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配信しながら縦向きショート動画も作れる!超絶便利なOBSのプラグイン

 Instagram、Facebook、YouTube、TikTokなど、多くのSNSや動画配信サイトで縦向きショート動画が1つの大きなトレンドになっている。こうした動画には、本編として生配信した映像から、見どころを抽出し「切り抜き動画」として投稿しているものも多い。ただ、本編映像はほとんどの場合16:9の横向き。レイアウトが異なる縦向き動画で投稿するには再編集の必要があり、それなりの手間がかかってしまう。しかし、そんな面倒を省いて、しかも凝った縦向き動画に簡単に仕上げられる方法があるのだ。

 必要なのは配信ツールの「OBS Studio」と、「Aitum Vertical」というプラグイン(無償)のみ。また、動画の再編集時により柔軟に素材を扱えるようにする「Source Record」というプラグインもある。これら2つのプラグインが、たとえばゲーム配信ではどんな風に役立つのか、紹介していこう。

LEVEL∞のパワフルなミニタワーゲーミングPC「M-Class」で検証

 今回紹介するOBS Studioのプラグイン2種を試すにあたっては、ユニットコムのゲーミングブランド「LEVEL∞」のコンパクトなゲーミングPC「M-Class LEVEL-M77M-137-SAX [Windows 11 Home]」を利用した。

LEVEL∞のゲーミングPC「M-Class LEVEL-M77M-137-SAX [Windows 11 Home]
ミニタワーということもあり、背面インターフェイスはシンプル
側面のパネルは手で回せるねじ2つで固定され、内部へのアクセスが容易

 ゲームプレイと高度な動画配信を同時に1台でまかなえるのはPCならではのメリットだが、やはりその分PC自体に高い性能も要求される。少なくともゲームが快適に動作することは大前提で、それに加えてOBS Studioによる録画と配信を同時並行で走らせることになるからだ。さらに今回の場合、追加のプラグインによる処理も発生する。

 というわけで、検証用には「M-Class」のなかでも比較的パワフルなモデルをチョイスした。CPUは最新の第13世代Intel Core i7-13700(16コア24スレッド、最大5.20GHz)、GPUはGeForce RTX 3060 Ti(GDDR6 8GB)で、16GB(DDR5-4800)メモリに500GBのNVMe SSDを搭載する。

 3月に発売されたばかりの製品で、新設計の筐体を採用している。ミニタワーケースながら240mmサイズの水冷システムを搭載しているのも大きな特徴だ。80PLUS BRONZE認証の700W電源を採用していることもあり、CPUとGPUの性能を余すことなく引き出してくれる。大きな筐体は置きたくないが、性能はなるべく高いものが欲しいという欲張りユーザーにうってつけと言える。

試用したモデルは簡易水冷による冷却システムを備える
天面にもファン×2を装備し、エアフローに不足なし。簡単に脱着でき掃除もしやすいダストフィルターを装備する
電源は80PLUS BRONZE認証の700W、最新CPU/GPUの安定稼働に貢献

 これらのなかでも特にGPUは、ゲームと配信・録画の両方で重要な役割を果たすアイテムとなる。GeForce RTX 3060 Tiはミドルレンジに位置するモデルとして、ゲーム向けでは現時点で最もコストパフォーマンスの高い選択肢の1つ。「M-Class」でゲームをプレイしながら配信/録画とプラグインの処理を実行することで、どの程度のマシン負荷になるのか、ゲームプレイに影響は出ないのかなどもあわせて確かめてみた。

GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060 Ti。ビデオカードホルダーでしっかり固定されているが、これは実際の製品ではGeForce RTX 4070 Ti以上を選んだ際に搭載されるもの

 なお、今回借りた製品は試作機となる。借用機には、ビデオカードホルダーが付いているが、製品版ではGeForce RTX 4070 Ti以上のビデオカード搭載時に搭載される

縦向き動画用プラグイン「Aitum Vertical」の設定方法

 「Aitum Vertical」は、OBS Studioの標準機能で録画/配信をしながら、同時に縦向き動画も記録するためのプラグインだ。Windows、macOS、Linuxに対応し、パッケージをダウンロード、インストールした後にOBS Studioを起動すると、OBS Studioのウィンドウ内に新たに「Aitum Vertical」のペインがいくつか追加される。

インストールしてOBS Studioを起動すると、いくつかのペインが追加される

 「Vertical シーン」と「Vertical ソース」という名称のペインは、それぞれOBS Studioの「シーン」および「ソース」と同じ意味合いをもつ。「Vertical シーン」でソースのまとまりとなるシーンを定義し、そのシーンで扱う画像・音声(デバイス)などを「Vertical ソース」に登録する、という形。たとえば「Vertical ソース」にはゲーム画面やWebカメラの映像、あるいは動画配信時に同時に表示するコメント欄やチャット画面などを追加していく。

「Vertical シーン」と「Vertical ソース」はOBS Studio標準の「シーン」、「ソース」と同じ意味合い

 OBS Studioのプレビューの右隣に表示されるペインは、「Vertical シーン」と「Vertical ソース」で設定した内容が反映される、縦向き動画のプレビュー表示のエリア。これが最終的な映像の出力結果にもなる。つまり、OBS Studioの通常の配信・録画の画面とは別に、縦向き動画用の画面もレイアウトできるわけだ。シーンやソースの設定も含め、これらの扱い方はOBS Studioの標準機能とほぼ同じだから、慣れている人なら戸惑うことはないだろう。

 ところで、レイアウトは別に設定できるわけだが、通常動画と縦向き動画とでソースに指定する要素は共用できる。どういうことかというと、両方の画面で同じ要素を使いたいのであれば、片方の要素を流用してもう一方の画面にサイズや位置などを変えてレイアウトできる、という意味だ。

 これはOBS Studioがもともと備えている機能だが、たとえば通常の配信/録画で使うゲームのキャプチャー画面を一度「ソース」に登録すれば、それと同じ設定の要素を「Vertical ソース」でも簡単に指定できる。表示サイズやレイアウトは相互に影響を与えないので、ソースの管理を省力化するのに都合がいい。

まずはライブ配信用の通常の横向き動画に画像/音声デバイスなどを登録し、普段どおりレイアウト
その後、縦向き動画用のレイアウトを「Vertical ソース」で設定していく。通常の横向き動画用に登録したものを流用するのが簡単
横向き画面と縦向き動画とで異なるレイアウトに設定できた

音声も縦向き動画用に設定でき、縦向き動画のライブ配信もOK

 「Aitum Vertical」のプレビュー表示の下には配信、録画、バックトラック(詳細は後述)のボタンが設けられている。単に縦向き動画を録画してファイル保存できるだけでなく、縦向き動画を動画配信プラットフォームを通じて直接配信もできるのだ。そのための事前の設定は、右隣にある設定ボタンから行なえる。

赤枠で囲ったボタンで配信、録画、バックトラックのオン/オフ、右側にある歯車ボタンで設定を行なう

 設定画面では録画解像度、映像/音声ビットレート、配信する際のサーバーURLや画質/音質、エンコード方法などを細かくカスタマイズできる。解像度については自由に手入力もできるが、「720×1280」「1080×1920」「1080×1350」といった代表的な縦向き動画用の設定があらかじめ用意されているので、基本的には選択するだけ。ビットレートは配信/録画する内容に応じて調整するといいだろう。

「Aitum Vertical」の設定画面
最初から3パターンの縦向き動画用の解像度が用意されている

 音声も縦向き動画用にカスタマイズできる。縦向き動画の配信に載せる音声と、縦向き動画の録画に載せる音声を、それぞれ別個にOBS Studio標準の6個の音声トラックから選ぶことも可能だ。

録画設定では、縦向き動画用の音声トラックも指定可能

 この音声機能の活用方法として考えられるのは、OBS Studioの通常の配信/録画はゲームのサウンドと実況音声の両方とも収録し、一方で縦向き動画は実況音声だけにするといったもの。

 もしくは、配信は通常映像も縦向き動画も同じ音声にして、縦向きの録画映像だけは別途入力した軽快な音楽をミックスしておく、といった使い分けもありそうだ。そうすれば、後で縦向き動画を切り抜きに使おうとしたときに、改めて編集で音楽を追加する手間がなくなる。

 もう1つ、配信用のサーバーURL(とキー)は、当然ながらOBS Studio本体側とは別のものを設定できる。したがって、OBS Studio標準機能でYouTubeにライブ配信しながら、同時に縦向き動画をインスタライブやTikTokでライブ配信することもできる。そのうえで切り抜き用の縦向き動画もワンタッチで作成できるので、配信終了後にYouTube用の縦向きショート動画を即座に公開する、というように作業の効率化にもつなげられるのだ。

縦向き動画の配信設定。サーバーURLとキーを指定するだけ。エンコード方法もカスタマイズできる

見どころをさかのぼって切り抜き動画にできる「バックトラック」機能

 縦向きショート動画の作成を楽にする、という意味では、「Aitum Vertical」の「バックトラック」機能を使いこなすことも重要だ。OBS Studioで言うところの「リプレイバッファ」と同じもので、配信中に見どころとなりそうな出来事があったときに「バックトラック」ボタンか、あらかじめ割り当てておいたショートカットキーを押すと、その瞬間から指定した時間をさかのぼって映像を記録し、単体の動画ファイルに出力してくれる。

「バックトラック」機能の設定画面。さかのぼる時間と動画の保存先、ショートカットキーを指定する。この機能を利用するには「Backtrak always on」もしくは「Backtrack runs while streaming/recording」のどちらかをチェックしておく必要がある

 これにより、配信が終わった後、長々と録画したデータの中から見どころシーンを探し出し、切り抜く、という作業が不要になる。最初に設定で「30秒」や「60秒」というようにさかのぼる時間を決めておき、配信中に「今のは見どころになりそうだったな」と感じたタイミングでボタンを押すだけ。見どころシーンのみの短い動画がそれだけでできあがるので、最小限の手間で切り抜き動画が完成する。せいぜい必要になるのは不要な前後の数秒をカットするくらいだろう。

 試しに「Apex Legends」をプレイしながらOBS Studioで録画した動画と、「Aitum Vertical」のバックトラック機能で録画した動画の2つを用意してみたので、見比べてみてほしい(チャット画面は画像イメージ)。個々の素材は同じなのに、全く異なるレイアウトの動画がこうも簡単にできあがってしまうのは驚きだ。

OBS Studioで録画した動画
「Aitum Vertical」のバックトラック機能による切り抜き動画

ソース映像を元の解像度で個別に出力できるプラグイン「Source Record」

 もう1つ紹介したいのが「Source Record」というプラグイン。こちらもWindows、macOS、Linuxに対応するが、手軽な縦向き動画用というわけではなく、後でしっかり編集したいときのために個々の映像ソースをオリジナル画質で残すためのものだ。

 OBS Studioで配信/録画した映像を後で編集して切り抜き動画などにしようとしたとき、ネックになるのが個別の映像ソースが存在しないこと。ゲーム画面の上に自撮り映像やチャット欄の画面が重なっていれば、どうしてもそれ込みでの再編集となってしまう。

 しかし、他の映像(ワイプなど)に隠れてしまった部分に大事なものが映っていて、再編集時にはそれを見せたくなるときもあるだろうし、自分の表情を精細なまま大きく映して表情をわかりやすく伝えたい場合もあるだろう。

 そのためにはゲーム画面のみの映像と、自撮りのみのカメラ映像がフルHDなどのオリジナル解像度/画質で残っていなければならない。そんなときに「Source Record」を使えば、OBS Studioで配信・録画しつつ、1つ1つの映像ソースも個別に動画ファイルで得られるのだ。

 導入手順は、まずプラグインをインストールしてOBS Studioを起動した後に、「ソース」の「フィルタ」から「Source Record」を追加する。さらに設定画面で保存先フォルダと録画フォーマットを設定し、「録画モード」を「配信時か録画時」などに指定すれば準備は完了だ。

ソースを右クリックして「フィルタ」の設定画面を表示
「+」ボタンから「Source Record」を選択
「Source Record」の設定画面が表示される
有効にするときは「録画モード」を「配信時か録画時」などに設定することを忘れずに

 ソースに登録しているゲーム画面やカメラ映像などごとに、フィルタで「Source Record」を設定しておけば、それぞれの映像が個別の動画ファイルで出力されることになる。配信/録画終了後、出力された個別の動画ファイルを利用することで、他の映像などで隠されたりしていない素の高解像度な動画を駆使し、凝ったまとめ動画や切り抜き動画にじっくり仕上げられるだろう。

 「Aitum Vertical」プラグインとももちろん共存可能だ。先ほどの「Aitum Vertical」のサンプル動画を撮影したとき、実は「Source Record」も同時実行していたりする。シーンは異なるが、それによって記録されたゲーム画面の元動画が下記のもの。他のワイプなどもなく、きちんとフルHD解像度で出力されていることが分かる。

「Source Record」で録画したゲーム画面のキャプチャー
「Aitum Vertical」による同じシーンの動画

プラグインの有無による性能の違いは?

 次に、下記4つの条件でApex Legendsをプレイしたときのマシン負荷を計測してみた。配信/録画のフレームレートは60fps、画質はいずれも5Mbpsとし、裏側で配信状態を確認するためにWebブラウザ(YouTubeの管理画面)を表示させている。エンコーダは「NVENC」を使用した。

  • 配信/録画しない
  • OBS Studioで配信/録画
  • OBS Studioで配信/録画+Aitum Verticalで録画
  • OBS Studioで配信/録画+Aitum Verticalで録画+Source Recordでソース2つ録画
Apex Legendsを実行したときのOBS Studioプラグインの有無による性能の違い(1分間の平均fps)

 OBS Studioを使わない「配信/録画しない」状態が、当然ながら最もゲームの性能が高かった。OBS Studioで配信/録画すると、少なからずそこにマシンパワーが引っ張られることは確かだ。さらに「Aitum Vertical」を追加することで、多少なりとも性能への影響はあることが分かる。

 ただ、それでも平均で120fps近くを維持しているのは、第13世代Core i7+RTX 3060 Tiだからこそと言えるだろう。「Source Record」で2つのソースを並行して録画するともう一段負荷が高まるが、依然として110fps超を記録している。これくらいの負荷であれば、FPS系のゲームであってもプレイに支障を与えることはほぼない。

 実際、サンプル動画を作成したときのオンライン対戦時も、フレームレートの低下による不利を感じることはなかった(動画内でエイムがボロボロなうえにやられまくりなのは、そもそも筆者が下手っぴだからである)。「M-Class」はハイエンドではないが、同時に配信/録画をしても不安なく、快適にゲームを遊べるコスパ抜群のゲーミングPCだ。

配信/録画時に注意しておきたいこと

 なお、今回のようにプラグインなどを用いて複数の動画ファイルを同時に記録(エンコード)する場合、注意しておきたいのがGPUのもつ動画のハードウェアエンコード機能における制限だ。本誌でも記事にしているが、NVIDIAの一般消費者向けGPUであるGeForceシリーズでは、同シリーズがもつハードウェアエンコーダ「NVENC」のセッション同時利用数に制約があり、最大で5つまでとなっている(以前は3つまでだった)。

6つ以上の動画出力に「NVENC」を指定するとエラーが発生することに注意

 「NVENC」ではCPU負荷を抑えられ、それでいて比較的高品質にエンコードできることから、可能な限り積極的に利用したいところではある。しかし、最大セッション数を超える分を配信/録画したいときはCPU処理のソフトウェアエンコーダ(x264)に頼らざるを得ない。GPU内蔵のCPUであれば、そのハードウェアエンコーダを利用する手もあるが、そうでない場合は肝心のゲームプレイに影響を与えかねないだろう。

エンコーダに「ハードウェア(NVENC)」を指定することで、低負荷で動画出力が可能になる。CPU内蔵GPUがある場合は「ハードウェア(QSV)」も使える

 たとえば先ほどの「OBS Studioで録画・配信+Aitum Verticalで録画+Source Recordでソース2つ録画」のパターンは、合計で5ストリームとなるためギリギリ間に合う。が、これにもう1つ「Aitum Verticalで配信」も加えたいなら「NVENC」以外の方法でエンコードしなければならない。できるだけGPU処理による負荷軽減の恩恵を受けるため、配信/録画のストリーム数はむやみに増やさないように注意したい。

手間をかけたくない、でも重要度は高い縦向き動画の作成をもっと楽ちんに

 OBS Studioには多種多様なプラグインが存在しており、組み合わせることで個性的な動画に仕上げたり、効率よく配信/録画したりすることが可能になっている。「Aitum Vertical」と「Source Record」は、そんななかでも目的が分かりやすく、使い方もそれほど難しくないプラグインだ。

 近頃流行の縦向きショート動画は、主にスマートフォンユーザー向けのコンテンツであり、PCを持たない多くのユーザーにリーチするのに重要な意味を持つ。とはいえ、メインの本編動画だけでも作るのが大変なのに、縦向き動画の作成まで手がけるとなると時間がいくらあっても足りない。そんなときにこれらのプラグインは大いに助けになるはずだ。

 そして、今回検証に利用したM-Class LEVEL-M77M-137-SAX [Windows 11 Home]は、そういった目的での利用にぴったりの1台だ。