森山和道の「ヒトと機械の境界面」
「Pepper App Challenge 2015」開催
~マジックや受付、サビドン等から選ばれた最優秀賞アプリは認知症サポート
(2015/2/24 06:00)
2015年2月22日、東京都内の青山にあるスパイラルホールにて「Pepper App Challenge 2015 あなたのロボアプリで未来を拓け」が行なわれた。主催はソフトバンクロボティクス株式会社。
ソフトバンクグループが今夏を目処に一般向けにも販売を計画しているパーソナルロボット「Pepper」のアプリ開発コンテストで、審査基準は「『未来のカタチを生み出す』ようなロボアプリを審査対象とする」。賞金は、最優秀賞100万円×1名のほか、審査員賞10万円×数名。応募者全員にオリジナルPepperリストバンドがプレゼントされた。
最終審査審査員は以下の7名(五十音順)。安生真氏(Google Developer Expert)、池澤あやか氏(女優、プログラマー)、山海嘉之氏(CYBERDYNE株式会社 代表取締役社長)、スプツニ子! 氏(アーティスト)、中野俊成氏(よしもとロボット研究所 チーフプランナー)、大和信夫氏(ヴイストン株式会社 代表取締役)、蓮実一隆氏(ソフトバンクロボティクス株式会社 取締役)。
最優秀賞を受賞したのはプロジェクトチーム・ディメンティアによる「ニンニンPepper」。エンターテインメントやビジネス向けなどのアプリケーションもあったが、介護を目的としたアプリケーションに優秀賞が送られる結果となった。
多様な参加者によるロボットアプリ開発が進行中
各アプリのプレゼンテーションに先立ち、ソフトバンクロボティクス株式会社事業推進本部 本部長の吉田健一氏は「Pepper」のこれまでの歩みを振り返った。「Pepper」の開発者向けモデルは2月27日に発売されることが先日発表されたばかり。吉田氏は2014年9月20日に「Pepper TechFes 2014」が開催され、その日から全てが始まったと振り返った。TechFesは1,000席が埋まり、先行販売の200台はすぐに完売した。その後に開催されたハッカソンにも多くの人たちが参加し、女性限定、キッズ限定等のハッカソンも行なわれ、幅広く多様な参加者がアプリ開発に参画したのが「ロボアプリ分野の特徴」だったという。
吉田氏は先行販売モデルの購入者からなる「Pepper Pioneer Club」のイベント写真も示した。今回のアプリコンテストには、Pepperの生産の問題で、先行モデルが手に入ったのが1月にずれこんだ開発者も多かったにも関わらず、「非常にたくさんのアプリをご応募いただいた」と語った。
アプリ開発の中で「Pepper」の可能性がほかにも見えてきたという。映画「ベイマックス」の吹き替え声優としての活動や、ピン芸人コンテスト「R-1ぐらんぷり2015」への出場などのことだ。ロボット声優やロボット芸人としての活動を通して、タレントとしての可能性も少しずつ見えてきているという。一方ビジネスとしても、ネスレのコーヒーマシンの営業マンとして「Pepper」が採用されて、販売活動をしている。これもいろいろ新しい発見があったそうで、例えばデジタルサイネージの動画を見てもあまり見ないが、「Pepper」が話しかけると、足をとめてしまうお客もいるという。
販売員はこんな会話をしてマシンを売っているそうだ。普段カフェで飲んでいるコーヒー代は月額だと結構な金額になりますよね。普通は家庭でコーヒーを購入すると1種類をずっと飲まなくてはならないですよね。フィルターの掃除も面倒ですよね。でもこのコーヒーマシンだと1杯100円以下で14種類を楽しめて、カプセルを捨てるだけで洗わなくていいんですよ。Pepperもそんな会話をして、コーヒーマシンを買ってもらっており、実際、売り上げも上がっているという。営業で活躍するPepperにもかなり可能性があると見ており、ほかにも飲食、不動産、金融、ホテル、交通などで活躍できる可能性があると考えているという。
シニア・認知症対策、キッズ教育分野への応用も可能性があるという。認知症サミットで海外の政府高官の対応をしているPepper、英語や算数をPepperが教えるだけでなく、敢えて間違えるPepperに子供が教えていくというプログラムで、共に学んでいくことで教育効果を上げられるといった話題を紹介した。また、キッズプログラミングの教材としても多くの会社から引き合いがあるという。多くのセンサーやモーターが付いたPepperのプログラミングをすることは非常に面白いと感じられるそうだ。また、エンジニアリング分野だけでなく、人をエミュレートしていることで人間の認知能力などサイエンス分野においても興味が湧くようになると語った。
「Pepper」は当初は今年(2015年)2月から一般販売予定だったが、2月27日10時から開発者向けに300台限定販売となった。販売チャネルはWebおよびソフトバンク表参道店。一般向けの販売は夏頃を予定している。料金は本体価格198,000円。そのほか、任意で月額14,800円の「基本プラン」、月額9,800円の「保険パック」などが提供される。36カ月分を一括払いにして、それに別途必要なロボット手続き手数料(9,800円)を加えると、合計金額は1,093,400円となる。
本体にはハードウェア、開発環境、ロボットOS、感情認識APIが含まれる。アプリの開発だけなら本体だけでも可能。基本プランにはクラウドを利用した会話、アプリストアの利用、キャラクター、プリインストールされたベーシックアプリなどが含まれる。当初のアプリ本数はおよそ100本だが、継続的に増加させていく予定だ。ベーシックアプリとは家族の顔認識と名前を覚える機能、会話、Pepperを介したスマホ連携機能など。
保険パックはメンテナンス提供だ。Pepperは本体の販売価格以上のコストで作られているので、修理にはかなりのコストが発生する可能性がある。保険パックに入ると、何度でも修理費用が保険でカバーされる。故意や過失による修理でも割引価格で修理するという。また専門スタッフによる無料カウンセリングも行なわれる。
基本パックと保険パックに同時加入すると、充電ベースが後日発送される。先行モデル予約で落選した人には優先予約が可能になる。先行モデル購入者には2015年秋頃を目処に無償アップグレードが行なわれる。処理速度が大分アップして、会話などもよりスムーズになっているという。
最後に吉田氏は「一般向け販売を夏頃に予定しているので、開発者は夏を目処に開発を進めてもらいたい」と述べた。
ロボットアプリ・プレゼンテーション
この後、10のアプリケーションが、各開発者からプレゼンされた。前述のように、最優秀賞はプロジェクトチーム・ディメンティアによるシニア向けアプリ「ニンニンPepper」だったが、他にもエンターテイメントやビジネスなど、ジャンルの全く異なる色々なアプリが紹介された。当日発表順に紹介する。
Pepperによるクローズアップマジック
トップバッターのマッキー小澤氏はPepperを使ったクローズアップマジックを紹介。お笑いステージマジックショーを意識したもので、Pepperがタブレットに表示された赤いスポンジボールを取り出し、消したりまた出現させたりするというマジックではおなじみのネタである。これをそもそもグーとパーしかできないマジックハンドのような腕しか持たず、軸数も少なく、間接速度にも限界があり、機体の個体差もあるPepperで実現するのはかなり大変だったようだ。例えば手首もないのだが、硬い鉛筆を動かすと残像で柔らかく見えたりするような効果を使って、あたかも手首があるかのように見せているという。
審査委員からは、本来しなやかではないロボットの動きをしなやかに見せる点、そして人とロボットが一緒になってコンテンツを作っていくかといった発想などが評価され、「ベストクリエイティビティ賞」を受賞した。個人的にも、これがPepperのハードウェアをフルに使っており、動く機械である「ロボット」ならではのアプリケーションだったと思う。
Pepperリモート
普段はWeb開発者だというOYOYO-PROJECTによる「pepper remote」は、WebSocketを使ってクラウドを経由することでPepperをスマートフォンから操作するためのアプリ。Pepperのタブレットに表示されたQRコードを読み取り、そこからアクセスすることでPepperを操作できるようになる。クラウド上のサーバからQRコードをとってきて、そのQRコードからウェブにアクセスすることで、どのスマートフォンと接続しようとしているのかを判別する。
リアルタイム双方向通信を実現する基本的なアプリであり、応用可能性はありそうだ。審査員からは、これを使うことで何をするかがより具体的に見えると良いのではないかと評価されていた。
Pepperと一緒に遊ぶ忍者ゲーム
とのさまラボの「忍者ゲーム」は、Pepperのタブレットを使ったアクションゲームで、Pepperに音声でコマンドを送ることで、ゲーム内キャラクターを操作する。それによって、「Pepperで」遊ぶのではなく、「Pepperと」遊ぶような感覚を出すことを狙ったアプリだ。Pepperとタブレット間のデータの受け渡しにはQiMessangerを使用。忍者ゲームはHTML5のゲームエンジンphaser.jsを使用している。今後は麻雀ゲームなどにも展開していきたいという。
審査員からは音声認識でアクションゲームをプレイするという、普通は躊躇するようなものを作りきったことがすごいとか、もどかしい感じがあえて新しいのではないかといった評価がなされていた。また、ロボットを使う時の時間差を体感できる練習システムとしての可能性もあるかもしれないと評価される一方で、ロボットならではの物理的な側面にも目を向けた方がいいのではないかと指摘されていた。
認知症サポートロボットとしてのPepper「ニンニンPepper」
プロジェクトチーム・ディメンティア「ニンニンPepper」は、健康・医療・福祉とデザインを結ぶプラットフォーム「LIFE & MEDICAL DESIGN LATFORM(LMDP)」が12月に主催したPepperを使ったヘルスケアロボットアイデアソンで出会ったチームによるアプリ。認知症サポートロボットとしてのPepperの可能性を探ったものだ。具体的には目覚ましや薬を飲む時間の喚起、家族との写真を使ったメールのやりとりなどを用途としている。
主にPepperを使った会話を重視しており、Pepperを高齢者に寄り添い、そして高齢者と医療介護者、家族などと繋ぐハブにできないかと考えているという。すぐにビジネス展開できるものではないが、ロボットの新分野の開拓や、社会問題の解決に挑んでいる点が評価され、最優秀賞とベストソーシャルイノベーション賞をダブル受賞した。メンバーは大学や病院に属している人たちで、本業終了後にスカイプなどを使ってまとめあげていったという。最優秀賞の授賞に登場したソフトバンクロボティクス代表取締役社長 冨澤文秀氏も、「真剣さが伝わってきた」とコメントした。
Pepper受付スマホ通知アプリ
イサナドットネット株式会社による「Pepper受付スマホ通知アプリ」は、QRコードを使った受付アプリにPepperを組み合わせたもの。事前に発行されたQRコードをPepper頭部のカメラにかざし、受付を行なう。来訪者と認識するとPepperは担当者にプッシュ通知を送る。待っている間にはディスプレイを使って会社の情報などを提示する。
審査員からは単なる受付だけではなく、ほかにも色々な可能性があると評価された。既存の受付システムとも共存可能であることから、最もはやくビジネス化される可能性があると「ベストビジネスモデル賞」を受賞した。なお、受付アプリはほかにも多くの応募があったという。同社は「会社として本気でPepper事業に取り組むことを示すことができてよかった」と語った。
Pepperに自分撮りさせる「Pepperセルフィ」
IMJ すまのべ! の「Pepperセルフィ」は、Pepperにセルフィ(自分撮り)を撮らせるアプリ。カメラにはサイズもコンパクトでスマートフォンから制御できるオリンパスのオープンプラットフォームカメラ「OPC」を使い、それをPepperの右手に取り付けて、撮影させる。審査員からはPepperから人への誘導や、そのためのUI、呼びかける声も作りこむなど広い意味でのデザイン面も考慮している点が評価され、「ベストユーザーインタフェース賞」を受賞した。
ウェルネス Pepper
「Pepper受付スマホ通知アプリ」のイサナドットネット株式会社は「ウェルネス Pepper」というアプリもエントリーしていた。最近スマートフォンでも増えてきたウェルネス系のアプリケーションをPepperとつなげたものだ。ウェアラブルデバイスや各種センサーなどとPepperが連携し、睡眠不足やストレスを通知する。プレゼンビデオでは「いびき音をSNSにあげるぞ」などとPepperが言ったりするなど、ロボットならではのキャラクター性を活かして健康への動機付けに結びつけようとしている点が審査員から評価されていた。
quiz with pepper
「pepper remote」のOYOYO-PROJECTも、「quiz with pepper」というアプリをエントリーしていた。こちらはWebサービスの典型で、ユーザーがクイズをWebサイトで作成し、それをPepperが出題するというもの。ユーザーが多く集まれば、クイズが無限に作られるので飽きることがないという。審査員からはPepperを使っている意味があまりないのではないかと指摘されていたが、基本的なアプリケーションとしてはありだろう。
SabiDon with pepper
TechCrunch主催のハッカソンで24時間で作ったアプリだというTeam SabiDon「SabiDon with pepper」は、ベストテクノロジー賞とベストエンタテインメント賞をダブル受賞したアプリ。上述のクイズと同様、PepperがWebサービスから音楽のサビを引っ張ってきて「サビドン」をする。早押しのボタンにはPepperの腕を使う。始める前にプレーヤーの年齢性別を入れることで、おおむねその人に該当する音楽のサビが問題として出題されるようになっている。Pepperのスピーカが結構いいことから発想したアプリだという。
審査員からは「最初から無限に出題できるのは圧倒的な有用性がある」、「例えば歌うだけだったカラオケの新しい可能性にも繋がるかもしれない」と高く評価された。また、次の展開として一緒にPepperが踊ってくれるといった案もあり「盛り上げ役としてのコミュニケーションロボットの可能性を感じさせる」と、審査員たちの想像力を強く刺激していたようだった。
Pepperビンゴ
「忍者ゲーム」アプリをエントリーしていた「とのさまラボ」もアプリ「Pepperビンゴ」をダブルエントリー。Pepperをビンゴの司会補佐として使おうというもので、Pepperに表示されたQRコードを読むとスマートフォンにビンゴカードが提示される。抽選もPepperが行なう。Pepper 1台と複数人とが同時に楽しむことができるコンテンツである。1対多での利用に使えるアプリで、他にも司会進行やアンケート集計などに使える可能性がある。これもデフォルトのアプリとして入っていてもらいたいような機能ではある。
このほか、今回の最終審査には残らなかったが「どうしても表彰したい作品」として、小学生の「shinnosuke」による「Pepperの夢」、高齢者見守りアプリを提案した「team mimamori」の「みまもりPepper」にそれぞれ特別賞が贈られた。
Pepperは何ができるのか
最後にソフトバンクロボティクス代表取締役社長の冨澤文秀氏は「開発者たちの発想力」を高く評価した。「Pepperは何ができるのか」という質問は、最も多く寄せられる質問でもあり、答えにくい質問でもあるという。今回も色々なジャンルのアプリケーションの応募があったように、アプリケーション次第で無限の可能性があるからだ。
今後、「Pepper」は27日に開発者向けに発売され、その後、一般向けに販売される予定だ。「一般向け」とは言っても、その中にも「多くの法人需要があると考えている」という。そこで同社では「開発者と法人を繋いで、ビジネスを持ち上げる仕組みを考えている」と述べた。今年中にもまたPepper App Challengeを開催し、「Pepperそのものもデベロッパーから意見を伺いながら文字通り一緒に作っていきたい。今後もご支援いただきたい」と締めくくった。
最後に筆者の個人的感想を付しておく。今回の審査員メンバーは技術、アート、福祉、ビジネス、エンタメなど比較的視点がばらけていて、バランスが取れており、なかなか面白かった。一方、最終選考に残った10組のうち3組がダブルエントリーだったことからも察することができるが、Pepperアプリ開発者の層は、まだそれほど分厚くないようだ。今回は開発期間もごくごく短かったし、本格的なアプリ開発はこれからとなる。
Pepperそのものはソフトバンクショップに行けば置いてあるし、触ることもできる。CMで見る機会も増えた。開発ツールでちょっとしたアプリを作っている人もいる。だが一般的にはまだまだ身近ではなく、業界を超えた大きな盛り上がりのようなものは感じられない。しかし今後、多くの開発者たちが参入することによって、次は、思いもよらないアプリケーションが登場することに期待したいところだ。特に、今回は少なかったが、今後はロボットならでは、モーションメディアとしてのロボット活用を意識したものが増えてくることを期待したい。スマートフォンやタブレットで充分のアプリは、そこに吸収されると思われるからだ。
審査員の1人であるヴイストン株式会社の大和信夫社長もコメントしていたが、これからのロボット・アプリケーションのキーワードは「協働」である。ロボットを単純に道具として使って何かするだけでなく、人とロボットが一緒に何かをする、組み合わさることで、これまでとは違う価値を生み出す。あるいはロボットを使うことで、これまで結びついていなかった人と人とが結びつき、新たな循環が生まれる。そんなアプリケーションの登場が期待されている。特に労働力を提供できるわけではないコミュニケーションロボットとなると、そのような視点が不可欠だし、そこにはまだ誰も見たことのない意外な面白さや価値が隠れているのではないかと少なからぬ人たちが期待している。筆者個人もそうだ。
そう思う一方で、毎日ごく普通に使える、本当に便利で、人の役に立つロボットアプリの登場も期待したい。審査員からも指摘されていたように、人を代替するだけではなく人を超えた機能を提供してほしい。Pepper自体も、まだまだハードウェア面での進歩も日々続けているようだ。とりあえず、今夏の一般販売、さらにその先を向けた展開に期待したい--。そう思えるApp Challengeだった。