ワコム「Bamboo Touch」
~指先でのマルチタッチ操作に特化した小型タブレット



品名ワコム「Bamboo Touch(CTT-460/K0)」
購入価格5,980円
購入日11月上旬
使用期間2週間

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです。

●指先での操作に特化し、ペン操作には非対応の小型タブレット

 ワコムが展開するコンシューマ向けタブレット「Bamboo」シリーズ。2009年10月に発売された最新シリーズでは、従来のペンによる操作に加え、指によるタッチ操作にも対応したことが大きな特徴だ。

 その中でひときわ異彩を放っているのが、ローエンドに位置づけられる「Bamboo Touch(CTT-460/K0)」である。同シリーズの中でもっとも小型の筺体を持つこのモデルは、唯一ペン操作に対応せず、タッチ入力のみに対応したモデルとなっている。つまり、ノートPCのタッチパッドを独立させてそのまま大きくし、さらに2本指によるマルチタッチにも対応させたという製品なのだ。

 マルチタッチに特化したこの特殊な製品の使い勝手はいかに? ということで、Windows 7 UltimateおよびWindows XP Professional SP3環境で2週間ほど試用したレポートをお送りする。メーカー直販サイトでの価格は6,980円。Amazon.co.jpでの購入価格は5,980円だった。

●ほぼA5サイズの小型筺体。使いやすいマルチタッチ機能

 見た目がBambooの上位モデルとそっくりなため、写真では面積が大きく見えがちな本製品だが、実物は非常にコンパクト。ハガキ大という表現はさすがに誇張気味だが、実サイズは208.4×137.6×7.5mm(幅×奥行き×高さ)と、四六判(188×127mm)とA5判(210×148mm)の中間程度の大きさ。小型タブレットの天地をさらに切り詰め、横長にした印象だ。詳しくは写真をご覧いただければと思うが、手で十分つかめてしまうほどのサイズだ。

本体はA5ほどのサイズで、手でもつかめる大きさiPhone(右)とのサイズ比較前回レビューしたエレコムのタッチパッド「TK-TCT005BK」(右)とのサイズ比較

 ただし小型とはいえ、タッチによる読取可能範囲は125×85mmと、ペン操作にも対応した上位モデルBamboo、およびBamboo Fun Smallとまったく同じ。タッチ機能だけを抜き出して本体をコンパクト化したモデル、という表現が正しいだろう。ちなみに本体はブラック1色で、Bamboo Funのようなカラーバリエーションは用意されていない。

読取部はハガキほどのサイズ。グレーの罫線の外側はマージンとなっており、指を置いても反応しない。ファンクションキーは押しこむと「カコッ」と音がするタクトスイッチを採用しており、好みがやや分かれそう横から見たところ。端を丸く落としていることから平らに見える

 初回ドライバインストール時に、本体を左置きにするか、右置きにするかを決定する。置き方によって本体の4つのファンクションキーが読取部の左側に来るか、右側に来るかが決まる。この置き方は後でも変更できるので、まずは利き腕に合わせて右向きに設定してみる。

インストーラの画面。Bambooシリーズの上位モデルと共通インストール時にタブレットの向きを選択可能。イラストの手はペンを持っているが、実際にはペンは使えない

 接続およびドライバインストールが完了すると、すぐに利用できるようになる。使用感はノートPCのタッチパッドとほぼ同等で、操作に迷うことは全くない。以前紹介したエレコムのタッチパッド「TK-TCT005BK」に比べると、読取部の面積も広く、また読取部周囲にある幅1.5cmほどの余白との間に段差がないことから、ひっかかりもなくスムーズに操作できる。このあたりは同社のノウハウを感じる。

ファンクションキー部はピアノ調の塗装で、高級感の演出に一役買っているが、指紋が非常に目立つのはマイナス。ボタン間には操作と連動して明滅するLEDを備える

 読取面からの信号を感知している時は、ファンクションキーの間にある白色LEDが点灯する。きちんと接続できていなかったり、ユーティリティがオフになっている場合はLEDが点灯しないので、異常があったことが直感的に理解できる。ただし輝度がかなり高いことから、就寝時などにPCの電源をつけっぱなしにしていると、ややまぶしいと感じることもある。

 加速度などの設定は、コントロールパネルから行なえる。後述するジェスチャー操作についても、特定の操作をオンオフすることができるので、使っていて誤操作をしがちな操作があれば、オフにしてしまってよいだろう。

 なお、今回はWindows 7 UltimateとWindows XP Professional SP3にて試用しているが、どちらのOSでも標準ドライバではなく、付属ディスクからのドライバインストールが必要になる。そのためWindows 7環境下でも、Windows 7標準のマルチタッチ機能「Windowsタッチ」とは似て非なる動きをする。詳しくは後述する。

●ジェスチャは独自方式を採用。割り当て可能なファンクションキーが便利

 冒頭で述べたように、本製品はタブレットに似た外観に反してペンには対応せず、指先での操作にのみ対応する。読取方式は静電結合方式で、指などの皮膚でしか反応しない。ちなみに、絶対座標モードが用意されていないので、もしペン操作に対応していたとしても、アートワークには不向きだ。

 指先での操作は非常にスムーズで、感度も非常によく、使っていてストレスがたまらない。前回紹介したエレコム「TK-TCT005BK」は、多機能ではあるものの感度はいまいちだったが、本製品は、指先で触れてからカーソルが動くまでのタイムラグも最小限に抑えられており、入力機器として洗練されている印象だ。

 指先による操作方法については、付属ディスクにチュートリアルが付属しているので、それを見ておくとよい。内容は上位モデルと共通で、指先によるタップやドラッグ、ズーム、回転といった操作を練習できる。やや時間はかかるが、かなり詳しいうえに実際に動かし方の診断も行なってくれるので、最初に見ておいたほうが習得までの時間を短縮できる。

本製品は指での操作にのみ対応し、ペン操作には非対応。手元に同じワコムのペンタブレット「Intuos3」の付属ペンがあったので試してみたが、当然ながら動作しなかった。また、静電容量方式のiPhoneを操作できることを謳ったブライトンネットのタッチペン「BI-ISOFTPEN/BK」(写真)も試してみたが、じわじわとカーソルは動くものの、実用には耐えない音声と動画による詳細なチュートリアルが付属。非常に分かりやすいので、時間ををつくって事前に見ておいたほうがよい

 本製品が用いるジェスチャの種類は以下の通り。ちなみに「フリック」という呼称はWindowsタッチで用いられているもので、本製品ではこの固有名詞は用いられていないが、比較のためにそのように表記している。

機能操作手順
シングルクリック/ダブルクリック1本指もしくは2本指でタップ
ドラッグいったん指を離してから再度タップ
右クリック2本指で1回タップ、または左指で選択した状態で右指をタップ
スクロール2本指でなぞる(動作の向きはWindowsタッチと逆)
ズーム2本指の間隔を広げる、もしくは狭める
回転一方の指を支点にしてもう一方の指で弧を描く
フリック2本指で左に払うと「戻る」、右に払うと「進む」

Windows 7 Ultimateで本製品を使用してネットを閲覧している様子。エクスプローラを起動してウィンドウをドラッグしたのち、IE8を起動してページをスクロールし、別ページで右クリックから新規ページを開き、写真をズーム。その後フリックで元のページに戻ってブラウザを終了している

 Windows 7のマルチタッチ(Windowsタッチ)と異なる個所として、スクロールやフリックを1本指ではなく2本指で行なう点が挙げられる。2本指で「戻る」「進む」を行なう点は、アップルのMagic Mouseにおけるスワイプに近い挙動だ。

 スクロールの向きがWindows 7とは逆向きになるのも特徴だ。Windowsタッチでは画面が指先に追従する格好になるが、本製品ではそれとは逆に、指を下に動かすと下スクロール、上に動かすと上スクロールとなる。もっとも本製品の場合、画面に直接触れるデバイスではないので、方向が違うことで大きな違和感があるかというとそうでもない。

 また、本製品には4つのファンクションキーがある。下から順に、左クリック、右クリック、戻る、進むの順だ。このファンクションキーはユーティリティ上で自在にカスタマイズできるので、任意のコマンドやプログラムの起動を割り当てて利用できる。筆者はしばらく上2つのキーに「エクスプローラの起動」と「閉じる(Ctrl+W)」を割り当てていたが、すっかり馴染んでしまった。そもそもデフォルトで割り当てられているコマンド自体、前述の指によるジェスチャと重複しているので、積極的にカスタマイズすべきだろう。

 なお、前回のエレコム製品と同様、ズームや回転については、アプリケーション側が対応していないとスムーズに動かない。そのためWindows XPでは、Windows 7ほどなめらかに動かない場合もある。もっともこれはOS間で比較した場合の話であり、XP環境で本製品とエレコム製品のどちらかを選べと言われたら、迷わず本製品を選ぶ。精度の問題もあるが、読取部の面積が広く、ズームの最中で指がベゼルに当たって操作を中断しなくて済むことも、要因としては非常に大きい。

コントロールパネル。タブレットの向きのほか、ファンクションキーに割り当てるコマンドを設定できるファンクションキーに割り当てるコマンドはプリセットされた中から選べるほか、「キーストローク」で任意のコマンドを、「開く/起動」で特定のアプリケーションの起動を選択できるキーストロークは実際にキーを押しながら設定できる
タッチ速度の調整。とくに加速度やスクロールスピードについては、個人の感覚に合わせて調整する機会が多くなるだろう個々のタッチ機能をオン/オフすることが可能。どうしても慣れない項目はここでオフにしてしまったほうが快適に使えるだろう設定ファイルの書き出しも可能
左右ボタンの役割を果たすファンクションキーが手前ではなく横にレイアウトされているのはユニバーサルデザインの代償といえるが、マルチタッチに対応した本製品では左右クリックはジェスチャで代替できるため、そう大きな問題にはならない。ちなみに写真のようにジェスチャとファンクションキーの同時操作はやや無理があるので、もう一方の手で操作したほうがよいスクロールについてはスクロールホイールの動きをエミュレートしているようで、マウスのプロパティで設定しているスクロールの行数によっても移動量が変わる。あまりに移動量が大きすぎて困る場合は、Bamboo自体のプロパティで調整するのもそうだが、スクロール行数を大きく設定していないかチェックしてみるとよいだろう

●キーボード手前に置くと入力時に干渉しがち。マウスとリプレースする選択肢も

 ペン入力に対応せず、指先での入力に特化した本製品だが、キーボード周りのどこに置いて使うかは1つのポイントになる。

 というのもこの製品、タブレットと比較すると小ぶりではあるものの、入力機器としてはかなりの面積を占める。そのため、キーボードの手前に置くと打鍵時に手が当たってカーソルが不意に動くことが多いのだ。ノートPCのタッチパッドであれば、とりあえず親指の付け根が触れないよう気を付けていれば問題ないが、ノートPCのタッチパッドに比べ、縦横とも2倍ほどのサイズがある本製品はそうもいかない。

置き方は左向き、右向きのいずれかから選択できる。置き方によってファンクションキーの割り当てが変化する。キーボード打鍵時にはやや干渉しがち

 そのため、文字入力やキーボードショートカットなど、キーボードを使う割合が多いユーザは、ほかの設置場所を検討する必要がある。そもそも利用時には手のひらの付け根を置くスペースが本体の手前に必要になることから、キーボード手前に置くとなると本体の上下幅に加えて最低でも5cm程度の奥行きが必要となってしまう。

 キーボード利用のたびに置き場所を移動させるという選択肢を除けば、キーボードの左か、もしくは右か、置き場所はこの2択しかない。キーボード左側に置いて左手専用デバイスとして使う方法も考えられるが、ファンクションキーのある側を左右どちらに向けるかなど、悩まなくてはいけない部分がある。また、かなりの横幅を取るため、フルキーボードの左側に本製品、右側にマウスを設置すると、下手をすると90cmほどの幅を占有してしまう。

 そうなるとむしろ、マウスを完全にリプレースすることを前提に、キーボードの右側に置くというのも手だ。ノートPC付属のタッチパッドよりもダイナミックに動かせる本製品は、マウス以上の操作性とまではいかないものの、Webブラウジングなどではかなりの使い勝手の良さを発揮するからだ。PCに不慣れな人であれば、マウスよりもこちらのほうが馴染みやすいかもしれない。

●Bambooシリーズからうまくスピンアウトできるかに注目

 以上しばらく試用してみたが、補助入力デバイスとしてはかなり優秀な操作感で、マルチタッチの入門には最適だと感じた。クセがまったくないわけではないが、ノートPCのタッチパッドを使ったことのあるユーザであれば、導入にあたっての学習コストはほとんど不要といっていい。

 ただ、本製品のBambooシリーズ上の位置づけについては、すこし疑問を呈せざるを得ない。これまで見てきたとおり、本製品はペン操作に対応せず、絶対座標モードも用意されていないため、お絵描きを前提とした用途には使えない。つまりまったくの「ポインティングデバイス」でありながら、直販価格は6,980円と決して安くはない。同じ入力機器で言うと、5ボタンのレーザーマウスを買ってもおつりがくる値段だ。

見るからにタブレットという製品パッケージ。ペン操作に対応しないことから、上位モデルのBamboo Funなどに付属しているペンおよびPhotoshop Elementsなどのアプリケーションは付属しない。また、キャリングケースも用意されない

 これがPC本体とのバンドルで販売されるようなら、単体での実売価格はそれほど気にならないだろうし、実際にそうしたケースもあるようなのだが、問題はこの製品が、量販店の店頭ではペンタブレットと一緒に陳列されているケースが多いことだ。ネット上のレビューを見ていても、上位のBambooシリーズと共にペンタブレット売場で売られていたことで低価格のタブレットだと思って買ってしまい、あとで後悔しているユーザが少なくないようで、このあたりはちょっと問題だと思う。マルチタッチ対応の入力機器としては非常に優秀なだけに、もったいない限りだ。

 Bambooというブランド自体、まだ登場してから間はないものの、低価格のペンタブレットとしての認知度にはかなり高いものがあると思われる。その中で異端児ともいえるこの製品は、ポインティングデバイスとしては秀逸であるものの、陳列されている売場、さらに誤解されやすいパッケージによって、正当な評価を受けていないように思われる。ブリスターパッケージでマウスやテンキーと並べてフック掛けするのがいいかどうかは別問題だが、現状のままでは非常にもったいない。今後いろいろな意味でBambooシリーズからうまくスピンアウトできるか、注目したいところだ。

(2009年 12月 3日)

[Text by 山口 真弘]