大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2011年度のPC産業を市場調査データと決算データから俯瞰する
~2012年度も成長する堅調な市場環境が浮き彫りに



 2011年度のPC市場の動向が、調査会社や、各社の業績発表から明らかになっている。

 これらをまとめると、タイ洪水被害によりHDDの供給不足が世界的に広がったほか、日本では東日本大震災により需要停滞などの影響、スマートフォンやタブレット端末への移行などの材料が懸念されたものの、PC市場は比較的堅調な動きとなった。とくに、今年に入ってからは、春商戦や企業の期末需要期においても、比較的順調に推移していることが浮き彫りになった。

●JEITAの集計では過去最高の国内出荷実績に

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2011年度(2011年4月~2012年3月)の国内PCの出荷台数は、前年比8.0%増の1,127万7千台。そのうちデスクトップPCは1.9%増の330万9千台、そのうちオールインワンPCは6.0%増の169万3千台。また、ノートPCは10.8%増の796万8千台となり、ノートPCの構成比は70.7%に達した。ノートPCのうち、モバイルノートは10.2%増の155万7千台、A4型/その他は11.0%増の641万1千台と、いずれも好調な結果となった。

 地デジTVチューナ搭載PCの出荷台数は、前年比7.1%増の112万5千台。そのうち、デスクトップPCが17.8%増の93万6千台、ノートPCが26.3%減の18万7千台。また、3D PCの出荷台数は5万7千台となった。

 個人向けおよび法人向け需要ともに好調に推移しており、2年連続で1,000万台を超える実績。2007年度以降の現調査対象での集計では過去最高の台数となった。

 だが、出荷金額は、前年比5.8%減の8,669億円。デスクトップPCは11.7%減の2,669億円、ノートPCは3.0%減の6,000億円となった。

 同調査は、JEITA加盟会社による自主統計であり、アップル、NEC、オンキヨー、セイコーエプソン、ソニー、東芝、パナソニック、日立製作所、富士通、三菱インフォメーションテクノロジー、ユニットコム、レノボ・ジャパンの12社の集計値。日本ヒューレット・パッカードやデルなどは統計に参加していない。

 だが、「春商戦が好調で、法人需要も堅調。全体では2012年2月、3月と、2カ月連続での2桁伸長を記録した。第4四半期も、タイ洪水による部材への影響が懸念されたが、全体として大きな影響は見受けられず、好調に推移した」などと、今年に入ってからも好調に推移していることを示した。

●HDDの供給不足の影響は限定的
タイ洪水で影響を受けたHDDだが、供給不足の影響は限定的だった(写真はWestern Digitalの「WD Scorpio Blue」)

 一方、MM総研が発表した2011年度(2011年4月~2012年3月)の国内パソコン出荷台数は、前年比5.0%増の1,529万4千台、2年連続で過去最高を更新するという実績になった。HDDの供給不足が懸念された下期も4.8%増の785万9千台となり、影響は限定的だった。

 しかし、出荷金額は前年比11.5%減の1兆1,272億円となり、価格競争の厳しさを示すことになった。

 流通ルート別では、個人向けルートが前年比7.0%増の788万4千台、法人向けルートが3.0%増の741万台と、いずれも成長した。

MM総研の調査結果(出典:MM総研)

 また、メーカー別シェアでは、NECレノボが26.0%のシェアとなり首位を獲得。前年から0.7ポイントシェアを上げた。出荷台数は前年比8.1%増の398万2千台。合弁事業によるコストダウン効果が奏功したという。2位の富士通は、前年から0.4ポイント減少し、18.1%。出荷台数は前年比2.4%増の276万5千台となった。3位の東芝は、13.1%のシェアを獲得。11.4%増の200万5千台と2桁成長を記録し、初めて年間200万台の国内出荷を達成した。4位は昨年の5位から順位をあげた日本ヒューレット・パッカード。シェアは0.3ポイント減の9.6%と、同社が当面の目標としている2桁シェアの獲得はならなかったが、前年比1.7%増の146万5千台を出荷した。5位はデルで0.9ポイント減の9.1%、出荷台数は前年比5.1%減の138万5千台となった。

 そのほか、ソニーが前年比5.3%増の98万5千台(シェア6.4%)、アップルが28.0%増の75万5千台(シェア4.9%)、日本エイサーが8.2%減の64万7千台(シェア4.2%)という順になった。

 MM総研では、2012年度の国内市場全体のPC出荷台数については、Ultrabookの本格展開やWindowsのメジャーバージョンアップ、モバイル需要に対応した製品の大幅刷新などにより、前年比3.3%増の1,580万台と成長を見込んでいるという。


●国内ビジネス市場は、今年に入ってから回復に

 IDC Japanが発表した 2011年のPC出荷台数は、前年比3.6%減の1525万台となった。家庭市場は前年比4.1%増の772万台、ビジネス市場が前年比10.4%減の754万台となった。

 家庭市場では、上位機種での値ごろ感が出たことで市場が刺激されたことがプラスに影響。しかし、ビジネス市場は、東日本大震災、欧米経済の先行き不透明感などによってマイナス成長になった。

 また同社が発表した最新データとなる2012年第1四半期(2012年1~3月)の国内クライアントPCの出荷台数は前年同期比10.2%増の435万台となった。そのうち、ビジネス市場は14.1%増の231万台、家庭市場は6.1%増の204万台。ビジネス市場は一転して回復基調に転じている。

 「懸念されたタイの洪水によるHDD供給の問題は、極めて限定的であったり、ビジネス市場、家庭市場ともにブラス成長になった。ビジネス市場では、大企業だけでなく、中小企業でも堅調に買い替えが進み、家庭市場では、春商戦が好調に推移したためプラス成長を維持した」という。

 同四半期のメーカー別シェアでは、NEC・レノボグループが唯一出荷台数で100万台を突破。両社の前年の合計値と比較すると、ビジネス市場、家庭市場ともに前年同期比2桁のプラス成長になっているという。富士通は、家庭市場向け出荷が振るわなかったものの、ビジネス市場では健闘。東芝はビジネス市場、家庭市場ともに好調で2桁の成長になったという。

 また、日本ヒューレット・パッカードは、上位5社の中で最も高い成長となり、順位を4位に上げる一方、唯一前年同期比マイナスになったデルは5位となり、家庭市場の不振が影響したという。

 IDC JapanのPC・携帯端末&クライアントソリューショングループマネジャーの片山雅弘氏は、「ビジネス市場では、復興需要への期待や景況感の回復などから、大企業だけでなく、中小企業のPCの買い替えが進んでいる。ビジネス市場は、欧州経済危機が再発しなければ、2012年は、このまま好調を持続するだろう。また家庭市場では、UltrabookやWindow 8といったように、市場を活性化する材料が多い」としている。

●好調な業績を続けるアップルとレノボ

 PCメーカー各社が発表した最新の業績をみて、PC事業の堅調ぶりがみられている。

 中でも、好調なのがアップルである。

アップルのMac主力製品であるMacBook Air

 米アップルが発表した2012年度第2四半期(2012年1月~3月)の売上高は前年同期比59%増の392億ドル、純利益は93%増の116億ドルと大幅な伸びをみせた。この成長を牽引しているのは、前年同期比88%増の3,510万台という大幅な成長を達成したiPhoneや、前年同期比151%増の1,180万台を達成したiPadであることには間違いないが、それでも、Macも前年同期比7%増の401万7千台を販売。第2四半期のMacの販売台数としては、過去最高を記録している。デスクトップは19%増の119万9千台、ポータブルは4%増の281万8千台といずれもプラス成長。また、各社が決算発表の中で販売金額を減少させる中でも、Macの売上高は2%増の50億ドルとプラス成長となった。

 日本での売上高は91%増の26億4,500万ドル、純利益は2.2倍の15億2,700万ドル。ここではauでも販売が開始されたiPhoneや、新型iPadの投入の貢献などが大きいが、Macの販売も貢献している模様だ。タブレット、スマートフォン、PCの連動提案が効を奏しているといえよう。

LenovoのLlano搭載低価格機「IdeaPad Z575」

 これに対して、Windows陣営では、明暗が分かれているが、その中でも、大きな成長を遂げているのがレノボだ。

 レノボが発表した2012年度(2011年4月~2012年3月)の通期売上高は、前年比37%増の295億7,400万ドル。同社業績としては、過去最高を記録した。また純利益は73%増の4億7,300万ドルとなった。

 PCの販売台数は前年比34.9%増と大幅に成長しており、年度末時点で、デルを抜き、世界第2位のPCメーカーになったことを強調。通期の市場シェアは12.9%となったという。

 これは、市場全体の3%という成長を大幅に上回る伸びとなっており、第4四半期(2012年1~3月)も、売上高では前年同期比54%増の75億ドル、純利益は59%増の6,700万ドルと高い伸びを記録。四半期別では、業界上位4社の中で、10四半期連続でもっとも高い成長率を記録。さらに、12四半期連続で業界全体の成長を上回る伸びを達成したという。

 同社では、すべての地域、セグメント、製品ラインにおいて、バランスがとれた成長を達成したとしている。

 また、台湾ASUSTeKも好調な業績となっている。

ASUSTeKのUltrabook「ZENBOOK」

 ASUSTeKは、2012年度第1四半期(2012年1~3月)の業績が、前年同期比23%増の909億1,200万台湾ドル、純利益は46%増の50億500万台湾ドルとなった。ノートブックPCの伸張が大きく、前年同期には56%だったノートブックPCの売り上げ構成比は、61%にまで拡大している。

 ノートブックの出荷台数は、前年同期比46%増の410万台、Eee PCは31%減の90万台、Eee Padは60万台。マザーボードは3%減の550万台となった。

 モバイルPCやノートブックPCにおいて、市場全体を上回る成長を遂げたほか、中国やロシアといった新興国での販売拡大などが貢献したという。

 第2四半期についても意欲的な計画を明らかにしており、ノートブックPCでは前年同期比42%増の440万台、EeePCでは10%増の110万台、EPADでは200%増の120万台を計画している。マザーボードは4%減の550万台を見込んでいる。

 これに対して苦戦しているのが米国勢である。

 とくに不振が目立つのが、米デルだ。同社が発表した2013年度第1四半期(2012年2~4月)の売上高は、前年同期比4%減の144億2,000万ドル、純利益は33%減の6億3,500万ドルと減収減益になった。

 ノートPCなどを含むモビリティ製品の売上高は、前年同期比10%減の42億3,500万ドル、デスクトップPCは1%減の32億6,800万ドル。収益のうち、モビリティ製品が全体の29%、デスクトップPCが23%を占めたという。

 同社では、部門別に業績を発表しており、コンシューマ分野における売上高は前年同期比12%減の30億4,300万ドル。スモール&ミディアムビジネスは4%増の34億7,700万ドル、公共部門は4%減の34億6,600万ドル、ラージエンタープライズは3%減の44億3,600万ドルとなっている。

 スモール&ミディアムビジネス部門以外のすべての部門でマイナス成長となっており、苦戦ぶりが目立っている。

 世界最大シェアを誇る米ヒューレット・パッカードの2012年度第2四半期(2012年2~4月)におけるパーソナルシステムズグループ(PSG)の売上高は前年同期並の94億5,200万ドル、利益は5億2,400万ドルとなり、営業利益率は5.5%を維持した。販売台数は、前年同期比1%減となった。そのうち、ノートブックは6%減、デスクトップは5%減。

 製品分野別の売上高は、ノートブックが前年同期比3%減の49億ドル、デスクトップが5%増の38億2700万ドル、ワークステーションが1%減の5億3,700万ドルとなったほか、企業向けPCの売上高は3%増、コンシューマ向けPCの売上高は4%減になったという。

 また、台湾Acerが発表した2012年度第1四半期(2012年1~3月)の業績は、売上高が前年同期比11.5%減の1,130億3,900万台湾ドル、純利益が92.8%減の1億3,800万台湾ドルと、やはり減収減益になった。

 ITプロダクトの売上高は11.1%減の1,103億2,000万台湾ドル。そのうち、ノートブックの構成比が67%、デスクトップPCが18%、ディスプレイが9%、その他が6%となっている。

 同社では、第2四半期以降、Ultrabook市場でのリーダシップを発揮することで、事業拡大に取り組む考えだ。


●ソニー、富士通は期初目標を割り込む

 一方、国内PCメーカーの動きはどうであろうか。

 東芝が発表した2011年度のPC事業の売上高は、前年比10%減の8,229億円、営業利益は13%増の114億円と2期連続で黒字を達成した。

 2011年度のPC出荷台数は前年並の1,900万台となり、国内を中心に売上高は伸長したものの、円高の影響と欧米での伸び悩みによって減収。一方でコスト削減施策の徹底、部材価格の低減などの効果により増益となった。

 国内では、個人向け一体型デスクトップが好調に推移したのがプラス要因。ノートPCにおいては、価格攻勢によって、主に個人市場で販売を増加させた模様だ。

 2012年度については、前年比11%増の2,100万台の出荷を計画。売上高は前年並の8,200億円、営業利益は56%減の50億円とした。

 為替や単価下落の影響によって、大幅な減益を見込むが、販売台数では2桁増を見込んでいる。

ソニーのVAIO S

 ソニーは、2011年度のPCの販売台数が前年比3%減の840万台となった。

 ここ数年、ソニーは年間1,000万台の出荷を目標に掲げているが、2011年度も、それは未達となった。

 タイの洪水被害の影響によって、HDDの調達に遅れが出たことが影響。それを裏付けるように、第4四半期(2012年1~3月)での落ち込みが大きく、前年同期比11%減の160万台と2桁の減少になったことが響いた。

 しかし、同社では、2012年度も、改めて1,000万台のPC出荷を目指すという。1,000万台の達成に向けては、「東日本大震災の影響や、タイ洪水被害の影響からの回復が見込まれる」としており、現在の延長戦上の施策によって、1,000万台の達成が可能だと見込んでいる。

 富士通は、PCおよび携帯電話などを含むユビキタスソリューションの売上高が前年比3%増の1兆1,542億円、営業利益は同12.1%減の199億円。

 個人向けPCの価格下落が響いて減益となったが、企業向けの大型ロット商談によって、PCの出荷台数は前年比11%増の602万台と2桁成長を達成。しかし、タイ洪水被害によって、HDDの調達が遅れたことで、期初目標に掲げていた660万台の計画値は下回った。

 2012年度のユビキタスソリューションの業績見通しは、売上高が前年比0.5%増の1兆1,600億円、営業利益は同25%増の250億円。PCの販売台数は前年比16%増の700万台と、2桁成長を計画している。

 NECは、個人向けPC事業をレノボとの合弁事業へと移行したことで、PC事業の明確な数字を発表しなくなった。NECによると、法人向けPCや携帯電話などを含むパーソナルソリューション事業の売上高は14%減の6,610億円、営業損失は29億円増の10億円になった。

 ここでは、7月に事業移管した個人向けPCの非連結化などが影響して減収としており、その一方で開発費の効率化や費用削減効果によって増益になったという。

 2012年度のパーソナルソリューションの売上高は、売上高は前年比8%減の6,100億円、営業利益は90億円増の100億円を計画している。

 個人向けPC事業を担当するNECパーソナルコンピュータでも、今年度から具体的な実績や計画については公表していない。

 調査会社の調べによると、NECとレノボの国内におけるシェアは、2010年度第4四半期には合計で24%であったが、2011年度第4四半期には25%に上昇しているという。

パナソニックの「Let'snote SX」

 パナソニックは、2011年度のPCの出荷台数が前年比16%増の74万台となり、同社PC事業としては、過去最高の出荷台数を記録したという。

 2012年度は前年比14%増の84万台を計画。さらに過去最高を更新する意欲的な計画を掲げている。

 ビジネスモバイルでの販売増加と、国内生産ならではの信頼性や、企業に対する迅速な納品体制などがプラスに働いている。


●需要は堅調、収益性の課題克服がポイントに

 各社の数字を見てみると、2012年度も引き続きPC事業の成長を見込んでいる。

 UltrabookやWindows 8の登場といったエポックメイキングな製品が見込まれている中で、各社とも成長戦略を描いている。タブレット端末やスマートフォンとの競合も指摘されるものの、PCメーカーはその影響は限定的だと見ている。

 一方で、課題となるのは収益性の問題であり、価格下落の進展や、新興国を中心とした低価格モデルの広がりなどによる収益性の悪化をどう解決できるかが共通のテーマとなりそうだ。