特集
クロックアップしたデスクトップ向けAPU「Richland」をベンチマーク
(2013/6/5 13:01)
AMDは6月5日、「Trinity」の後継APU「Richland」を採用するデスクトップ向けAPU「AMD Elite A」シリーズAPUを発表した。今回、AMDから同シリーズ製品である「A10-6800K」と「A10-6700」を借用できたので、ベンチマークテストでデスクトップ版Richlandのパフォーマンスを確認してみた。
TrinityのマイナーチェンジとなるRichland
デスクトップ版RichlandことAMD Elite AシリーズAPUは、Trinityと同じシリコンダイを採用しながら性能や電力効率の向上を図ったAPUだ。32nmプロセスで製造されたRichlandのAPUコアは、CPU部に2基の整数コアと1基の浮動小数点コアを備えるPiledriverモジュールを最大で2基搭載し、GPU部には「VLIW4」アーキテクチャのDirectX 11対応GPU「Radeon HD 8000D」シリーズを備える。
AMD Elite AシリーズAPUでは、デスクトップ版Trinityで採用されたSocket FM2を引き続き採用しており、BIOSアップデートを行なうことで、既存のSocket FM2マザーボードで利用できる。
今回テストを行なうAPUは、デスクトップ版Richlandの最上位モデルにして、倍率ロックフリーモデルの「A10-6800K」と、TDP 65Wモデルの「A10-6700」だ。いずれもデスクトップ版Richlandの最上位ブランド「AMD A10」を冠する製品で、2基のPiledriverモジュールによる4つのCPUコアと、384基のRadeon Coreを持つGPU「Radeon HD 8670D」を備える。
TDP 100Wモデルである「A10-6800K」のCPUコアは定格クロック4.1GHz、Turbo CORE時には最大で4.4GHzで動作する。GPUコアのクロックは844MHzで、メモリコントローラはDDR3-2133のデュアルチャンネル動作をサポートしている。デスクトップ版RichlandでDDR3-2133メモリをサポートするのは「A10-6800K」だけだ。
TDP 65Wモデルの「A10-6700」は、CPUコアの定格クロックが3.7GHzで、Turbo CORE時は4.3GHzで動作する。GPUコアのクロックは844MHzと「A10-6800K」と同じだが、メモリコントローラはDDR3-1866のデュアルチャンネル動作までのサポートに留まっている。
CPU | A10-6800K | A10-6700 | A10-5800K |
---|---|---|---|
製造プロセス | 32nm | 32nm | 32nm |
開発コードネーム | Richland | Richland | Trinity |
モジュール数 | 2 | 2 | 2 |
コア数 | 4 | 4 | 4 |
CPU動作クロック | 4.1GHz | 3.7GHz | 3.8GHz |
Turbo CORE時(最大) | 4.4GHz | 4.3GHz | 4.2GHz |
L2キャッシュ | 4MB | 4MB | 4MB |
内蔵GPUコア | Radeon HD 8670D | Radeon HD 8670D | Radeon HD 7660D |
Radeon Core | 384基 | 384基 | 384基 |
GPUコアクロック | 844MHz | 844MHz | 800MHz |
メモリクロック(最大) | DDR3-2133 | DDR3-1866 | DDR3-1866 |
TDP | 100W | 65W | 100W |
対応ソケット | Socket FM2 | Socket FM2 | Socket FM2 |
テスト環境
それでは、ベンチマークテスト結果の紹介に移りたい。
今回、「A10-6800K」と「A10-6700」の比較対象として、デスクトップ版Trinityの最上位モデルである「A10-5800K」を用意した。比較を行なうAPUがすべてSocket FM2対応製品であるため、マザーボードはASUS製AMD A85Xチップセット搭載マザーボード「F2A85-V PRO」で統一している。
なお、メモリクロックに関しては、各APUがサポートする最高クロックに合わせテストを行なっている。
CPU | A10-6800K | A10-6700 | A10-5800K |
---|---|---|---|
内蔵GPU | Radeon HD 8670D | Radeon HD 8670D | Radeon HD 7660D |
マザーボード | ASUS F2A85-V PRO(BIOS: 6104) | ||
メモリ | DDR3-2133 4GB×4 (11-11-11-30、1.6V) | DDR3-1866 4GB×4 (9-10-9-28、1.5V) | |
ストレージ | Intel SSD 510 シリーズ 120GB | ||
グラフィックスドライバ | Catalyst 13.4 | ||
電源 | Antec HCP-1200 | ||
OS | Windows 8 64bit |
CPU処理中心のベンチマークテスト
まずはCPUやメモリ周りのベンチマークテスト結果から紹介する。実施したテストは「Sandra 2013.SP3a 19.44」(グラフ1/2/10/11/12/13)、「CINEBENCH R10」(グラフ3)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ4)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)、「PiFast 4.3」(グラフ7)、「PCMark Vantage」(グラフ8)、「PCMark 7」(グラフ9)だ。
CPUの演算性能を測る「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media」(グラフ1)の結果を見てみると、「A10-6800K」は「A10-5800K」に対して7~8%程度の差でリードした一方、「A10-6700」は「A10-5800K」と1%程度のスコア差で優劣が分かれるという、ほぼ同等と言える結果となった。このスコア差は、各製品の定格クロック差とほぼ一致しており、同じシリコンダイをベースにした製品らしく、クロック差なりのパフォーマンス差が生じているものと言えよう。
その他のテストでも概ね同様の結果となっており、CPUパフォーマンスを測るベンチマークテストでは、クロック差を超える性能差をRichlandとTrinityの間に見出すことはできない。
メモリ周りのアクセスについては、メモリ帯域幅を測る「Memory Bandwidth」(グラフ10)において、DDR3-1866デュアルチャンネル構成の「A10-5800K」が、DDR3-2133デュアルチャンネル構成の「A10-6800K」を上回るという、スペック差を逆転する結果が記録されている。
理論値としては34.1GB/secの帯域幅を実現するデュアルチャンネル動作のDDR3-2133は、29.9GB/secのDDR3-1866より14%高速であり、「A10-6800K」と「A10-6700」のRichland同士では5~7%程度の差がついているのだが、「A10-5800K」はこれらをまとめて上回っている。Richland同士では差がついて、Trinityだけ高速という結果から察するに、RichlandとTrinityでメモリコントローラを含むアンコア部分の動作が変更されたか、あるいはBIOSの最適化具合の差ではないかと考えられる。
GPU処理中心のベンチマークテスト
続いて、内蔵GPUを利用した3D系ベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark - Fire Strike」(グラフ14)、「3DMark11」(グラフ15/16)、「3DMark - Cloud Gate」(グラフ17)、「3DMark Vantage」(グラフ18/19)、「3DMark - Ice Storm」(グラフ20)、「3DMark06」(グラフ21/22)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ23)、「PSO2ベンチマーク ver.2.0」(グラフ24)、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク」(グラフ25)、だ。
ともに844MHz動作の「Radeon HD 8670D」を搭載する「A10-6800K」と「A10-6700」だが、今回のテストでは、各APUのメモリコントローラがサポートする最高クロックのメモリを搭載しているため、5~10%程度「A10-6800K」が「A10-6700」を上回るスコアを記録している。
Trinityベースの「A10-5800K」との比較では、GPUスペックとメモリクロック共に上回る「A10-6800K」はほとんどのテストで1割弱の差をつける優勢な結果を記録した。「A10-6700」は、多くのテストで2~3%程度の差をつけている一方、GPU負荷が比較的軽く、CPU性能も問われる「3DMark06」や「PSO2ベンチマークテスト」の低負荷設定では若干下回る結果もみられる。CPUとGPUの両方に負荷の掛かる3Dベンチマークテストでは、TDP差によるTurbo COREの効き具合なども、スコアに影響しているものと思われる。
CPUテスト時のシステム全体の消費電力
最後に、ベンチマークテスト実行時の消費電力を比較する。消費電力は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を用いて、各テスト実行中の最大消費電力を測定している。
アイドル時の消費電力については、各APUとも34W前後で横並びとなっている。1W程度は個体差によって覆る程度の差であるため、アイドル動作時の消費電力についてはほぼ同程度であると見てよさそうだ。
一方、ベンチマークテスト実行中の消費電力については、「3DMark - Fire Strike」実行中のスコアを除けば、高い順に「A10-6800K」、「A10-5800K」、「A10-6700」の順となっている。各APUのクロックやTDPからすると妥当な結果と言える。「3DMark - Fire Strike」の結果については、極めてGPU負荷の高いテストであるため、GPUのスペック差が消費電力差に表れたと考えれば納得がいく。
クロックアップによる性能向上がポイントとなる製品
以上のように、ベンチマークテストの結果を見る限り、デスクトップ版のRichlandとTrinityの間にはクロック差以上のポイントを見出すことができなかった。既に「A10-5800K」を所有しているユーザーにとって、デスクトップ版Richlandはアップグレードパスとはなり得ないだろう。
一方、これからAPUを購入しようとするユーザーにとって、Trinityの最上位製品に勝るとも劣らない性能を持ちながら、消費電力を抑えた「A10-6700」は魅力的な選択肢となりそうだ。手持ちのハイクロックメモリを活かしたいのであれば、正式にDDR3-2133での動作をサポートした「A10-6800K」も選択肢に入るだろう。新規で購入するユーザーにとっては、既存のデスクトップ版Trinityとの価格差がカギとなりそうだ。
なお、文中でも触れたとおり、デスクトップ版Richlandを既存のSocket FM2マザーボードで利用する場合、BIOSアップデートが必須となる場合がある。購入にあたっては、マザーボードメーカーの対応状況に注意してもらいたい。