森山和道の「ヒトと機械の境界面」
第41回国際福祉機器展レポート
~立ち上がり補助ロボットから腰サポートインナーまで
(2014/10/16 06:00)
第41回国際福祉機器展(H.C.R.2014)が、10月1日~3日にかけて東京ビッグサイトで行なわれた。少し時間が経ってしまったが、主立った介護ロボット関連を中心に簡単にレポートしておきたい。介護はもっとも技術活用が難しい分野ではあるが、それだけ技術投入の余地が大きい分野でもある。
パナソニック「自立支援型起立歩行アシストロボット」と「みまもりシステム」
パナソニック株式会社は9月末に介護ロボット業界に参入すると発表し、以前から開発を続けてきたベッドと車椅子が分離合体する離床アシストベッド「リショーネ」のほか、ベッドからの起立を助ける「自立支援型起立歩行アシストロボット」とベッド上の状態を見守る「みまもりシステム」を参考出品した。「リショーネ」は既に商品化されておりパナソニックプロダクションエンジニアリングにて6月から受注販売中。「自立支援型起立歩行アシストロボット」と「みまもりシステム」は2016年度に商品化の予定だ。
「自立支援型起立歩行アシストロボット」は高齢者のベッドからの立ち上がりと、その後のトイレなどへの歩行をアシストするロボット。被介護者は専用のスリングを着用し、胸の2カ所で留めて、立ち上がる。するとロボットアームが胸の部分で体重を支持してくれる仕組みだ。あくまで高齢者の足りない力をサポートするロボットである。現在のものはプロトタイプで400Wと大出力のモーターが使われているが、商品化時にはモーター・本体共に大幅に小型化する予定。100万円以下での販売を目指すという。また今は介助者がロボットを操作するインターフェースが採用されているが、被介護者が自分で操作できるようにもするという。
みまもりシステムは主に認知症の徘徊防止を目標としたもので、ベッド下の電波センサーで被介護者の呼吸数、体動をモニターし、離床があったらアラームが出るというもの。もちろん、何か異常な値を検出したときに異常検知信号を発報することもできる。センサーがベッド下にあるため、被介護者の心理的負担がないという。
大和ハウスとサイバーダイン
介護事業を展開している大和ハウス工業株式会社は、既に事業展開しているサイバーダイン株式会社のリハビリ用ロボットスーツ「HAL」のほか、株式会社モリトーが開発している転倒リスクを軽減する免荷式リフト「POPO」を出展。「POPO」と「HAL」は併用してリハビリを実施することもできる。
サイバーダイン株式会社は「介護用HAL(腰補助タイプ)」を出展。腰に付けた2つの電極で生体電位を計測して、使用者の動作に応じて動作して、重量物を持ったときの力をサポートして腰の負担を軽減する。補助率は通常時25%、最大40%。連続使用時間は3時間。本体重量は3kg。
マッスルスーツ体験、腰サポートインナー
東京理科大学小林研究室、菊池製作所などが開発した「マッスルスーツ」を事業化する株式会社イノフィスは、腰補助用のマッスルスーツを大量に壁にディスプレイしたブースを構え、実際に来場者が着用してアシスト力を体験できるデモを行なっていた。筆者も以前体験したことがあるが上体をいきなり引き起こされるくらいの強烈なアシスト力がある。
消防車メーカーとして知られる株式会社モリタホールディングスは、人間工学研究で知られる慶応義塾大学山崎信寿名誉教授、医療用品メーカーのダイヤ工業らと共同開発した腰部サポートウェア「ラクニエ」と、女性用の腰サポートインナー「カレナ」を出展。前屈や中腰姿勢の腰負担軽減を図るウェアだ。上下のパーツに別れていて、前屈によるゴムの伸びを使って腰負担を軽くする仕組みだ。
「ラクニエ」は服の上から着用するが、「カレナ」はその改良型でインナーとして着用する。「ラクニエ」では脊柱起立筋の負担が平均14%、大腿二頭筋で平均10%負荷が軽減され、「カレナ」では平均9.8%、脊柱起立筋の負荷が軽減されるという。それぞれ3サイズあり、既にどちらも販売されている。製造元はグンゼ株式会社だ。
安川電機の脊髄損傷者向け歩行アシスト外骨格ロボット、リハビリロボット
産業用ロボット大手で介護ロボットにも参入している株式会社安川電機は、リハビリロボットや移乗アシスト装置のほか、同社が国内での展開を目指す歩行アシスト装置「ReWalk」を出展していた。
「ReWalk」はイスラエルのベンチャー会社Argo Medical Technologies(現在はReWalk Robotics)が開発した、脊髄損傷による両下肢麻痺患者のための外骨格型歩行アシスト装置である。腕時計型のリモートコミュニケータによる指示と身体の傾きで、下半身が完全に麻痺している人であっても足を踏み出すことができる。バッテリは背中にあり、3時間半駆動する。安川電機は2013年9月に「ReWalk」の日本・アジア(中国、台湾、韓国、シンガポール、タイ)における独占販売権を取得しており、現在は施設で試験運用中。2015年からは本格的に個人向けに販売する予定だ。ReWalk社は今年9月12日にナスダックでIPOしている。
電動アシストカートや新型電動車椅子
株式会社今仙技術研究所は電動ロレータ「バンビ」を出展。不整地を走行する惑星探査ローバーなどに使われていることが多いロッカーボギーリンク機構を採用して段差乗り越え性能を向上させた電動アシスト歩行補助具だ。
RT.ワークス株式会社は高齢者向け「電動歩行アシストカート」を出展し、坂道スロープでの動作を実際に体験できた。上り坂ではアシストが自動で働き、下り坂ではブレーキが利く。アシスト等の設定は3段階で変えられる。GPSと3G機能を搭載してスマートフォンに接続したり、位置情報サービスやクラウド活用も可能という。電動アシストカートは経済産業省の「ロボット介護機器導入実証事業」に認可されており、東名阪合計54施設において98台の実証事業が行なわれる予定。船井電機株式会社で開発されていた技術をRT.ワークスが2014年7月1日付けで資産継承した。
自動車メーカーのスズキは都市型電動車いす「UTコンセプト」を参考出品していた。障害物を検知すると自動減速・停止する安全技術を搭載して、4WSによるコンパクト性と小回り性、ハンドルレスで視認性を向上させたという。
分身ロボット、介護者動作模擬ロボット
早稲田大学発のロボットベンチャー・株式会社オリィ研究所は分身ロボット「OriHime」を出展。Webカメラや通信機能を搭載した、長期入院者などのための小型テレプレゼンスロボットである。2015年夏の発売を目指している。
産業技術総合研究所は人の動きを再現することで介護機器の評価を行なう「介護者動作模擬ロボット」を出展していた。「介護者動作模擬ロボット」については本誌過去記事「ロボット介護機器の評価用設備等が公開」をご覧頂きたい。
ベッドサイド水洗トイレ、スマートフォン充電もできる車椅子用電動ユニット
TOTOはベッドサイドに後付けできる「ベッドサイド水洗トイレ」を出展。配管は必要だが床に固定せずに設置できる水洗トイレである。これまでの簡易トイレと違って汚物の処理がいらなくなる。汚物を粉砕して圧送することで細いフレキシブル排水管で洗い流せるようになった。
ヤマハは車椅子を電動化するユニット「JWX-1 PLUS」を参考展示。従来品「JWX-1」の自走用操作部を小型化したものだ。スマートフォンの充電ができるUSB端子も搭載している。
うなずきかぼちゃん、おしゃべりまーくん
ピップ株式会社は2011年11月から販売している高齢者向けスマイルサプリメントロボット「うなずきかぼちゃん」を出展。展示即売を行なった。非常に簡易なものだが、一緒に暮らすことで認知機能の向上や、ストレスの減少効果などがあるという。無線充電やネットワーク機能などを増強させたモデルを使った研究開発も行なわれている。ピップは介護事業を展開しており、現場のニーズが反映されている。
株式会社パートナーズは5歳の男の子をイメージした孫型ロボット「おしゃべりまーくん」を出展。手のスイッチを押してほっぺが光ったあとに、「おはよう」や「元気?」といった簡単な定型語を話し書けると、音声認識して簡単なおしゃべりや、歌を歌う。センサー類が内蔵されており、頭をなでなでしたり、「たかいたかい」をすると反応する。2004年に販売した前モデルから数えるとシリーズ累計では9万体以上が販売されているという。
コミュニケーションロボット「Palro(パルロ)」
富士ソフト株式会社はコミュニケーションロボット「Palro(パルロ)」を大量に出展していた。ステージや個別体験コーナーを設け、体操やダンス動作のデモを行なっていた。高齢者向け介護ロボットとして「パルロ」を使った取り組みは、神奈川県「さがみロボット産業特区」の2014年度の重点プロジェクトに指定されている。