~HDD搭載で世界最薄の14型Ultrabook |
2011年秋以降、Ultrabookと呼ばれる超薄型ノートPCが各社から登場し、注目が集まっている。2012年春にかけて登場した第1世代のUltrabookは、海外メーカーの製品が多かったが、2012年夏モデルでは、コードネームIvy Bridgeこと第3世代Coreプロセッサー・ファミリーを搭載した第2世代のUltrabookが中心となり、国内メーカーの新規参入も増えた。
今回紹介する「LIFEBOOK UH75/H」(以下UH75/H)は、LOOXシリーズなど、以前からモバイルノートPCを積極的に開発してきた富士通初のUltrabookとなる。なお、今回試用したのは試作機のため、製品版とは細部や性能などが異なる可能性がある。
●世界最薄を誇る最厚部15.6mmのスリムボディUH75/Hは、富士通のUltrabook「LIFEBOOK UHシリーズ」の中でも上位となる製品であり、14型というUltrabookとしては比較的大型の液晶を搭載していることが特徴だ。なお、下位モデルのLIFEBOOK UH55/H(以下UH55/H)は、13.3型液晶を搭載している。
Ultrabookの特徴はボディが薄いことであり、液晶が14型以上なら厚さ21mm以下、14型未満なら厚さ18mm以下というガイドラインが規定されている。UH75/Hは、14型液晶を搭載しているにもかかわらず、最厚部15.6mm(最薄部9mm)という、スリムなボディを実現していることが魅力だ。HDD搭載ノートPCとしては、世界最薄だという。ちなみに、下位モデルのUH55/Hの最厚部は18mmであり、スリムさに関しても上位モデルが上回っている。本体サイズは327×225×9~15.6mm(幅×奥行き×高さ)で、液晶の額縁部分が狭いため、13.3型液晶搭載Ultrabookとほとんど変わらない。重量も約1.44kgと、14型液晶搭載モデルとしては軽い部類だ。
ボディカラーは、サテンレッドとサテンシルバーの2色が用意されており、好みに応じて選べる。試用機のボディカラーはサテンレッドであったが、ボディの質感は高く、仕上げも丁寧である。天板と背面にはマグネシウム合金が使われており、200kgfの天板全面加圧試験をクリアするなど、堅牢性も高い。
●HDDとSSDのハイブリッド構成
まずは、基本スペックから見ていこう。UH75/Hは、CPUとして第3世代CoreシリーズであるCore i5-3317U(1.70GHz)を搭載。メモリは4GBで増設はできない。ストレージとして、500GB HDDと高速処理用SSDを搭載していることも特徴だ。高速処理用SSDは、高速起動を行なうためのキャッシュとして動作し、データ保存用領域としては利用できない。高速処理用SSDの容量は明らかにされていないが、試用機でデバイスマネージャーを開いたところ、32GBのSSDが搭載されていた。Ultrabookとしては、十分高いスペックを持っているといえる。
液晶は14型で、解像度は1,366×768ドットだ。光沢タイプの液晶であり、発色は鮮やかだが、外光はやや映り込みやすい。狭額縁設計で、液晶表面にフラットなパネルが張られているため、外観はすっきりしていて美しい。液晶上部には、有効画素数約100万画素のWebカメラが搭載されている。
キーボードは全86キーのアイソレーションタイプで、キーピッチは約19mm、キーストロークは約1mmである。ストロークはやや浅めだが、打鍵感は良好だ。配列も標準的で、快適にタイピングできる。また、キートップの側面に色が塗られたサイドカラードキーを採用していることも特徴だ。側面に色を塗ることで、視認性を高める効果があるという。ポインティングデバイスとしては、パッドタイプのフラットポイントが採用されている。フラットポイントは、Ultrabookで一般的なパッドとクリックボタンが一体化したタイプだが、パッドのサイズが大きめで操作性は良好だ。パームレストの右側には、スライド式の指紋センサーが搭載されており、ログオン操作などを指紋認証で行なえるので、セキュリティ面も安心だ。
ポインティングデバイスとして、パッドタイプのフラットポイントを搭載。Ultrabookでは多い、パッドとボタンが一体化したタイプである | パームレスト右側にスライド式指紋センサーが用意されている |
●有線LANやWiMAXを搭載するなど、インターフェイスも充実
UH75/Hは、インターフェイスも充実している。USB 3.0×2(うち1ポートはパワーオフUSB充電対応)とUSB 2.0、HDMI出力、SDメモリーカードスロット、ヘッドフォン・ラインアウト端子のほか、専用形状の有線LAN端子も搭載している。有線LANのRJ-45コネクタは、厚みが大きいため、厚さの制限が厳しいUltrabookへの実装は難しいのだが、オフィスで使う場合など有線LANが必要な場面も多い。そこで、UH75/Hは、LAN端子を独自形状の薄型端子とすることで、薄型化と利便性を両立させている。薄型端子をRJ-45コネクタに変換するためのLAN変換コネクタが付属しており、有線LAN利用時には、LAN変換コネクタ経由でLANケーブルを接続することになる。
ワイヤレス機能としては、IEEE 801.11b/g/n対応無線LAN機能とWiMAXをサポートしている。UltrabookでWiMAXに対応しているのは、本製品の他には東芝の「dynabook R631/632」しかなく、国内メーカーならではのアドバンテージといえる。
左側面には、USB 2.0とヘッドフォン・ラインアウト兼用端子が用意されている | 右側面には、SDメモリーカードスロットとUSB 3.0×2、HDMI出力、LAN端子(独自形状)が用意されている |
LAN端子は独自形状になっており、LAN変換コネクタが付属する | LAN変換コネクタをLAN端子に装着したところ |
●1時間で80%の充電が可能な急速充電機能が便利
Ultrabookの他の機種と同様、バッテリは交換できないが、公称バッテリ駆動時間は約9.1時間とされており、Ultrabookとしては長い。実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、6時間12分となった(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)。無線LAN常時オンで、6時間を超えれば、十分合格といえるだろう。また、ACアダプタがスティックタイプで、コンパクトで軽いことも魅力だ。
さらに、UH75/Hでは、急速充電機能を搭載しており、約1時間で80%の充電が可能だ。バッテリが空っぽの状態からフル充電にかかる時間も約2時間と短い。通常のUltrabookでは、1時間で30~50%程度しか充電できないが、本製品は、喫茶店での休憩中など、短い時間でも素早くバッテリを充電できるので、外で使うことが多い人にも向いている。
ACアダプタはスティックタイプで、コンパクトで軽い | CDケース(左)とACアダプタとのサイズ比較 | ACアダプタの重量(ケーブル込み)は実測で224gであった |
●SSD搭載機に迫るパフォーマンスを実現
UH75/Hは、第3世代Core iシリーズを搭載しており、第2世代Core iシリーズを搭載した製品に比べて、性能の向上が期待できる。そこで、参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「PCMark 7」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」だ。
比較用として、日本HP「HP ENVY14-3000 SPECTRE」、日本エイサー「Aspire S3-951-F34C」、NEC「LaVie L LL750/HS」の値も掲載した。 HP ENVY14-3000 SPECTREとAspire S3-951-F34Cは、第2世代の超低電圧版Core iを搭載するUltrabookで、LaVie L LL750/HSは第3世代の通常電圧版Core iを搭載するA4サイズノートPCだ。
LIFEBOOK UH75/H | HP ENVY14-3000 SPECTRE | Aspire S3-951-F34C | LaVie L LL750/HS | |
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CPU | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i7-2677M (1.80GHz) | Core i3-2367M (1.40GHz) | Core i7-3610QM (2.30GHz) |
ビデオチップ | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 4000 |
PCMark05 | ||||
PCMarks | 6993 | N/A | N/A | N/A |
CPU Score | 7658 | 8032 | 4146 | 11541 |
Memory Score | 6463 | 5761 | 3748 | 9076 |
Graphics Score | 4807 | 4134 | 3147 | 7112 |
HDD Score | 12899 | 31003 | 4902 | 5910 |
PCMark Vantage 64bit | ||||
PCMark Score | 9300 | 10428 | 3895 | 8953 |
Memories Score | 6776 | 5722 | 2625 | 5432 |
TV and Movie Score | 4300 | 4355 | 2804 | 6275 |
Gaming Score | 7224 | 7614 | 3086 | 7028 |
Music Score | 10739 | 12181 | 3980 | 7884 |
Communications Score | 9438 | 11523 | 3536 | 11311 |
Productivity Score | 9147 | 11867 | 3153 | 5434 |
HDD Score | 21564 | 23829 | 3234 | 4190 |
PCMark Vantage 32bit | ||||
PCMark Score | 8811 | 9625 | 3687 | 8531 |
Memories Score | 6773 | 5404 | 2516 | 5199 |
TV and Movie Score | 4328 | 4348 | 2784 | 6201 |
Gaming Score | 6041 | 6240 | 2658 | 6412 |
Music Score | 9775 | 11849 | 3736 | 7345 |
Communications Score | 9452 | 10924 | 3421 | 11126 |
Productivity Score | 8295 | 10684 | 2898 | 5057 |
HDD Score | 22010 | 23897 | 3317 | 4178 |
PCMark 7 | ||||
PCMark score | 3119 | 3431 | 1552 | 2876 |
Lightweight score | 2061 | 3560 | 1261 | 2013 |
Productivity score | 1672 | 2878 | 813 | 1633 |
Creativity score | 5912 | 6276 | 3156 | 4843 |
Entertainment score | 3020 | 2500 | 1650 | 3043 |
Computation score | 15749 | 8773 | 6088 | 12435 |
System storage score | 2018 | 4310 | 1377 | 1528 |
3DMark03 | ||||
1,024×768ドット32bitカラー(3Dmarks) | 9565 | 7834 | 6983 | 14651 |
CPU Score | 1544 | 1600 | 872 | 2290 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||
HIGH | 3685 | 3910 | 2624 | 5704 |
LOW | 5688 | 6378 | 4094 | 7609 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||
DP | 99.97 | 99.97 | 99.97 | 100 |
HP | 99.97 | 100 | 100 | 100 |
SP/LP | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 |
LLP | 100 | 99.97 | 100 | 100 |
DP(CPU負荷) | 20 | 19 | 28 | 6 |
HP(CPU負荷) | 8 | 9 | 14 | 3 |
SP/LP(CPU負荷) | 5 | 7 | 9 | 2 |
LLP(CPU負荷) | 4 | 5 | 9 | 1 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||
シーケンシャルリード | 77.87MB/s | 221.3MB/s | 80.34MB/s | 107.6MB/s |
シーケンシャルライト | 81.50MB/s | 193.2MB/s | 78.84MB/s | 108.5MB/s |
512Kランダムリード | 41.99MB/s | 161.8MB/s | 34.09MB/s | 37.03MB/s |
512Kランダムライト | 33.52MB/s | 195.8MB/s | 28.75MB/s | 55.82MB/s |
4Kランダムリード | 0.635MB/s | 11.52MB/s | 0.448MB/s | 0.436MB/s |
4Kランダムライト | 0.834MB/s | 40.50MB/s | 1.027MB/s | 1.360MB/s |
BBench | ||||
標準バッテリ | 6時間12分 | 6時間23分 | 5時間05分 | 3時間24分 |
CPUの基本的な処理能力を計測するPCMark05のCPU Scoreは7658で、クロックが高いCore i7-2677Mを搭載するHP ENVY14-3000やクアッドコアでクロックが高いCore i7-3610QMを搭載するLaVie Lには及ばないが、Core i3-2367Mを搭載するAspire S3に比べると、1.85倍にも向上している。内蔵グラフィックスコアの性能も大きく上がっているため、Graphics Scoreも4807と高く、こちらはAspire S3はもちろん、HP ENVY14-3000をも上回っている。
また、総合性能を計測するPCMark VantageやPCMark 7の総合スコアも、第3世代の通常電圧版Core i7を搭載したLaVie Lを上回っている。PCMark VantageやPCMark 7の総合スコアは、CPUだけでなくストレージの性能が大きく影響するが、UH75H/Hは、HDDと高速処理用SSDのハイブリッド構成となっているため、SSDだけを搭載したHP ENVY14-3000には及ばないものの、HDDのみを搭載したLaVie Lよりも高いスコアとなっているのであろう。実際に触ってみた感じでも、動作のレスポンスは快適であった。
●第2世代Ultrabookとしての完成度は高い第3世代Coreを搭載したUH75/Hは、Ultrabookの第2世代となる製品だ。富士通が国内で販売する初のUltrabookだが、競合製品をよく研究して作られたという印象を受ける。HDDと高速処理用SSDの両方を搭載するハイブリッド構成によって、大容量と快適さを両立。また、独自形状の薄型LANコネクタの採用によって、LAN機能を内蔵していながら、HDD搭載として世界最薄ボディを実現するなど、Ultrabookとしての完成度は高い。一見地味だが、急速充電機能の搭載も評価できる。また、Office Home and Business 2010もプリインストールされており、ビジネス用途にも向く。大画面かつ気軽に持ち歩けるUltrabookを探している人には、特にお勧めしたい製品だ。
(2012年 6月 21日)
[Text by 石井 英男]