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フレーム生成で性能2倍!?メモリ倍増でスペックも向上した「Radeon RX 7600 XT」
2024年1月24日 23:00
AMDの新型ミドルレンジGPU「Radeon RX 7600 XT」が間もなく発売される。米国では1月24日の発売が予定されており、推奨小売価格は329ドルに設定されている。
ミドルレンジ下位の比較的安価なGPUでありながら、16GBの大容量VRAMを搭載するRadeon RX 7600 XTの実力をベンチマークテストで確かめてみた。
16GBのVRAMを搭載するRadeon RX 7600 XT
AMDのRadeon RX 7600 XTは、RDNA 3アーキテクチャに基づいてTSMCの6nmプロセスで製造されたミドルレンジGPUで、チップ構成はモノリシックダイ。32基のCUが有効化されており、2,048基のストリームプロセッサや32基のRay Accelerator、64基のAI Acceleratorなどが利用できる。
VRAMとして18Gbps動作のGDDR6メモリを16GB搭載。メモリインターフェイスは128bitで、32MBのInfinity Cacheを備えており、キャッシュ込みでの実効メモリ帯域幅は476.9GB/sに達するとしている。バスインターフェイスはPCIe 4.0 x8で、TBPは190W。
GPUコアの規模や設計は従来のRadeon RX 7600と同等ながら、VRAM容量が2倍の16GBに増量されたほか、TBPの引き上げに伴ってGPUクロックも向上している。
【表1】Radeon RX 7600 XTの主な仕様 | ||
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GPU | Radeon RX 7600 XT | Radeon RX 7600 |
アーキテクチャ | RDNA 3 | RDNA 3 |
製造プロセス | 6nm | 6nm |
コンピュートユニット | 32基 | 32基 |
ストリーミングプロセッサ | 2,048基 | 2,048基 |
Ray Accelerator | 32基 | 32基 |
AI Accelerator | 64基 | 64基 |
ROPユニット | 64基 | 64基 |
ゲームクロック | 2,470MHz | 2,250MHz |
ブーストクロック | 2,755MHz | 2,625MHz |
AMD Infinity Cache | 32MB | 32MB |
メモリ容量 | 16GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 18Gbps | 18Gbps |
メモリインターフェイス | 128bit | 128bit |
メモリ帯域幅 | 288GB/s | 288GB/s |
実効メモリ帯域幅 | 476.9GB/s | 476.9GB/s |
PCI Express | PCIe 4.0 x8 | PCIe 4.0 x8 |
消費電力 (TBP) | 190W | 165W |
Radeon RX 7600 XT搭載ビデオカードPowerColor「Hellhound RX 7600 XT」
今回テストするRadeon RX 7600 XT搭載ビデオカードは、PowerColorのHellhound RX 7600 XT (RX7600XT 16G-L/OC)」。
2.5スロットを占有するデュアルファン仕様のGPUクーラーを搭載しており、Radeon RX 7600 XTのゲームクロックを2,470MHzから2,539MHz、ブーストクロックを2,755MHzから2,810MHzにオーバークロックして搭載している。補助電源コネクタは8ピン+6ピンで、映像出力端子はHDMI 2.1(1基)とDisplayPort 2.1(3基)。
テスト環境と比較用GPU
Radeon RX 7600 XTを検証するにあたり、比較対象として従来モデルのRadeon RX 7600を搭載する「ASRock Radeon RX 7600 Steel Legend 8GB OC」と、GeForce RTX 4060を搭載する「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4060 8GB SOLO」を用意した。
各ビデオカードのテスト時動作仕様は以下の通り。GPUドライバについては特に記載の無い限り、Radeon RX 7600 XTにレビュアー向けドライバ「Adrenaline 23.40.01.15」、Radeon RX 7600に「Adrenaline 23.40.01.10」、GeForce RTX 4060に「546.65」を適用した。
【表2】各ビデオカードの動作仕様 | |||
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GPU | Radeon RX 7600 XT | Radeon RX 7600 | GeForce RTX 4060 |
ビデオカードベンダー | PowerColor | ASRock | ZOTAC |
製品型番 | Hellhound RX 7600 XT | RX7600 SL 8GO | ZT-D40600G-10L |
ベースクロック | 2,029MHz | 1,824MHz | 1,830MHz |
ゲームクロック | 2,539MHz | 2,318MHz | ─ |
ブーストクロック | 2,810MHz | 2,726MHz | 2,460MHz |
メモリ容量 | 16GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 18Gbps | 18Gbps | 17Gbps |
メモリインターフェイス | 128bit | 128bit | 128bit |
メモリ帯域幅 | 288GB/s | 288GB/s | 272GB/s |
PCI Express | PCIe 4.0 x8 | PCIe 4.0 x8 | PCIe 4.0 x8 |
Power Limit | ─ | ─ | 115W |
GPU PPT 短期/持続 | 198W/165W | 168W/140W | ─ |
温度リミット | 110℃(Hotspot) | 110℃(Hotspot) | 83℃ |
Resizable BAR | 有効 | 有効 | 有効 |
GPUドライバ | Adrenaline 23.40.01.15 (31.0.24001.15005) | Adrenaline 23.40.01.10 (31.0.24001.10001) | GRD 546.65 (31.0.15.4665) |
各ビデオカードを搭載するベース機材には、Ryzen 7 7800X3Dを搭載したAMD X670E環境を用意した。
そのほかの機材や条件については以下の通り。
【表3】テスト機材 | |
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CPU | Ryzen 7 7800X3D (8コア/16スレッド) |
CPUリミット設定 | PPT=162W、TDC=120A、EDC=180A、TjMax=89℃ |
CPUクーラー | ASUS TUF GAMING LC 240 ARGB (ファンスピード=100%) |
マザーボード | ASUS TUF GAMING X670E-PLUS [UEFI=2214] |
メモリ | DDR5-5200 16GB×2 (2ch、42-42-42-84、1.1V) |
システム用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) |
アプリケーション用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/USB 10Gbps) |
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1200W/80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro 23H2 (build 22631.3007、VBS有効) |
電源プラン | バランス |
計測 | ラトックシステム RS-BTWATTCH2 |
室温 | 約25℃ |
ベンチマーク結果
今回実施したベンチマークテストは、「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「エーペックスレジェンズ」、「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」、「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」、「サイバーパンク2077」、「FORSPOKEN」、「Blender Benchmark」、「Cinebench 2024」、「Adobe Camera Raw」。
なお、今回は一部のテストにて、Radeon Softwareにて有効化可能なフレーム生成機能「AFMF(AMD Fluid Motion Frames)」を使用したさいのフレームレートを計測した。AFMFについては、生成フレームを含めたフレームレートを通常のソフトでは計測できないため、AFMF利用時のみRadeon Softwareのロギング機能でフレームレートを計測している。
3DMark
3DMarkでは、リアルタイムレイトレーシングを含む新世代テストの「Speed Way」、「Port Royal」、「Solar Bay」と、旧世代のテストである「Time Spy」、「Fire Strike」を実行した。
Radeon RX 7600 XTは、3つの新世代テストにおいてRadeon RX 7600のスコアを1~3%上回り、GeForce RTX 4060を4~23%下回った。
一方、旧世代のテストでは、Radeon RX 7600を2~3%、GeForce RTX 4060を4~9%上回っている。
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、グラフィックスプリセットを「最高品質」に設定して、3つの画面解像度(フルHD/WQHD/4K)でテストを実行。スコアと平均フレームレートを比較した。
Radeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600のスコアを1%程度上回り、GeForce RTX 4060を6~14%下回った。平均フレームレートについてもスコアと同じくらいの差がついている。
エーペックスレジェンズ
エーペックスレジェンズでは、描画品質をできる限り高く設定して、3つの画面解像度(フルHD/WQHD/4K)で平均フレームレートを計測した。上限フレームレートは300fpsで、AFMF有効時のフレームレートも計測した。
AFMF無効時のRadeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600を約2%上回り、GeForce RTX 4060を1~4%下回った。平均フレームレートについてもスコアと同じくらいの差がついている。
AFMFによるフレーム生成を有効にした場合、Radeon RX 7600 XTはフルHD時にゲーム側の上限を超えるフレームレートを記録するなど、大幅にフレームレートが向上。同じくAFMFが有効なRadeon RX 7600を4~11%上回った。
なお、AFMF有効時のRadeon RX 7600 XTは、GeForce RTX 4060を29~53%も上回っているが、AFMFはDLSS 3のフレーム生成と同じく見た目の滑らかさを向上させる機能であり、画質などは異なる。今回は便宜上1つのグラフにまとめているが、横並びで比較できるものではない点に留意してもらいたい。
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツールでは、グラフィックスプリセットを最高の「HIGHEST」設定して、3つの画面解像度(フルHD/WQHD/4K)でテストを実行。各シーンの平均フレームレートを比較した。上限フレームレートは「FIGHTING GROUND」が60fps、「BATTLE HUB/WORLD TOUR」が120fps。
メインコンテンツであるFIGHTING GROUNDについては、WQHD以下では全てのGPUが上限フレームレートに達している。4KでのRadeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600を約1%、GeForce RTX 4060を約4%上回った。
BATTLE HUBとWORLD TOURに関しても、フルHDでは全てのGPUが上限の120fpsに近い数値を記録している。WQHD以上でのRadeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600を1~2%上回り、GeForce RTX 4060に対してもWQHDのWORLD TOUR以外では2~7%上回った。
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONでは、グラフィックスプリセットを「最高」に設定して、3つの画面解像度(フルHD/WQHD/4K)で平均フレームレートを計測した。上限フレームレートは120fpsで、AFMF有効時のフレームレートも計測した。
AFMF無効時のRadeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600とほぼ同じフレームレートを記録しており、GeForce RTX 4060を8~16%下回った。
AFMFを有効にしたRadeon RX 7600 XTは、ゲーム側のフレームレート上限を超えることが可能となっているが、単純に2倍のフレームレートになるというわけではなく、フレーム生成なしのGeForce RTX 4060をやや上回る程度にとどまっている。
サイバーパンク2077
サイバーパンク2077では、グラフィックスプリセット「レイトレーシング:ウルトラ」に設定して、3つの画面解像度(フルHD/WQHD/4K)でベンチマークモードを実行した。
テスト時はFSR 2.1による超解像を有効化しており、超解像の設定はフルHDとWQHDが「クオリティ」、4Kは「パフォーマンス」。RadeonでAFMF有効時の計測を行なったほか、GeForce RTX 4060もDLSSフレーム生成有効時(超解像はFSR 2.1)の計測を行なっている。
フレーム生成無効時のRadeon RX 7600 XTは、Radeon RX 7600を7~17%上回り、GeForce RTX 4060を25~31%下回った。
Radeon RX 7600 XTはAFMFを有効化することで6~33%フレームレートが上昇しており、同じくAFMFを有効にしたRadeon RX 7600を5~26%、DLSSフレーム生成を有効にしたGeForce RTX 4060を7~80%上回った。なお、4KについてはVRAMが8GBのRadeon RX 7600とGeForce RTX 4060ではメモリ不足による影響が生じている。
FORSPOKEN
FORSPOKENはAMDの「FSR 3」をゲーム側でサポートしているタイトルのひとつで、このタイトルではAMD製のGPU以外でもFSR 3ベースの超解像と、AFMFによるフレーム生成が利用できる。
そこで今回は、グラフィックスプリセットを「最高」、モデルメモリとテクスチャメモリを「標準」、FSR 3超解像を「クオリティ」に設定して、フルHD解像度でベンチマークモードを実行。AFMF有効時と無効時の平均フレームレートを比較した。
フレーム生成無効時のRadeon RX 7600 XTは平均76fpsを記録しており、平均74fpsで横並びだったRadeon RX 7600とGeForce RTX 4060を約3%上回った。
一方、フレーム生成を有効にした場合、Radeon RX 7600 XTは平均144fpsを記録して、平均137fpsのRadeon RX 7600を約5%、平均131fpsのGeForce RTX 4060を約10%上回った。
Blender Benchmark
Blender Benchmarkでは、3つのシーン(monster、junkshop、classroom)をGPUレンダリングした際の速度を比較するのだが、Radeon RX 7600 XTとRadeon RX 7600については、おそらくGPUドライバのバグでテストを実行できなかった。
Radeon RX 7600 XTについてはどうしようも無かったが、Radeon RX 7600についてはドライバを「Adrenaline 23.12.1」に戻すことで実行できたので、そのデータをGeForce RTX 4060と比較した。
Radeon RX 7600のレンダリング速度は、GeForce RTX 4060を59~65%も下回っている。Radeon RX 7600より高いGPUクロックと16GBのVRAMを備えるRadeon RX 7600 XTなら多少速くはなるだろうが、とても逆転が期待できるような差ではない。
Cinebench 2024
Cinebench 2024では、最低実行時間10分でGPUレンダリングを実行した際のスコアを計測するのだが、Blender Benchmark同様、RadeonではGPUドライバのバグらしき症状でテストを実行できなかった。このため、ドライバを「Adrenaline 23.12.1」に戻したRadeon RX 7600と、GeForce RTX 4060での比較を実行した。
Radeon RX 7600が記録したスコアは5,368で、10,747を記録したGeForce RTX 4060を約50%下回った。
Adobe Camera Raw「AIノイズ除去」
Adobe Camera Rawでは、2,400万画素のRAWファイル×20枚に対して「AIノイズ除去(適用量=50)」を実行。1分あたりの処理枚数(Frame per minute)を比較した。
Radeon RX 7600 XTは分速4.09枚の処理速度を記録。分速3.98枚のRadeon RX 7600を約3%上回り、分速5.48枚のGeForce RTX 4060を約25%下回った。
システム消費電力とワットパフォーマンス
ラトックシステムのワットチェッカー「RS-BTWATTCH2」を使用して、アイドル時の最小消費電力と、各ベンチマーク実行中の平均消費電力と最大消費電力を計測した。
アイドル時消費電力がもっとも低かったのは、70.4Wを記録したRadeon RX 7600 XTで、71.2WのRadeon RX 7600と、73.2WのGeForce RTX 4060をわずかに下回った。
ベンチマーク実行中の平均消費電力は、Radeon RX 7600 XTが291.1~296.3Wを記録。計測できなかったCinebench 2024を除いて、今回テストしたGPUで最大の消費電力となっている。なお、2番目に高いのがRadeon RX 7600の222.1~255Wで、最小はGeForce RTX 4060の168.1~220.1Wだった。
ベンチマークスコアと平均消費電力から、各システムのワットパフォーマンスを算出して比較グラフを作成。さらに、Radeon RX 7600のワットパフォーマンスを基準に指数化したグラフも用意した。なお、ワットパフォーマンスの比較はグラフを見やすくする目的で、3DMark「Solar Bay」の数値は10分の1、Adobe Camera Rawの数値は1,000倍にしている。
Radeon RX 7600 XTのワットパフォーマンスは、Radeon RX 7600比で85~87%となっており、ワットパフォーマンスはRadeon RX 7600より明らかに悪化している。ビデオカードの設計や仕様が影響している可能性もあるが、同じ規模のGPUコアの電力リミットを引き上げて高クロック化していることを考えれば順当な結果ではある。
16GBのVRAMとAFMFに注目の新型ミドルレンジGPU
Radeon RX 7600 XTは、「VRAM容量が倍増したRadeon RX 7600」といった印象のGPUだ。TBP引き上げと高クロック化により多少高速化しているが、性能の上昇に比べて消費電力の増加が大きく、ワットパフォーマンスは悪化していた。
フルHD/1080pでも最高画質に設定すると8GBのVRAMでは足りないゲームが存在する昨今、ミドルレンジ下位に位置するRadeon RX 7600 XTが16GBのVRAMを搭載したことは歓迎すべきではあるが、Radeon RX 7600との価格差が実売でどの程度になるのかがキーポイントとなるだろう。
納得感のある価格を示すことができれば、Radeon RX 7600 XTの発売に合わせての正式サポートが予定されているAFMFを利用できるミドルレンジGPUとして、注目を集めることになりそうだ。
1月24日23時より、Radeon RX 7600 XTをライブ配信にてレビューします。GPUの仕様や従来モデルとの違いなどの解説に加えて、ベンチマーク結果の解説や実動デモも実施。気になるフレーム生成技術AFMFについても説明します。
解説はKTU・加藤勝明氏、MCは改造バカ・高橋敏也氏。(ライブ終了後は即アーカイブを視聴可能になります)