山田祥平のRe:config.sys

AIの時代にはクラウドにOSを委ねるのではなく、クラウドがOSになり、PCがおしゃれになる

日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏(左)と、Microsoft本社でTechnical Fellowを務めるアレックス・キップマン氏

 AIがトレンドワードのようになっている。MicrosoftはBuildでインテリジェントクラウド、インテリジェントエッジを強く打ち出し、GoogleはGoogle I/Oで、モバイルファーストからAIファーストへの路線変更をアピールする。Microsoftの言葉を借りれば世の中が大きく変わる特異期なのだという。

AIとMR

 日本マイクロソフトが「de:code」を開催した。毎年、米本社の開発者向け年次イベント「Build」を受けて開催する日本向けフォローアップイベントだ。例年なら4月にBuild、5月の連休明けにde:codeという段取りなので、多少は間があって準備の余裕もあっただろうに、今年(2017年)は翌々週の開催だ。

 シアトルでの日本マイクロソフトの精鋭エバンジェリスト陣は、本社のスピーカーの話を一字一句聞き漏らすまいと、かなりたいへんだったようだ。そして、それをたった1週間で咀嚼して、日本のイベント参加者に解説しなければならない。本当なら、日本のエバンジェリストは、Build開催の前から本社と情報共有していてもよさそうなものだが、なかなかそういうふうにはいかないようだ。

 ともあれ、IT業界は、AIへの取り組みをおろそかにしては生き残れないと考えている。

 AIの話をするときに、どうしても前面に出てきてしまうのが、その「UX(ユーザーエクスペリエンス)」だ。

 de:codeの基調講演では日本マイクロソフトのAIへの取り組みとして「りんな」と「りんお」が紹介されていた。コグニティブとボットを組み合わせたカンバゼーションAIである。論理的に同じAIであっても、性別と性格という属性を与えれば、エンドユーザーが感じる印象はずいぶん変わる。その様子がデモンストレーションされていた。

 こうして、世の中的にAIというと、スマートフォンで使うSiriやOK Googleのように人間の相手をするボットを想像してしまわれがちだが、AIは、コンピュータのもっともっと奥深くにある存在だ。ボットはインターフェイスにすぎないし、擬人化そのものも、対話のためのメタファにすぎない。でも、そこをおろそかにはできない。

 一方、Mr. HoloLensこと、アレックス・キップマン氏もde:codeのために来日、基調講演のステージに立った。キップマン氏は、これまでのパーソナルコンピューティングを振り返り、それが現実になってからずっと、さまざまものはすべてコンピュータのなかにあったという。

 だが、Mixed Realityは、現実世界と仮想世界が混在する世界だ。そこに生まれるのはパーソナルコンピューティングではなく、コラボレーティブコンピューティングだとキップマン氏はいう。つまり、人と人とのコミュニケーションを加速させるコンピューティングだというわけだ。

 この説明はものすごく腑に落ちた。個人的にコンピュータをさわり始めてすぐに、パソコン通信にのめりこんでしまったので、ぼく自身は、コンピュータは通信機であるとさえ思っている。1人で悶々とプログラムと格闘した経験がほとんどないままに、コンピュータを窓にして多くの知見を得てきたし、人脈も増やしてきた。そういう意味ではもう四半世紀以上もコラボレーティブコンピューティングを実践してきた自負がある。

New Surface Pro発表

 今のMicrosoftは、Surfaceのような物理的なコンピュータと、さまざま意味でのコンピューティングの双方を提供する企業だ。つまり、モノとスタイルの両方を提案している。でも、そのうち、スタイルや方法論だけを提供する会社になるんじゃないかとも思う。

 今、クラウド利用といえば、かつてはオンプレミスで動かしていたサーバーOSをクラウドにある仮想マシン上に持ち出して運用することを想像するが、クラウド全体がOS的な存在になり、それぞれで個別にOSが稼働する個々のコンピュータを意識しないようになるのも時間の問題だ。

 クラウドにOSを委ねるのではなく、クラウドそのものでOSが稼働するイメージだ。サーバーレスという言葉も、Buildやde:codeで何度も耳にしたが、何千万台ものコンピュータを抽象化しクラウドそのものが巨大なコンピュータになることこそが、Microsoftが考える未来なのではないか。りんなやりんおが同じAIの別の姿であるように、物理的なコンピュータそのものは、ある種のUXであるような世界観だ。

 そんなことを考えていたら夜になった。#MicrosoftEventでTwitterを参照すると、予定どおり開催された上海でのMicrosoftのワールドワイドイベントで、New Surface Proが発表されたことを知った。残念ながら公式のライブ中継はなかったし、いくつか見つけた中国のサイトでの中継は、同時通訳の中国語の音声が大きく、しゃべっている本人の声がよく聞こえない。でも、Twitterのハッシュタグタイムラインは賑やかで、おおよその内容を知ることができた。

 Surface Pro 5ではないのがミソだ。Appleならきっと「新しいSurface Pro」としているところだろう。LTE機の拡充やペンの改善などの正統進化だが“5”を名乗るほどではないということか。イベント終了後、公式ブログが更新され、ある程度の詳細が発表されている。

 大上段に振りかぶってデジタルトランスフォーメーションを提唱するMicrosoft、現実世界と仮想世界を混在させる世界でコラボレーティブコンピューティングを提唱するMicrosoft、そして、個人が使う個人のためのデバイスを提案するMicrosoft。それぞれがまったく異なることに取り組んでいるように見えて、見ている未来は同じなのだろう。

海外メーカーがPCのお洒落を気にするようになる

 なんとなく丸1日をMicrosoft Dayのように過ごすことになったが、Microsoftの上海イベントが終わった直後、Huaweiが新しいMatebookを発表した。こちらは、公式ライブも公開されているし、公式サイトにも詳細情報が掲載されている。

Huawei Global Product Launch Live

 発表されたのは、「Matebook X」、「Matebook D」、「Matebook E」の3機種だ。

 個人的には13型ディスプレイでありながら、A4用紙よりもフットプリントが小さいMatebook X の存在が気になる。タッチ非対応なのが残念だが、3:2の画面を持つクラムシェルノートというのは貴重だ。タッチ対応だが約200g重くなる「Surface Laptop」と競合するのかどうか。

 ここのところ、日本のベンダーよりも、DellやHPといった海外ベンダーのPCのほうがデザイン的にエレガントな印象を受ける。日本HPパーソナルシステムズ事業本部長 兼 サービス・ソリューション事業本部長の九嶋俊一氏は、デザインに優れたPCを求めるのは日本人くらいだというのは間違っていて、実際にその方向性で製品を作ってみたら世界に受け入れられた。結局、世界はかっこよさを求めていたのだともらす。そして、それを証明したのはAppleであるとも。

 ちなみに昨今のHP製ノートPCの電源アダプタは、かつてのような野暮ったく太くて重いミッキーケーブルではなく、取り回しのいい普通のメガネケーブルが添付されている。日本のためにアダプタを別に用意したのだそうだ。長年お願いしていてかなわず、もうあきらめていたので変わったことに気がつかなかったのだが、製品説明会で発見してちょっと驚いた。こうした点を配慮するようになったことが、あらゆることを象徴しているように思う。