■平澤寿康の周辺機器レビュー■
ASUSTeK Computerは、同社製マザーボード向けユーティリティ「Disk Unlocker」の提供を開始した。このユーティリティを利用すると、3TB HDDを32bit版Wimdows 7/Vistaの起動ドライブとして利用した場合や、Windows XPで利用した場合でも、3TB全容量が利用可能になるとしている。そこで、実際にDisk Unlockerを利用し、どのような形で3TB全容量が利用可能になるのか、見ていきたいと思う。
●ASUS製マザーボードでのみ利用可能まずはじめに、Disk Unlockerがどういったユーティリティなのか確認しておこう。
MBRパーティションテーブルを利用する場合、物理セクタサイズが512KBでは512B×2^32=2,199,023,255,552B(約2.2TB)までしか管理できない。そのため、32bit版Windows 7やViataの起動ドライブとして3TB HDDを利用した場合には、約2.2TB(2TiB)までしか利用できなかったり、32bit版Windows XPでは、3TB HDDを起動ドライブとして利用する場合だけでなく、増設ドライブとして利用しようとしても約746.5GBしか認識しないといった問題が発生してしまう。
3TB HDDを正常に利用するには、OSが「GUIDパーティションテーブル」(GPT)をサポートしていることが必要で、さらに起動ドライブとして利用するには、OSがGPTからのシステムブートをサポートしていることと、マザーボードがUEFI起動をサポートしている必要がある。そのため、Western Digitalが発売している3TB HDD「WD30EZRS」では、表1に示すOSでのみ動作をサポートしている。つまり、サポート外OSやUEFI非対応マザーボードで利用する場合には、3TB全領域が利用できなかったり、利用できたとしても何らかの問題が発生する可能性が高いわけだ。
しかし、ASUSTeK Computer(以下、ASUS)が説明するところでは、Windows XPや、32bit版のWindows 7/Vistaで3TB HDDを起動ドライブとして利用する場合でも、Disk Unlockerを利用することで、3TBの全容量が利用可能になるという。Disk Unlockerの詳しい仕様は公開されていないため仕組みは不明だが、アドレスリマッピングの手法を利用して実現しているそうだ。3TB HDDの場合には、まず先頭から約2.2TBの領域が、通常のMBRでパーティションが確保される。そして、2.2TB以降の領域を、Disk Unlockerによって用意されるバーチャルMBRにリマッピングすることでバーチャルドライブとしてマウントし、別ドライブとして利用可能にするようだ。おそらく、メインメモリのOS管理外領域にRAMディスクを確保するツールに近い手法で実現しているものと思われる。また、この説明を見る限りでは、3TB HDDの全領域を1パーティションで確保して利用できるようになるわけでもないようだ。それでも、通常の利用方法ではアクセスすらできない領域が利用可能になるという意味では、かなり利用価値のあるユーティリティと言えそうだ。
ただし、Disk Unlockerには利用制限がある。ASUSが提供するユーティリティということもあり、ASUS製マザーボードでのみ利用可能となっている。ただし、すべてのASUS製マザーボードで利用可能というわけではなく、表2に示すチップセットを採用するマザーボードでのみ利用可能とされている。また、対応OSは、Windows XP(32bit/64bit)、Windows Vista(32bit/64bit)、Windows 7(32bit/64bit)となる。Disk Unlockerは、こちらからダウンロードが可能だ。
Windows XP 32bit | Windows XP 64bit | Windows Vista 32bit | Windows Vista 64bit | Windows 7 32bit | Windows 7 64bit | Mac OS X 10.5以降 | Linux | |
ブートドライブ | × | × | × | ○ | × | ○ | ○ | ○ |
データドライブ | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
【表2】Disk Unlocker対応マザーボード
Intel製チップセット | ||||
X58 | P55 | H57 | H55 | X48 |
P45 | P43 | G45 | G43 | G41 |
X38 | P35 | G35 | G31 | 946GZ |
946PL | 945GC | 945GZ | 945P | 945PL |
AMD製チップセット | ||||
890FX | 890GX | 880G | 870 | 790FX |
790GX | 790X | 785G | 780G | 770 |
760G | 740G | |||
NVIDIA製チップセット | ||||
980a SLI | 780a SLI | 750a SLI |
ASUSが配布している「Disk Unlocker」。Windows XPなどで3TB HDDの2.2TB超の領域を利用可能とするユーティリティだ | ASUSの説明によると、Disk Unlockerで用意したバーチャルドライブに、2.2TB超の領域をリマッピングすることで、2.2TB超の領域を別ドライブとして利用可能とするようだ |
●Windows 7ではユーティリティを導入するだけ
では、実際にDisk Unlockerを利用して、3TB全領域が利用可能になるか確認していこう。まずはじめに、Western DigitalのWD30EZRSを、32bit版Windows 7 Professionalの起動ドライブとして利用した場合の挙動を確認してみた。テストに利用したマザーボードは、チップセットにAMD 890GXを採用するASUS製マザーボード「M4A89GTD PRO/USB3」で、詳しいテスト環境は下に示したとおりである。
・テスト環境
マザーボード:ASUS M4A89GTD PRO/USB3
CPU:Phenom II X4 965 Black Edition
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2
グラフィックカード:AMD 890GX内蔵 Radeon HD 4290
HDD:Western Digital WD30EZRS
Windows 7およびWindows VistaでDisk Unlockerを利用する場合には、Windows上からユーティリティをインストールするだけでよいとされている。そこで、まずは通常通りに32bit版Windows 7 Professionalをインストールした。当然だが、そのままではWD30EZRSの全容量のうち約2.2TB分のパーティションのみが確保され、「ディスクの管理」からも約2.2TBより上部の領域にはパーティションの確保などが一切行なえず、無駄な領域となってしまっている。
その状態でDisk UnlockerをインストールしてDisk Unlockerを起動し、「Create」ボタンをクリックする。すると、無駄となっている領域と同じ容量のバーチャルドライブが確保される。あとは、ディスクの管理から通常のドライブと同じようにパーティションを作成すれば、それまで無駄となっていた領域が利用可能となる。実際に、バーチャルドライブ領域でファイルのコピーなどを行なったり、バーチャルドライブからファイルを戻して異常がないか確認してみたが、一切問題はなく、通常のHDDと全く同じように利用可能だった。
また、バーチャルドライブのパフォーマンスを、HD Tune Pro 4.60を利用してチェックしてみたところ、シーケンシャルリードが最大92.8MB/sec、平均75MB/sec、シーケンシャルライトが最大85.3MB/sec、平均65.2MB/secであった。バーチャルドライブは、HDDのディスク内周側の領域に確保されているため、外周部に比べ速度が遅いのはしかたがない。ただし、速度のブレがかなり大きくなっている点は少々気になる。これは、Disk Unlockerによるオーバーヘッドと考えられ、アクセス速度はDisk Unlockerを利用しない場合より若干低下すると考えて良さそうだ。それでも、HD Tune Pro 4.60でHDD全周のアクセス速度をチェックした結果と比較すると、速度の傾向はほぼ同じとなっており、大幅な速度低下とはなっていないことがわかる。
3TB HDDを32bit版Windows 7の起動ドライブとして利用すると、前方約2TBのみが利用可能となり、それ以降の領域はアクセスできない | Windows上からDisk Unlockerをインストールし、起動後「Create」ボタンをクリック | 約2TB後方の領域をリマッピングした約746GBのバーチャルドライブが確保される |
ディスクの管理でパーティションを作成すれば、通常のHDDと同様に利用可能となる | デバイスマネージャーを見ると、確保されたバーチャルドライブが別ドライブとして認識されていることがわかる |
・ベンチマーク結果
バーチャルドライブでのHD Tune Pro 4.60の結果。速度のブレがかなり大きいことがわかる | |
HDDをWindows 7 Professional 32bitの増設ドライブとして利用した場合のHD Tune Pro 4.60の結果。外周部でも、Disk Unlocker利用時ほど速度のブレが大きくない |
●Windows XPでは、インストール時に“F6”ドライバの導入が必要
次に、32bit版Windws XP Professionalで試してみた。テスト環境は、Windows 7の場合と同じだ。
Windows XPでDisk Unlockerを利用する場合には、Windows XPインストール開始直後に「F6」キーを押し、専用のドライバを導入する必要がある。Windows XP版のDisk Unlockerには、このF6用ドライバも同梱されているので、そちらを導入することになる。ただし、Windows XPではF6用ドライバの導入にフロッピーディスクが必要となるので注意が必要だ。F6用ドライバを導入すると、Windows XPインストール時に約2TBの領域を確保してインストールできるようになる。あとは、通常通りにインストールを完了させればいい。
Windows XPインストール終了後、Windows上からDisk Unlockerをインストール。それ以降はWindows 7時と同じで、バーチャルドライブを確保し、ディスクの管理からパーティションを作成するだけだ。
ちなみに、SATAをAHCIモードにすると、Disk Unlockerを導入した状態で正常にWindows XPをインストールできなかった。将来のバージョンアップで対応が変わる可能性もあるようだが、現時点では、Disk UnlockerがAHCIモードをサポートするのはWindows VistaまたはWindows 7のみとなるようなので、Windows XPで利用する場合には、SATAはIDEモードに設定して利用しよう。
Windows XPインストール直後にF6キーを押し、Disk UnlockerのF6用ドライバを導入する | Windows XPのインストーラから約2TBの領域が見えるので、この領域に通常通りWindows XPをインストールする | Windows XPインストール終了直後の状態。約2TBの領域が確保されていることがわかる |
Windows 7と同様、Disk Unlockerをインストールし、Createボタンを押すと、約2TB以降の領域をリマッピングしたバーチャルドライブが確保される | ディスクの管理からパーティションを作成すれば、通常のHDD同様利用可能となる |
・ベンチマーク結果
バーチャルドライブでのHD Tune Pro 4.60の結果。Windows 7の結果よりブレは少なくなっているが、速度の傾向はほぼ同じだ |
●3TB全体を1パーティションで利用できるわけではない
OS用の領域を500GB確保してインストールした場合でも、Disk Unlockerで確保されるバーチャルドライブは、約2TB以降の領域のみとなる |
Disk Unlockerを利用することで、3TB HDDを、Windows XPや32bit版Windows 7の起動ドライブとして利用した場合でも、全領域が活用できることが確認できた。ただし、3TBの全領域が利用できるとは言っても、全領域を1パーティションで利用できるようになるわけではない。HDDの前方約2TBが通常のMBRパーティションで確保されるとともに、それ以降の領域がDisk Unlockerのバーチャルドライブとして一括確保される。そして、それはOSのインストール領域として確保した領域のサイズに左右されることはない。例えば、OSのインストール領域として500GBほどを確保た状態であっても、Disk Unlockerで確保されるバーチャルドライブは、HDDの約2TB以降の領域のみとなる。これは、Disk Unlockerの仕様で、現時点では変更の余地はないようだ。
また、前方の約2.2TBのパーティションと、Disk Unlockerで確保したバーチャルドライブのパーティション双方をダイナミックディスクに変更し、前方の約2.2TBの領域と合わせて1つのボリュームとして利用できるか試してみたが、ダイナミックディスクに変更した直後のOS再起動でブルースクリーンとなり、正常な運用が行なえなかった。そのため、やはりDisk Unlockerを利用したとしても、Windows XPや32bit版Windows 7の起動ドライブで3TB全領域を1パーティションで利用することは難しいと考えた方がいいだろう。
ほかにも、Disk Unlockerで確保したパーティションを、Norton Ghostなどの既存のHDDバックアップユーティリティを利用してバックアップできない、RAIDをサポートしないなど、いくつかの制限がある。特に、バックアップユーティリティが利用できないという点には要注意。バーチャルドライブなので、ちょっとしたトラブルでアクセスできなくなる可能性が十分考えられるため、データのバックアップは必須となるが、バックアップユーティリティが利用できないため、手動でのこまめなバックアップが不可欠となるだろう。
とはいえ、標準では一切アクセスできない領域をバーチャルドライブとして確保し活用できるようになるという点は、ASUS製マザーボードを利用しているユーザーにとって魅力がある。特に、Windows XP環境で3TB HDDを活用したいと考えている場合には、大きな魅力となるはずだ。
(2010年 12月 14日)