大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
“トイレ”から見るIoTの世界とは?
~Microsoft WPC 2016で西脇エバンジェリストが示したIoTの可能性
2016年7月26日 06:00
今やIoTは、世の中の大きな潮流になっている。
PCやスマートフォンだけに留まらず、さまざまな場所に設置されたセンサーやカメラ、デバイスなどから得られる情報量は急速に広がりを見せ、現在、世の中に存在するデータの90%は、この2年の間に生成されたものだと言われている。
では、これらのデータを活用してどんなことができるのだろうか。
そして、機械学習を始めとするコグニティブや、Microsoftが打ち出す「Conversation as a Platform」を実現する上で重要となるボットと呼ばれる新たな機能は、IoTから得られたこれらのデータを活用いることで、どんな世界を実現することになるのだろうか。
米Microsoftが、7月11日~14日(現地時間)に、カナダオンタリオ州トロントで開催した、同社最大のパートナーイベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2016 (WPC 2016)」の最終日に行なわれた、Japan Regional General Sessionにおいて、日本からの384人の参加者を前に、日本マイクロソフト エバンジェリストの西脇資哲氏が行なったデモストレーションは、トイレに設置したセンサーからの情報を基に、IoT、機械学習、ボットという新たな潮流の組み合わせによって、どんなことができるのかといったことを示すには最適なものだった、と参加者からも高い評価が出ていた。
IoTと機械学習、ボットの組み合わせによってなにができるのだろうか。西脇エバンジェリストが紹介した「IoT(Internet of Things)」の世界を、「IoT(Internet of Toilet)」から見てみよう。
男子トイレ個室のセンサーから始まるIoT
東京・品川の日本マイクロソフト本社 26階の男子トイレの個室の扉には、センサーが設置されているという。
このセンサーでは、トイレの個室の扉の開閉によって、使用中であるか否かが分かる。言わばIoTの基本的な使い方だ。
ちなみに、最初に断っておくが、26階は社員しか入れないフロアで、訪問客が訪れる30階、31階の応接フロアのトイレには、センサーは設置されていない。
このセンサーによって、情報を収集し、分析すると、いくつかのことが分かる。
センサー情報を基に、個室の時間帯別に使用状況を色分けしてみる。例えば、頻繁に使用されている時間帯は濃いピンクに、少し利用されている場合には薄いピンクに、個室ごとに使用状況の表示が可能だ。これは、分析結果を可視化するというものになる。
この結果、出社直後の10時~10時30分、昼食後の13時~13時30分の稼働率が高いこと、しかも、10時~10時30分は、全ての個室が埋まっていること、手前より奥のトイレが利用される頻度が高いこと、隣同士で利用されるよりも、1つ間を空けてトイレが利用されていることなどが分かった。
今回のデモストレーションでは、MicrosoftのPowerBIでセンサー情報を分析し、ダッシュボード機能で表示している。
センサー情報からは、ある程度、推測される結果が出ていると言えよう。
流通業では、どの時間に、どれだけの来店客があるのか、あるいはどんな製品が売れているのか。製造業ではどの製品が、どれだけ製造されているのか、生産ラインに対する部品の供給状況はどうなっているのか、といった情報を収集するのと同じものだ。
そして、収集したデータは分析するだけでなく、サービスへと繋げることができる。
トイレの例で言えば、このデータを基に、現在、トイレの個室が空いているのかどうかといった情報を提供するサービスへと繋げることができる。
日本マイクロソフトでは、Office 365のSharePoint上に、トイレの状況をリアルタイムで表示できるようにした。使用者はアラートを設定することもでき、空き状態となった場合には、自らのPC上にアラート表示も可能だ。また、Skypeのプレゼンス機能との連携により、個室の今の稼働状況を一目で見ることもできる。利用したいと思ったら、これを見てトイレに向かえば良い。
では、これに機械学習を加えるとどうなるだろか。
1つは、これまでのデータを基に、トイレの混雑状況を予測できるようになる。そして、もう1つは、個人のスケジュールや体調を見ながら、トイレの使用状況と照らし合わせて利用することが可能になる。
もちろん、自らに余裕がある場合の話になるが、今行くべきか、あるいはもう少し先に行くべきかを自ら確認して、トイレに行く時間を決めることができる。
さらに、これに、ボットを組み合わせるとどうなるだろうか。言わば、トイレと会話するという環境が生まれることになる。Microsoftでは、「Conversation as a Platform」という言い方をしているが、まさにトイレとの会話は、Conversation as a Platformの実現である。
デモンストレーションでは、Skype for Businessを通じて、用意されたトイレのアイコンをクリックし、「トイレ、空いている?」と書き込めば、それを認識して、センサー情報を基に「トイレは全て空いています」という返事が来る。今どのトイレが空いているのか、といったことも確認が可能だ。
こうした使い方は、当然モバイルアプリからも可能である。在席していない場合にも、オフィス内を移動中にスマートフォンを利用して、トイレの状況を確認して利用することができる。
さらに、スケジュールや体調と連携するとどうなるだろうか。
ここでは、「平野さん(日本マイクロソフトの平野拓也社長)がトイレにいきたいのですが」と書き込んでみた。すると今度は、「平野さんの体調と今後1時間のトイレの利用予測を考慮すると、今のうちに利用しておくことをお勧めします」という回答がやってきた。平野社長のバイタルデータとの組み合わせというデータ連携が、サービスの質をあげることに繋がる。
まさにトイレとの会話が実現しており、トイレが個人の体調にまで気遣ってくれるというわけだ。
トイレだけでもこれだけのことができる。
西脇氏は、「IoTは、Internet of Thingsの略称だが、今回のデモンストレーションはInternet of Toiletになる」とジョークを飛ばす。
トイレの例ではビジネス化することは不可能だが、ここにIoTを切り口にしたビジネス化のヒントが隠れていると言えそうだ。
IoTで得た情報を、どう進化させていくかということを示す内容になっていた。
りんなにテレビ番組の音を聞かせると?
ここでは、もう1つユニークなデモストレーションを行なってみせた。
それは、女子高生AIとして人気を博し、すでに370万人が利用している日本マイクロソフトの「りんな」を活用し、りんなに今放送中のテレビの音声を聞かせてみるというものだ。
デモンストレーションでは、NHKで放映しているライブの音声を5秒間ほど聞き取らせてみた。
するとりんなは、「NHK総合って、コントとか、バラエティ番組が意外と面白いよね。大河ドラマをお父さんがいつも見てる!」と回答してきた。
これは、Microsoftのデータセンターにおいて、日本の全ての地上波放送をレコーディングしており、この情報をリアルタイムでマッチングし、その番組が何かを認識することで実現している。さらに、番組に対するコメントを行ない、会話として続けることになる点が特徴だ。
リアルタイムでテレビ番組の話題をやりとりできることにも驚きだが、単にそのテレビ番組を理解して、その番組は何かを回答するのではなく、そこから会話として話を進めることができる点が、これまでの技術とは異なる、と西脇氏は語る。深層学習によって、画像認識や音声認識だけに留まらず、次の会話へと進める機能を持っており、まさにここでもConversation as a Platformが実現されていると言える。
Windows 10 Anniversary Updateの強化点は ?
また西脇氏は、8月2日から提供を開始する「Windows 10 Anniversary Update」についても触れた。
Windows 10 Anniversary Updateは、セキュリティの強化が行なわれている一方、「Windows Hello」、「Windows Inkの強化」、「Cortanaの進化」、「ゲーム連携」、「日本語IMEの強化」の5つのポイントを挙げ、「Windows 10 Anniversary Updateは、是非(皆さんに)使ってもらいたい」とした。
Windows Inkでは、Inkワークスペースから指示をすると、ペンを使って簡単に画面に書き込みができ、これをサードパーティが開発したアプリにも活用。ペン機能を使うことができるというもの。西脇氏は「Windows 10 Anniversary UpdateのWindows Inkによって、アプリの価値をさらに高めることができる」とする。
また、新たな通知機能によって、FacebookやTwitterなどの通知を右側部分に統合して表示。使いやすくなった点を強調したほか、Cortanaの進化では、Cortanaの発音が以前よりもスムーズになり、UWPとの連携も強化。「音声入力と音声出力によって、ペン同様に、アプリの価値を高めることに繋がる」とした。加えてCortanaは、画面がロック中にも会話できる機能も搭載している。
Windows Helloについては、Windows 10の起動時のサインインだけでなく、アプリでも活用できる事例を紹介。Edgeで作られたアプリでは、サイトを通じた購入の際の認証にも利用した。生体認証などの新たな認証技術の標準化を目指す、「FIDOアライアンス」の規格にWindows 10とEdgeが対応しており、ISVが開発したアプリを少し変更するだけで、顔認証対応アプリを開発できる。
さらに、セキュリティ強化では、企業データを暗号化し、企業で使うアプリと、個人で使うアプリにおけるデータ交換をブロックしたり、監査を行なったりする「Enterprise Data Protection」、Windows 10のクライアントテクノロジーとクラウドサービスとを組み合わせ、侵入した脅威を検知、エンドポイント全体を調査するために情報を取得し、対処法を企業に提示する「Windows Defender Advanced Threat Protection」のほか、教育分野向けに、共有デバイスの簡単セットアップアプリの提供や、デバイス更新時間の設定、簡単にテストが設定できる機能が新たに提供されたことを紹介した。
約35分間のデモンストレーションだったが、IoTの世界の今後の広がりや、Windows 10 Anniversary Updateの特徴が明確に示されたものとなった。