Kensington「Orbit Trackball with Scroll Ring」
~スクロールリングを搭載した低価格トラックボール



品名Kensington「Orbit Trackball with Scroll Ring」
購入価格42.50ドル(3,700円前後)
購入日2009年11月14日
使用期間約7日間

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

●誕生以来ボールを使い続けるトラックボール

 現在店頭で手に入るマウスは、光を使って移動量を計りカーソル操作に反映する「光学式」マウスが主流だ。かつて主流だった内蔵ボールの回転量を計りカーソル操作に反映する「ボール式」マウスは、今では珍しいものになった。

 ご存じの方も多いと思うが、ボール式マウスは光学式のマウスよりもメンテナンスが面倒だ。使っているうちにボールやセンサーにホコリがつき、不快なばかりか滑らかさやセンサーの精度を下げてしまう。物理的なボールを廃した光学式マウスはそんな煩わしさとほぼ無縁だ。

 マウスは駆動部品を廃し、より手軽で使い勝手のよい入力機器へと進化してきた。しかし、マウスと同じくらい長い歴史を持ちながら、未だに物理的なボールを廃することなく、おそらく今後もボールを主要部品として使い続けるだろう入力機器がある。それがトラックボールだ。ただし、現在ではトラックボールも回転量の読み取りには光を使うのが主流だ。

 かつてノートPCの中にはトラックボールを搭載していた機種もあったが、今やタッチパッドに取って代わられてしまい、オプショパーツとして見かけることもない。けれどトラックボールが消えることはなかったし、最近ではスマートフォンに採用されたケースもある。

●時代に取り残されていたトラックボール

 トラックボールは指で転がしたボールの回転量を計ってカーソル操作に反映するので、手で本体を持って動かさなければならないマウスと比べると、ポインティング操作にかかる負担が軽い。また、本体を動かすことが無いので、ケーブルが邪魔になることも少なく、無線化の必要性も低い。

 しかし、マウスが軽量化や持ち易さの改善、マウスパッドの進化、安価での無線化の実現、と絶え間なく進化を続けていくうちに、トラックボールならではの優位性は目立たないものになっていった。加えて近年では「ホイール」によって決定的な差をつけられていた。

 トラックボールにもホイールを搭載した製品はあったのだが、より快適な大口径ホイール搭載型となると、1万円前後の製品で1機種のみの時代が6年も続いた。ボールの無い光学式マウスと比べて本体内にスペースが少ないこと、指だけで2つの回転体(それもできるだけ大きなもの)を同時に「快適に」操作させる解の難しさ、などが壁になったのだろう。

●6年ぶりのもう1つの新機種

 トラックボールにとって不遇の時代が長らく続いたが、そんな状況を変える製品が2009年1月米国で発売された。それが、トラックボールユーザーの間ではお馴染み米Kensingtonの「SlimBlade Trackball」だ。ボールの縦回転操作をホイール操作として認識することで、1つのボールでポインティング操作とスクロール操作ができるユニークで意欲的な製品だ。Web上のPC系のニュースでかなり紹介されたので見たことのある人も多いだろう。

 そしてもう1つ、11月にKensingtonから新作トラックボールが米国で発売された。それが本稿で紹介する「Orbit Trackball with Scroll Ring」だ。文字通りスクロール操作のためのリングをボール回りに配置した製品で、リング搭載型としては2世代目にあたる。SlimBlade Trackballのような派手な新機軸は無いが、機能面で先行するマウスのトレンドをおさえつつ、ブラッシュアップされ完成度の上がったお手頃価格のモデルだ。

製品パッケージ表面。ボール周囲のリングがスクロール操作にあたることをアピールしている製品パッケージ裏面。左右ボタン、スクロールリング、リストレストなど製品各部を解説したものになっている
本体上面。左右対称な本体デザインであることがわかる。ボールを外した状態。直下にホコリなどゴミが落ちる穴があり、その穴より手前斜めにボールの動きを読み取る光学センサーがついている本体裏面。ゴム製の滑り止めがついている。特に穴の周囲に貼られたものが太く目立つ
本体水平横面。リングが水平ではなく前に向かって角度をつけて配置されていることがわかる本体水平前面本体水平後面
後方から角度をつけて見た状態前面から角度をつけて見た状態斜め前から角度をつけて見た状態
リストレストと本体本体にリストレストを付けた状態。リストレストを付けるとプラナリアを思わせる形状になる
本体とリストレストの接続部分。本体底面周囲の溝に爪をひっかけているだけで固定はされていない本体とつなぐためにリストレスト側に付いているやわらかい爪

 Orbit Trackball with Scroll Ringは、2つのボタンとスムーズ回転タイプのリング、そして直径40mmのボールを搭載した、USB接続型の有線式トラックボールだ。ボール、リング、2つのボタンが、常に指をかけた状態(ホームポジション)を自然に保つことができるよう配置されたシンメトリーデザインで、左右どちらの手にもフィットする。対応OSはWindows XP/Vista/7、Mac OS X。ドライバレスで接続すればすぐ使い始められる。大きさは、115×138×50mm(幅×奥行き×高さ)で、リストレスト装着時は奥行き200mmになる。

 以上、少々長い前置きになったが、要は箱から取り出してPCのUSB端子につなぐだけで使い始められる、お手頃価格のトラックボールだ。

●Orbit Trackball with Scroll Ringの使用感

 ここではWindows PCにつないで使った場合について紹介する。

 まずはハードウェア面から。

 トラックボールで最も重要なボールまわりは、大きさも含め従来機種の「Orbit Optical」と大きな差は無いようだ。ボールのスベリはなめらかで軽く、指1本で操作しても重さを感じることはない。勢いをつけて回転させた時慣性で回転する時間は1秒前後。よほど特殊な使い方をしない限り物足りなく感じることはないだろう。本体を逆さまにひっくり返してもボールが落ちないように引っかける爪状の部位が付いたのが地味な更新点だ。

親指を左ボタン、人差指をボール、中指をリング、薬指を右ボタンに置いた状態。自由になる指は小指だけだ

 2つのボタンについてだが、全長60mm以上と長いので指を置く場所の自由度が高い。クリック感は、最近のクリック感の軽いマウスのものと比べると硬く感じるかもしれない。ボタンが2つしかない点については、本製品に手をのせてみると分かりやすいのだが、左右ボタン(親指、薬指)、ボール(人差指)、スクロールリング(中指)で指を4本使ってしまい、残りはボタンを押しづらい小指だけになることを考えると、ベストなボタン数だとも言えなくもない。

 スクロールリングはクリック感が無いスムーズ回転タイプで、勢いをつけて回転をさせた時慣性で回転する時間は1秒前後。指の触れる面は45度くらいの角度がつけられており、表面には引っかかりのいい凸が放射状に並ぶ。ソフト素材のように見えるかもしれないがそうではない。マウスのホイールより一回り大きく60mm以上もあるので潜在能力は高い。ちなみに、マウスのホイールは押し込むとそれ自体ボタンとして機能する製品が多いが、本製品のスクロールリングはボタンとしては機能しない。

 同梱されているオプションのリストレストはソフト素材製で、本体と完全に固定されるものではないが、使用中に外れるようなことはない。なかなかに心地よく、机に対するグリップを増す効果もあるのでオススメだ。

 次にソフトウェア面について。

 本製品はドライバのインストールは必要ないが、トラックボールはマウス以上に調整次第で使用感が変わる。OS標準のマウスの設定はトラックボールに合わせたものではないし、机の上なら割と自由に動かして操作できるマウスと違って、指がトラックボールを(普通に)回転させられる角度は決まっているからだ。そこで調整すべき3つのポイントについて紹介しておく。

マウスプロパティの設定例。かなり敏感に反応するので「速度」は遅めに調節している

 一番重要なのがポインタの速度と精度だ。「マウスのプロパティ」の「ポインタ オプション」タブにある「速度」の項目で設定できる。「速度」はボールを回転させた時どれだけポインタが動くか調節するもので、「精度」は勢いをつけた時にその分速く大きく動かすように設定するものだ。余談だが、同じタブにある「動作」の項目の「ポインタを自動的に既定のボタン上に移動する」にチェックを入れておくと、慣れないうちは操作の助けになるのでオススメだ。

左右ボタンの機能を入れ替えたい時は、「ボタンを切り替える」にチェックする

 さらに、左手で使う時に問題になるのがボタンの配置だ。左右ボタンの機能を入れ替えるには、「マウスのプロパティ」の「ボタン」タブにある「ボタンの構成」で左右ボタンの機能を入れ替えることができる。なお、スクロールリングの回転は入れ替えることはできないので、別途設定変更ソフトを探してくる必要がある。
●シンプルで今風な普及モデル

 本製品は目立った粗もなくそれでいて機能面で常に先行するマウスともひけをとらない完成度の高いトラックボールだ。しかもメーカー価格が29ドル(米国での価格)と安価だ。1台目のトラックボールとしても最適な1台だと言えるだろう。

 価格及び機能面で対抗馬になるのはロジクールの「TrackMan Wheel」あたりだろうか。ただし、TrackMan Wheelはボールを親指で操作するように作られた製品なので、ボールを人差指で使うOrbit Trackball with Scroll Ringとは、同じトラックボールでもジャンルの違う製品だ。実際に買うときには、どちらが自分に合っているのか、店頭で実際に触って確認してみてほしい。

(2009年 12月 4日)

[Text by 井上 繁樹]