福田昭のセミコン業界最前線
高NA化で「3nm世代」の超高難度製造を狙うEUV露光技術
2017年3月23日 06:00
今年(2017年)、最先端の半導体ロジック(プロセッサやSoCなど)は10nm世代の本格的な量産に突入する。次世代に相当する7nm世代の量産は来年(2018年)に始まり、2019年~2020年には量産が本格化していくと予想されている。
次々世代である5nm世代の量産時期はいつになるか。これまでどおりのスケジュールを維持するのであれば、2021年までには少量の生産が始まる。本格的な量産開始時期は2022年~2023年となる。
さらに次の世代である3nm世代は、まだ良く分からない。それこそ半ば無理矢理に過去の開発ペースが続くと仮定すると、少量生産の開始時期は2023年~2024年、本格的な量産の開始時期は2025年~2026年になる。
EUV露光技術が描く7nmノード以降の微細化ロードマップ
微細化を牽引するのは、半導体の回路パターンを形成する技術、すなわちリソグラフィ(露光)技術である。7nm世代から後の微細化を実用的なコストで牽引できそうな技術は、EUV(Extreme Ultra-Violet : 極端紫外線)露光技術であることが明確になりつつある。
既存の露光技術であるArF液浸露光とマルチパターニングの組み合わせは、ワンレイヤ(1層)分のパターン形成に割り当てる露光の回数を増やす以外に、微細化の手段がない。少なくとも今のところは、ほかの手段がArF液浸露光では、見当たらない。
しかしマルチパターニング技術には、露光回数を増やすと製造コストが急激に増大するという重大なリスクがある。まず、露光と現像、エッチングを繰り返すので単位時間当たりのウェハ処理枚数(スループット)が急速に低下する。スループットの低下は、製造コストの上昇を意味する。そして露光の位置合わせに要求される精度が急激に厳しくなる。したがって装置のコストが上昇する。さらに、解像したパターンの形状が歪むので製造の歩留まりが低下する恐れが高くなってしまう。製造歩留まりの低下は、製造コストの上昇を意味する。
ところがEUV露光技術では、マルチパターニングを導入しないで、かなりのところまで微細化できるという見通しが立ちつつある。具体的には、3nm世代までを視野に入れてきた。もはや唯一の最先端露光装置メーカーであるオランダのASMLは、7nm世代以降のロジック量産ではArF液浸露光よりも、EUV露光を有力視する。
光学系の高NA化がEUV露光の微細化を牽引
EUV露光技術で7nm以降の微細化を牽引するのは、光学系の開口数(NA)を高めることと、マスクとウェハの重ね合わせ誤差(位置合わせの誤差)を減らすことの2つの要素技術である。ASMLが量産用露光技術の開発向けに出荷中のEUV露光装置は、開口数が0.33の光学系を備える。
露光の解像度(分解能)は、光源の波長に比例し、光学系の開口数に反比例する。波長が短くなるか、あるいはNAが大きく(高く)なると、解像度は向上する。つまり、パターニング可能な最小寸法(ハーフピッチ)が短くなる。またレジストの性能や重ね合わせ誤差などに関連した比例係数(「プロセス係数」と呼ばれる)が存在し、比例係数を小さくすることによっても解像度は高まる。
EUV露光技術では、光源の波長は13.5nmであり、これは基本的に動かせない。固定である。残るのは開口数とプロセス係数(k1)だけだ。ASMLはEUV光学系の開口数を現在の0.33から将来は0.50を超える値に高めることで、5nm世代と3nm世代のロジック量産を可能にするというロードマップを描いてみせた。
最新露光機「NXE:3400B」で過去最高のスループットを達成
露光装置ベースの開発で具体的に見ていこう。ASMLは2010年に開口数が0.25のEUV露光装置「NXE:3100」を開発し、出荷を始めた。この「NXE:3100」が初めての本格的なEUV露光装置である。「NXE:3100」は、EUV露光による量産技術の開発のために使われたが、商業生産には至らなかった。
3年後の2013年にASMLは、開口数を0.33に高めるとともに、重ね合わせ誤差を低減したEUV露光装置「NXE:3300B」を開発し、出荷を始めた。さらに2年後の2015年には、重ね合わせ誤差を低減することなどで解像度を向上させた「NXE:3350B」を開発し、出荷を始めた。
現在の時点では、半導体研究開発機関のimecや最先端ロジックの製造を手がけるIntel、TSMC、GLOBALFOUNDRIES、Samsung Electronics、最先端DRAMの製造を手がけるSamsungとSK Hynixが、「NXE:3300B」あるいは「NXE:3350B」(またはその両方)を評価機としてEUV露光技術を開発している。
最先端露光技術に関する世界最大の国際学会「SPIE Advanced Lithography」(2017年2月26日~3月2日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催)でIntelは、全世界(すなわちIntel以外も含めて)で8台の「NXE:3300B」と6台の「NXE:3350B」が稼働中だと述べていた(講演番号10143-1)。
そして今年、ASMLは最新世代のEUV露光装置「NXE:3400B」の出荷を始める。「NXE:3400B」は、開口数は0.33と前の世代と変わらないものの、照明光学系を改良するとともに、重ね合わせ誤差を低減することなどで解像度を向上させた。7nm世代のロジック量産に初めてEUV露光を導入する場合に、半導体企業が利用することを想定して開発された機種である。
国際学会「SPIE Advanced Lithography」でASMLは、開発した「NXE:3400B」の実力を定量的に示した(講演番号:
10143-9)。ハーフピッチ13nmの平行直線パターンを解像したときの焦点深度(DOF)は160nm、線幅のばらつき(LWR)は3.8nmである。LWRはまだ改良の必要があるように見える。装置間の位置合わせの誤差は1.8nmとかなり少ない。
光源出力は最大209Wで、このときに過去最高のスループットである104枚/時間を得たとする。このスループットは瞬間最大値であり、安定に得られているわけではない。2018年前半までには、125枚/時間に近いスループットを安定的に得られるようになることが期待される。
EUV露光を量産に投入する場合、露光のプロセスフローは当然ながら、ArF液浸露光と混在するようになる。そこでASMLは、「NXE:3400B」とArF液浸露光機「NXT:1980Di」を接続して露光したときの位置合わせ精度も評価した。プロセスの順序としてEUV露光を前、ArF液浸露光を後としたときの位置合わせ誤差(3σ)は、水平方向(X方向)と垂直方向(Y方向)ともに2.0nm以下にとどまった。
次期EUV露光機は光源出力の増加によって生産性を向上
「NXE:3400B」の後継となる次期EUV露光装置(仮称:「NXE:3450C」)の仕様はおおよそ、見えている。光源の出力を最大で350Wに増やすことで、生産性(スループット)を145枚/時間に高めることを目標とする。ちなみに「NXE:3400B」の目標仕様は光源出力が最大250W、スループットが125枚/時間である。
光学系の開口数は0.33、解像度は13nmで、変わらない。位置合わせの誤差は装置内が1.7nm、装置間が2.0nmと下げていく。出荷時期は昨年(2016年)6月時点では2019年としていたが、最近では出荷時期を明示しなくなった。
次期EUV露光装置(仮称:「NXE:3450C」)の次は、次世代機である高NAのEUV露光装置(仮称:「NXE:3500」)の開発を完了させる計画である。この次世代機で、3nmロジックの量産を目指す。