レビュー

Configurable TDPに最適化した「A10-7800」レビュー

 AMDより、第4世代APU Kaveriのデスクトップ向け新モデル、「A10-7800」を借用する機会を得た。A10-7850KとA10-7700Kの発売以来、久々の登場となるKaveriの新製品について、ベンチマークテストでその実力を探ってみた。

TDP 45W/65WのデュアルスペックAPU

 A10-7800は、第4世代のデスクトップ向けAPU「Kaveri」をベースにした製品。Steamrollerアーキテクチャの4コアCPUと、Graphics Core Nextアーキテクチャを採用した512コアのGPU「Radeon R7」を備える。CPUコアは定格3.5GHz、Turbo CORE時最大3.9GHz。GPUコアは最大720MHzで動作する。

 A10-7800は、先に発売されたA10-7850KやA10-7700Kのような「K」モデルではないため、CPUコアの倍率を上方に変更するオーバークロックには対応しない。一方、既存のAPUには無い特徴として、TDPが45Wと65Wのデュアルスペックとなっている。デフォルトでは65Wで動作するが、TDP調整機能「Configurable TDP」により45Wでの動作に対応する。AMDによれば、A10-7800は45W動作に最適化した製品であるとされている。

A10-7800
Configurable TDPにより、TDPを65Wから45Wに切り替えて利用可能
CPU-Z実行画面
GPU-Z実行画面
【表1】Kaveri世代APUの主なスペック
A10-7800A10-7850KA10-7700K
製造プロセス28nm28nm28nm
開発コードネームKaveriKaveriKaveri
コア数444
CPUクロック(定格時)3.5GHz3.7GHz3.4GHz
CPUクロック(Turbo CORE時/最大)3.9GHz4.0GHz3.8GHz
GPUコアRadeon R7Radeon R7Radeon R7
Streaming Processor(Radeonコア)512基(64基×8CU)512基(64基×8CU)384基(64基×6CU)
GPUコアクロック(最大)720MHz720MHz720MHz
TDP45W / 65W95W95W
倍率アンロック×
Configurable TDP×
対応ソケットFM2+FM2+FM2+

テスト機材

 今回、A10-7800のベンチマークテストを行なうにあたり、比較対象として同じKaveriベースのAPU「A10-7850K」を用意した。なお、テストに用いたASUS製のA88Xチップセット搭載マザーボード「A88X-PRO」がConfigurable TDPをサポートしてたので、同機能によりTDPを引き下げた際のベンチマークスコアも取得した。

 そのほか、今回は、AMDよりAMP(AMD Memory Profile)対応メモリ「R938G2130U1K」を借用できたので、このメモリをテストに利用した。Radeon R9 Gamer Series Memoryに属するR938G2130U1Kは、4GBメモリを2枚セットにした8GBデュアルチャンネルメモリセット。DDR3-2133(PC3-17000)に対応し、タイミングは10-11-11-30、動作電圧は1.65V。

【表2】テスト機材
CPUA10-7800A10-7850K
マザーボードASUS A88X-PRO
メモリDDR3-2133 4GB×2(10-11-11-30、1.65V)
ストレージCrucial M4 128GB
ビデオカードAPU内蔵Radeon R7
グラフィックスドライバCatalyst 14.6 Beta RC2
電源Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD)
OSWindows 8.1 Pro Update 64bit
AMP対応メモリ「R938G2130U1K」
UEFI上でAMPを読み込むだけで、メモリ周りの設定が可能

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの結果紹介に移りたい。なお、AMDより、「APU製品が本来持つ性能を適切に測定することにはならない」との理由で、CINEBENCH、SiSoftware Sandra、Super PI等のベンチマークテストについて、AMDより借用した製品では実施しないよう要請があった。このため、普段とはテストの内容を変更している。

 実施したベンチマークテストは、PCMark8(グラフ1)、PCMark7(グラフ2)、3DMark(グラフ3、4、5、6)、3DMark11(グラフ7)、MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ8)、ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編(グラフ9)。

【グラフ1】PCMark8
【グラフ2】PCMark7

 PCMarkでは、テスト項目により多少ばらつきはあるものの、A10-7800が同じTDPに設定されたA10-7850Kを上回っているものが多い。同一TDP設定時のA10-7800とA10-7850Kのスコア差は、TDP 65W時で2%程度、TDP 45W時で5%程度となっている。

 TDP 65W時のスコア差はそれほど大きいものではないが、TDP 45W時のスコア差は比較的はっきりとついているのが印象的だ。このあたりが、「TDP 45W動作に最適化した」ということなのかもしれない。

【グラフ3】3DMark - Fire Strike
【グラフ4】3DMark - Sky Diver
【グラフ5】3DMark - Cloud Gate
【グラフ6】3DMark - Ice Storm
【グラフ7】3DMark11
【グラフ8】MHFベンチマーク【大討伐】 フルスクリーン
【グラフ9】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編 フルスクリーン

 3Dベンチマークでも、PCMarkの結果と同じように、同じTDP設定ではA10-7800がA10-7850Kを若干上回っているテストが多い。

 そんな中で、特異な傾向が見られるのが、3DMarkのPhysics Scoreだ。3DMarkシリーズのPhysics Scoreは、GPU性能では無くCPU性能を測定したスコアなのだが、このスコアに関しては同じTDP設定のA10-7800とA10-7850Kで、10%前後もの差がついている場合がある。具体的には、3DMark Fire StrikeではA10-7800が16~19%高いスコアを記録し、逆に3DMark Sky Diverでは8~10%低いスコアとなっている。

 Kaveriには、自動オーバークロック機能のTurbo COREが存在するため、同じアーキテクチャでもスペック上のクロック差がそのままベンチマークスコアに反映されるという訳では無いのだが、それを考慮しても大きな差だ。APUは、TDPの範疇でCPUとGPUのパフォーマンスを調節しているわけだが、A10-7800とA10-7850Kではその配分が異なっている可能性が考えられる。

【グラフ10】システム全体の消費電力

 最後は消費電力の結果だ。上記グラフの数値は、各ベンチマークテスト実行中の最大消費電力を、サンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)で測定したもの。

 アイドル時の消費電力は、A10-7800が2Wほど低い数値となっているが、ほぼ横一線と言ってもよい程に差の無い結果だ。TDPの設定による消費電力差は認められない。

 一方、ベンチマークテスト実行中の消費電力については、TDPの設定に応じて消費電力に差が生じている。同一TDP設定であれば、A10-7800の消費電力はA10-7850Kと同じかやや下回る程度。この程度の差はAPUの個体差でひっくり返る程度の差であるため、ほぼ同等であると考えて良いだろう。

同じTDPならA10-7850Kより優位なA10-7800

 以上のように、A10-7800は、同じTDP設定であれば、おおむねA10-7850Kを上回っている。TDP 95W時のA10-7850Kとのパフォーマンス差もそれほど大きくないため、オーバークロックをする予定が無い場合や、Configurable TDPの利用、特に45Wでの運用を考えているのであれば、A10-7850KよりA10-7800を選択するメリットはあると言えよう。

 A10-7800を購入するのであれば、その魅力を余すところなく利用するためにも、使用予定のマザーボードがConfigurable TDPに対応していることを事前に確認しておきたい。

(三門 修太)