~H.264 High Profile 720P動画の再生が可能に |
KDDIは、MOTOROLA製のAndroid 3.0タブレット「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」の、Android 3.1へのアップデートを6月21日より開始した。アップデートすることで、機能や性能などがどのように変化するのか、検証したい。
●アメリカに遅れること約1カ月でアップデートを実施5月にアメリカサンフランシスコで開催された、Googleの開発者向けカンファレンスイベント「Google I/O」の基調講演で、Android 3.1の概要が発表された。 Android 3.1では、ユーザーインターフェイスの強化、ホストモードサポートによるUSB周辺機器の対応強化、標準アプリケーションの機能強化などが実現されている。
これを受け、アメリカで販売されているMOTOROLA XOOMに対しては、Google I/O開催直後にAndroid 3.1へのアップデートが開始。それに遅れること1カ月少々で、KDDIが日本で販売している「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」(以下、XOOM)にもAndroid 3.1へのアップデートが開始された。ちなみに、XOOMはアメリカや日本以外でも発売されているが、Android 3.1へのアップデートは日本がアメリカに次いで2番目であり、素早くアップデートが実施されたと言っていいだろう。
アップデート手順に、特に難しいことはない。まず、XOOMにACアダプタを接続した状態で起動し、無線LANに接続してインターネットにアクセスできることを確認したら、「設定」メニューを開き、「タブレット情報」の「システムアップデート」をタップする。すると、アップデートを知らせるメッセージが表示されるので、「Download」をタップ。アップデートファイルのダウンロードが終了すると、「Install Update」というメッセージが表示されるので、「Install」をタップ。あとは、自動的にアップデートが実行され、再起動後に「ソフトウェアアップデートは正常に実行されました」というメッセージが表示され、インストール作業は完了となる。
アップデートファイルのダウンロードにかかる時間は、接続回線の速度により変わるが、その後のインストール作業は数分で終了する。また、アップデート時後も、すでにインストールしているアプリや保存されているデータなどは全て保持される。ただ、トラブルが発生しないとは限らないため、重要なデータなどは、PCなにあらかじめバックアップしておくようにしたい。
●ホーム画面の機能強化をチェック
では、アップデートで強化された部分をチェックしていこう。まずは、ホーム画面に関連する部分だ。
ホーム画面の基本的なレイアウトは、Android 3.1になったからといって大きく変わっていない。アイコンやウィジェットは、Android 3.0の状態で利用していた状態がそのまま受け継がれているし、画面左下には、戻る、履歴、ホームなどのソフトウェアボタンが配置されている。
レイアウトは同じだが、変更点はある。まず、大きな点が、ホーム画面上に配置しているウィジェットのサイズを、ドラッグで変更できるようになった。例えば、メールの受信トレイウィジェットや、ブラウザのブックマークウィジェットなどを長押しし指を離すと、ウィジェット周囲にグリッド線と◆マークが表示される。そして、◆マークをドラッグすることで、サイズを変更できる。試した限りでは、ブックマークウィジェットは上下の範囲を調節でき、受信トレイウィジェットは上下左右の範囲を調節できた。受信トレイウィジェットは、やろうと思えばホーム画面全体に広げることも可能だ。
ただ、このウィジェットのサイズ変更機能は、ウィジェット側のサポートが必要なようで、対応しないウィジェットに関してはサイズ変更ができない。標準アプリで対応しているのはブックマークと受信トレイぐらいで、他は非対応。このあたりは、今後のアプリ側の対応を待つしかなさそうだ。
次に、履歴表示機能だ。画面左下の履歴ボタンを押した場合に、Android 3.0ではアプリの履歴が5件まで表示可能だったのが、Android 3.1では履歴表示の上下スクロールに対応し、最大19件の履歴が表示可能となった。こちらは、どちらかというと地味な機能強化だが、さかのぼってアプリを呼び出したい場合も少なくないので、便利に活用できそうだ。
標準アプリも機能強化されており、特にブラウザは、HTML5やCSS 3Dに対応した。HTML5の埋め込み動画も別ウィンドウに切り替えることなく再生可能となっており、YouTubeのHTML5動画プレーヤーを利用しても問題なく動画の視聴ができた。また、画面外から内側に指をスライドさせることで表示される「クイックコントロール」も強化され、操作できる機能が増えるとともに、タブ切り替え時機能ではサムネイルが表示されるようになった。クイックコントロールは、非常に便利に利用できる機能なので、ぜひとも有効にして活用してもらいたい。
ウィジェットのサイズを変更している様子 |
履歴をスクロールさせている様子 |
●マウスやゲームパッドなど対応周辺機器が増加
Android 3.1では、USBホストモードがサポートされたことで、利用可能なUSB周辺機器が増えている。Android 3.0では、USBキーボードのみが利用可能だったのに対し、Android 3.1へのアップデート後は、USBマウスやゲームコントローラなどの利用がサポートされた。
USBマウスを接続した場合には、ホーム画面状にマウスカーソルが表示され、アプリの起動や各種操作が可能。また、ホイールでホーム画面の切り替えもできる。また、マウスに関しては、USBマウスだけでなくBluetoothマウスも利用可能となっている。実際に試したところ、日本マイクロソフトの「Bluetooth Notebook Mouse 5000」と、ロジクールの「Bluetooth Mouse M555b」で動作を確認できた。
ゲームコントローラは、プレイステーション3のDUALSHOCK3や、USB接続のXbox 360用コントローラにも対応。DUALSHOCK3は、USBケーブルで接続した場合のみの認識となるが、ホーム画面の切り替えやメニューカーソルの移動などで動作を確認した。ただし、ゲーム側では個別対応が必要なようで、既に登場済みのゲームでは利用できないものがほとんどだった。
さらに、PTP(Picture Transfer Protocol) やMTP(Media Transfer Protocol)もサポートされている。PTP対応のデジカメをUSB接続しギャラリーを開くと、デジカメ側に保存されている撮影データが表示されるとともに、XOOMへの転送ができる。
もちろん、USBハブも利用可能だ。ハブを使えば、USBキーボード、USBマウス、USBゲームコントローラなどの同時利用も可能だった。
ただ、USBメモリやUSB HDDなどはマウントできず利用できなかった。これらは需要も大きいと思われるので、対応してもらいたかった。実際、ASUSの「Eee Pad Transformer」や日本エイサーの「ICONIA TAB A500」などではAndroid 3.0ながらUSBメモリやUSB HDDの利用が可能なので、MOTOROLAの対応次第ということになる。次回のバージョンアップで対応してもらいたい。
ところで、XOOMでUSB機器を利用するには、「USBホストケーブル」と呼ばれる専用のケーブルが不可欠となる。ケーブルの一方にMicro USB Bのオスコネクタ、もう一方にUSB Aのメスコネクタを持つ特殊なケーブルで、一般的なUSBコネクタの変換ケーブルとは異なるものだ。これは、KDDIが純正オプションとして販売していないため、別途手に入れる必要がある。ここで注意しなければならないのは、XOOMのUSBコネクタが、Micro USB Bタイプであるという点だ。実は、USBホストケーブルには、Micro USB Bタイプだけでなく、Micro USB Aタイプのコネクタを持つものが存在しいるが、XOOMで利用できるのはMicro USB Bタイプのコネクタを持つものだけだ。購入時には、この点に十分注意する必要がある。
ちなみに、NTTドコモがOptimus Pad用のオプションとして用意している「microUSB-USB A変換アダプタ L01」は、XOOMでもUSBホストケーブルとして利用可能なので、もしどのケーブルを買えばいいかわからないのであれば、そちらを手に入れるのが一番簡単だろう。
USBホストモードがサポートされ、USBマウスが利用可能となった | USBマウスだけでなく、Bluetoothマウスも利用可能。日本マイクロソフトの「Bluetooth Notebook Mouse 5000」と、ロジクールの「Bluetooth Mouse M555b」で動作を確認した | マウスを接続すると、画面上にマウスカーソルが表示され、マウスでアプリやメニューの操作が可能となる |
マウスを接続し操作している様子 |
ゲームコントローラを接続してホーム画面を切り替えている様子 |
●無線LANがIEEE 802.11aに対応
XOOMに内蔵されている無線LANは、当初はIEEE 802.11b/g/nに対応とされていた。しかし実際には、搭載されている無線LANモジュールは5GHz帯域のIEEE 802.11aにも対応していた。そして、Android 3.1へのアップデートに合わせ、IEEE 802.11aへの接続も可能となった。実際に、IEEE 802.11a対応のアクセスポイントにも問題なく接続でき、通信できた。また、IEEE 802.11nは5GHz帯域もサポートされており、54Mbpsを超えるリンク速度で接続されることも確認できた。
最近では、無線LANをはじめ、家庭内で2.4GHz帯域の無線を利用する機器が増えたこともあり、IEEE 802.11gなど2.4GHz帯域の無線LANでは、他の電波と干渉して、速度が遅くなるということがよくある。それに対し5GHz帯は、2.4GHz帯に比べると比較的利用率が低く、速度が低下することも少ない。安定して高速に通信できるようになるという意味で、IEEE 802.11aに対応した点は大いに歓迎したい。
設定メニューの「無線とネットワーク」から「Wi-Fi設定」を開き、画面右上隅のマークをタップして「詳細設定」から、無線LANの周波数帯域を変更できる | 「Wi-Fi周波数帯域」で「自動」または「5GHzのみ」を選択すれば、IEEE 802.11aに接続可能となる | 54Mbps以上のリンク速度で接続されることも確認 |
●microSDカードスロットが利用可能に
先ほど紹介したように、Android 3.1にアップデートしてもUSBメモリやUSB HDDは利用できなかったが、新たに利用可能となった外部メモリがある。それは、標準で用意されているmicroSDカードスロットだ。
本来であれば、発売時からmicroSDが利用可能になっているべきものである。Android 3.1へのアップデートでようやく利用できるようになったからといって、それは本来あるべき状態になっただけのことで、特にほめられることではない。とはいえ、microSDでストレージ領域を拡大できるようになったのは、やはり便利だ。特に、音楽や動画などのデータを多数保存して利用したい場合など、microSDが大いに活躍するはずだ。
Android 3.1へのアップデートにより、microSDカードスロットも動作するようになり、microSDカードによるストレージ容量の増量が可能となった | このように、microSDカードも問題なく認識され、利用可能だ。また、設定のストレージメニューが、保存データごとに使用領域が細かく表示されるようになった |
●720pのH.264 High Profile動画の一部がスムーズに再生可能に
XOOMは、Android 3.0の状態では、H.264動画の再生に関して、Baseline Profileのファイルであれば、フルHD解像度でもスムーズに再生できるが、Main ProfileやHigh Profileの動画はコマ落ちが激しく、視聴に耐えるものではなかった。しかし、Android 3.1では、動画再生能力が向上しており、Main ProfileやHigh ProfileのH.264動画でも、720p以下ものであればスムーズに再生できるようになった。
ペガシスの「TMPGEnc Video Mastering Works 5」を利用して作成した、Main ProfileおよびHigh ProfileのH.264動画(解像度1,280×720ドット、フレームレート29.97fps、ビットレート4Mbps)を利用して試してみたところ、Android 3.0の状態では視聴に耐えなかったものの、Android 3.1の状態ではほぼコマ落ちを感じることなくスムーズに再生できた。
Android 3.0のXOOMとAndroid 3.1にアップデートしたXOOMを並べ、同じHigh ProfileのH.264 720p動画を再生している状態を撮影したムービーを掲載しているので、そちらを見てもらと一目瞭然だろう。また、別途用意した動画だけでなく、YouTubeやニコニコ動画に掲載されている動画の一部でも、Android 3.0の状態でコマ落ちしていたものがAndroid 3.1ではスムーズに再生できるようになったのを確認した。
TMPGEnc Video Mastering Works 5を利用し、映像設定の「エントロピー符号化」を「CABAC」に設定してエンコードするとスムーズに再生できた |
ただし、720pでも、全てのMain ProfileおよびHigh ProfileのH.264動画がスムーズに再生できるようになったわけではない。筆者が確認した限りでは、TMPGEnc Video Mastering Works 5を利用し、映像設定の「エントロピー符号化」を「CABAC」に設定してエンコードしたものはスムーズに再生できたが、「CAVLC」に設定してエンコードしたものは正常に再生できなかった。ただ、従来スムーズに再生できなかったH.264動画がスムーズに再生できるようになったのは事実であり、動画再生能力が向上したと考えて問題ないはずだ。
ちなみに、この点についてKDDIに問い合わせてみたところ、「Android3.1になったことで、サポートされる動画フォーマットに変更はありません。今回行なわれたソフトウェアアップデートで、XOOMにおいてNVIDIAチップの性能を改善するコード更新が反映されています。その結果、以前再生できなかった動画が一部再生可能になったと思われます」という回答が得られた。
また、XOOMに搭載されているプロセッサ「Tegra 2」の開発メーカーであるNVIDIAにも問い合わせてみたところ、「デバイスごとにサポートされる動画再生の詳細は異なりますが、ソフトウェアのアップデートにより再生可能な動画が増えるのは期待できます」という回答を得た。
どちらも少々曖昧な回答ではあるが、今回のアップデートにより、サポートする動画フォーマットが増えたわけではなく、性能が改善されたことで再生可能な動画が増えたと考えたほうが良さそうだ。今後のアップデートで、さらに再生可能な動画が増えるかどうかはわからないが、少なくとも、今回のAndroid 3.1へのアップデートで、Main ProfileやHigh ProfileのH.264動画の一部がスムーズに再生できるようになったのは歓迎できるポイントだ。
H.264 High Profile 720p動画を再生している様子。左はAndroid 3.0の状態のXOOM、右はAndroid 3.1にアップデートしたXOOMだ |
●体感の動作速度に大きな変化はないが、ベンチマーク結果は低下
Android 3.1では、Android 3.0に対しユーザーインターフェイスやアプリの動作、動画再生能力などが向上しているとされる。実際に操作してみると、劇的な違いは感じられなかったものの、アプリの起動では、Android 3.0のときは、起動時に一呼吸おいて画面が切り替わるといった感じだったのが、Android 3.1では短くなったといった印象を受けた。また、ホーム画面にウィジェットやアイコンを多数登録していると、切り替え時にわずかな引っかかりを感じていたのが、かなりスムーズに切り替えられるようになった。
同様に、Flash Playerの性能は約30%向上しているとされている。実際に、Flashを利用するサイトにアクセスしてみると、Android 3.0の時より明らかに快適に表示される。特に顕著だったのがFlashを利用する動画サイトで、ニコニコ動画ではコメントのスクロールがかなりなめらかに表示されるようになった。
先に紹介したように、動画再生能力も向上しており、Android 3.1にアップデートすることで、いろいろな面で性能が向上のは間違いないと考えていいだろう。
Android 3.0の状態のXOOMを操作している様子 |
Android 3.1にアップデートしたXOOMを操作している様子 |
しかしながら、Androidの標準的なベンチマークソフトであるQuadrant Professional Editionを利用して性能を計測してみたところ、体感速度の向上とは逆に、Android 3.0の状態での結果よりもスコアがかなり低下してしまった。結果を細かく見てみると、CPUの結果が極端に低下していることがわかる。なぜベンチマークテストの結果がこのように大きく低下しているのか、その理由は不明だが、おそらくベンチマークソフトがAndroid 3.1に最適化されていないことが影響しているものと考えられる。ただ、実際の体感速度はベンチマークテストの結果とは逆に向上しているため、ベンチマークテストの結果と実際の性能は異なるものと考えていいだろう。
Quadrant Professional Edition総合 |
Quadrant Professional Edition詳細 |
今回のXOOMのAndroid 3.1アップデートでは、機能面や性能が着実に向上しており、完成度が大きく高まっている。ただ、細かな機能の向上はともかく、microSDのサポートやIEEE 802.11aへの対応などは、発売時に実現されるべきものであり、どちらかというと、今回のアップデートで、ようやく製品版になっただけ、といった印象を受けたのも事実。まだ他社製のAndroid 3.0タブレットに比べ機能的に弱い部分もあるため、今後も定期的なアップデートによる機能強化を期待したい。
(2011年 7月 5日)
[Text by 平澤 寿康]