山田祥平のRe:config.sys

iPhoneオーディオ復活の小道具

 Lightning端子つきDACが充実し始めている。そして、年初のCESで試聴したSHUREの製品もいよいよ発売が開始された(「SHURE、iPhone 7で有線イヤフォンを使えるようにするLightningケーブル」参照)。オーディオマニアだけのものにせず、ライトな音楽ファンもぜひ試してみてほしい。iPhone で音楽を楽しんできた層にとっては環境を見直す絶好のチャンスだと言えそうだ。

SHUREのDACつきケーブルがいよいよ発売

 個人的にメインに使っているスマートフォンはAndroid端末だが、音楽はやっぱりiPhoneがいい。ミュージックアプリの使い勝手も、PCで音楽を管理するアプリであるiTunesについても群を抜いていると思う。音楽を楽しむために、ぼくにとってiPhoneは欠かせない存在だ。

 ところがiPhone 7に買い換えて、とたんにオーディオ的な面でiPhoneはプアになってしまった。イヤフォン端子が廃止されてしまい、これまでの品質で音楽を楽しむことができなくなってしまったからだ。そんなに贅沢を言っているわけではない。iPhoneに内蔵されたアンプの出力を普通にイヤフォンで聴いていただけだ。

 それでも、iPhone 7に同梱されているLightning端子つきのイヤフォンや、通常のイヤフォンを接続するためのブタの尻尾的な変換ケーブルの音は、それまでよりも劣っていると感じてしまったらもうダメだ。

 そんな状況に悶々としながらBluetoothイヤフォンなどの聞き味を試すなどして、ずっと気を紛らしてきたわけだが(「スマホオーディオオンエア三昧」参照)、いよいよSHUREの製品 RMCE-LTG の発売が決定したというので、発売日の5月19日を前に、製品を試させてもらった。

【お詫びと訂正】初出時に発売日を5月12日としておりましたが、5月19日の誤りです。お詫びして訂正させていただきます。

 この製品はケーブルとして売られているが、実際にはアナログアンプつきのデジタルアナログコンバータ(DAC)だ。片側がLightning端子、もう片側がMMCXと呼ばれる汎用的なイヤフォン装着用の端子になっていて、そこにMMCX準拠の好みのイヤフォンを装着できる。SHUREの製品ではSE215、SE315、SE425、SE535、SE846がMMCX準拠のイヤフォンだが、他社製品にも同規格準拠の製品は数多く存在する。

 個人的には、イヤフォン側は耳かけフィットのためのワイヤーを持つMMCX対応で、Lightning端子つきのマイク・リモコンつきケーブルというのは、もっともツブシのきく製品であり、ものすごく期待していた。本当は、iPhone用として、たとえば細ケーブルでホワイトのカラバリなども期待したいところだが、ブラックのみとなっている。そこはそこでSHUREらしいといえばSHUREらしい。

MMCX端子で好みのイヤフォンを装着する

 手元に届いたケーブルに、SHUREの製品ではもっともお気に入りのSE535(無印)を接続して試聴してみた。

 iPhone 7にLightning端子を装着すると、ShurePlus MOTIVアプリのインストールを促す表示がある。このアプリはSHUREのデジタルマイク入力をコントロールするためのもので、このケーブルを使うためには必須ではない。

 ただ、今後のファームウェアアップデートのために必要になるものなので、念のために入れておいたほうがよさそうだ。ファームウェアアップデートが想定されているという点で、この製品は単なるケーブルではなく、デバイスであるということを実感する。

 実を言うと、まだちょっとバグが残っているようで、スリープ状態のiPhoneに装着したときに認識しそこなったり、デジタルデータのコンバート失敗気味の音が出たりすることがある。装着したつもりで電車の中で音楽を再生したときに、本体から音が出てしまっては困る。でも、それを何度か体験した……。ケーブルの再装着で正常に作動するのだが、ファームウェアのアップデートができるなら安心できる。

 ケーブルの長さは127cm。長くもなく短くもない。ちょうどいい長さだと思うが、かなりしっかりしているもので取り回しの点ではやっかいに感じるかもしれない。L側とR側の分岐部分にはリモコンモジュールが配置され、このなかにDACとアナログアンプが内蔵されている。電源についてはLightning端子経由でiPhoneから供給される。バッテリの消費については心配するほどではないが、ゼロというほど少ないわけでもない。

 リモコンは中央に突起のあるボタンがあり、その上に+、下に-ボタンがある。+と-は音量調整だ。また、突起のある中央ボタンを一度押すと一時停止、もう一度押すと再生だ。二度押しで次の曲、三度押しで前の曲となる。さらに長押しでSiriが起動し、右側ケーブルの途中に装備されたマイクを使っての指示ができる。もちろんiPhoneでの通話も可能だ。

 半年以上、ワイヤレスイヤフォンばかりを使ってきて、それに慣れきってしまっているため、やはりケーブルはうっとおしいとは思う。

 肝心の音はどうか。音楽はこうじゃなくちゃと思う音がしっかりと出ている。低域がしっかり出ている反面、高域がうるさいようなこともない。キレという点では今風ではないのだが、しっかりとバランスのとれた音作りだ。

 何よりも気持ちがいいのが音量を多少上げたとしてもうるさい感じが皆無なところだ。これはひずみとの絶妙なバランスなのだと思う。もしかしたら、楽曲によっては高音にちょっとした不満を感じることがあるかもしれない。そのあたりは好みだろう。そのあたりを聞き慣れた曲で試すのが楽しくて、えんえんと数日間手持ちの音楽を聴き続けてしまったし、それでも飽きない。

 せっかくのMMCX端子なので、手元にあったパイオニアのSE-CH9Tのイヤフォンと交換してみた。こちらもMMCX端子を持つ製品でケーブルと脱着できる。

 再生してみた。

 おもしろいほど音が違う。こちらは発売されて間もない製品なので、音の作りも今風だ。SEシリーズでは不足気味に感じた高音もグンと伸びる。低音についてもちょっとばかりタイトになるような印象を持った。何よりも、両者の違いをいろんな楽曲で体験するのが楽しくて仕方がない。

 Lightning端子を持つイヤフォン製品としては、パイオニアのRAYZ Plusも発売されたばかりだ。こちらはLightning端子の根っこの部分にLightnigジャックが装備され、iPhoneを充電しながらでも使用することができる。また、充電ポートを備えない RAYZも用意されている。RAYZ Plusの根っこの部分の充電ポートがうっとおしく感じる方もいるかもしれないが、そんな場合はこちらを選べばいい。耳からイヤフォンをはずすと再生を一時停止し、つけると再開するような機構も備えている。

 さらに、この製品はノイズキャンセル機能つきだ。アプリをインストールしてノイズキャンセルをオンにし、キャリブレーションすると環境音がスッと消える。もともとインナーイヤー方式のイヤフォンなので、ノイズキャンセルの必要性はあまり感じないのだが、それでもその効き目はしっかりと感じることができる。

 MMCX端子ではないため、パイオニアの考えるDACの在り方とアナログアンプの音作りを、別のイヤフォンで試せないのが残念だが、SHUREとの考え方の違いが如実に伝わってくる。

マニアの楽しみをカジュアルに手に入れる

 こうしてiPhoneは、これまで一部のオーディオファンが、外付けDACやポータブルアンプの接続などの工夫で手に入れてきた音楽再生の楽しさを、別のかたちで提供できるようになっている。

 従来のヘッドフォン端子では、イヤフォンを同梱のものと交換するだけでも、かなりの音の違いを楽しめたものだが、さらに、DACやアナログアンプの違いまでをカジュアルに楽しめるようになったのだ。

 個人的には、iPhoneで聴く音楽がますます楽しくなった。昨年(2016年)秋にiPhone 7に機種交換してからじつに9カ月近くを経てのめくるめく体験だ。

 そうなると気になるのがAndroid端末だ。Android端末はType-C端子への移行が進んでいる。また、モトローラのMoto Zのようにイヤフォン端子を持たない端末もある。じつは、イヤフォン端子を撤廃したのは、iPhoneよりMoto Zが先だった。

 Moto Zには、Type-Cと通常のイヤフォン端子を変換するケーブルが同梱されているが、このケーブルをほかの端末に装着してイヤフォンをつないでもウンともスンとも言わない。本体スピーカーがむなしく鳴り続けるだけだ。USB Audio Device Class 3.0の発表は、この2機種の発売よりさらにあとだった。

 今後は、USB Audio Device Class 3.0がAndroid端末にも浸透していくだろう。そしてイヤフォン端子もなくなっていくだろう。端末に装備されている端子は防水防塵の点でも少ないほうが安全だし、そのほうが小型軽量化できる。イヤフォン端子を悪であるとは思わないが、時代の流れはそちらの方向になるように思う。

 となるとDACつきケーブルは、LightningのものとType-Cのものとの2種類が流通することになるのだろうか。しつこいようだが100均で売られるようなイヤフォンもLightningやType-Cになるんだろうか。それも考えにくい。USB Audio Device Class 3.0は、アナログ音声も伝送できる規格なので、単なるダム変換ケーブル経由で従来型のイヤフォンを接続するようになるのだろうか。

 将来のiPhoneがType-C端子を採用するという噂も絶えない。個人的にはちょっと考えにくいと思うのだが、ありえない話ではない。Appleにしても、Type-CとLightningの二刀流をずっと続けたくはないようにも感じている。そこはできあがってしまったエコシステムとの兼ね合いだろう。

 いずれにしてもケーブル1本で手元のお気に入りミュージックを気軽に再体験して新たな発見ができるというのはじつに楽しい。「違い」は「個性」だ。本当は世界中のイヤフォンがMMCX対応してくれればいいが、さすがにそれは無理だろう。せめて、ブタの尻尾としての変換ケーブルのさらなる高水準化を願いたい。