~ドッキングステーションを採用した新世代モバイルノートPC |
ソニーの夏モデル第2弾として発表された「VAIO Z」は、13.1型ワイド液晶を搭載したモバイルノートPCである。VAIO Zシリーズは、究極のモバイルノートPCを目指して、その時点での最高の技術を投入して設計されている製品であり、バッテリ駆動時間とパフォーマンスの両方を重視するヘビーモバイラーからの高い支持を得てきた。
今回発表された新VAIO Zは、2011年4月に開催された「IT Mobile Meeting」の講演の中で、「Ultimate Mobile PC」として開発中であるとアナウンスされていた製品だ。従来のVAIO Zシリーズは、単体GPUと光学ドライブを内蔵していたが、今回登場した新VAIO Zは、GPUと光学ドライブを外付けにすることで、従来に比べて大幅な軽量化と薄型化を実現したことが魅力だ。ノートPCとして初めてインターフェイスに光伝送を採用したことなど、最先端技術が惜しげもなくつぎ込まれた、まさに究極のモバイルノートPCと呼ぶにふさわしい製品に仕上がっている。
VAIO Zシリーズは、仕様が固定された店頭モデル1モデルと、BTOで仕様をカスタマイズできるVAIOオーナーメードモデルがあるが、ここでは、VAIOオーナーメードモデルの「VPCZ21AJ」を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、今回試用したのは試作機であり、細部やパフォーマンスなどが製品版とは異なる可能性があるので、注意して欲しい。
●厚さ16.65mmのフルフラットボディを実現新VAIO Zは、従来のVAIO Zとはボディのデザインも大きく変わっている。従来のVAIO Zは、円筒形のリチウムイオン電池を採用しており、ヒンジ部分にバッテリを搭載していたため、横から見るとヒンジ部分が太くなったくさび形の形状をしていた。それに対し、新VAIO Zでは、薄型のリチウムポリマー電池を採用し、光学ドライブを外付けにしたことで、VAIO Xに似たフルフラットで薄いボディを実現した。本体のサイズは、約330×210×16.65mm(幅×奥行き×厚さ)であり、2010年2月に発表された旧VAIO Z(約314×210×23.8~32.7mm)に比べて、幅は16mm大きくなっているが、厚さは最大16.65mmも薄くなっている。本体重量も、新VAIO Zは最軽量時約1.15kgとなり、旧VAIO Zの約1.36kgに比べて210g軽くなっている。実際に手で持ってみても、非常に薄く、軽く感じる。
ボディデザインは、先に発売されたVAIO Sで採用された「ヘキサシェル」デザインを継承している。ヘキサシェルとは、六角形の形状で剛性を高める設計であり、いわゆるハニカム構造と同じ原理だ。VAIO Sでは、マグネシウム合金を上下に組み合わせたボディを採用していたが、新VAIO Zでは、マグネシウム合金よりも軽くて丈夫なカーボン素材を天板と底面に採用。薄いボディでも剛性は非常に高く、片手で角を持ってもたわむようなことはない。液晶のヒンジは、VAIO Sと同じく、ヒンジの取り付け部が正面からも背面からも見えないコンシールドヒンジを採用。すっきりとして美しいデザインを実現した。コンシールドヒンジで、ヒンジがかなり下方にあるため、ヒンジを開くと、本体の後部が持ち上がり、本体に傾斜がつく。傾斜はわずかだが、キーボードに傾斜がつくことで、タイピングもよりやりやすくなる。
デザインに非常にこだわっていることも魅力だ。背面のヒンジ部分にヘアライン加工が施されたアルミ素材を採用しているが、この中央部分にさりげなく「SONY」ロゴが刻印されていたり、底面のネジの取り付け位置も左右対称になるように設計されている。また、底面にはファンの吸気口が設けられているが、この吸気口もヘキサシェルデザインに基づき、六角形となっている。
なお、店頭モデルのボディカラーはブラックのみだが、VAIOオーナーメードモデルでは、ブラック以外にブルー、ゴールド、カーボンブラックを選択できるので、合計4色となる。
VAIO Zの上面。店頭モデルはブラックのみだが、VAIOオーナーメードモデルでは、ブラック以外にブルー、ゴールド、カーボンブラックを選択でき、合計4色となる。試用機のボディカラーはゴールドであった | 「DOS/V POWER REPORT」誌とVAIO Zのサイズ比較。奥行きはほぼ同じで、横幅はVAIO Zのほうが53mmほど大きい |
●通常電圧版Core iと第3世代の高速SSDを搭載
もちろん、新VAIO ZはPCとしての基本性能にもこだわっている。CPUとして、通常電圧版の第2世代Core iシリーズを搭載。店頭モデルのCPUは、Core i5-2410M(2.30GHz)だが、VAIOオーナーメードモデルでは、Core i7-2620M(2.70GHz)/Core i5-2540M(2.6GHz)/Core i5-2520M(2.50GHz)/Core i5-2410M/Core i3-2310M(2.10GHz)から選択できる。
メモリモジュールは薄型化のために一般的なSO-DIMMではなく、独自形状のメモリモジュールを採用しているため、ユーザーによる増設はできないが(そもそも増設用メモリモジュールも単体では販売されない)、VAIOオーナーメードモデルでは8GB/6GB/4GBから選択できる(店頭モデルは4GB)。カスタマイズで購入する際には、あらかじめ欲しい容量を選択するようにしよう。
試用機には、CPUとして最上位のCore i7-2620Mが、メモリは最大容量の8GBが実装されていた。
ストレージの性能も非常に高い。従来のVAIO Zでも、RAID 0構成のクアッドSSDを搭載するなどしていたが、新VAIO Zでは、店頭モデルは第2世代のSSD RAIDが、VAIOオーナーメードモデルでは第3世代のSSD RAIDが採用されている。第2世代のSSD RAIDでも旧VAIO Zに搭載されていたSSD RAIDに比べて、データ転送速度が向上しているが、VAIOオーナーメードモデルに搭載されている第3世代のSSD RAIDでは、インターフェイスがSATA 6Gbpsに対応し(従来はSATA 3Gbps)、インターフェイス速度が従来の2倍に向上した。そのため、高速なSSDの性能をフルに引き出せるようになり、さらに快適な環境を実現している。
店頭モデルのSSDの容量は128GBで、デュアルSSDのRAID 0構成となっている。店頭モデルよりも高速な第3世代SSD RAIDを搭載するVAIOオーナーメードモデルは、128GB/256GB/512GBから選択できる(すべてデュアルSSDのRAID 0構成)。試用機には、128GB SSDが搭載されていた。旧VAIO Zでは、HDD搭載モデルもあったが、新VAIO ZではすべてのモデルがSSD搭載となる。また、高速起動機能「Quick Boot」機能も進化し、新VAIO Zでは、電源オフの状態から、最短約13秒という高速起動を実現した。これは、VAIO史上最速の起動時間だという。
従来のVAIO Zの特徴の1つに、単体GPUを搭載し、CPU内蔵グラフィックス機能との切替が可能なスイッチャブルグラフィックス機能の搭載が挙げられたが、新VAIO Zでは、本体に単体GPUを搭載するのではなく、外付けの「Power Media Dock」と呼ばれるドッキングステーションにGPUを搭載するという、新たなソリューションを採用した(詳しくは後述)。また、光学ドライブも本体には内蔵せず、Power Media Dockに搭載されている。
ボディを薄型化できた要因の1つに、デュアルファンによる新設計の冷却機構の採用が挙げられる。これまでのVAIO Zは、大きめのファン1つでCPU/GPU双方の冷却を行なっていたが、新VAIO Zでは、薄型のファンを2つ搭載することで、従来に比べて冷却ユニットの厚さを4.5mm薄くし、体積を27%も削減している。2つのファンは、同じファンを採用しているのではなく、羽根の枚数がそれぞれ37枚と41枚になっている。37と41はどちらも素数であり、羽根枚数に起因するうなり音をできる限り抑えるために、この枚数となっているのだ。また、キーボードの両サイドには吸気用スリットが設けられており、冷却性能をさらに高めている(その代わりキーボードを覆う、キーボードウェアは利用できない)。
店頭モデルのOSは、Windows 7 Home Premium SP1 64bit版だが、VAIOオーナーメードモデルでは、Windows 7 Ultimate SP1 64bit版やWindows 7 Professional SP1 64bit版も選択できる。試用機のOSは、Windows 7 Ultimate SP1 64bit版であった。
従来のVAIO Zの冷却ファンは1個だったが、新VAIO Zではファンを2個使うことで、冷却機構の薄型化と小型化を実現している | キーボードの両サイドに吸気用スリットを設けることで、冷却性能を高めている |
●高解像度かつ広色域の液晶を選択可能
新VAIO Zは、旧VAIO Zと同じく13.1型ワイド液晶を搭載している。店頭モデルの液晶の解像度は1,600×900ドットだが、VAIOオーナーメードモデルでは、1,600×900ドットと1,920×1,080ドット(フルHD)から選択できる。このクラスのモバイルノートPCで、フルHD表示が可能な液晶を搭載できる製品はほとんどない。旧VAIO Zも、その解像度の高さを魅力に感じるユーザーが多かったようだ。
どちらの液晶も、低反射コートが施された「VAIOディスプレイプレミアム」と呼ばれる液晶パネルで、光沢(グレア)とノングレアの長所を併せ持ったような特性を実現している。ともに、NTSC比100%の表示色域を実現しているが、フルHD液晶はさらにAdobe RGBカバー率96%を達成しており、より表示色域が広い。解像度重視の人はもちろん、発色にこだわる人にも、フルHD液晶の選択をお勧めする。
試用機には、フルHD液晶が搭載されていたが、発色は鮮やかで、映り込みも少なく、非常に見やすい液晶であった。液晶上部には、有効画素数131万画素のWebカメラを搭載可能だ。このカメラは、裏面照射型CMOSセンサーの「Exmor」を採用しており、高感度で暗い場所でもノイズが少ない。室内でのビデオチャットなどに威力を発揮するだろう。
キーボードは、VAIOシリーズではお馴染みのアイソレーションタイプで、VAIOオーナメードモデルでは、バックライト付きや英字配列なども選択できる。キーピッチは約19mmと標準的だが、薄型化のためにキーストロークは約1mmと、旧VAIO Zなどの約2mmの半分しかない。実際にタイピングしても、ストロークが短いと感じるが、入力しにくいというほどではない。最初、やや違和感があったものの、慣れれば気にならなくなった。
ポインティングデバイスとしては、タッチパッドを搭載。ボタンとパッドが一体になっているタイプで、個人的には分かれているほうが使いやすいのだが、こちらも操作性は十分であった。また、BTOによってタッチパッドの中央手前に、指紋センサーの搭載が可能だ。
キーボードの右上には、ワイヤレス機能をON/OFFするためのワイヤレススイッチやASSISTボタン、WEBボタン、VAIOボタンが用意されている。電源オフの状態から、WEBボタンを押すことで、Windowsを起動せずに素早くWebブラウズが可能な「Quick Web Access」機能を搭載。ブラウザを2つに分割した2画面表示にも対応する。また、ASSISTボタンを押すと、トラブルの予防と解決をサポートする独自ユーティリティ「VAIO Care」が起動する。
キーボードは、旧VAIO Zでもお馴染みのアイソレーションタイプで、バックライト付きや英字配列なども選択できる。キーピッチは約19mmで、キーストロークは約1mmと浅め | ポインティングデバイスとして、タッチパッドを搭載。ボタンとパッドは一体になっており、中央手前には指紋センサーを搭載できる | キーボードの右上には、ワイヤレススイッチやASSISTボタン、WEBボタン、VAIOボタンが用意されている |
●USB 3.0端子とLightPeakベースの光端子を統合
ドッキングステーションのPower Media Dockを接続することで、機能を拡張できることが新VAIO Zのウリだが、本体にも十分なインターフェイスを搭載している。左側面と右側面をあわせて、USB 2.0、USB 3.0/ドッキングステーション接続用、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、HDMI出力、有線LAN、ヘッドフォン出力を備えている。右側面のUSB 2.0ポートは、ACアダプタ接続時なら電源オフ状態でもUSB給電が可能なパワーオフ給電機能をサポートしている。
USB 3.0/ドッキングステーション接続用ポートは、新VAIO Zの独自ポートで、物理的な形状はUSBポートと互換性があるが、USBの端子の下側に光端子が2本用意されている。この光端子は、Power Media Dockとの接続に使われるもので、開発コードネーム「LightPeak」としてIntelが開発した次世代インターフェイス技術を利用している。
もともとLightPeakは、光ファイバーを利用する光インターフェイスとして開発されていたが、アップルが2月に発表したMacBook Proでは通常の銅線(メタル)を使う、Thunderboltとして搭載されている。MacBook Proに搭載されたThunderboltでは、Mini DisplayPortのコネクタ/プラグを採用し、ディスプレイとThunderbolt対応製品を接続できる。VAIO ZのUSB 3.0/ドッキングステーション接続用端子は、USB 2.0/3.0対応機器をそのまま接続できる。ただし、MacBook ProのThunderboltコネクタは、サードパーティからもThunderbolt対応製品が登場する予定だが、新VAIO ZのLightPeakは、Power Media Dock専用となる。MacBook Proと新VAIO Zのどちらの実装が優れているというわけではなく、思想の違いといえるだろう。
【お詫びと訂正】初出時にThunderboltはディスプレイに対応しない旨の表記がありましたが、実際には互換性があります。お詫びして訂正させて頂きます。
LightPeakは、1チャネルあたり10Gbps(双方向で20Gbps)の高速転送が可能であり、USB 3.0の2倍の転送速度を誇る(ちなみに、VAIO Zでは1チャネルしか利用していないが、Thunderboltは2チャネルで片方向20Gbps、双方向で40Gbps)。このLightPeak技術があってこそ、高速な転送速度が必要なGPUを細いケーブルで接続する外付けユニットに搭載するという、Power Media Dockコンセプトが実現できたのだ。
また、カードスロットとしては、メモリースティックデュオ(PRO-HG対応)スロットとSDメモリーカード(SDXC、UHS-I対応)スロットが用意されている。ワイヤレス機能も充実しており、店頭モデルでは、IEEE 802.11a/b/g/n対応無線LAN機能とWiMAX、Bluetooth 2.1+EDRをサポート。VAIOオーナーメードモデルでは、さらにワイヤレスWANの追加も可能だ。なお、ワイヤレスWANに関しては、当初はFOMAハイスピード(またはMVNOのb-mobileもしもしDoccica)対応のモジュールのみ選択可能だが、より高速なLTEサービス「Xi」に対応したモジュールも8月下旬以降選択できるようになる。
●光学ドライブとGPU「Radeon HD 6650M」を内蔵したPower Media Dock
新VAIO Zの最大の特徴が、Power Media Dockと呼ばれる外付けドッキングステーションの採用である。Power Media Dockのサイズは、約148×220×16.65mm(幅×奥行き×高さ)で、厚さは新VAIO Z本体と全く同じだ。ボディも、ヘキサシェルデザインを採用しており、本体との統一感がとれている。重量は約685gであり、サイズの割にはやや重く感じる。
一見、単なるUSB接続の外付けポータブルドライブのように見えるが、Power Media Dockは、ポータブルドライブとあまり変わらないサイズの中に、光学ドライブだけでなく、単体GPUの「Radeon HD 6650M」も搭載されており、接続することで3D描画性能が大きくアップする。また、Power Media Dockには、USB 2.0×2、USB 3.0、有線LAN、HDMI出力、アナログRGB出力が用意されているので、拡張性も向上する。
Power Media Dockの接続コネクタは、DCプラグと光接続用コネクタが一体化しており、本体への電源供給も同時に行なわれる。なお、Power Media Dockはバッテリを搭載しておらず、動作には必ず専用ACアダプタからの電源供給が必要になる。Power Media DockにACアダプタを接続せずに、本体にPower Media Dockを接続しても、Power Media Dockは認識されない。Power Media Dockが正しく認識されると、接続コネクタの青色LEDが点灯する。Power Media Dockを本体から外すときは、ゲームや動画再生ソフトなどのグラフィックス機能を使うソフトを終了してから、接続コネクタ部分のUNDOCKボタンを押して、青色LEDが消えたことを確認してから、ケーブルを抜くようにする。UNDOCKボタンを押して、装着を解除できる状態になると、通知領域にも、取り外してよいというバルーンが表示される。
Power Media Dockは、内蔵している光学ドライブの違いによって、DVDスーパーマルチドライブ搭載モデルと、Blu-ray Discドライブ搭載モデルの2種類がある。店頭モデルには、DVDスーパーマルチ搭載のPower Media Dockが付属するが、VAIOオーナーメードモデルでは、DVDスーパーマルチドライブ搭載モデルとBlu-ray Discドライブ搭載モデルのどちらかを選べるほか、Power Media Dockを省くこともできる。今回の試用機には、BDドライブ搭載のPower Media Dockが付属していた。
Power Media Dockは、横置きも縦置きも可能で、縦置き用のスタンドが付属している。スタンドも六角形の形状で、底面にVAIOロゴが刻印されているなど、Power Media Dockのデザインも細部までこだわっている。
Power Media DockのHDMI出力とアナログRGB出力は同時に利用でき、本体の液晶と外部ディスプレイ出力(HDMI出力またはアナログRGB出力)と併用することで、最大4画面の同時出力が可能になる。もちろん、本体の液晶のみに表示する場合でも、Power Media DockのGPUが有効になり、3D描画性能が向上する。
●本体底面に拡張用バッテリを装着可能
新VAIO Zでは、内蔵バッテリとして薄型のリチウムポリマー電池を採用しており、バッテリと底面カバーが一体になっている。バッテリは8本のネジで本体に固定されているが、ネジはすべてドライバーを使わずに硬貨などで回せるようになっている。バッテリは11.1V/4,000mAhという仕様で、公称最大約9時間の駆動が可能である。
さらに、底面に装着できる拡張用バッテリも用意されている。拡張用バッテリは、VAIO Sでも採用されており、装着してもフットプリントは変わらず、厚さと重量のみが増えることになる。拡張用バッテリを装着するには、本体底面の拡張用バッテリコネクタのカバーを外す必要があるが、このカバーは小さく、外すと紛失してしまいやすい。しかし、新VAIO Zでは、拡張用バッテリに外したカバーをはめ込むためのスペースが新たに用意されており、カバーを紛失してしまう心配がなくなった。地味な改良だが、安心して使えるのは嬉しい。
拡張用バッテリと本体との固定には、2本のネジを利用するが、このネジも手で回せるようになっており、取り外しは簡単だ。拡張用バッテリには、左右対称に凹んだ部分があるが、これは装着時に空気の流路を確保し、冷却効率を高めるためである。
VAIO Sと同様、拡張用バッテリは、VAIO Z本体の電源を切らずにそのまま着脱でき、内蔵バッテリと拡張用バッテリの両方が十分に充電されている場合は、拡張バッテリから優先して電力が供給されるので、内蔵バッテリの消費を抑制できる。反対に充電は、拡張用バッテリが装着されていても、内蔵バッテリが優先されるようになっているため、拡張用バッテリの充電が間に合わない場合は、拡張用バッテリを外して本体だけ持って行けばいいので便利だ。
拡張用バッテリは11.1V/4,400mAhで、装着時には公称最大約17.5時間の連続動作が可能だ。拡張用バッテリの重量は約490gで、本体との合計重量は約1.64kg(最軽量時)となり、十分携帯可能な範囲である。また、拡張用バッテリには充電アダプタが付属しており、ACアダプタを接続することで、拡張バッテリ単体での充電が可能だ。
実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、内蔵バッテリのみで5時間43分、拡張用バッテリ装着時は11時間12分という結果になった。拡張用バッテリを装着すれば、無線LANを利用した状態でも1日余裕で使える。バッテリ駆動時間についても十分満足できる。
前述したように、Power Media Dockを利用するには、専用ACアダプタの接続が必要だ。Power Media Dock利用時には、Power Media Dockと新VAIO Z本体の両方に電源が供給されるため、本体用ACアダプタよりも大きな出力が要求される。本体用ACアダプタの出力は65Wで、このクラスのモバイルノートPC用としてはコンパクトだが、Power Media Dock用ACアダプタの出力は120Wで、かなり大きめだ。DCプラグの挿入部のサイズは同じだが、Power Media Dockに本体用ACアダプタを間違えて接続しないように、DCプラグの樹脂部分が、本体用ACアダプタのほうが太くなっている。Power Media DockのDCコネクタの外側にはガードが設けられており、本体用ACアダプタのDCプラグを装着しようとしても、樹脂部分がぶつかって最後まで挿入できないようになっている。こうしたきめ細かな配慮も、VAIOシリーズの魅力といえる。
●3D描画性能はそこそこだが、ストレージ性能は非常に高い
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較用として、ソニー「VAIO S(SA)」(VAIOオーナーメードモデル)、NEC「LaVie S」、富士通「LIFEBOOK SH76/C」の値も掲載した。新VAIO Zについては、Power Media Dock接続時と単体時の両方で計測を行なった。
VAIO Z (Power Media Dock接続時) | VAIO Z | VAIO S(SA) (SPEEDモード) | VAIO S(SA) (STAMINAモード) | LaVie S LS550/ES | LIFEBOOK SH76/C | |
---|---|---|---|---|---|---|
CPU | Core i7-2620M (2.70GHz) | Core i7-2620M (2.70GHz) | Core i5-2540M (2.60GHz) | Core i5-2540M (2.60GHz) | Core i5-2410M (2.30GHz) | Core i5-2520M (2.50GHz) |
ビデオチップ | Radeon HD 6650M | Intel HD Graphics 3000 | Radeon HD 6630M | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 |
PCMark05 | ||||||
PCMarks | N/A | N/A | N/A | N/A | N/A | 7584 |
CPU Score | 9882 | 9869 | 9594 | 9608 | 7709 | 9211 |
Memory Score | 9559 | 10547 | 10256 | 10255 | 8588 | 9846 |
Graphics Score | 4594 | 4861 | 7608 | 5122 | 4580 | 5288 |
HDD Score | 54455 | 51111 | 34742 | 33909 | 5616 | 5676 |
PCMark Vantage 64bit | ||||||
PCMark Score | 11029 | 11089 | 10239 | 10019 | 5736 | 7188 |
Memories Score | 7653 | 6599 | 6173 | 5483 | 4088 | 4263 |
TV and Movie Score | 4969 | 5771 | 4767 | 4937 | 4271 | 4594 |
Gaming Score | 13103 | 9942 | 10370 | 8027 | 4409 | 4864 |
Music Score | 14642 | 15035 | 12876 | 12996 | 6394 | 6784 |
Communications Score | 12599 | 12575 | 12045 | 12289 | 6305 | 9615 |
Productivity Score | 8809 | 8769 | 8201 | 8134 | 3117 | 5241 |
HDD Score | 28208 | 27473 | 17903 | 17649 | 3669 | 3593 |
PCMark Vantage 32bit | ||||||
PCMark Score | 10196 | 10397 | 9921 | 9341 | 5317 | 6864 |
Memories Score | 7278 | 6348 | 5943 | 5227 | 3902 | 4081 |
TV and Movie Score | 4998 | 5778 | 4746 | 4900 | 4297 | 4509 |
Gaming Score | 11197 | 8821 | 8602 | 7382 | 4121 | 4078 |
Music Score | 13418 | 13927 | 12005 | 12193 | 5884 | 6308 |
Communications Score | 12447 | 12279 | 11255 | 11212 | 6218 | 8840 |
Productivity Score | 8041 | 7927 | 7797 | 7609 | 2901 | 4807 |
HDD Score | 28058 | 27188 | 17788 | 17780 | 3662 | 3658 |
3DMark03 | ||||||
1,024×768ドット32bitカラー(3Dmarks) | 18859 | 11249 | 20441 | 11117 | 9325 | 11005 |
CPU Score | 1268 | 1746 | 2573 | 1725 | 1533 | 1402 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||||
HIGH | 5630 | 4014 | 7715 | 4009 | 3586 | 3850 |
LOW | 8293 | 5898 | 10519 | 5766 | 5273 | 5568 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||||
DP | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 | 100 | 100 |
HP | 100 | 100 | 99.97 | 100 | 100 | 100 |
SP/LP | 100 | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 | 99.97 |
LLP | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 25 | 12 | 12 | 12 | 14 | 13 |
HP(CPU負荷) | 11 | 7 | 5 | 6 | 8 | 6 |
SP/LP(CPU負荷) | 6 | 5 | 3 | 4 | 5 | 4 |
LLP(CPU負荷) | 4 | 4 | 3 | 3 | 4 | 3 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||||
シーケンシャルリード | 841.2MB/s | 837.3MB/s | 673.2MB/s | 665.5MB/s | 88.69MB/s | 71.50MB/s |
シーケンシャルライト | 278.3MB/s | 311.5MB/s | 652.6MB/s | 644.2MB/s | 89.30MB/s | 72.73MB/s |
512Kランダムリード | 603.6MB/s | 599.4MB/s | 431.1MB/s | 418.7MB/s | 35.77MB/s | 36.46MB/s |
512Kランダムライト | 309.7MB/s | 307.8MB/s | 636.1MB/s | 644.6MB/s | 55.99MB/s | 63.73MB/s |
4Kランダムリード | 19.67MB/s | 19.47MB/s | 13.95MB/s | 13.89MB/s | 0.456MB/s | 0.558MB/s |
4Kランダムライト | 45.66MB/s | 45.75MB/s | 31.67MB/s | 31.64MB/s | 0.847MB/s | 1.149MB/s |
BBench | ||||||
Sバッテリ(標準バッテリ) | N/A | 5時間43分 | 4時間9分 | 5時間52分 | 2時間10分 | 5時間57分 |
Lバッテリ | N/A | 11時間12分 | 7時間38分 | 12時間4分 | なし | 未計測 |
PCMark05やPCMark Vantageのスコアは、Core i5と単体GPUを搭載するVAIO S(SA)に比べても全般的に高い。特に、PCMark05のHDD Scoreは、HDD搭載のLaVie SやLIFEBOOK SH76/Cはもちろん、256GBのクアッドSSDを搭載するVAIO S(SA)をもはるかに上回っている。CrystalDiskMarkのシーケンシャルリードでも830MB/sを超えており、ノートPCのストレージとしては最速の部類だ。6Gbps対応の第3世代SSDの威力が十分に発揮できているといえるだろう。
3D描画性能については、Power Media Dockの装着により、3DMark03やFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3のスコアは上がっているが、その伸びは予想したよりも小さい。他のゲームベンチで計測をしたところ、「ストリートファイターIVベンチマーク」(1,280×720ドットで計測)では、本体のみが43.55fps、Power Media Dock装着時が82.79fps、「バイオハザード5ベンチマーク」(1280×720ドット、ベンチマークテストBで計測)では、本体のみが20.7fps、Power Media Dock装着時が36.2fpsで、確かに描画性能は上がっているが、Core i5-2540M(2.6GHz)とRadeon HD 6630Mを搭載したVAIO S(SA)では、ストリートファイターIVベンチマークの結果が92.47fps、バイオハザード5ベンチマークの結果が30.1fpsであり、バイオハザード5の結果は多少上回っているものの、ストリートファイターIVの結果は負けている。
CPUとGPUは、ともに今回試用した新VAIO Zのほうが上であることを考えると、もう少し新VAIO Zのスコアが高くなってもよさそうなものだが、これはPower Media Dockが外付けデバイスであり、LightPeakベースの光通信を利用しているとはいっても、やはり多レーンのPCI Expressに比べると帯域が狭いためであろう。開発コードネームSandy Bridgeこと第2世代Core iシリーズでは、CPUに20レーンのPCI Express Gen2インターフェイスが内蔵されており、外付けGPUとはPCI Express Gen2 x16で接続される。PCI Express Gen2は、1レーンあたり片方向5Gbps(実際のデータ転送速度は500MB/sec)の帯域を実現しているため、16レーンでは片方向80Gbps(実際のデータ転送速度は8GB/sec)となる。16レーンのPCI Express Gen2の帯域は、LightPeak 1チャネルの8倍(実際のデータ転送速度で比べても6.4倍)になる計算であり、やはりGPUの性能をフルに引き出すには、1チャネルのLightPeakでは、転送速度が足りないのであろう。
Catalyst Control Centerのハードウェアのプロパティを開いたところ。最大バス設定がPCI Express 2.0 x4と表示されているが、帯域的にはPCI Express 2.0 x2相当だと思われる |
ソニーのWebサイトのVAIO ZのPower Media Dockに関する説明にも、「本機に内蔵されているグラフィックアクセラレーター/USB/LAN/ディスクドライブは、システム構成上、最大のパフォーマンスが発揮できない場合があります。また、組み合わせて使うとパフォーマンスが制限される場合があります」という記述がある。このことも先ほどの推測の裏付けとなるだろう。しかし、LightPeak 1チャネルは、PCI Express Gen2 x16に比べれば帯域が狭いとはいっても、USB 3.0よりも2倍高速であり、外付けドッキングステーションを実現するためのインターフェイスとしては、現時点ではベストの選択であろう。ちなみに、Catalyst Control Centerのハードウェアのプロパティを開いたところ、「最大バス設定 PCI Express 2.0 x4」と表示されていた。
総合的に判断して、超高速SSDと通常電圧版Core iシリーズを搭載した新VAIO Zは、単体利用時でもモバイルノートPCはもちろん、A4サイズの一般的なノートPCを上回る性能を持っているといえる。Power Media Dockを装着することで3D描画性能が向上するが、最新ゲームを快適に遊びたいという人には、それでも十分とはいえない。Power Media Dockは、外部ディスプレイを2台以上繋げるといった、拡張性に魅力を感じる人にお勧めだ。
新VAIO Zは、薄くて軽く、さらにバッテリ駆動時間が長くて、高性能という、モバイルノートPCに求められる要素をすべて高いレベルで実現した製品であり、モバイルノートPCとしての完成度は非常に高い。
Intelは、COMPUTEX TAIPEI 2011の基調講演において、同社が「Ultrabook」と呼ぶ新たな構想を明らかにした。Ultrabookとは、これまでにないほど薄く、長時間のバッテリ駆動が可能で、レスポンスも高速で、高いセキュリティを実現したノートPCのことだという。Ultrabookの第1弾は2011年後半に続々登場予定とされているが、今回ソニーから登場した新VAIO Zは、Ultrabook構想をいち早く体現した製品と言え、他社より1歩も2歩も先んじたといえるだろう。
また、VAIOオーナーメードモデルの価格は144,800円からであり、プレミアムモバイルノートのVAIO Zとしては、比較的価格が安いことも評価できる。Power Media Dockの採用により、気軽に持ち歩ける携帯性と、自宅ではディスプレイやキーボードなどを繋いで、デスクトップPC代わりに使える、性能と拡張性を両立させた、非常に魅力的な製品といえる。
(2011年 7月 12日)
[Text by 石井 英男]