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超納得!ミニLED&量子ドット液晶モニターのメリット。ゲーマーなら導入しない手はない

~BenQから4K/144Hzの最高峰ゲーミングモニター「MOBIUZ EX321UX」登場

BenQ「MOBIUZ EX321UX」。144Hz駆動の31.5型4K IPSパネルを採用し、ミニLEDと量子ドット技術が使われているガチ仕様が特長。そのため実売24万円前後というガチ価格だが、本稿を読めばそれだけの価値が理解できるはず

 eスポーツシーンなどで「BenQ」のブランド名を目にしたことがある人は少なくないはずだ。それもあってか、ゲーミングはもちろんのこと、仕事で使うようなスタンダードなものや、クリエイター向けの高品質モデルについても、BenQのモニターが日本で浸透しつつある。

 そんなBenQが新製品として送り出したのが、ゲーミングモニターの「MOBIUZ EX321UX」である。

 モニターには“相当なうるさ型”としてられる西川善司に対し、BenQ自らが「西川善司氏に評価していただきたい」と挑戦状を突き付けてきたので、引き下がるわけにはいかない。この仕事を快諾した次第である。メーカータイアップ企画でありながらも厳しい目線で、この「MOBIUZ EX321UX」をチェックしていくことにしたい。

「ミニLEDバックライト」って何がすごいの?

 MOBIUZ EX321UX(以下、EX321UX)は、BenQ初の「ミニLEDバックライト」かつ「量子ドット技術」採用機として訴求されている。まずは「ミニLEDバックライト」について解説したい。

 液晶パネルは、半導体製造プロセスの進化と親和性が高く、各画素の微細化に長けた映像パネルだ。そのため、当時押し寄せてきたフルHD化、4K化の高解像度化の波をいとも簡単にくぐり抜けた。プラズマディスプレイパネルは、フルHD化に遅れ、4K化の波に飲まれて沈んでしまったことは周知のことだ。

 しかし、そんな液晶パネルにも弱点はあった。それは、画素を自ら発光させることができず、その表示にはバックライトと呼ばれる光源が必要なこと。なお、そのバックライト部材には、近年はLEDが用いられている。

 液晶パネルは、基本的には「赤緑青(RGB)のサブピクセルで光をどのくらい通すか」のメカニズムでフルカラー表示を行なっており、黒画素表示に際してはRGBサブピクセルのすべてで「光を完全遮断」することになる。

 しかし、この「完全遮断」が完璧ではなく、背後からバックライトの光がどうしても漏れてきてしまうため、黒色が薄明るくなってしまう表示特性があるのだ。

 これを改善すべく、光源たるバックライトを「エッジ型バックライトシステム(全画面一律輝度照射)」のタイプから、 多数のLEDチップを液晶パネルの背後に配置し、表示映像の明暗分布に連動して輝度を調整する、新バックライト構造の「直下型(FALD)バックライトシステム」(Full Array Local Dimming Backlight System)が提唱されている。

直下型とエッジ型バックライトの違い
従来のエッジ型は夜の闇の部分についても、バックライトの光が当たってしまうが、直下型ならその部分のバックライトを消して漆黒を表現できる

 イメージ的には、バックライトによって、「表示映像の白黒映像のようなもの」をリアルタイム生成して、その光を液晶パネルに照射すれば、映像の黒い箇所は漆黒に近づき、明所はより明るくなって、映像全体のコントラスト感も増強される……そんな効果を狙ったのだ。

 ちなみに、この「表示映像の白黒映像のようなもの」を作り出すLEDバックライト駆動を「エリア駆動」とか「ローカルディミング」と呼ぶ。

  最初期の直下型バックライトシステムでは、液晶パネルの背後に配置した光源LEDの密度が100個以下と低かったが、今では総LED数が4桁にも昇る「ミニLED世代」に到達。 LEDチップはかなり微細化され、遠目に見れば、ほぼ「表示映像の白黒映像そのもの」として液晶パネルに照射できるようになったのである。

ミニLEDを採用したEX321UXのバックライトシステムのイメージ。量子ドット(Quantum Dot)については後述する

 「EX321UX」では、ミニLEDバックライトによって、1,152分割のエリア駆動を行なっているという。1,152分割のエリア駆動採用機では、LED個数は2倍の2,304基、つまり64×36で配列するモデルが多いので、本機もこのパターンだと思われる。

 前述したように、 ミニLED採用機は液晶パネルでありながらも、有機EL(OLED)に近い漆黒の表現ができるほか、ミニLEDの膨大な数を生かした高輝度表現が可能となるのも利点である。

 実際、EX321UXではHDR(ハイダイナミックレンジ)映像の品質規格であるVESA DisplayHDR規格において、ハイエンドクラスの「DisplayHDR 1000」を取得している。「DisplayHDR 1000」は、4K Blu-rayや動画配信サービスの4K/HDR映像をほぼ妥協なしのハイコントラスト表現ができるものなので、ゲーミングモニターとしては、かなり贅沢な仕様である。

顕微鏡で拡大表示
画素の顕微鏡写真(左が30倍、右は60倍)。ごく一般的なIPS型液晶の「く」の字型サブピクセル構造。本機の表示面がノングレア加工なので、パネル面からの出射光に、非光沢(ノングレア)加工特有の拡散光が見て取れる

 EX321UXは、液晶パネルとして、VA型液晶パネルよりも視線の角度に依存しない、安定した色表現が可能なIPS型液晶パネルを採用している。ただし、実はIPS型液晶パネルは、ネイティブコントラスト性能においてはVA型液晶パネルにおよばない。

 しかし、慌てることなかれ。だからこそのミニLEDなのだ。IPS型液晶パネルのネイティブコントラストの弱い部分は、ミニLEDによって実現される1,152分割エリア駆動で低減される。

  そう、「IPS型液晶パネル×ミニLEDバックライトシステム」の組み合わせは、ある意味、ゲーミングモニターとしてかなり理想的なのである。

「量子ドット」って何がすごいの?

 EX321UXの液晶パネルには「量子ドット技術」が組み込まれている。

 「量子ドット」(Quantum Dot)とは、入射してきた光を別の波長(色)の光に変換可能な、ナノメートルサイズの半導体結晶物質のこと。もともとは太陽光発電において白色の太陽光に対する光電効果の効率向上のために実用化されたのが始まりで、映像分野での活用が進んだのはここ10年くらい。

 量子ドット部材としては、インジウム、燐、亜鉛、硫黄、セシウム、臭素、ヨウ素など、さまざまな元素を組み合わせたレシピが開発されている。なぜ量子(Quantum)の名が出てくるのかというと、光の波長変換を量子力学レベルで行なうため……と説明されることが多い。

 液晶モニターでは、バックライトの光源としては青色の単色で発光するミニLEDが用いられ、三原色の赤緑青のうち、青については、この高純度な青色光をそのまま活用。赤色と緑色についてはそれぞれ、“赤”量子ドット、“緑”量子ドットにぶつけて取り出すことになる。

量子ドット技術を使用した液晶パネル
三原色として、バックライトの青、量子ドット層の赤と緑を組み合わせることで、色を表現する

 なお、ごく一部の液晶モニターでは、白色ミニLEDを採用し、量子ドット技術非採用の製品もあるが、大半の製品は「青色ミニLED×量子ドット技術」を採用している。もちろん、EX321UXもこのタイプの製品になる。

  量子ドット技術を採用することのメリットは2つあり、1つは赤緑青の純色表現が鮮烈となること。

 中堅クラスまでの液晶モニターのバックライトには、白色LEDが採用されており、その白色LEDが青色LEDに黄色蛍光体(あるいは赤緑蛍光体)を組み合わせて白色光を合成しており、青色は高純度だが、赤色と緑色は雑味の強い色になってしまっている。つまり、純色の赤色が重要なマグマ、夕焼け、炎や、純色の緑色が重要な草木、草花、昆虫や両生類などの表現はやや不得意なのだ。

EX321UXのスペクトラムは理想的
筆者私物のスペクトロメーターで「EX321UX」の白色光のスペクトラムを測定した結果。赤緑青のスペクトラムが完全に分離していて、そのピークの立ち上がりと立ち下がりも急峻だ。これぞ、理想的なカラースペクトラムである
一般モニターのスペクトラムはバランスが悪い
一般的な白色LEDバックライトを採用した液晶モニターの白色光のカラースペクトラム。白色LEDの光源となる青色LEDのスペクトラムの分離感とピークの鋭さは良好だが、蛍光体を使って生成される緑と赤については分離感がなくピークも弱い。これでは高品位な純色表現と混色表現が難しい

  量子ドット技術の2つ目のメリットは、赤緑青の混色表現においてダイナミックレンジが広くなること(≒色深度が深くなること)。 前出の白色LEDでは、赤と緑の純色に雑味があることから、赤と緑の混色、すなわち黄色成分の強い色彩表現が苦手となるのだ。

 最も分かりやすいのが人肌表現だ。人肌からの反射光、人肌に入射してからの散乱光は黄色成分が支配的で、これは人種の肌の色によらず共通である。黒人の肌の色はメラニン成分が多いことで暗色になっているだけで、肌からの出射光における黄色成分の割合の多さは白人と同じである。

  まとめると、量子ドット技術を活用すると「三原色すべての色純度が高い」、「理想的な混色が得られて特に肌色の表現が良好」ということになる。

 EX321UXはゲーミングモニターではあるが、映像鑑賞、デザイン業務にも適合し得る色彩ポテンシャルを有していると言える。

ゲームと映像コンテンツで画質チェック

EX321UX

 EX321UXの「ミニLED×量子ドット技術」の威力を確かめるべく、まずは、ベンチマーク映像ソフトの「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」を使って、ミニLEDによるエリア駆動の実力を検証してみた。

映像機器のポテンシャルをチェックするのに活用される業界定番のベンチマークテスト「Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク(2023)」

 まず実行したのは「FALD ZONE counter TEST」だ。四角い発光動体が左から右に、上から下へと動くのに同期して、その周囲の光漏れをチェックすることができるテスト映像なのだが、 さすがは1,152エリアでのバックライト制御だけあり、動体周辺が光るのみで、ほとんどその外周には光が漏れない挙動が確認できた。立派である。

FALD ZONE counter TESTをテスト中。画面端を小さなブロックが動いてゆく

 続いて、漆黒の背景の中を無数の高輝度な輝点(星)が、奥行き方向から手前に3Dスクロールする「StarField」テストを実行。 エリア駆動の分解能が粗いと、画面上の無数の輝点の周囲に星雲のような“もや”が現れるのだが、本機の場合は、これがまったくなかった。

StarFieldをテスト中。無数の星の中を抜けていくように画面が展開される

 最大1万cd平方/mの高輝度HDR映像を入力して、そのトーンマッピング性能を検証する「TONE MAPPING」テストも実行。本機は、公称スペック的には最大1,000cd平方/mまでの表示となるが、このテストは、そのスペックを超えた映像がやってきた時の品質を検証するものになる。

  「DisplayHDR」モード時での検証では、その持ち前の1,000cd平方/mの輝度を活用しながら、入力信号の9,000cd平方/m付近までの階調をなんとか表現できていた。階調設計にも手抜きはなさそうである。

TONE MAPPINGをテスト中。階調が読み取るために、この画面がずっと表示される

 続いて、発色表現を見るべく、「サイバーパンク2077」をプレイ。画質モードは「DisplayHDR」を選択(本節の評価では、すべてこのモードを選択)。このゲームは、舞台となる未来都市「ナイトシティ」の煌めく情景が、非常にHDR映えするのだが、 さすがは量子ドット技術採用機だけあり、本機EX321UXが描き出す街並みは圧巻。特に、街中を彩るネオンサインの純色・原色表現が鮮烈であった。

サイバーパンク2077

 このほか、話題のUnreal Engine 5採用の最新作「Senua's Saga: Hellblade II」をプレイして見たが、これはまさにEX321UX向けのゲームであった。昼は曇天、あるいは薄明かりの中を進むシーンが多いため、 ちゃんとした「黒」の表現力と、暗部の階調力がないとプレイしにくいゲームなのだが、ミニLEDバックライトの恩恵だろう、暗いシーンにおいてもその情景に強い立体感を感じるほどの描写が実現できていた。 暗いトーンのゲームと言えば「ファイナルファンタジーXVI」が、そのトーンの暗さが話題になったが、おそらくこの作品とも相性がいいはずである。

 画質の作り込みを表現すべく、映画「マリアンヌ」の4K Blu-rayのチャプター2、夜のアパートの屋上で展開する偽装ロマンスシーンを視聴。暗がりで語り合う主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの2人の肌色の表現にも違和感は少ない。このシーンは、非常に表示難度が高く、 画質の作り込みが甘いと、このシーンでは2人の肌色がグレーに落ち込んで、主役2人が石像みたいに見えてしまうのだ。しかし、さすがは赤と緑の混色表現に強い量子ドット機のEX321UXだ。暗がりにおける人肌表現にもちゃんと肌色の暖かみが残って描けていた。

「高画質体験支援機能」の数々。本当に多い

EX321UXのOSDにはたくさんの設定項目が用意されている

 EX321UXにはさまざまな高画質化機能が搭載されているので、本機オーナーになった暁には、これらの機能を使って自分好みの画質を探ってみよう。本稿ではその概要について触れておく。

HDRi

 AI的な自動高画質化・調整機能としては「HDRi」と「Shadow Phage」が搭載されている。

 HDRiは、ユーザーの周囲の照明環境に応じて、色温度と輝度を自動調整して「発色」と「コントラスト」の最適化を行なう機能になる。こちらは「その名」から連想できる通り、HDR映像入力時にのみ利用できる機能である点に留意したい。

Shadow Phage

 Shadow Phageは、本機の映像エンジン「PixSoul」に内蔵されているコンテンツデータベースを元に、表示映像の内容に最適化したミニLEDのエリア駆動を実践する機能になる。たとえば暗がりに着目すべきオブジェクトが検知されると、そこに階調力を割くような描画が行なわれる。

 使用環境や好みにも影響する機能なので、両機能とも闇雲にはオンにはせず、オン/オフで使い比べて好みの挙動をするものを常用するといいだろう。

Light Tuner

 ユーザーが好みに合わせて調整できる機能としては「Light Tuner」と「Color Vibrance(OSDでの日本語名称は「色の鮮明さ」)」が搭載されている。この2つは、前出のAI系の自動調整機能とは異なり、ユーザーが自らが調節するものになる。

 Light Tunerでは、標準表示状態から明暗を±10の範囲で微調整可能。表示映像に対して「明るすぎる」、「暗すぎる」と感じたときに試してみるといいだろう。こちらは暗部のみに影響かるBlack eQualizer機能とは違い、明部にも影響がおよぶ点に留意したい。

 Color Vibranceは、「色の鮮やかさ」という項目名になっていることからも分かるように、すなわち彩度の調整機能になる。一般的には画質調整として使えばいい機能だが、eスポーツ系の銃撃戦ゲームでは、背景情景に溶け込んで敵を視認しやすくするのに活用できる、とBenQは説明している。

Color Mode

 EX321UXはゲーミングモニターということで、BenQが各ゲームジャンルの映像情報を吟味して最適化した「Sci-Fi」、「ファンタジー」、「リアル」といった画質モード(Color Mode)を搭載している。

 Sci-Fiモードは金属の質感再現にこだわった画質、ファンタジーモードは陰影を鮮明に描き出すことにこだわった画質、リアリスティックモードは色彩再現に力を入れて作成した画質だとのこと。

 こうしたゲーミングモニターではおなじみの「ゲームジャンル最適化画質モード」は、ジャンル名(モード名)にとらわれず、自分が納得のいく見映えになっているものを好きに選ぼう。

 どの画質モードを選択しても、本機の入力遅延(測定値は後述)は変わらないので自由に選ぶといい。

 初めてプレイするゲームであれば、本機に搭載されている基準画質モードとも言える「sRGB」モード、(HDR映像では「DisplayHDR」モード)で、まずは遊んでみて、前出のゲーム画質モードに切り換えたときに違和感がないものを選ぶといいだろう。

 HDR映像モードを有している最近のゲームは、各ゲーム開発スタジオが「DisplayHDR」モードでマスタリングしている場合が多いので、筆者は今回の評価で「DisplayHDR」をメインに使っていた。

世界から選りすぐりの画質設定を適用できる「Color Shuttle」

Color Shuttle」を使えば、世界中のユーザーがゲームに応じて設定した最適な画質設定を適用できる

 BenQ側としては「メーカーお仕着せのゲーム画質モードだけでは不充分」と考えているようで、ゲーム関連コミュニティと太いパイプを持つBenQらしい「ユニークな試み」も提供している。それが「Color Shuttle」機能だ。

 Color Shuttleとは、本機「EX321UX」を含むBenQ製ゲーミングモニターシリーズで幅広く利用できる機能で、有名なゲーム開発スタジオ、プロゲーマー、ゲーム実況配信者、ゲームメディアが作成した各ゲームタイトルごとの画質モードをダウンロードして利用できるフレームワークになる。

 Color Shuttle用の画質モードを利用するには、Color ShuttleのページからダウンロードできるColor Shuttleアプリを利用することになる。アプリはWindows/Macの双方に提供されている。

Color Shuttleを筆者のPCにインストールして起動したところ。HDR映像用画質モードに「サイバーパンク2077」があったのでクリックしてダウンロードしてみることに。筆者が評価中は、本機発売前にも関わらず、本機用のSwitch用のゲームの画質モードもラインナップされていた

 PCから特定のゲーム用の画質モードをセットすれば、プレイするゲームがPS5といった家庭用ゲーム機であっても、この機能の恩恵にあずかれる。

 実際に、この機能を活用してみたが、SDR映像用とHDR映像用とが個別に用意されており、なかなか力が入っているようだ。PCの画面モードをHDRにしないと、HDR映像用画質モードが選択できないようになっている点には留意したい。

なんとインプレスのGameWatch編集部が「サイバーパンク2077」のColor Shuttle画質モードを提供中だ! 読者の皆さんもお試しあれ!

 ここまで解説してきた、各画質モードのパラメータは、5つのユーザーメモリ(ALPHA/BRAVO/CHARLIE/DELTA/ECHO)に保存が可能となっている。このユーザーメモリ機能には、BenQ用語で「シナリオマッピング」という機能名称が与えられている。

 ちなみに、このシナリオマッピング機能は、入力系統ごとに個別で5つ記録されるので、自分だけでチューニングしたゲームジャンル/ゲームタイトルごとの設定(シナリオマッピング)を入力系統ごとに保存できるのだ。

自分好みの画質設定を5つまで登録可能なシナリオマッピング機能を搭載

珍しいeARC対応ゲーミングモニター。サラウンドで楽しみたいなら必須!

 本機「EX321UX」には、ゲーミングモニターとしては極めて珍しい「eARC」機能が搭載されている。eARCとは、Enhanced Audio Return Channelの略語で、HDMI 2.1規格に含まれる拡張機能の1つである。

  eARC機能は、新しめな上級クラスのTV製品にしか搭載されておらず、特にゲーミングモニターでの搭載はかなり珍しい。ではこのeARC機能。何の役に立つのか?

 結論から言うとゲーミングファンにとってはありがたい機能で、本来ならばゲーミングモニター、すべてに搭載されていてもいいくらいの機能なのである。順を追って解説したい。

 ゲームや映像コンテンツを楽しむ際、没入感を最大限にして楽しむ場合には、サウンドにもこだわりたくなるだろう。特に最近は、映像コンテンツはもちろん、ゲームにおいても立体音響に対応している。そう、ユーザーを中心に置いた前後左右の全天全周からの音像再生に対応しているのだ。

 その際、ゲーム機やゲーミングPC、映像プレイヤー(以下、映像再生機器)を、AVアンプやサウンドバーなどの音響機器に接続し、そこからTVやゲーミングモニター(以下、映像表示機器)に接続するスタイルを採るのも1つの方策だが、この経路では映像再生機器と映像表示機器の間に音響機器が挟まるような接続経路となるため、映像表示に遅延が発生することが心配される。

  音響機器は、製品によっては、ゲーミングファンが追求する低遅延性能に見合わないほど遅延するものがあるのだ。そこで、有効となるのが「eARC」を使った接続形態である。

eARCの接続イメージ。こちらの図はTVでのものとなるが、EX321UXはeARC対応なので同じように接続できる

 eARC機能を活用した接続方式では、映像再生機器を映像表示機器に直接接続する。そう、映像を最短経路で表示することで遅延発生の原因を根源的に潰すのである。一方、サウンド再生については、映像表示機器側のeARC対応HDMI端子に接続しておいた音響機器にパススルー(リレー)させて、そちらで鳴らす経路を採るのだ。

 通常、映像表示機器に搭載されているHDMI端子は、映像再生機器から伝送された映像/音像信号を「受信する」ためのものとして実装されている。しかし、eARC対応のHDMI端子は、映像表示機器が映像再生機器から受け取った映像/音像信号のうち、音像信号については音響機器側のHDMI端子に「送信する」ことができるのだ。

 一度映像表示機器にやってきた音像信号を、音響機器に送り返す(Returnする)わけである。eARCの“R”のReturnはここから来ている。

 「旧式のARC」と「HDMI 2.1世代のeARC」、両者の違いは主に伝送できる音像フォーマットの多さ、正確には伝送できるビットレートの違いにある。最新のDolby AtmosやDTS:Xといったサラウンド形式はeARCでしか伝送ができない。「旧式のARC」ではDolby Digital/DTS/AACといった、DVD時代のサラウンドにしか対応できないのだ。

光デジタル、ARC(HDMI1.4)、eARC(HDMI 2.1)の機能面での違い。光デジタルは1980年代に提唱された規格のため、対応ビットレートが異常に低い。その後、規格改変もなし。互換性維持のために今でも搭載されることが多いが、実は、とっくに隠居すべき規格なのだ(笑)

 eARC対応の本機「EX321UX」では、現在市販されている最上位クラスのAVアンプやサラウンド対応のサウンドバーとeARC形式で接続ができる。

 「EX321UX」が想定するユーザー層、つまりパーソナルユースメインのゲーミングファンの場合は、パーソナルなサラウランド機器を組み合わせることになると思うが、筆者がおすすめするのは2製品。

 1つはショルダースピーカー型で、eARC対応製品、DolbyAtmos対応のシャープ「AN-SX8」だ。最大で22.2chサラウンドのバーチャルサラウンド再生に対応している。実勢価格は3万円前後。

eARC対応のショルダースピーカー「AN-SX8」

 もう1つは、ヘッドフォンタイプのビクター「EXOFIELD THEATER XP-EXT1」だ。こちらもeARC対応製品。DolbyAtmosは7.1.4ch再生にも対応するので前後左右だけでなく、上下方向の音像定位表現にも対応する。実勢価格は9万円前後。

eARC対応のヘッドフォン「EXOFIELD THEATER XP-EXT1」

 筆者は両製品を所有しているが、本機「EX321UX」のeARC機能を活用しての正常動作を確認した。それと、任天堂Switchが出力するリニアPCM 5.1chのサラウンドサウンドもちゃんとeARCを通じて上記製品で正常に鳴ることを確認できたことも報告しておこう。

 ちなみに「サラウンド不要!」「ステレオ2chでOK!」という人にとっても「EX321UX」は問題なし。それは、HDMI、DisplayPort、いずれの接続端子から伝送されてきたステレオサウンドも、定評のあるESSのSABRE DACによって高品位にD/A(デジタル/アナログ)変換してくれるからだ。

 実際にヘッドフォンを接続して、サウンドをチェックしてみたが、確かに平均的なゲーミングモニターのヘッドフォン端子の品質を超えている。パッと聞いて分かるのがSN比の良さ。音質そのものがいいのはもちろん、音量をかなり上げてもヒスノイズもジーという下品な電源ノイズも聞こえない。そう、アンプ回路の品質も高いのだ。「やるな、BenQ」という感じ。

 楽曲を楽しむ用途でにも十分使えるレベルなので、一般的なユーザーであれば、この音質であれば、別体のUSB DACは不要だと思う。

EX321UXのスペックをチェック

EX321UXはベゼルを除いてホワイトを基調とした色使い

 本稿では「EX321UX」本体そのものの紹介の前に、本機が対応する新技術や画質面の評価を先に行なってしまったので、話がやや前後している感じもするが、ここで本機の基本機能や接続性を見ていくことにしたい。

背面のデザインもなかなか洒落ている

 本機は31.5型の4K(3,840×2,160ドット)解像度の液晶モニターとなる。31.5型は、視距離50cm程度の比較的近い位置であれば、ほど良い大画面感が得られ、なおかつ、ドットバイドット表示したときに拡大率100%でも文字やアイコンが小さくなりすぎないため、平常のPC活用時も「ちょうど良い使い勝手」が得られるサイズである。

 モニター部の寸法は幅714.4×奥行き98.1×高さ433.3mm、重さは約7.2kg。スタンド込みの総重量は約9.7kgだ。

100×100mmのVESAマウントに対応する
中央にある「押し込みスイッチ付きのスティック」はOSDメニュー操作用。右は電源スイッチ。左はショートカットボタン

 スタンド部は最大10cmの高さ調整に対応し、左右15度のスイベル、上15度~下5度のチルトに対応する。スタンド自体の最大幅598.7mm、最大奥行きは306mmなので、画面がはみ出てもいいのであれば、最小でこのサイズの台に本機を置くことが可能となっている。

昇降は100mmまで
スイベルは左右15度
チルトは上15度~下5度

 接続端子は平均的なゲーミングモニターと比べてかなり豊富である。

 まずHDMI端子が3系統もある。HDMI端子は3つすべてがHDMI 2.1規格に対応するが、前述したeARCに対応するのは「HDMI3」と書かれているポートのみである。HDMI3をeARC専用に活用しても、まだもう2つもHDMI入力端子があるのはうれしい。

3系統用意されたHDMI。1基はeARC対応

 DisplayPort端子は1系統。こちらはDisplayPort 2.1規格に対応する。

DisplayPortが1基。USB Type-Cは2基あるが、映像入力は1基のみで、もう一方はUSBハブ用

 USB Type-C端子は2系統実装されている。2系統のうち、USB-C1は本機内蔵のUSBハブ機能用アップストリーム(5GBps)接続、DisplayPort接続、USB PD 65W給電を同時に提供するものになっている。よってUSB-C1とノートPCを接続することで、ACアダプタなしのUSB Type-Cケーブル1本で、映像出力(DisplayPort Alt Mode)、USBハブ、USB PD 65W給電が利用できて便利だ。

 本機の背面側の2つのUSB Type-A端子と、本機底面側USB Type-A端子とUSB Type-C端子はハブ機能利用時のダウンストリーム端子となっている。これらのダウンストリーム端子はUSB3.2 Gen1(いわゆるUSB 3.0相当)仕様となり、転送速度的には5Gbpsとなる。

電源供給はACアダプタから行なう方式。消費電力は80W。HDR表示時などには最大消費電力は274Wとなる。

 このほか、本体底面側に3.5mmステレオミニジャックが設置されている(マイク入力には未対応)。スピーカーは内蔵されていない。

底面側にあるUSB Type-A/C端子とミニジャック
EX321UXの主なスペック
画面サイズ31.5型
パネルIPS
解像度3,840×2,160ドット(アスペクト比16:9)
輝度700cd平方/m(最大1,000cd平方/m)
HDRHDR10/DisplayHDR 1000
視野角上下左右178度
応答速度1ms
コントラスト比1,000:1
リフレッシュレート144Hz
表示色10.7億色
表面処理ノングレア(非光沢)
映像入力DisplayPort 2.1×1、HDMI 2.1×3(1基はeARC対応)、USB Type-C(65W給電対応)×1
その他インターフェイスUSB Type-C(1基はアップストリーム)×2、USB Type-A×3、3.5mmオーディオジャック
本体サイズ714.4×306×598.7mm(スタンド込み)
重量約9.7kg

入力遅延を実測、ほぼ遅延なしを確認

 すでに画質面については上で触れているので、ここでは、ゲーミングモニターとして気になる機能面やスペックについても総ざらいしておこう。

 EX321UXの最大リフレッシュレートは144Hz。HDMI 2.1対応により、HDMI端子接続でも144Hzを実現する。IPS型液晶パネルながら応答速度は1ms(中間色)を達成。「VA型液晶に対して応答速度は劣る」と言われていたのはもはや過去の話だ。

DisplayPortでもHDMIでも144Hz接続が可能なのはうれしい

 可変フレームレート表示に関しては、AMDのFreeSync Premium Proに対応する。FreeSyncはHDMI規格のVariable Refresh Rate(VRR)との互換性があるので、事実上のVRR対応が実現されていることになる。

 また、筆者の評価ではNVIDIA G-SYNC Compatibleへの対応も確認した。つまり、可変フレームレート表示には全方式対応ということになる。

G-SYNC Compatibleへの対応を確認
PS5との接続時のステータス画面。VRR対応となっていることが確認できる。

 入力遅延については、「4K Lag Tester」(Leo Bodnar Electronics)にて実測してみたところ、60Hz映像での入力遅延は2.2ms、フレームレート換算で0.13フレーム遅延。120Hz映像ではさらに短縮され入力遅延はわずか0.5msとなった。こちらはフレームレート換算で0.06フレーム。「ほぼ遅延なし」と言い切っていい。

60Hz映像入力時の入力遅延
120Hz映像入力時の入力遅延

リモコン付属で画面切り換えや設定のストレスゼロ!

 リモコンによる使い勝手についても言及しておきたい。

 筆者の場合、ゲーミングモニターにはいろいろな機器を接続して活用するため、入力切り換え操作や設定変更を行なう頻度が高い。その際、苦痛となってくるのは、設定(OSD)メニューをまさぐる操作系である。

 しかし、本機「EX321UX」では、ありがたいことに「リモコン」が付属してくるのだ。このリモコンのおかげで、今回の評価では操作ストレスがとても少なくて助かった。

付属のリモコン。画面の切り換えからOSDの設定まで、すべてを手元で行なえるのは非常に便利

 リモコンに備わっているボタンは最低限ではあるが、それでいて必要十分であった。

 使用頻度の高い入力切り換えはリモコン先端の右側に単独であるため、慣れればリモコンを掴んだ瞬間の手触りだけでこのボタンを押して入力切り換え操作ができるはず。

 [HDRi]ボタンは、HDR映像を表示中の画質モードを選ぶためのもの。筆者は、「DisplayHDR」モードがお気に入りである。

 「グラフィックイコライザーの図柄」のボタンは、本機「EX321UX」の側のヘッドフォン端子から音を鳴らすのか、HDMI3のeARC機能を活用して音を鳴らすのかの設定を切り換えることができるボタン。本機の特徴的なeARC機能を活用するユーザーはこのボタンの使用頻度が高くなりそうだ。

 リモコンの十字ボタンのメニュー開かず、ダイレクトに押すと、左右ボタンは、前述した5つのユーザーメモリ(シナリオマッピング機能)の切り換えに対応している。また、ダイレクトに上下ボタンを押せば音量の上げ下げ操作が行なえる。このリモコンの機能割り当てはお見事。

 「ゲームコントローラの図柄」のボタンは、その時点での表示映像の素性を表示するモードになっている。1回押すとリフレッシュレートのみの表示、そこからもう一度押すと解像度、リフレッシュレート、HDR映像か否かの表示が画面上部に現れる。

リモコンの操作で現在のゲームモードやリフレッシュレートなどを確認できる

 なお、このリフレッシュレート表示機能は、以下の設定を行なうことで、ゲーム側のフレームレートとリフレッシュレートが同期するようになり、事実上のフレームレート表示機能として利用できるようになる。

  1. 本機側のFreeSync Premium Pro設定を有効にする
  2. ゲーム側の垂直同期(VSYNC)を有効にする

 PS5、Xbox Series X|SのようなVRR対応家庭用ゲーム機でも使えるテクニックなのでぜひ活用しよう。

フレームレートカウンターだけを表示した状態

KVM機能搭載で、PCもゲーム機も全部接続して便利に使える

 本機には、本機内蔵のUSBハブ機能と、選択された映像入力系統に連動したKVMスイッチ機能が搭載されている。と言っても、本機のKVMスイッチは、初心者からも簡単に使えるよう「設定のやり方」をかなりシンプルにしている関係で、その機能面もシンプルになっている。

 本機の入力系統は、HDMI×3、DisplayPort×1、USB Type-C×1の合計5系統あるのだが、本機のKVMスイッチは「HDMI+DisplayPortのグループ」と「USB Type-Cのグループ」に対する2系統の入力に連動する仕様になっている。

 具体的には「USB Type-Cのグループ」はUSB-C1による映像とアップストリームに連携し、「HDMI+DisplayPortのグループ」は、USB-C2アップストリーム端子に連携する。このあたりについての活用方法を以下の動画で紹介しているので参考にしてほしい。

EX321UXのKVMスイッチの設定の仕方と活用手法

「最新技術」ほぼ全部入りのゲーミングモニター

 BenQ EX321UXは、たくさんの機能が搭載されていたので、その評価期間中は、とても充実したゲームライフを送ることができた。筆者はTV製品については、自宅で「ミニLED×量子ドット技術」採用機の評価をしたことは何度かあったのだが、ゲーミングモニターでは初めてだったのだ。それだけに、感激が大きかった。

 購入検討されている読者に1つ告げておきたいのは、本機は画面サイズが31.5型と、そこそこの大画面となるので、ゲームプレイの画質や没入感を重視するユーザー、そして高品位な音響環境も同時に構築したいユーザーにおすすめしたい。

 価格は実売24万円前後で、プロクリエイター向けモニターと同等となっており、気軽に購入できるものではないが、「ものは良い」と言っておこう。評価を終えて返却するのが惜しくなったほどだ。

 その意味では、デザイン系、アート系の(セミ)プロ系ユーザーで、なおかつゲームを嗜むというようなユーザーには普段の業務用と、オフ時のゲーム用で「一台二役的」に活用するのもいいかもしれない。もちろん、 ガチゲーマーに超おすすめ なのは言わずもがなだ。

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