大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NECレノボ・ジャパングループの開始から5年
~その成果と将来を留目社長に聞く
2016年8月9日 11:54
2011年7月に、NECレノボ・ジャパングループのジョイントベンチャーがスタートして、ちょうど5年を経過した。この5年を振り返り、NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの代表取締役社長を務める留目真伸氏は、「理想的な形のジョイントベンチャーであり、100点近い成果があった」と自己評価しながら振り返る。
NECパーソナルコンピュータはレノボの調達力を活かした製品競争力を強化した一方、レノボ・ジャパンは、NECパーソナルコンピュータが持つ販売網やサポート網を活用して強化。この5年間で両社の合計シェアが上昇したほか、PCメーカーから脱却し、エンタープライズ領域にも事業を拡大。先頃、国内市場におけるスマートフォンへの本格事業展開を宣言して見せた。留目社長に、NECレノボ・ジャパングループのジョイントベンチャーにおける過去5年の成果と、これからの5年について聞いた。
パーソナルコンピューティングパワーを普及させる
――2011年7月に、NECレノボ・ジャパングループのジョイントベンチャーがスタートしてから5年を経過しました。設立直後は5年が1つの目安となっていましたね。その成果はどう自己評価しますか。
留目(敬称略、以下同) この5年間は理想的な形で経営を進めることができたと考えています。事業統合は難しく、シナジーを出すまでには一定の歳月が必要だと言われますが、統合直後からシェアが向上し、利益率向上といった成果も上がりました。コールセンターを統合したり、米沢事業場でThinkPadの生産を開始したり、一方で、調達面でのメリットなどを活かして、NEC製品の競争力も高まってきました。
NECブランドの製品、レノボブランドの製品のいずれもがポートフォリオを拡大でき、それぞれの製品の方向性も明確にできたと思っています。販売面においても、量販店向けビジネスでは、レノボの営業部隊を、NECパーソナルコンピュータの営業部隊が吸収する形でコンシューマ営業部隊を設置。本部商談だけでなく、各エリアの店舗をきめ細かくフォローするNECならではの営業体制を活用。これが、レノボ製品の販売拡大に大きく貢献しました。
販売支援においては、外資系企業にはない体制が実現できたと言えます。お互いの強みを活かした形で統合ができ、その結果、まさにユニークなポジションを獲得できたと考えています。レノボは、IBMのPC事業をベースに成長してきましたし、日本ではNECのPC事業を軸にしています。どちらもPC業界の発祥とも言える生い立ちを持った会社であり、30年以上に渡る事業経験を持ちます。
しかし、従来のPC事業は「箱」をリプレースするだけで事業が成り立ってきたとすれば、今のビジネスは、コンピューティングパワーをパーソナル化するという点にフォーカスすることが求められており、その1つの構成要素がPCということになります。スマートフォンやタブレット、サーバー、そしてネットワークに繋がり、そこでコンピューティングエクスペリエンスを実現するのが今の時代。言い換えれば、コストを追求し、可能な限り「箱」を安く提供するだけではビジネスが成り立たない時代に入ってきています。
NECがやってきたことも、ThinkPadがやってきたことも、コモディティを追求することではありません。NECレノボ・ジャパングループが目指してきたのは、PCを普及させることではなく、パーソナルコンピューティングのパワーを、もっと普及させることです。この5年間で、日本において、そのポジションを明確にすることができたと考えています。
なぜNECの出資比率が引き下げられたのか
――2年前にNECとの契約を見直し、このほど、7月1日付けでNECの出資比率が33.4%に引き下げられました。これはビジネスにはどう影響しますか?
留目 これはむしろ、ポジティブな動きだと捉えてください。
NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの持ち株会社であるLenovo NEC Holdings B.V.は、設立時点では、レノボが51%、NECが49%の出資比率でした。当初の契約では、2011年7月1日から5年間となる2016年6月30日まで、この出資比率を維持するとともに、NECブランドによるPCの製造、販売を、NECパーソナルコンピュータを通じて行なうことにしていました。
そして、5年を経過した時点で、どちらかの会社が希望すれば、NECが持つ49%の株式をレノボが買い取り、ジョイントベンチャーを解消することができる条件が付帯されていました。しかし、2年前に、2016年6月30日までの期間を、2年間延長。さらに、その後は2026年6月30日まで、契約を自動更新することになりました。
また、2016年以降の株式の買い取りに関して新たな条項を用意し、NECが持つ株式の一部をレノボが買い取り、レノボの出資比率を66.6%、NECの出資比率は33.4%とすることにしました。今回の出資比率の変更は、2年前から決定していたことであり、これが実行されたということになります。
さらに、かつての契約条項であれば、2016年6月末には、レノボによる完全子会社化およびそれに伴うNECブランドの消滅といった選択肢しか用意されていなかったものが、どちらかが求めるのであれば、出資比率を変更しながら、ジョイントベンチャーを継続することができます。
つまり、2026年までは、日本国内において、NECブランドを使用した事業展開が可能になった、とも言えるわけです。出資比率の変更はそれだけを見ると、ネガティブな要素に受け取ってしまう場合もあるでしょうが、本質的な意味は、これまでのジョイントベンチャーの成果が予想以上のものであったこと、そしてこの仕組みが間違っていないということを両社が認識し、それを維持するためのものだと言えます。NEC、レノボの両社にとって望ましい仕組みであるとも言えます。
――一方で、NECレノボ・ジャパングループでは、日本IBM時代からの大和研究所と、NECの米沢事業場という2つの開発拠点を国内に有しています。1つの国の中に、2つの開発拠点が必要なのかという指摘は常にあると思いますが。
留目 レノボは、市場の多様性というものをしっかりと理解しています。グローバル規模で捉え、スケールメリットを追求する領域がある一方で、ローカルの特性を捉えて、そこでニーズに応える必要性も認識しています。
大和研究所はグローバルの開発拠点の1つに位置付けられており、それに対して、米沢事業場は日本のユニークなニーズに応える拠点と位置付けられています。2つの拠点の役割は異なるわけです。ローカルのニーズに対応した拠点は、中国でも、ドイツでも同じにも設置されており、日本だけが特殊というわけではありません。今後も、大和研究所、米沢事業場という2つの開発拠点は維持されることになります。
――NECとレノボは、かなり異なる文化を持った企業だと言えます。この2社の文化が、よく融合できたというのが正直な感想ですが(笑)。
留目 確かに、レノボの文化と、NECの文化は大きく異なります。しかし、どちらの文化が良いというものでもなく、それぞれの良さを活かしながら進化したことが、経営体質の強化にも繋がったと言えます。
例えば、レノボは、柔軟性があり、多様性を持った組織体となっています。この文化はNECパーソナルコンピュータにも定着し、それが今では強みの1つになっています。事業統合において大切なのは、事業の目的を明確にするということです。先にも触れましたが、これまでNECやレノボ・ジャパンがやってきたことを、「パーソナルコンピューティングの普及」という目的に置き換えて、そこにフォーカスすれば、我々の事業機会は大きく広がり、その追求は未来永劫続くとも言えます。
しかし、PCを売るという事業のままでは発展はありません。個人のPCの使い方は、30年前からまったく進化していませんし、オフィスの生産性向上もなかなか上がらないままです。そうした中で、我々は何をやるべきか、どんな組織にすべきか、そうしたことがお互いの中に「腹落ち」し、そこに向かって歩むことができたという点が、このジョイントベンチャーの成功要因の1つだと思っています。第4次産業革命という言葉が使われますが、その最先端にいる企業がNECレノボ・ジャパングループだと言えます。そして、これからもそのポジションをより強いものにしていきたいと考えています。
5年間の成果は約100点、だがやり残したことも?
――この5年間を自己採点すると、どれぐらいの点数になりますか?
留目 ジョイントベンチャーという点で見れば100点近いと言えます(笑)。ただ、その一方で、やりたいことがまだまだできていないという反省もあります。
それは「共創」への取り組みです。パーソナルコンピューティングを普及させること、あるいはIoTという世界で存在感を発揮するには、メーカー1社が縦割りで製品やサービスを作っても成り立ちません。ユーザーの生活をサポートする、あるいは業務をサポートするには、業界を超えてさまざまな企業と、共創していかなくてはいけない。NECレノボ・ジャパングループでは、「DREAM(Digital Revolution for Empowering All Mankind)」を打ち出し、2020年を目標に、日本のIT活用力を世界最高レベルにすることで、日本に活力を与え、真のデジタルライフ、デジタルワークを実現したいと考えています。
これを実現するには、共創が大切な取り組みであり、レノボ・ジャパンが発起人となって設立した「digital economy council(デジタルエコノミーカウンシル=dec)」では、PC業界以外の企業と連携しながら、共創に向けた活動を行なっています。しかし、それらの取り組み成果はまだこれからです。いや、始まったばかりです。ですから、この点についてはまだ自己採点できるレベルにはないと考えています。
――既に共創への取り組みで成果が上がっている例はありますか?
留目 例えば、神奈川県鎌倉市の由比ヶ浜で行なっている海の家は、今年(2016年)で3年目となりますが、今年の場合、各テーブルにYOGA Tabを設置するだけでなく、株式会社鎌倉との連携により、オリジナルアプリ「JOYin!」を通じて、近隣の観光情報を提供。また、指紋を決済IDとする「Liquid Pay」によって、現金を持ち歩かずとも飲食ができるようにしています。これは観光IoTの実現や、インバウンド需要に対応した「おもてなしプラットフォーム」の実証にも繋がるものです。
そして、地域の稼ぐ力を引き出すDMO(Destination Management Organization)の実現にも貢献すると考えています。また、渋谷区観光協会と連携し、「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA FES」を実施し、2020年に向けた街のデジタル化に取り組んでいます。渋谷区観光協会公認アプリとして「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」を提供し、約300カ所に設置したビーコンから、スポットの紹介やクーポン情報などを提供します。
こうしたさまざまな方々と連携することで、あらゆる可能性を追求していくことが必要だと考えています。
今、スマートフォンを国内投入する意味は?
――2015年度は「スマートフォン参入元年」としていましたが、2016年度はいよいよスマートフォンの本格参入の年になりますね。
留目 スマートフォンの国内市場への本格参入については、慎重にタイミングを伺っていました。パーソナルコンピューティングの実現において、スマートデバイスやクラウドサービスといった要素は重要なものですし、それに向けてスマートフォンはやらなくてはならないピース。それがないとパーソナルコンピューティングが成立しない。これが、ようやく揃ったと言えます。ですから、今年はスマートフォン本格参入の年と位置付けました。
タイミングを測っていたというのは、日本の市場向けに、PCやタブレットなどと連携し、新たな提案ができる機能を持ったスマートフォンが揃ってきたことを指します。Androidだけでなく、日本ではWindows 10 Mobile搭載モデルが法人需要で期待ができ、どうしてもこのモデルが必要でした。また、共創の取り組みがスタートし、レノボがスマートフォンを扱うメリットが生み出しやすい環境が整ってきたことも、良いタイミングになってきたと言える理由の1つです。
――モトローラブランドで展開するレノボのスマートフォンの強みはどこにありますか。
留目 技術のモトローラと言われるように、技術の先端性は強みの1つです。これは、技術や品質にうるさい日本の消費者にも受け入れられるブランドであるとも言えます。
もう1つは、やはりPCやタブレットとの連携提案ということになります。スマートフォンだけを取り扱うベンダーとは異なり、提案の幅を広げることができる。さらに、共創の幅が広がるという点でも、モトローラの強みを活かせると考えています。
SIMロックフリー版とキャリアを通じた製品の両方の製品を投入したのは、共創の観点から、どちらの製品も必要であると感じたからです。それぞれの製品の切り口から共創を推進できると考えています。スマートフォンに関しては、具体的な数値目標は言える段階にはありませんが、やるからにはそれなりのプレゼンスを出したいですね。
低迷するPC市場の打開策はあるのか?
――一方で国内PC市場は縮小傾向が続いています。何か打開策はありますか?
留目 法人市場は、4~6月においても前年同期比2桁増の成長率となっていますし、テレワークの広がりなどによりモビリティ性の高いPCの販売増も期待されています。Windows 7搭載PCの出荷が終了する2016年10月も、販売増を見込むことができますが、Windows XPの時のような「特需」にはならないと見ています。
IoTが広がる中でハブとなるコンピューティングパワーを提供する役割を担うのはPCであることに間違いはありません。日本ではまだ用途としては少ないのですが、個人の資産管理などの使い道や、子供や若い世代に対して、PCをもっと使ってもらうための提案も必要だと言えます。2020年には小学校、中学校でプログラムミングの授業が開始される見込みですし、それに合わせて子供たちがPCを使う機会も増えるでしょう。
ただし、NECレノボ・ジャパングループは、PC市場だけを対象に事業をしている企業ではありません。スマートフォン、タブレット、そして、エンタープライズを含めて、コンピューティングパワーを提供していく会社です。その観点から市場を捉えていきたいと考えています。
――これから5年後のNECレノボ・ジャパングループの姿はどうなりますか。
留目 共創をベースにしながら、個人ユース、法人ユースにおいても、コンピューティングパワーによってもたらされる新たなスタイルを提案し、それを引っ張っていくことができる会社でありたいと考えています。
NECレノボ・ジャパングループは、コンピューティングを提供する側の会社ですから、その立場から共創をリードしたいと考えていますし、その時に、PCだけでなく、エンタープライズやモバイルといった領域からも提案を行ない、市場成長と企業成長を実現していきたいですね。
NECレノボ・ジャパングループには、PC業界の1プレイヤーであるという認識はありません。スマートデバイスやクラウドサービスといったコンピューティングパワーを提供する会社であり、その中で、日本における共創の中心的役割を果たす会社としての使命を持ちたいと考えています。NECのブランドを活かし、さらに、大和研究所や米沢事業場の資産も活かしていきたいですね。こうした活動を通じて、日本の発展に寄与したいと考えています。