森山和道の「ヒトと機械の境界面」

ロボットアプリの未来をオープンコミュニティに賭けるソフトバンク

〜「Pepper Tech Festival 2014」開催

Pepper Tech Festival 2014

 9月20日、ソフトバンクモバイル株式会社主催で「Pepper Tech Festival 2014」が東京・渋谷にて行なわれた。「Pepper」(ペッパー)は6月に発表されたソフトバンクのパーソナルロボットで、2015年2月に一般販売が予定されている。およそ1,000人が来場した今回のテックフェスはPepperのアプリ開発者向けイベント。ソフトバンクロボティクス株式会社から開発者向け「デベロッパー特別パック」の内容・価格と200台限定先行予約受付、そして開発体験スペース「アルデバラン・アトリエ秋葉原with SoftBank」オープンなどが発表された。またIBMやヤマハなど他企業とのコラボアプリがブースで紹介されたほか、ソフトウェア開発キット(SDK)とクーポンコードなどが参加者全員に配布され、ハードウェア仕様の詳細も開示された。

Pepperの関節
Pepperのハンドモジュール
Pepperのオムニホイール
1,000人以上が訪れた
写真・動画撮影とWebへの投稿が推奨された
オープニングショーの一場面

開発者先行モデル限定200台で受付中 2月にはコンテスト開催

Pepperの箱。1台だけお持ち帰りとなった。

 まずは「デベロッパー先行モデル」だが、本体価格は198,000円(税別)で、これに、故障時の修理など3年間の無償補償、クラウド音声認識エンジン、サンプルデータ提供、初回配送料・廃棄費用などがセットになった「デベロッパー特別パック」(9,074円(税抜き)×36カ月)が必要になる。一括払いも可能で、現在の消費税8%で計算すると税込み352,800円となる。つまり「Pepper」の開発者モデルは今なら3年補償でおおよそ57万円弱程度ということだ。

 限定200台の抽選となる。申込者には10月頃に抽選結果が通知され、当選者には12月以降に順次Pepperが配送される。11月には購入機が到着するまでの無償レンタルも行なわれる予定だという。テックフェス当日から、こちらのWebサイトで予約受付は始まっているが、先着ではないので今からでも遅くない。なお、抽選販売の受け付けおよび販売はソフトバンクモバイル株式会社を通じて行なわれる。

 開発したアプリを公開するためのアプリストアも2015年2月に公開されると発表された。安全性や品質、キャラの一貫性などガイドラインに基づいた審査はあるが最低限にするという。またロボットクリエイター資格を認定する「Pepper Creator Certification」を計画している。アプリストアでは最初は課金機能は提供されないとのことだが、アプリとPepperを使ったビデオのコンテスト「Pepper Creator's Contest」を2月に行なうと発表された。一部は、一般販売向けPepperのアプリとして展開が検討される。

 このほかWeb上では、ソフトバンクと共同開発したフランスのALDEBARAN Robotics(アルデバラン・ロボティクス)によるコミュニティ「Pepper Creator Community」を設立。開発者同士の情報共有を行なう。

 なお、今回のβ機を先行予約した人には初期200名の「Pepper Pioneer Club」の入会資格が与えられ、モニタープログラムの提供のほか、製品のフィードバックなどを行なう権利が与えられる。そしてもちろん、先行でアプリを開発できる大きな特典がある。なお、これらの料金プランそのほかは開発者向けで、一般販売向けではない。

デベロッパー先行モデルの内容
コンテストを2015年2月に開催予定
料金プラン
デベロッパー向けプログラムを解説したソフトバンクロボティクス事業推進本部長 吉田健一氏

アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank

 テックフェスの翌日21日にオープンした開発体験スペース「アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank」は、Pepperのタッチアンドトライのほか、SDKを使ったアプリ開発教室などが行なわれるスペースで、秋葉原のアートスペース「3331 Arts Chiyoda」の301号室にある。セミナーの予約受付などはサイト上で行なう。既にセミナーは数度行なわれており、開発ツール「Choregraphe」(コレグラフ)を使ったアプリ開発など、その内容も技術情報共有サービスQiitaを使って、こちらで公開されている。基本的に予約制だが、自由席もあるとのこと。

9月21日にオープンした「アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank」
セミナーの様子。ゲームアプリを作るセミナーが行なわれていた。
ソフトバンクモバイル ロボット事業統括部 事業推進室の楊氏
コミュニティへの参加を呼びかけるアルデバランロボティクス コミュニティマネージャー ニコラス・リーゴ氏
秋葉原アトリエマネージャー渋谷純氏
今回ロボットアプリをブースで紹介した企業。このほかIBMとも

Pepperのアプリ例

会場内をうろうろしていたデコレーションPepper

 ブースではPepperを使ったアプリの例が各社から紹介された。いずれも数週間程度で開発されたものだという。

 ユカイ工学株式会社は、Wi-Fiと繋がるオープンソースの赤外線学習リモコン「IRKit」を活用した、Pepper専用ホームコントロールデバイス「マホウノツエ」を出展。音声認識や画像認識のできるPepperをインターフェイスとして用いる提案だ。「暑いなあ」という声などを認識してエアコンをつけるといったこともできる。IRKitのような家電連携を意識したデバイスは多いが、それとPepperとの仲立ちを意識した例の1つだという。

 ヤマハ株式会社は歌詞を入力すると自動的に作曲して合成音声で歌う「Pepper Sings」を出展。ヤマハの「ボカロネット」のネットサービス「VOCALODUCER」(ボカロデューサー)を用いている。ユーザーが適当に歌詞を入力すればあとはお任せで自動作曲して、歌ってくれる。

 Yahoo! JapanはYahoo!のAPIを使ったサービスを出展。例えばWebを閲覧しているときに特定のサイトを開くと、それに連携してPepperが動き始めるといったことができるという。このほか、Yahoo!知恵袋の内容やトレンドをPepperが紹介したり、バーコードを読み込ませてショッピングを可能にするといった例が紹介されていた。

 土佐信道氏のアートユニット明和電機は、よしもとロボット研究所のバイバイワールドと協力して、Pepperと明和電機のナンセンスマシーン(トイ楽器)とのコラボデモを披露した。土佐氏によれば「ハードウェアとしてPepperがどこまで耐えられるのかなということをやってみた」ものだという。後ろの自動楽器はMIDIで連動させている。

 IBMは、同社の質問応答システム「Watson」とPepperの連携を披露。Watsonについては本誌過去記事「クイズ王を破ったIBMの質問応答システム「Watson」とは」をご覧頂きたい。

 Pepperのショップ用の会話を開発した株式会社ワン・トゥー・テン・デザイン(1→10design)は、2台のPepperとの会話をデモ。Pepperが2台いることで人間は不思議な感覚を味わう。

 ソフネック株式会社はPepperが積み木を行なうデモを行なった。自然言語処理、画像認識、行動プランニングのデモンストレーションで、同社の「AZ-Prolog」を用いている。

 クリエイティブラボ PARTYは「Pepper画伯」を展示。相手の顔画像を取り込んで2値化して胸のディスプレイに出力する。残念ながら実際に絵筆を持って描いてくれるわけではない。

 トライオン株式会社は筑波大学の田中文英准教授が監修した、ロボットを使った英語教育プログラムを出展。「共に学ぶ」がコンセプトで、Pepperが一方的に教えるのではなく、逆に「できない子」役になり、子供たちがPepperに教えようとすることで、学習効果を上げるというもの。同社は今後、ロボットコミュニケーション事業を展開していくとのこと。

ユカイ工学「マホウノツエ」。Pepper経由で家電を赤外線で操作
1→10デザインによる2台のPepperとの会話
ヤマハによる「Pepper Sings」
Yahoo!との連携。自然な流れと言えそうだ
明和電機によるPepperの活用。直接コントロールも可能
IBM WatsonとPepperの連携。残念ながら最新情報を答えてくれるわけではなかった
ソフネック株式会社による積み木デモ。口のカメラを使用している
PARTYによる「Pepper画伯」。多くの人が行列していた
トライオンによるロボットを使った英語教育プログラム。後ろは筑波大学の田中文英氏
IBM Watson とPepperの連携
ヤマハ「Pepper Sings」
ソフネック株式会社による積み木デモ
ユカイ工学「マホウノツエ」

「ロボットには約束された未来がある」

 テックフェスは、Pepper 5台を使ったパフォーマンスから始まった。「HDMI」というメディアアートユニットによるものだ。

「Pepper Tech Festival 2014」オープニングショー
ソフトバンクロボティクス株式会社 代表取締役社長 冨澤文秀氏

 基調講演はソフトバンクロボティクス株式会社代表取締役社長冨澤文秀氏の講演から始まった。6月の「Pepper」発表後、多くの、特に「成長していて勢いがある」人達が、色々なアイデアを提案してきたという。1980年代、PCが普及し始めた頃、ソフトバンクはソフトウェアの流通会社として始まった。一時はシェア8割に達したという。1990年代になってインターネットが普及を始めた。ソフトバンクはヤフージャパンを設立し、2000年代、ブロードバンドが普及し始めてからははYahoo! BBを展開。2010年代はスマートフォンの時代で、ソフトバンクはiPhoneを日本で最初に導入した。では次は何なのか? ロボットだという。

 ソフトバンク社内で、次の30年はどうなるのか、全社員から意見を吸い上げて社長と議論した中で、最も強い意見がロボットだったという。100年前にライト兄弟は空を飛んだが、100年後、どういう世界になっているか、家庭や工場はどうなるかと聞かれると、多くの人がロボットの存在をそのなかに想像する。つまりロボットは「約束された未来」を持っている製品だと言えるという。

 ではロボットはいつから始めるべきか。冨澤氏は「今からでは遅い」と続けた。ソフトバンクは数年前から準備を始めた。ロボットを構成する部品の製造コストが下がり、通信環境やクラウドなどが整ってきたからだ。そして「アルデバランというすばらしいパートナーと出会った瞬間にロボットプロジェクトは始まった」という。国内ロボット市場は10兆円を超えるという予想もある。

 しかしながら、未来があるとなると、グローバル競争時代に突入するのが必至だ。アメリカは数年前からロボット開発に力を注いでいる。今、日本の状況はどうか。スマートフォンの多くは米国あるいは韓国製となっている。冨澤氏は「ロボットは日本のお家芸。日本はこの分野で絶対負けてはいけない」と語り、2020年オリンピックの時に、日本に降り立つと多言語対応のロボットがいて人を案内する、お店や職場にもロボットがいる、そんな風景も6年後には普通にあり得ると続けた。そして、家族の一員としてロボットが家庭に参加しているかもしれない。それが「Pepper」だというわけだ。例えば、Pepperと話しているうちにいつのまにか英語が喋れるようになっているかもしれない。子供たちはみな「ロボット・ネイティブ」となる。

 冨澤氏は「IT産業は常に開発者が可能性を切り開いてきた」と続けた。Pepperには無限の可能性があるという。「Pepperはヒト型で感情が理解できる生物」だと述べて、家庭に実際に入れた時に子供がパンを食べさせようとしたというエピソードを紹介。「本能的にロボットを生き物として認識している。これがロボットと他の機械との違い。しかもロボットは作ることができる。作れる生物としての可能性を持っている」と述べた。クラウドに繋がることで継続進化し、みんなが創るアプリによってさらに成長することができる。

 今まではアプリ開発はエンジニアリングの仕事だったが、Pepperはアーティストやコンテンツメーカーでもクリエイターになりえる。「ホームページを作った人でなくてもロボットコンテンツが開発できる」と述べて、そのための仕組みとして、アプリストアやアルデバラン・アトリエ、コミュニティサイトなどの構想を発表した。クリエイターコミュニティにはソフトバンク側も入るという。

 最後に、「ロボットには約束された未来がある。だがいきなりはやってこない。強い信念を持った人がどこかで無茶をして始まるが、その信念と夢を共有する仲間がいて、一緒に行動することで初めて成長する。ぜひ、共に未来を切り開こう」とまとめた。

これからの子供たちは「ロボット・ネイティブ」になる
ロボットは感情が理解できる生き物だという
ロボットには約束された未来がある

好感が持てる友人のようなロボット

アルデバラン・ロボティクス社 創業者兼CEO ブルーノ・メゾニエ氏

 続けて、Pepperを共同開発したアルデバラン・ロボティクスのブルーノ・メゾニエ氏が登壇。メゾニエ氏は同社が既に研究者用小型ヒューマノイド「NAO」を6,000台販売していることを紹介。人に尽くすロボットにはキュートさ、ヒューマノイドであること、そして親切であることが必要だと述べた。ロボットは家庭に歓迎されないといけない。ふるまいやデザインも重要だ。ロボットを受け入れてもらうためにかわいいと言ってもらえるものでなければならないと考えているという。

 ではそのために何が必要なのか? 多くのハイテク企業はインターフェイスに熱心に取り組んでいるが、やりとりをするのにもっとも最適な形がヒューマノイドだと語った。人間は、言葉ではなく、動きで直感的にどういう相手かを判断しているからで、ヒューマノイドであることは必然であり、技術と人が付き合う究極の手段だと述べた。

 また、人に対して共感を持てる、人が好きになるロボットが必要であり、ロボットは不安を感じさせてはならないと続けた。好感が持てる友人のようなロボットが必要であり、スターとなるのは人間でなければならないと語った。そのためのツールが同社の「NAOqi OS」だという。

 メゾニエ氏は「世界で多くの人がこの革命に参加したいと考えている。誰もがロボットの楽しさを開拓できる」と述べて、「ぜひ一緒に、新しい革命を創っていきましょう」と呼びかけた。

「The light orchestra with Pepper」

 午後のセッションは、チームラボ株式会社による観客参加型のショー「The light orchestra with Pepper」から始まった。専用アプリをインストールしたスマートフォンを使ったショーで、まず最初に観客それぞれの座席位置を音波を使って認識。そしてスマートフォンのライトとスピーカーを制御して、光と音のショーを会場全体で奏でるというもの。Pepperはその指揮役だった。動画をご覧頂きたい。

チームラボによる「The light orchestra with Pepper」

パネルディスカッション Pepperは隣のPepperを認識するか

パネルディスカッションの様子

 続けてパネルディスカッション「僕たちのつくる未来の世界 〜Pepperが変える生活って何?〜」が行なわれた。登壇者はGoogle API Expertの安生真氏、大阪大学基礎工学研究科の石黒浩教授、チームラボ代表の猪子寿之氏、ネット中継で明和電機の土佐信道氏。個性的な面々を仕切るMCは林信行氏が行なった。

 安生氏は、SFのものだったロボットが現実に入ってきて一般の人がロボットと接することで、どのように接し方が変わっていくのが楽しみだと語った。石黒氏はPepperが何がどこまでできるどういうものなのか、理解してもらうことが重要だと指摘。そのためにゲームの手法が使えるのではないかと述べた。Pepperとストーリーやコンテキストを共有できる状況が創れるかどうかが重要だという。猪子氏は、Pepperは「いじめたくなる」が「愛おしい」と述べて、石黒氏のコメントに対して、論理的なコミュニケーションが取れない、相互理解ができない前提で話をする相手もいると述べた。中継での参加となった土佐氏は「感情移入される引き出しをどれだけ持っているかはアートとしての魅力なんですかね。なあんちゃって」とおどけてみせた。

 土佐氏はNAOを使ってアルデバランロボティクスとダンスパフォーマンスを行なったことがあり、その時の経験ではロボットが倒れたり壊れたりするアクシデントも舞台要素として取り込むようになってから面白くなったといい、「コントロールできないものを受け入れられるかどうかは大きいと思う」と述べた。石黒氏は平田オリザ氏とロボット演劇を通じて「人らしさ」を探っているが、これからのロボット演劇では、3年後には街角で見られるような、現実の中で実現できるものを演劇にするつもりだと語った。

 これからのアプリについては、安生氏はちょっとしたゲームみたいなのを作るところから始めたいと述べた。スマートフォンと同じで、最初の1年くらいは「しょうもないアプリ」を作る人が多いだろうと述べた。石黒氏は7割くらいげゲームで、残りの2〜3割が教育アプリになるだろうと推測。それよりも「たくさんPepperをもらったらPepperの世界を作りたい」と述べて、独自の世界観を展開した。Pepperと話している時にPepperが人間の話を理解できなければ、隣のPepperと話せばいいのだという。そうすると残された人間の側が逆にアウェイになり、対話は成立するという。「ロボットメインの世界を創って、疎外感を味わいたい」「社会を構成する方が勝つ。1台で勝てないなら集団でくればいい」と語った。猪子氏もそれに同意した。Pepperとの対話はコミュニケーションが取れる前提だとイライラするが、ロボット2体が勝手に遊んでいる方がいいという。土佐氏はハードウェアに興味があるので、Pepperの今の短所と思われる部分を改造する案をスケッチで提示して、会場の爆笑を取った。

 最後にPepperにどんな進化をしてもらいたいかという問いかけが行なわれた。安生氏は「目からビームが出てほしい」とジョークで答えた。石黒氏は「街中にたくさんのPepperがいて、ちゃんと連動して欲しい。Pepperという種族を互いに意識してもらう機能をつけてもらうと、人の意識が変わると思う。通りすがりのPepperを無視し合わないことが大事」と述べた。猪子氏は「エンジニアじゃない人たちにとって面白いんじゃないか。ああいうのがいると人が何なのかをすごく知れると思う。Pepperが100台くらいいる部屋に住んでみたいですね」と語った。土佐氏は「Pepperはあれだけのセンサーと処理系がつまって19万円。あのロボットを使い放題できるシチュエーションはすごい。それをソフトバンクさんがどれだけ見逃してくれるかに期待したいと思う」と述べた。

左から安生真氏、石黒浩氏、猪子寿之氏
MCを務めた林信行氏
土佐信道氏はネット中継で参加

「コレグラフ」の使い方

実際にPepperとコレグラフを使いながら簡単なレクチャーが行なわれた

 続けてPepper技術セッションが、アルデバラン・ロボティクスとソフトバンク・ロボティクスの技術チームから行なわれた。アルデバランからはR&Dエンジニアのテイラー・ベルトロップ氏とスタジオチームエンジニアのアンジェリカ・リム氏、ソフトバンクからはソフトウェア開発部柴田曉穂氏が登壇した。3人は、アルデバランでのPepperの開発コードが「Juliet」だったことや、バランス制御など安全性を担保する機能などを紹介しつつ、主に配布したSDK「コレグラフ」の使い方についてレクチャーを行なった。

 コレグラフを使うことで、ドラッグ&ドロップで「ボックス」を配置して繋いだり、2つのポーズのキーフレームを入れるだけで両者の間を自動計算してロボット動作のアニメーションを簡単に作って実行することができる。これらと各種センサーを活用することによって、Pepperは人によりそうことができるという。

 そのためのAPIは1,350を超える数が用意されている。中には認識した人のシャツの色を認識するAPIもあるという。センサーからの情報はいったん「ALメモリー」にメモリイベントとしてプールされて、随時更新、アクセスされる。壇上では実際にPepperの足元のバンパースイッチを押すと「痛い」と言う動作を作ったりしながら機能が紹介された。「人間らしいコメントを入れるだけで、みんなが笑ってくれる」と柴田氏は述べた。これらのイベントに対するアクションは「ボックス」としてコミュニティ内で共有できる。このような開発が得意な人はボックスを作ればいいし、不得意な人はボックスをパズルのように組み合わせるだけでも面白いアプリケーションを作ることができるというわけだ。

 安全面に関しては「NAOqi OS」のフレームワークがカバーする。ダンス動作などもこけないところでちゃんと止まる機能があり、いよいよこけそうになると緊急停止する機能がある。キーフレームを繋いで動作アニメを作る時も、例えば腕が頭部にぶつからないよう(干渉回避)にフレームワークが自動計算してくれる。クラウドロボットマネージメント機能についても簡単に紹介された。また動作アニメーションはオフセットという形でディレイをかけたりすることもドラッグ&ドロップだけでできる。アニメーションのUIは3Dアニメを作っている人には親しみやすいものだという。

 ロボットAPIプログラミングをしたい人はPythonでプログラムを書くことになる。人間が笑っていると判断したらアウトプットをトリガーするという例でレクチャーは行なわれた。Pepperの感情認識APIとは、人の表情と声を利用して人間の感情をパラメータに変換するAPIである。年齢を認識するAPIもあり、場合によっては人間との距離情報を含めることもできるという。会話例も紹介され、速度やイントネーションを変えたり、アニメライブラリを会話の中から呼び出すこともできる。なおMacユーザーは「サードパーティのPythonは使わないこと。Appleのものを使ってください」とのことだった。もっと詳しく知りたい方は上述の、開発体験スペース「アルデバラン・アトリエ秋葉原with SoftBank」で体験されることをおすすめする。

ソフトバンクロボティクス 柴田曉穂氏
アルデバランロボティクス アンジェリカ・リム氏
アルデバランロボティクス テイラー・ベルトロップ氏
1,350を超えるAPIが用意されている
安全性に関するPepperの機能
ソフトバンクショップでのPepperの会話

トークセッション「クリエーターから見たPepper開発実情」

 最後に、実際にPepperを使ったアプリ開発を行なった、よしもとロボット研究所チーフクリエーター「バイバイワールド」と「1→10design」によるトークセッションが行なわれ、開発の裏側が紹介された。MCはソフトバンクロボティクスのPepper開発責任者の林要氏と、前述の柴田曉穂氏の2人が行なった。

 バイバイワールドからはクリエイターの高橋征資氏、シン・キョンホン氏2人が登壇。高橋氏がハードウェア担当、シン氏がソフトウェア担当だ。ユニット名には、アナログな世界に行こうよという意味が込められているという。アナログとデジタルが融合したエンターテイメントアートを製作している。以前彼らが作った「音手」をトイ化した「パチパチクラッピー」は少し話題になった。

 TV番組と同じような作り方をしており、作家がいる。チーフプランナーとして中野俊成氏が作ったコンセプトをクリエイターが咀嚼して再び戻すという作り方をしているという。なお高橋氏の活動については、本誌過去記事「物理的な肉にこだわるデジタルなパフォーマンス」も合わせてご覧頂きたい。

バイバイワールド高橋征資氏(左)、シン・キョンホン氏(右)
パチパチクラッピー
Pepperに持たせてみた様子
バイバイワールドがこれまでに制作したPepperコンテンツ
チーフプランナーは中野俊成氏
デジタル的当てゲーム「デッジボール」

 「1→10design」からは、ディレクション担当の長井健一氏と会話演出担当の笹江幸弘氏の2人が登壇。同社の以前の作品である「白戸CG郎」をNAOに入れたら、ちょっと見え方が変わったというエピソードが紹介された。「白戸CG郎」はソフトバンクのCMに出てくる「お父さん」の格言を言うCGキャラだが、それをNAOに入れたところ、小さいNAOが小生意気に喋るというキャラになり、それ見て「いける」と判断したのだという。それからPepperは面白くなったと紹介された。ただ、「1年くらいは迷走した」そうだ。

「1→10design」のこれまでの作品
1→10design。京都、東京、上海、シンガポールに拠点がある
長井健一氏(左)、笹江幸弘氏(右)
Pepperのショップでの会話やCMなどを担当

Pepperのデザインの変遷

 それぞれの自己紹介の後は、Pepperの第一印象から。バイバイワールドの高橋氏は「スター・ウォーズに出てくるようなでかい扉が開くとPepperがいた」と振り返った。ソフトバンクの林氏は「お客様の最高機密を扱う部屋」がたまたま空いていたので使ったとその部屋を紹介した。高橋氏は実際に見る前はNAOのソフトバンクバージョンかなと思っていたら人サイズのPepperがいたので大きいなというのが第一印象だったという。シン氏は胸のタブレットと「目が大きい」のに目がいったという。デザインについてはいろいろ喧々諤々があったという。今回のテックフェスではPepperの初期デザインも公開された。ちなみに女性ウケの方が良いそうだ。

2012年1月頃のデザイン
2012年1月頃のデザイン。口が検討されている
2012年1月頃の別のデザイン案
2012年1月頃のデザイン案。移動方式の検討スケッチ
さまざまな頭部の検討案
2012年2月頃のデザイン
2012年3月頃のデザイン
2012年7月頃のデザイン。肩のLEDの検討
2012年9月頃のデザイン。外観はほぼこれで完成
ソフトバンク側がPepperをバイバイワールドや1→10design側に紹介した部屋
クリエイターの4人

 1→10designの長井氏らが加わった時のPepperは外装も3Dプリントで作られたもので、その外装だけで「家一軒分くらいした。当時はブレーキがなくてPepperもよく転倒していた。今のPepperにはブレーキに加えてオートバランスも入っているので、「安心してよそ見ができる」という。笹井氏は、その「不思議な空間」でバイバイワールドの2人が疲れた様子で開発を続けている様子を見て、その部屋と2人の様子のギャップが面白かったと語った。

 Pepper開発環境の使い勝手については、シン氏は「めちゃくちゃ使いやすい。かなり直感的に創れる。知らない機能でも即座に始められるという点でかなりハードルが低い」と述べた。そのため「間や動きの作り込みに集中できる」という。笹井氏も「知らない機能でもぱっとやってぱっと試せる」と同意した。なお最初の頃のソフトウェアはかなり落ちていたが、今は安定しているそうだ。

 最もこだわったところについては、高橋氏は「しゃべりの間合いですね。面白いことをやる時はちょっとした間合いが効いてくる。『ここ!』みたいな所をぱつんと作ることが大事」だと強調した。「0.1秒違うだけで面白さが変わってくる」のだそうだ。またイントネーションを調整するために、漢字を当て字にしたり、いろいろ苦労したという。ちなみにこれは合成音声あるあるだそうだ。開発中は、例えば早口言葉を作っている時は1日中同じフレーズを繰り返し、Pepperが笑うコンテンツの時はずっとPepperの笑い声が響いていたという。林氏は、Pepperの感情認識機能を作り込んでいる時は、ある日には1日中怒っていたかと思うと、次の日には1日中泣いている声が隣の部屋に響いており、その隣室の別プロジェクトの人から「大丈夫か」と言われていたというエピソードを紹介した。

 トークセッション中に1→10design側から「我々は独自にPepperの会話と動き専用のCMS(コンテンツマネジメントシステム)を作った。ソフトバンク側で買い取って、Pepperにバンドルしてもらえないか」という提案がソフトバンク側にあった。トークセッション中のこの提案に対してソフトバンク側は「ではコミュニティで公開して頂きたい」と答えた。どちらも終始笑顔であったものの、なかなか興味深いやりとりに対して、会場も沸いていた。

トークセッションの様子

 また、開発途中のボツ案として、バイバイワールド高橋氏は動きが激し過ぎるものはボツなったと述べた。またPepperの指がブルブル震えるような動きも作ったが、ハードウェアの耐久性の面で難ありと判断されてボツになったという。だが高橋氏はその動きにずいぶん思い入れがあるようで、ぜひPepperにバイブレーションモーターを入れてもらいたいと提案していた。会話を作っていた1→10designは、長期間やり続けたせいで、会話のネタの鮮度が落ちてしまったという。例えばダイオウイカに似ていると呼ばれると喜ぶネタや、壇蜜に関するネタがあったそうだ。

 最後に、バイバイワールドの高橋氏は「R-1」(ロボットワン)ができないかと提案。シン氏は、開発者向けイベントであることを意識してか、「プログラムを書かないと気持ち悪いと思う人も多いと思うが、触ってもらいたい」と語った。1→10design笹江・長井の両氏は「1→10designでは開発メンバーを募集している。Pepperの開発はロボット開発というより1つのキャラを創っていく感覚だった。ぜひそういう風になってもらいたい」という呼びかけを行なって、全体が締めくくられた。

ソフトバンクロボティクス 林要氏
ソフトバンクロボティクス 柴田曉穂氏
バイバイワールド 高橋征資氏
バイバイワールド シン・キョンホン氏
1→10design 長井健一氏
1→10design 笹江幸弘氏

 最後に、来場者で予約受付をした人の中から限定1名へのPepper先行レンタルの抽選が行なわれた。最初の当選者は運悪く既に帰ってしまったのか名乗り出ず、2番目に抽選で選ばれたナナミ氏がPepperを当日持ち帰ることになった。

当選したナナミ氏(左)とソフトバンクロボティクス冨澤文秀社長(右)
懇親会にも多くの人たちが残っていた
先行で公開となったPepperの充電台
Pepperの開梱。このPepperが1台限定お届けとなった