほどが過ぎていた。支援企業の候補は、米国を本拠地とするMicron Technology。DRAMのほか、NANDフラッシュメモリとNORフラッシュメモリを主力製品とする、半導体メモリの大手メーカーである。

 同年7月2日には、Micronが総額2,000億円を投じてエルピーダメモリを買収するとともに、エルピーダメモリの関連企業を傘下に収めることで合意した。具体的には、エルピーダメモリがMicronの100%子会社となる。同時に、台湾のDRAM生産合弁企業Rexchip Electronicsに関し、エルピーダメモリの合弁相手である台湾のPowerchip Technologyの持ち分24%の株式をMicronが購入する。エルピーダメモリはRexchip Electronicsの株式の64%を所有しているので、Rexchip Electronicsの株式の89%をMicronが直接および間接に所有することになった。

エルピーダメモリの会社更生を巡る昨年(2012年)の主な動き
Micronによるエルピーダメモリ買収、および台湾のDRAM生産合弁企業Rexchipの買収の枠組み。2012年7月2日にMicronが発表した資料から

 Micronは全世界でおよそ27,000名の従業員を抱えており、年間の売上高は約80億ドル(1ドル100円換算で8,000億円)に達する。300mmウェハ換算の処理能力は月間435,000枚。エルピーダメモリはおよそ5,800名の従業員を雇用しており、年間の売上高は約32億ドル(1ドル100円換算で3,200億円)である。300mmウェハ換算の処理能力は月間18万枚。エルピーダメモリの比率は従業員数では約21%、年間売上高では約40%、ウェハ処理能力は約41%となる。従業員1名当たりの売上高と生産量はMicronよりもエルピーダが高い。

Micron(左)とエルピーダメモリ(右)の概要。2013年5月7日にMicronが発表した資料から

7年間に渡って無利子で債務を弁済

 Micronがエルピーダメモリの支援に投じる2,000億円は、一括払いではない。7年間の長期に渡る分割払いである。当初は買収費用として600億円を支払う。残りの1,400億円は、2014年〜2017年の12月に200億円ずつ、2018年と2019年の12月に300億円ずつの支払いとなる。支払いには一切の利子がかからない。これらは債務の弁済としてはかなりの好条件であり、Micronにとっては破格の安値でエルピーダの資産を入手したように見える。

Micronによるエルピーダメモリ支援の詳細。2012年7月2日にMicronが発表した資料から

Micronは再び世界第2位の半導体メーカーに

 Micronは過去、買収を繰り返すことで事業規模を拡大してきた(詳しくは本コラムの既報を参照されたい)。元々はDRAM専業で1978年にスタートしたベンチャー企業なのだが、1998年に米国の大手半導体メーカーであるTexas InstrumentsのDRAM事業を買収したことで、DRAM大手メーカーの一角を占めるようになった。2004年にはNANDフラッシュメモリ事業に独自で参入し、2005年にはIntel(当時はNORフラッシュメモリの大手メーカー)とNANDフラッシュメモリの共同開発で提携し、NANDフラッシュメモリの大手へと事業を拡大させていく。2010年にはNORフラッシュメモリの大手ベンダーであるNumonyxを買収した。この買収を完了させたことで、Micronは売上高で韓国のSamsung Electronicsに次ぐ、世界第2位の半導体メモリメーカーに踊り出た。

 しかし韓国の半導体メモリ専業大手であるSK Hynixが急激に成長し、売上高でMicronを抜いてしまう。今回のエルピーダメモリの買収によってMicronはDRAMの売上高を大きく拡大し、半導体メモリ業界で第2位に返り咲くことになった。

主要な半導体メモリメーカーの市場シェア。Micronの15%とエルピーダメモリの6%を合計することで、Micronグループは2位に返り咲く。2012年7月2日にMicronが発表した資料から

モバイルDRAMの獲得が最大の狙い

 エルピーダメモリが会社更生法の適用を申請してから、およそ1年5カ月後の今年(2013年)7月31日に、Micronによるエルピーダメモリの買収が完了した。同日にMicronは東京で記者会見を開催し、買収の完了を正式に発表した。記者会見の模様は大河原氏の記事に詳しい。米国では8月9日(現地時間)にアナリスト向け説明会を開催し、エルピーダメモリ買収の意義を解説した。

 Micronが持たず、エルピーダメモリが持っているもの。最も大きいのはモバイルDRAM事業だろう。PC向けDRAM市場の伸びが鈍化しつつある一方で、スマートフォン向けのモバイルDRAM市場は急速に成長しつつある。しかしMicronはモバイルDRAM市場にほとんど食い込めていない。

 市場調査会社であるDRAMeXchangeによると、エルピーダ買収前の2011年後半時点で、モバイルDRAM市場におけるMicronのシェアは金額ベースで7.3%にとどまっていた。同じ時期にエルピーダメモリは15%〜17%のシェアを獲得しており、この市場ではSamsung ElectronicsとSK Hynixを相手に善戦していたといえる。また同じ時期にモバイル向けやPC向け、サーバー向けなどを含めたDRAM市場全体ではMicronとエルピーダのシェアはともに約12%で拮抗していた。両者の主力DRAM製品が、かなり違っていたことが見て取れる。

エルピーダメモリの会社更生を巡る今年の主な動き
モバイルDRAM市場におけるメーカー別シェアの推移(2011年第3四半期〜2013年第2四半期)。市場調査会社DRAMeXchangeの公表データを筆者がまとめたもの
モバイルDRAMのメーカー別売上高推移(2011年第3四半期〜2013年第2四半期)。市場調査会社DRAMeXchangeの公表データを筆者がまとめたもの
DRAM市場全体におけるメーカー別シェアの推移(2009年第2四半期〜2013年第2四半期)。市場調査会社DRAMeXchangeの公表データを筆者がまとめたもの
主要DRAMメーカーの売上高(DRAMのみ)推移(2009年第2四半期〜2013年第2四半期)。市場調査会社DRAMeXchangeの公表データを筆者がまとめたもの

 そのほかにも買収のメリットは少なくない。エルピーダメモリはPC向けのDDR3 SDRAM、サーバー向けのDDR4 SDRAM、グラフィックス向けのGDDR5 SDRAMといずれも最先端技術のDRAM製品を製造しており、買収はMicronの製品系列を充実させるとともに、生産能力を拡大する。

 Micronはこのほか、台湾のDRAM生産合弁会社Inoteraの生産能力をすべてMicron向けに変更するとともに、Intelとの合弁によるNANDフラッシュメモリ生産会社IM Flash Technologyの工場を買収している。エルピーダの買収と合わせて半導体メモリ全体の生産能力を約1.9倍と大幅に増強した。

エルピーダメモリの獲得による製品系列の拡充。2013年8月9日のアナリスト向け説明会でMicronが発表した資料から
エルピーダメモリの獲得による生産拠点の拡大。2012年7月2日にMicronが発表した資料から
エルピーダメモリの獲得などによる生産能力の増強。2013年8月9日のアナリスト向け説明会でMicronが発表した資料から

「エルピーダ」ブランドは長くとも2014年3月31日まで

 Micronの日本におけるオペレーションは、今後、どうなるのだろうか。日本にはすでに、日本法人のマイクロンジャパンが存在する。マイクロンジャパンは、東京都区内と大阪市、茨城県つくば市に拠点を有する。設計拠点が東京とつくばにあり、営業拠点が東京と大阪にある。生産拠点は持たない。かつては兵庫県西脇市に生産工場を所有していたものの、2011年6月にイスラエルの半導体ファウンダリ企業TowerJazzに工場を売却した。

 一方、エルピーダメモリは、東京都区内と大阪市、秋田県秋田市、神奈川県相模原市、広島県東広島市に拠点を有する。設計拠点は秋田市と相模原市、東広島市、営業拠点は東京と大阪、生産拠点は東広島市(前工程)と秋田市(後工程)にある。このほか台湾にある合弁子会社のRexChip Electronicsが生産拠点となっている。

 Micronの公表資料によると、マイクロンジャパンとエルピーダメモリは、2014年第1四半期(1月〜3月期)までに統合される予定である。統合によって「エルピーダ」の製品ブランドは消滅する。大河原氏の記事によると、新会社の名称は「マイクロン・メモリ・ジャパン」となる。

 新会社「マイクロン・メモリ・ジャパン」の組織や役員などは、まだ明らかになっていない。現状の日本法人2社体制はかなり複雑で、各地の拠点が整理、統合されることは避けられないだろう。「エルピーダの火」が灯し続けられるのか、それとも消えるのか。来年(2014年)の春には明らかになる。

(福田 昭)