平澤寿康の周辺機器レビュー
Samsung「SSD 950 PRO」
~同社初のコンシューマ向けNVMe M.2 SSD
(2015/11/7 06:00)
Samsungは、9月にコンシューマ向けSSDとして初となる、NVMe対応M.2 SSD「SSD 950 PRO」を発表した。フォームファクタはM.2で、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4に対応。また、プロトコルはNVM Expressに対応しており、データ転送速度はリード最大2,500MB/sec、ライト最大1,500MB/secと、SATA接続SSDを大きく凌駕する速度を実現している。
今回は、容量256GBモデルの評価機を利用して、製品の特徴や性能をチェックする。なお、発売日および価格は未定だ。
256GBモデルと512GBモデルをラインナップ
「SSD 950 PRO」(以下、950 PRO)は、9月に韓国ソウルで開催された「2015 Samsung SSD Global Summit」において発表された、コンシューマ向けSSD製品最新モデル。フォームファクタはM.2で、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4に対応。また、プロトコルはNVM Express(NVMe)に対応する。Samsung製SSDのコンシューマ向け製品として初となる、NVMe対応M.2 SSDだ。
950 PROは、容量256GBの「MZ-V5P256BW」と、容量512GBの「MZ-V5P512BW」の2モデルをラインナップ。仕様は下の表1にまとめたとおりで、容量512GBモデルではシーケンシャルリード最大2,500MB/sec、シーケンシャルライト最大1,500MB/secに達する。容量256GBモデルでは、512GBモデルに比べアクセス速度がやや低下するものの、それでも一般的なSATA SSDと比べて圧倒的なアクセス速度を実現している点が大きな特徴となっている。
MZ-V5P256BW | MZ-V5P512BW | |
---|---|---|
容量 | 256GB | 512GB |
フォームファクタ | M.2 | |
接続インターフェース | PCI Express Gen3 x4 | |
プロトコル | NVM Express 1.1 | |
NANDフラッシュメモリ | 第2世代V-NAND MLC | |
コントローラ | UBX | |
キャッシュ | 512MB LP DDR3 | |
暗号化 | 256bit AES | |
消費電力 | 平均5.1W、最大6.4W アイドル時最大1.7W | 平均5.7W、最大7.0W アイドル時最大1.7W |
TBW | 200TBW | 400TBW |
シーケンシャルリード | 2,200MB/sec | 2,500MB/sec |
シーケンシャルライト | 900MB/sec | 1,500MB/sec |
ランダムリード(4KB/QD32) | 270,000IOPS | 300,000IOPS |
ランダムライト(4KB/QD32) | 85,000IOPS | 110,000IOPS |
ランダム4Kリード(4KB/QD1) | 11,000IOPS | 12,000IOPS |
ランダムライト(4KB/QD1) | 43,000IOPS | 43,000IOPS |
NVMe対応のため、対応OSはWindows 7、Windows 8.1、Windows 10となり、Windows 7での利用にはNVMeドライバが必須となる。また、将来はWindows ServerおよびLinuxもサポート予定となっている。
コントローラは、3個のプロセッサを内蔵するトリプルコアコントローラ「UBX」を採用。プロセッサコアにはARM Coretex-R4を採用し、コアの動作クロックは500MHzとなる。また、NANDフラッシュメモリには、Samsungの第2世代3D NAND「V-NAND」を採用。NANDフラッシュメモリの仕様はMLCとなっている。キャッシュメモリには、512MBのLP DDR3メモリを搭載する。
今回は容量256GBのMZ-V5P256BWを試用したが、基板にはUBXコントローラ「S4LN058A01-8030」と、キャッシュメモリ用の512MB LP DDR3チップ「4K4E4E324EE-SGCF」、そしてNANDフラッシュメモリチップ「K9PKGY8S7A」が2チップ搭載されていた。
なお、Samsungは2015年4月より、世界初となるNVMe対応M.2 SSD「SM951」の量産を開始し、OEM向けとして出荷しているが、950 PROのハードウェア仕様はSM951と同等。つまる950 PROは、SM951をベースとして、コンシューマモデルに転用したものと言っていいだろう。
本体サイズは、80.15×22.15×2.38mm(幅×奥行き×高さ)で、M.2 Type2280に準拠。カラーは、従来までのSamsung製SSDのPROシリーズ同様にブラックを基調としており、基板もブラック塗装のものを採用している。
最大限の性能を引き出すには、PCI Express 3.0 x4対応のM.2スロットが必須
950 PROは、接続インターフェイスがPCI Express 3.0 x4対応となっており、最大限の性能を引き出すには、マザーボードのM.2ポートがPCI Express 3.0 x4をサポートしている必要がある。現在市販されているIntel製CPU対応マザーボードでは、チップセットにIntel X99 Express(以下、X99)を採用するものと、Intel Z170 Express(以下、Z170)などのIntel 100シリーズチップセットを採用する製品では、PCI Express 3.0 x4対応M.2ポートを搭載する製品が多数となっている。
それに対し、Intel Z97 Express(以下、Z97)採用マザーボードなど、Broadwell-HやHaswell、Haswell Refreshに対応する製品に用意されているM.2ポートの内部接続は製品によってマチマチだ。例えば今回試用したMSIの「Z97 GAMING 6」の場合、PCI Express 2.0 x2接続で、最大転送速度が1GB/secとなるため、950 PROを装着しても、インターフェイスがボトルネックとなり最大限の速度が引き出せないことになる。
その場合でも、M.2→PCI Express x4変換ボードに950 PROを取り付け、マザーボード上のPCI Express 3.0 x4対応スロットに装着すれば、最大限の性能を引き出せるようになる。ただし、Broadwell-HやHaswell、Haswell Refreshの内蔵PCI Express 3.0は16レーンのため、ビデオカードと同時に950 PROを利用する場合には、ビデオカード側のPCI Expressレーンが8レーンに制限されることとなる。
もちろん、こういった制約があるにしても、SATA SSD利用時よりアクセス速度は高まると考えられるため、PCI Express 2.0 x2対応M.2ポートのマザーボードでも、十分に利用価値はあるはずだ。しかし、やはり950 PROをフル活用したいなら、制約なく利用可能となるX99マザーボードやIntel 100シリーズマザーボードでの利用がベストだろう。
こういった点を考慮し、今回はZ97マザーボード、X99マザーボード、Z170マザーボードを用意し、それぞれの環境で950 PROの性能をチェックしてみた。テスト環境は以下にまとめた通りだ。また、テストはSamsungから提供されたベータ版のNVMeドライバを導入した状態で行なった。
テスト環境
・Intel Z97 Express
マザーボード:MSI Z97A GAMING 6
CPU:Core i7-4770K
メモリ:DDR3-1600 4GB×2
システム用ストレージ:Samsung SSD 840 PRO 256GB
OS:Windows 10 Pro 64bit
・Intel X99 Express
マザーボード:ASUS X99-DELUXE
CPU:Core i7-5960X Extreme Edition
メモリ:DDR4-2133 8GB×4
システム用ストレージ:Samsung SSD 840 PRO 256GB
OS:Windows 10 Pro 64bit
・Intel Z170 Express
マザーボード:ASUS Z170-DELUXE
CPU:Core i7-6700K
メモリ:DDR4-2133 8GB×2
システム用ストレージ:Samsung SSD 840 PRO 256GB
OS:Windows 10 Pro 64bit
ベンチマークでは公称を超える速度を確認
では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。まずは、CrystalDiskMark 5.0.2の結果だ。用意した3種類のテスト環境で計測を行ったが、Z97マザーボードでは、オンボードM.2ポート(PCI Express 2.0 x4対応)に装着した場合と、M.2→PCI Express x4変換ボードを利用してPCI Express 3.0 x4対応スロットに装着した場合の双方を計測している。また、比較としてZ97マザーボードで計測した、Samsung SSD 850 PRO 512GBの結果も加えてある。
結果を見ると、PCI Express 3.0 x4接続の環境であれば、シーケンシャルリードが2,300MB/sec前後、シーケンシャルライトが950MB/sec前後と、どちらも公称スペックをやや上回るスコアを記録している。細かく見ると、シーケンシャルリードではX99-DELUXEのみわずかにスコアが悪かったが、この程度の差であれば体感では違いが分からないはずで、大きな問題とはならないだろう。
ただし、Z97A GAMING 6のオンボードM.2ポートに装着した場合には、接続インターフェイスがPCI Express 2.0 x2となる点がボトルネックとなり、シーケンシャルリードが837.4MB/sec、シーケンシャルライトが811.8MB/sec(いずれもQD32の結果)と、速度が落ち込んだ。とは言え、この状態でもSATA SSDの850 PROの結果は大きく上回っており、SATA SSDに対する優位性は十分に得られると言えそうだ。
対する4Kランダムアクセス速度の結果は、4Kライトは環境に関わらず340MB/sec前後のスコアが得られているのに対し、QD32リードでは環境により多少のばらつきが見られ、Z170-DELUXE利用時が最も速い816.2MB/sec、X99-DELUXE利用時が最も遅い612.3MB/secだった。
当初の予想では、CPU内蔵のPCI Express 3.0に直結されているX99-DELUXEのM.2ポートでの速度が、チップセットのPCI Express 3.0に接続されているZ170-DELUXEのM.2ポートよりわずかながらでも高速になるのではないかと考えていたので、この結果は少々意外だった。とは言え、これだけ速い速度の中での差のため、実利用時に違いを感じることはまずないと思われるため、それほど気にする必要はないだろう。
実利用時には大容量ファイル操作時に違いを実感できそう
次に、実際の使用環境を想定し、PCの起動時間とアプリの起動時間、ドライブ内ファイルコピーの時間を計測してみた。PCの起動時間は、シャットダウン状態から電源ボタンを押し、Windows 10 Proのデスクトップが表示されるまでの時間を、アプリの起動時間は「Adobe Lightroom CC」の起動時間を、そしてドライブ内ファイルコピーはデジタルカメラで撮影したJPEGファイル150個、合計約1.5GBのコピーにかかる時間計測。それぞれ3回計測し、小数点1位で四捨五入した平均を出している。
まず、PCの起動時間だが、環境によって大きな違いが見られた。Z97A GAMING 6では、850 PRO利用時、950 PROのM.2ポート装着時、950 PROの変換ボード利用時と3パターンで計測したが、そのどれも起動時間はほぼ誤差の範囲内と言っていい違いだったのに対し、X99-DELUXEでは950 PROのほうが2秒ほど速かった。しかし、Z170-DELUXEでは、950 PROの方が18秒ほど遅いという結果だった。Z170-DELUXEでは、950 PRO接続時に、起動時の初期化にかかる時間が大幅に長くなっており、結果的にそれが原因で起動時間が遅くなった形だ。念のため、UEFI設定で全SATAポートを無効にするなどして試してもみたが、それでも初期化時間は1~2秒ほど短くなるだけで、大きく変化しなかった。
当初の予想では、950 PRO利用時には起動が速くなることはあっても、大幅に遅くなることはないと考えていたので、この結果には当初かなり戸惑った。そこで、X99マザーボード「ASUS X99-A」とZ170マザーボード「ASRock Z170 Extreme 7+」も用意して同様の計測を行なってみたところ、X99-Aでは950 PROが3秒ほど遅く、Z170 Extreme 7+では10秒ほど遅いという結果が得られた。これら2つのマザーボードでも、950 PRO利用時に起動時の初期化にかかる時間が長くなるようだった。
この結果から、マザーボードによってM.2 SSDに対する最適化にはかなり違いがあると考えられそうだ。今後のUEFIアップデートで改善される可能性もあるが、950 PRO利用時にSATA SSD利用時より起動時間が遅くなる場合があることは、あらかじめ頭に入れておくべきだろう。
次にAdobe Lightroom CCの起動時間だが、こちらは全ての環境で、850 PROと950 PROとの間に起動時間の差はほとんどなかった。一応、950 PROのほうがわずかに速くなっている場合が多いものの、今回は手動計測のため、誤差の範囲内とも言える。このことから、SATA SSDと比べてアプリケーション利用時の快適度が大幅に向上することはなさそうだ。
最後に、ドライブ内ファイルコピー時間だ。マザーボードによって多少の差は見られるものの、素直にドライブの書き込み速度に比例した結果となっており、PCI Express 3.0 x4接続環境の950 PROが圧倒。実利用時では、大容量のファイル操作が絡む作業などで、快適度の違いを実感できる可能性が高そうだ。
過度の期待は禁物も、用途によっては快適度が大幅に向上する
今回、コンシューマ向けとして初となるPCI Express 3.0 x4対応のNVMe M.2 SSD、950 PROを試用したが、ベンチマークテストでは圧倒的な高速性が確認できたものの、実利用を想定したテストでは、ドライブ内ファイルコピー以外にSATA SSDに対する明確な優位点が確認できなかった。中には、PCの起動時間は逆に大幅に遅くなる場合もあったほどだ。PC起動時間に関しては、マザーボードのM.2 SSDに対する最適化が進めば改善されると思うが、OSやアプリ起動といった実利用時の快適度に関しては、ハイエンドSATA SSDとの違いはそれほど大きなものではないと言えそうだ。
メモリベースのストレージに最適化したNVMeのメリットも、データサーバーなど膨大な同時アクセスが発生する環境でこそ大きく効いてくるが、コンシューマのクライアントPCでは大きな効果は期待できない。PCI Express 3.0 x4対応M.2ポートを備えるマザーボードでなければ最大限の性能を引き出せないという利用環境の制約もあり、汎用性の高いSATA SSDに取って代わるにはまだ時間がかかりそうという印象が強い。
とは言え、ドライブ内ファイルコピーは、ベースとなるリード/ライト速度が段違いに速いために、十分に体感できるだけの違いが現れる。大容量のファイル操作が絡んでくるような操作を頻繁に行うという場合には、950 PROの高速な速度のメリットを十分に享受できるはずだ。
SATA SSDは、インターフェイスがボトルネックとなり、既に速度はほぼ上限に達している。そのため、PCI Express接続でより高速な速度が発揮できるM.2 SSDは、今後ハイエンドSSDの主流になっていく可能性が高いと言えるだろう。現時点ではまだ利用環境を含め過渡期といった状況ではあるが、今後の製品動向に注視しておきたい。