大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

元気が無かったデルのコンシューマブランド新戦略
~Inspiron、XPS、AlienwareそしてUltrabook戦略を聞く



 デルが、6月からコンシューマ製品のブランド戦略を大きく転換した。「XPS」シリーズをビジネスパーソナルを強く意識した実質価値追求型製品と位置付ける一方、「Inspiron」シリーズは、家族で楽しむことを重視したメインストリームラインとし、エンターテインメント性が強いXPSの一部製品を、Inspironにリブランドするといった再編も行なった。

 そして、Ultrabookでは、「年内にはシェア30%を獲得し、この分野でのトップシェアを獲得する」と意欲をみせる。全世界でトップシェア宣言をしているのは日本法人だけ。それだけに日本におけるUltrabookの販売拡大に強い意思で取り組んでいることがわかる。日本におけるコンシューマ事業への取り組みについて、デル マーケティング統括本部コンシューマー&SMB製品マーケティング本部・秋島健一部長に話を聞いた。

●存在感を発揮するための武器が揃う
デル マーケティング統括本部コンシューマー&SMB製品マーケティング本部・秋島健一部長

 最近、デルに元気がなかった。米Dellが発表した最新四半期業績では、コンシューマ分野における売上高は前年同期比12%減と大きく減少。2011年度の国内PC市場においてもシェアが減少し、4位から5位に転落するという状況だ。

 「デルがお客様に対して、きちっと価値を提案していく必要がある。今回のブランド戦略の転換は、それに向けた1つの取り組みともいえる。価値訴求を行ないやすい『立った製品』が揃ってきたことで、よりメッセージが伝わりやすくなった。存在感を発揮するための武器は揃ってきた」と、デルの秋島部長は自信をみせる。

 元気を回復するだけの製品が出揃ってきたというのが、デルの言い分である。

●家族で楽しむことを狙う「Inspiron」シリーズ

 まずは、デルのコンシューマ向けPCの新たなブランド戦略をまとめておこう。

 これまでデルには、コンシューマ向けPCのブランドとして、Inspironシリーズ、XPSシリーズ、Alienwareシリーズという3つの製品ラインがある。それぞれにメインストリーム、エンターテインメント、ゲーミングマシンという切り口を持たせていたが、新たなブランド戦略では、これを見直すことになる。

 メインストリームとなるInspironシリーズは、そのポシジョンは変わらないが、「家族で楽しむ」ということを重要なキーワードとして追加する。「男性、女性を問わず、家庭の中でPCを楽しんでもらうための製品がInspironシリーズ。PCを楽しむ機会を増やす狙いを持った製品」と、秋島部長は定義する。

 その狙いを象徴する動きがある。それは、これまでXPSシリーズとして販売してきた「XPS 17」および「XPS 15」を、6月から投入したIvy Bridge搭載モデル以降、Inspironシリーズ Special Editionへとリブランディングして発売したことだ。

 オーディオ・ビジュアル機能を搭載し、エンターテイメント性の高い同製品を、Inspironシリーズに移行させることで、「家族で楽しむ」というInspironシリーズのポジションをより明確にすることにつながっている。

 6月5日に発表したInspironブランドのUltrabookである「Inspiron 14z」も、同様に「楽しむ」というコンセプトによって開発されたものであり、先行して発売したXPSシリーズのUltrabook「XPS 13」のコンセプトとは一線を画するものだとする。

 Inspiron 14zは、「メインストリーム・ウルトラブック」と称するように、これまでのメインストリームPCで課題となっていた高速起動や薄さを、Ultrabookのフォームファクターによって解決。リビングや寝室に14zを持ち運んで、高速起動によって手軽にネットやメールを楽しむという提案を行なう一方、ドライブ非搭載の多くのUltrabookとは異なり、DVDやCDを活用しながら、自分の部屋で写真や動画を作成するといった用途提案も行なっている。そして、多くのUltrabookで訴求する屋外での可搬性という点については、マーケティング上はほとんど訴求しない。

 「屋外に持ち運ぶということにこだわった製品ではない。Ultrabookの特徴を活かしながら、家の中で楽しむという新たな提案する製品」(秋島部長)というわけだ。そこにメインストリーム・ウルトラブックとしての狙いがあり、Inspironブランドであることの意味がある。

●スーツを着る人に使ってほしい「XPS」シリーズ

 では、XPSシリーズはどう位置付けられるのか。「所有者のこだわりに応え、仕事を成功につなげるためのPC」と秋島部長は位置付ける。

 これまではオーディオ・ビジュアル機能での優位性を強調していたXPSシリーズだが、新たなブランド戦略では、ビジネスパーソナルのイメージを強く打ち出したブランドへと転換することになる。

 「新たなXPSシリーズでは、統一したデザイン、世界観を提供。スペックと価格と比較して選択するユーザーではなく、実質的な機能や、デザインへのこだわりを追求するユーザーのためのPCと位置付ける」とする。

 XPSシリーズは、13型のXPS 13に加え、14型のXPS 14、15.6型のXPS 15をラインアップ。XPS 13とXPS 14はUltrabookとなっている。

 いずれも削り出しのアルミボディを採用するとともに、液晶パネルにはCorningのゴリラガラスの搭載。「エレガントさと強度を両立し、たわむといった言葉を無縁にしながら、薄さを実現した」と、その特徴を強調する。

 デザインの観点からは、AppleのMacBook Airと比較されることも多いが、「根本的な違いは実質的な価値の部分であり、私服を着て仕事をする人のPCがMacBook Airとすれば、XPSは、スーツあるいはビジネスカジュアルの服装で仕事をしている人に使ってほしいPC」(秋島部長)と語る。コンシューマユースを狙ったPCではあるが、仕事の現場でも十分に活用できる機能を有したPCという位置付けである。

 そして最後にAlienwareだが、この位置付けには変更がない。「ゲーミングPCとして、最高峰の機能を実現するPCがAlienware。ゲームに勝つためのPCを投入し続ける」という。

 つまり、デルのコンシューマ向けPCは、「楽しむ」ためのInspiron、ビジネスで「成功する」ためのXPS、そして、ゲームで「勝つ」ためのAlienwareという3つのブランド戦略に集約されることになる。

●Ultrabookでトップシェア獲得を狙う

 デルでは、新たなブランド戦略をスタートしたことにあわせ、いくつかの施策を開始する。

 1つは、一家に1台のPC所有から、1人に1台のPC所有への拡大だ。「日本におけるPCの世帯普及率は高いが、1世帯におけるPCの所有台数は1.2台程度。これを複数台所有へと広げ、市場全体の拡大へとつなげたい」と語る。

 そこで重要な役割を果たすのがUltrabookだ。「個人での利用を促進し、1人1台環境へと広げることができるのがUltrabook。ここにデルの強みを発揮したい」。デルは、2012年末までにUltrabook市場において、30%のシェア獲得を目指している。「Ultrabook市場においてトップシェアを獲得する」と、秋島部長は鼻息も荒い。

 インテルでは、「世界で最もUltrabookで先行する地域が日本であるべき」(インテル・吉田和正社長)として、Ultrabookの出荷比率において、日本が最も高い市場になると予測する。デルは、その市場において、ナンバーワンシェア獲得を宣言してみせたのだ。

 そして、デルはグローバルでもUltrabookへのフォーカスを強めているが、ナンバーワンシェア獲得を宣言しているのは日本法人だけだ。

 現在、Ultrabook市場におけるデルのシェアは約15%。今後、国内PCメーカーの積極的なUltrabook投入が見込まれる中で、シェアを2倍にまで引き上げるのは、高いハードルだといわざるを得ない。しかし、その目標に向けて積極果敢に取り組む姿勢をみせる。

 「まずは、デルのUltrabookを見て、体感していただくことが大切。7月上旬には、東京・秋葉原のデル・リアルサイトとして、Ultrabook専門店舗を新設する。さらに、リアルサイト全店においても、XPSシリーズの展示を拡大するほか、量販店のUltrabookコーナーにも製品を展示する」と語る。自信がある商品だからこそ、まずは見てもらうことが大切だと、デルでは考えている。それがシェア拡大の大きな一歩になるからだ。

 一方、コンシューマ製品のさらなる強化についても示唆する。

 ここでの1つのターゲットは、Windows 8である。「Windows 8の特徴であるタッチ機能を活かし、体感的に利用できるPCや、クラウドサービスと連動した提案なども行なっていくことになる」と、年内の製品ラインアップ強化にも乗り出す考えを示す。

 クラウドサービスの具体的な内容については言及を避けるが、日本市場向けの独自コンテンツサービスを提供する可能性もありそうだ。

 「XPS 13は、発売直後には5週間待ちという状況にもなり、お客様にご迷惑をおかけしたが、いまは十分に供給できる状況。予想通りの堅調な動きをみせている。また、Inspiron 14zも、軌道に乗った立ち上がりとなっている。これらをさらに加速させ、国内コンシューマPC市場における存在感を高めていきたい」と意欲をみせる。

 Ultrabookの投入によって、デルが、少しずつ「元気」を回復しているのは確かなようだ。新たなブランド戦略の中で、群としての展開を加速することで、デルの国内市場における存在感が、今後どれだけ高まるのかに注目したい。